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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
冒険者だけれど村娘に戻れるか心配です
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魔王城侵入

 アクレンティア姫の部屋に案内されたあたしたちは早速現場検証を行う。

 と言っても、主にあたしが転送魔法の痕跡を確認するんだけれどね。

 しかし、この能力は久しぶりに使う気がする。

 自分で魔法が創造できてしまうチートを持っているので、他の構成術式を見る必要がなかったのが大きかった。


 あたしは脳内のモードを切り替える。

 いや、意識を向ける先を変えると言った方が的確かな。

 それであたしは付与されている魔法の術式を見ることができる。


 基本的に姫様の部屋は防壁の魔法がかかっていることがわかる。

 その術式も魔法陣として見えるので、ルーンの使えるあたしは再現できそうであった。


「エリシアちゃん、何かわかるか?」


 ベネットさんに聞かれて、あたしはうなづいた。


「見つけた」


 あたしが指さしたのは、部屋の外の廊下であった。

 だからこそ、部屋を守っていた大将さんが殺されたのだろう。

 あたしは指でルーン文字を描く。


「転送場所を特定するわ」


 あたしの想定通り、この転送魔法の痕跡を容易に辿ることができた。


「……なるほどね。これならあたしでも使えるわね」


 この無駄に魔力を食う式を少し置き換えれば、平時でも利用できるような転送魔法となりそうだった。

 ……なんでこんなに無駄な式を追加しているんだろうか? 

 すべてをオドで賄う式なので、一回動かすたびに3人程の魔術師の魔力……生贄が必要な式になっていた。

 場所は……この城の姫様の部屋の前とどこかの座標をつなげる式のようだった。


「……無駄が多いわね。ここをこうして、マナで補うようにして……。あ、ここをこう変えればもっと魔力消費を効率化できそうね……」


 あたしはルーン文字を描きながら、転送魔法を再度起動させる。

 初回起動なので、あたしは簡略した詠唱を加える。


【──天壌の門よ、世界を繋げる扉となれ。我が力を糧に世界の力を借りて顕現せよ。《四次元接続門(ディメンションゲート)》!】


 空中に魔法陣が出現し、七色に輝くとぐにゃりと空間がゆがみ、白い扉が形成される。

 あたし単体なら瞬間移動のように使える魔法《四次元接続門(ディメンションゲート)》を作ってしまった。

 消費魔力も多くを大気中のマナを効率的に利用しているので、さほど気にする必要はないけれども、どう考えてもあたししか使えないものになってしまった。

 いやまあ、ルーン魔法と詠唱魔法を同時に唱えることができる魔法使いならば、使えるんだけれどね。

 今までの傾向から、詠唱魔法とルーン魔法の同時使用ができるのはあたしだけなので、結果あたし専用になってしまう。


「おお……!」

「なんと……!」


 エルフの偉い人たちが驚いている。

 まあ、使った痕跡から再作成したものだし、リサイクルみたいなものなんだけれどね。


「これで、ここから敵地に乗り込めるはずよ」


 と言っても、どこか別の場所を経由していたら話は別だけれどね。

 座標的に見ても、この森の中の城から見て南方向の高い位置に指定されている。


「さすがエリ」

「ルーン文字と詠唱魔法の併用なんて高度な技術、よくできるわね……」

「幼いころから頑張ってきたんだもの、当然よ。本来の術式だと3人分の魔力が必要だったみたいだけれどね。改造したわ」


 あたしからしてみればそんなに大したことはしていないんだけれどね。

 努力を惜しまなかったのは事実だし、《英雄》のジョブを女神さまから与えられてから異様に物覚えもよくなっているのは、成長補正と言うものだろうか? 

 それでも、あたしの実力はあたしの努力の成果でもある。


「一応まだ、鍵はかけているからあっちから突入される、なんてことはないわ。準備が整ったら突入しましょ」


 あたしはそう言って準備を促す。


「いや、先に俺たちが向かうとしよう」


 ベネットさんはそう判断した。


「アクレンティア姫様は俺たちの依頼者でもある。冒険者として依頼主が危険な目にあっているのを見過ごすわけにはいかないからね」


 あたしがジェイルさん、サシャ、シアを見るとうなづく。


「わかったわ。それじゃあ、エルフの皆さんは準備をした後に突入して。門はマナで展開していてあたしが閉じない限りは維持されている状態にしているから、お好きなタイミングで突入して」

