合流
あたしたちが探索を進めていくと、戦闘音が聞こえてきた。
既に3階ほど上っていたが、大きい戦闘の無かったあたしたちが冒険者に追いついた形になった。
ただ、普通の冒険者とは違い、急いでいるのかあまり探索をしていないようであった。
一直線に頂上を目指しているといった印象を受ける。
「近いわね」
「ああ、そうだな」
あたしたちが扉の前までとある扉の前に来ると、そこが一番戦いの気配がした。
あたしたちが部屋に入ると、部屋の奥に鎮座する巨大な赤い目玉が、大量の触手を振りかぶり2人の剣士を攻撃している光景が目に入った。
「ぬ、おぬしたちは冒険者かな?」
あたしたちに気づいたのは、初老の剣士だった。
7本の剣を装備しているその姿は、この世界で知らない人物はいないであろう《英雄》の姿だった。
「え……」
「な、なんでここに英雄様が……?!」
あたしたちは全員驚いていた。
七本の剣、剣神、ソードマスター……彼をたたえる称号は多くあるが、それでも足りないであろう強さを誇る剣士、《剣聖》の祝福を持つヴィリディア・アスタンビアの姿がそこにはあった。
今は、東の果ての国……シーナの住んでいた国の昔の一般服である着流しのような服を着ている。
「なぜ、と言われれば、そうさな。儂の弟子を育てるためと、ついでに人助けと言ったところさね」
「そ、そうなんですか……」
「7人の弟子を連れてきたが、見込みある2人を除いて、他は依頼された人間の救助に向かってる。まあ、あいつらも強いから問題ないだろ。カッカッカ」
ヴィリディアは笑った後、あたしたちの方に顔を向ける。
髪は白く短髪で、瞳の色は金色だった。深く皴が刻まれており、歴戦の戦士の雰囲気を持っている。
「で、お前さんたちは何の目的で此処に来たんだ?」
「お、俺たちはエルフのお姫様の救助と、魔王の討伐に来たんです」
「魔王? お前さんたちがか?」
ヴィリディアはあたしたちをじっと見つめると、鼻で笑った。
「カッカッカ。盾を持ったお前さんが一番実力があるのだろうけれども、魔王を討伐するってのはさすがに無理じゃないかい? 冗談はよしこちゃんにしてくれってんだ」
ヴィリディアは快活に笑うと、あたしを見る。
「……」
「……」
そのまま何も言わずににやりと笑うと、再び前の方を向き直る。
え、いや、無言のままにやりと笑われても、あたしとしては困るんだけれど……。
「ま、お前さんらは儂の弟子の戦いを見ているといいさ。エルフのお姫様……だっけか。そのお嬢ちゃんも儂らで助けてやるとしよう」
そう言うと、弟子二人に声をかけるために右手を口に添えて声を張る。
「おい、カイナス、アル、そんな雑魚と遊んでないでさっさと叩き切ってやりな!」
「「はい!」」
あたしは、その声を聴いたことがあった。
いや、知っている。
「え……」
あたしは思わず目を見開いた。
最前線で戦う二人。片方は双剣で、もう片方は実直な両手剣を手に戦う剣士。
その両手剣を片手で軽々と操る彼の後姿をあたしは知っていた。
そ、そんな……! でも、あの村には……リナーシス村にはいなかったので生きていて当然だけれども。
「行くぞ、アル!」
「任せろ!」
カイナスとアルがそれぞれ、剣を構える。
そして、それぞれ技を放った。
「俺の速さについてこれるか? 戦武無双剣!」
「我が力、この一刀のもとに悪を断ち正義を示す! グランドスラッシュ!」
は双剣を舞うように振り回し、触手をバラバラに分解しながら刈り取っていく。
そして、アルは剣を両手で構え、力をためると、地面を蹴って魔物まで一直線に飛び上がると、袈裟に叩き切る。
あたしは、最初に倒されていた魔物を思い出していた。
あの見事な切り口はおそらくアルの剣だろう。そして、上半身がなかったのはカイナスが細かく粉砕したためだったのだ。
あの冒涜的な魔物は断末魔を上げることなく触手をすべて剥がされたうえで切り捨てられてしまった。
「つ……強い……!」
「これ、俺達がいる意味あるのか?」
ベネットさんやジェイルさんがそう漏らしてしまうのもわかるくらい、二人は強かった。
とはいえ、あの冒涜的な魔物は苦戦はするかもしれないけれどもベネットさんたちでも十分倒せるだろうとは思う。
「師匠、どうされたんですか? 回避の練習だと言っていたのにいきなり倒しても良いなんて」
「……なるほど、お客さんが来ていたのか」
二人は汗すらかいているように見えなかった。