「ならば、我らも冒険者殿に同行しよう」


 エルフの兵士の何人かが名乗りを上げる。

 鎧の装飾の色が違って赤色な感じの兵士だった。


「我々は姫様の護衛をしていた兵士だ。大将殿の仇を取りたいとは言わない。だが、姫様を救助するためにも我らも同行したい」


 あたしがベネットさんを見ると、うなづいた。


「ああ、敵は魔王みたいだからね。勇者と同等の力を持つエリシアでしか対応できないから、戦いは俺たちに任せてほしいけれども、救助した姫様の護衛も必要だしね。お願いしたい」

「もちろんです!」


 どうやら志願したエルフの兵士は5人だった。

 あたしとベネットたちの準備はできている。

 ならば、このままさっさと突入して姫様を救助した方が、姫様がひどい目に合う前に助けることができるかもしれなかった。

 あたしはゲートの前に立ち、鍵を解除する。


「それじゃ、行くわよ」

「おう!」「ああ」「行きましょう」「ん」

「我らも続くぞ!」


 あたしたちはゲートをくぐって敵地に潜入したのだった。


 ゲートの先は、物語に出てくるような魔王城の様相を呈していた。

 開いた部屋は、中心に魔法陣が描かれており、生贄にされた……おそらくエルフや人間の魔法使いの亡骸が倒れている。

 壁のレンガは浅黒く、魔力ランタンで照らされていなければ周囲を見ることは難しかっただろう。


「ここが……」


 あたしとベネットとジェイルは、亡骸を確認して手遅れであることを確認する。

 服装から冒険者だろう。

 両手には頑丈な手錠がされており、どこからか攫われたのだろうか? 


「魔力が底をついた結果のショック死をしているね。エリシアちゃんの言う通り、生贄にされたようだ」


 ベネットはそう言って、胸の前で十字を切る。

 本当だったらこんな地で放置でもしていたらアンデットになってしまうのだろうけれども、完全に魔力が尽きているのでその心配がなかったのだろうか? 


「亡骸は城のものに運ばせましょう。さすがにここに放置するのも彼らが哀れですし……」

「よろしくおねがいしますわ」


 エルフの提案にサシャが同意する。


「そうだな、ここを待機場所の拠点として活用しよう。それならば非戦闘員を配置しても問題ないはずだな」

「了解です」


「なら、俺たちは先行して探索を進めよう。作りからおそらく城のような場所なのだろうしな」

「そうね、城系のダンジョンって結構複雑だったりするのよねー」


 と言うわけで、あたしたちは先行して探索を、エルフの兵士はこの部屋を拠点にすることになった。


 扉を開けると、ギギギっと音が鳴る。

 ジェイルさんが先行して行き、ベネットさんが殿だ。

 ジェイルさんが手招きをするのを見て、行動する。

 廊下のつくりや装飾品から、確かに城のように見える。

 窓の外から見える光景は暗雲が立ち込めていて見えないが、座標的にはそこまで高くないはずだった。


「あれは魔力でできた雲ね。結界みたいな役割を果たしているはずね」


 サシャに言われてあたしは凝視すると、確かに魔力を確認できる。

 術式はわからないけれど、確かにあの暗雲は魔力の塊のようであった。

 おかげで、城の中は薄暗く、魔法のランプのおかげで明るい感じであった。


「とまれ」


 ジェイルさんの合図であたしたちは立ち止まる。


「おい、見ろ。見たことない魔物がいるぜ」


 言われて物陰からのぞき込むと、確かに見たこともない悍ましい怪物がうろついている。


「あれは、キメラ?」

「人造ってならそうだろうな。ただ、混ざりすぎて元の生物がパーツでしか推測できなくなっちまっているみたいだぜ」


 ユードラシルの作った魔物だろうか? 

 エルフの兵士だったら確かに苦戦するかもしれないけれど、あたしたちならそこまで苦労することはないだろうと思った。

 しかし、見た目が悍ましい。

 シーナの知識でいうところのクトゥルフ神話的な魔物だ。

 一言でいうならば、ショゴスとかインスマスとか、そう言った冒涜的な見た目の魔物が数体見回っているように動いている。

 おそらく、捕まった人間と何かが掛け合わさってできた魔物だろうか? 


「どうするのかしら? 狩るならあたしが何とかするわよ?」


 精神衛生上あまり見たいものではないので、ベネットに聞いてみる。


「ほかの道を探すとしよう。あまり戦闘をして音を立てすぎるのも得策じゃないしね」

「侵入を悟られては、拠点を作成している兵士たちにも迷惑が掛かりますものね」


 あたしはベネットさんの指示に従うことにした。

 そんな感じであたしたちは身を隠しながら、城の内部を探索していく。

 何度か戦闘……いや、暗殺を行って敵を消して突破する場面もあったけれども、基本的には戦闘は回避する方向で探索を進める。


「ふむ……どうやら、この階層に誰かが侵入して派手に戦った痕跡があるね。それも、少し前に」


 ベネットさんはそう告げた。

 その部屋は、シーナの知識でいうならばボス部屋のような場所であった。

 激しい戦闘があったことがうかがえる。

 そして、巨大な魔物の死骸がそのまま放置されているのだ。


「暴れまわったのは、この魔物の方だな。侵入者は一刀のもとに切り捨ててやがる……」

「金級冒険者?」

「おそらくな。見張りの化け物が少ないのも、おそらくそっちの方を追いかけてるのが理由だろうな。配置している魔物が最低限の数だしな」


 ジェイルさんの意見に同意である。

 魔物の上半身が消し飛び下半身が残っているが、その断面は奇麗であった。

 切り口に迷いがないのはそうだけれども、ただの一振りしかしていないのがあたしでもわかる。

 あたしでは同じマネはできない。似たようなマネはできるけれども、あたしの場合はこの結果を再現することができるだけだろう。


「剣の腕だけで言ったら、英雄級だね。もしかしたら、他の勇者と依頼が被ったのかもしれないね。どうやら此処の主は人間も攫っているみたいだしね」


 それはあるだろう。

 と言っても、シーナの記憶をたどる感じだと、該当しそうなのは雄大くんぐらいしか思い当たらないけれどね。

 その雄大くんはいまだにフェルギン南部で3魔王と戦っているはずである。


「俺たちも後を追うとしよう。アクレンティア姫様を助けるというのは俺たちの役目だからね」


 あたしたちはうなづいて、先に進んだ。




「ひいぃぃぃぃぃ!」


 アクレンティアは悲鳴をあげていた。

 ユードラシルと思わしき伝説のダークエルフが彼女を鳥かごのような牢獄に入れて拘束していた。


「ヒョッヒョッヒョ。ようやく復讐が果たされようとしている……! 私の復讐がな!」


 満面の笑みを受かべるユードラシル。

 彼の肌は浅黒く、身にまとう様相はまるで魔王のそれであった。

 身長は2メートルを超えており、その様相はマッドサイエンティストや悪の科学者を統合した感じのイメージであった。


「ガハハハハ、そいつが目的のエルフのお姫様ってやつか」

「おお、我が同盟者の眷属。こちらに来ていましたか」

「ああ、エルフはどれも極上の雌だが、すぐに壊れちまうからな。今日は最上級の雌が来ると聞いて、居てもたってもいられなかったんだぜ」


 その魔物は、ユードラシルと同様大柄な魔物であった。

 まるでオークロードのようにも見えるが、オーガも混ざっているように見える。

 緑色の肌に、黄色い目、黒い瞳にまるで人間のように髪の毛と髭が生えている。

 背中に背負っているのは特大の剣で、人間が扱えるような代物ではなかった。


「ヒョッヒョッヒョ。彼女は儀式に使う大切なお客様だ。まだまだ貴方様に献上するわけにはまいりませぬ」

「……そうか、それは残念だ。俺様の役目はお前さんの支援だからな」

「もちろん、儀式さえ始まれば、あなた様に献上いたしますよ」

「ほう……! そいつは楽しみだな」


 緑色の大男は下卑た目でアクレンティアを眺める。


「ゲヘヘヘヘ……いい女じゃねぇか。処女のにおいがする。儀式はいつだ?」

「今夜が月のない夜、まさに儀式の時でございます! ああ、この時をどれだけ待ったことか! あのにっくき勇者に封印されてから400年! 待ち望んだ時でございます!」

「確か、乙女の血を地面に楔のように打ち込み、最後に月のない夜が一番更けた時刻に、姫の血肉をささげるんだっけか?」

「ええ、ええ! それでエルフの国はすべて滅ぶ! すべてが解けて無くなり、我が糧になるのです!!」

「ハハハハハ! そいつは愉快だな! あの時を思い出してそそり立っちまうぜぇ……」


 ぎろりと二人の目がアクレンティアを見つめる。

 アクレンティアは恐怖で声も出せなかった。


「まだその時には3時間ほど待たねばなりませんがね」


 アクレンティアの様子を愉悦の笑みを浮かべて観察するユードラシル。


「愚かにも、まさか戻ってくるとは! まさに行幸! 我らが神の意志! ヒョッヒョッヒョ!!」


 あと3時間。

 エルフのすべてが終わろうとしていた。

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