そして、あたしはアルの……アルフレッドの顔を見て固まる。
「あ……アルフレッド……?」
あたしが言葉を漏らすと、それに気づいたアルフレッドが驚きの声を上げる。
「エリシア! 何でここに?!」
「まさか、あの子がお前の思い人か?」
アルフレッドがあたしのもとに駆け寄り抱きしめられた。
彼の眼には涙が浮かんでいた。
あたしは、アルフレッドの体温を感じで、心臓がドキドキしていた。
「ああ、エリシア。良かった。生きていたんだな!」
「あ、アルフレッドこそ、どうして……?」
あたしは驚きで頭が真っ白になっていた。
だから、本来だったら他人のふりをする必要があったアルフレッドに、普通に反応を返してしまっていた。
「ああ、俺は師匠の下で修業をしていたんだ。エリシアを今度こそ俺が守れるようにな!」
「え、あ、はぁ……」
なんだか、いろいろと唖然としてしまう。
見回すと、サシャと目が合った。
「あらあら、エリちゃんったら顔が真っ赤よ。そんなにうれしかったのね♪」
「へぇ?」
あたしは確かに自分の顔が熱くなっているのを感じた。
慌ててあたしはアルフレッドを引きはがす。
「ちょちょちょ! ちょっと離れて!」
「ああ、ごめんよエリシア」
アルフレッドは簡単にあたしから離れてくれた。
あたしは後ろを向いて呼吸を整える。
「感動の再会ってやつだな」
ジェイルさんが茶化して言うが、あたしはそれどころではなかった。
あたしの心臓は早鐘を打つようにバクバク言っている。
それに、アルフレッドの逞しくなった腕に抱きしめられて……それだけであたしは頭がおかしくなりそうだった。
他の男性にされたら絶対に拒絶するのに、だ。
ああもう、自分でも意味が分からない!!
「ふああああああああああああああ!!」
「こんな乙女の顔をしたエリ、初めて見る」
「ははは、ほほえましいな」
ああああああああああああもう!
茶化さないでほしい!
ひっひっふー、ひっひっふー。
あたしは謎の呼吸をして、気持ちを抑える。
「あぅ……、そ、その、ぃ、生きててよかったてのは、ぁ、あたしの……セリフょ……アルフレッド!」
あたしはアルフレッドに向かってそう言う。
アルフレッドの顔を改めてみると、昔の頼りない感じからは考えられないくらいかっこよくなっていた。
もはや別人?!
降ろしていた前髪は上がり、顔も精悍な感じになっていて頼りになりそうな感じだ。
身体は筋肉が細マッチョと言った感じでがっしりしている。
正直、あたしは直視できなかった。
どうしよう、あたしは自分がどんな気持ちなのか理解できなかった。
「ああ、俺もエリシアが無事でうれしいよ!」
ああ、そんな満面の笑みをあたしに向けないでくれ!
直視できない!!!
「そ、それよりも……む、村のみんなからは、話は、その……」
あたしが言いにくそうに言いよどむとアルフレッドはあたしの肩をガッとつかむ。
「ふぇ?!」
「ああ、聞いたさ。だけれども、俺はエリシアは操られた……自分の意志ではやっていないと確信している!」
「ふぇぇ?!?!」
「俺はたとえ世界を敵に回したとしてもエリシアの味方だからな。それに、エリシアの元仲間からも話は聞いている」
「え、メリルさん達に?!」
あたしは、協会に入った後の記憶が断片しか残っていない。
ゴブリンに犯されるメリルさんの姿、性欲にまみれた顔をしたケリィと広瀬の顔、そして、あたしの剣が胸に突き刺さったお母さんの姿……。
だから、その後がわからなかったのだ。
「ああ、どうやら、教会は誰かの責任にする必要があったらしい。それで、敵に操られたエリシアのせいにしたみたいだった」
「そ、そうなんだ、よかった、メリルさんたちは生きていたのね」
あたしは安堵してしまう。
と、いけないいけない。
本来の目的を達成しないといけなかった。
「そう言えば、なんでアルフレッドはこの人たちと一緒にこんなところに?」
一応修行のためらしいというのと、人攫いから人々を助けるためと言うのは聞いているけれど、一応ね。
「ああ、師匠やカイナス達と一緒に、村から攫われた人たちを救出しに来たんだ。魔王がらみらしいから、師匠も同行しているんだよ。そういうエリシアの方はなんでここに?」
「あたしたちはエルフの国を滅ぼそうとしている魔王から、あたしたちに依頼してきたエルフの国のお姫様を救助しに来たのよ」
どうやら、あたしたちが倒そうとしている魔王は同じようであった。