犯人は誰か
ベネットさんに連れられて、あたしたちは王城まで足を運んだ。
そのまま謁見の手続きを終えて、エルフの城であたしたちは王様と謁見することになった。
エルフの王様は、王座に座っているもののだいぶやつれた表情をしていた。
「王様、状況を確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、ああ……」
すると、兵士の一人が前に出て状況を報告してくれた。
「状況としては、まず、正門に后妃様の無残な遺体がうち捨てられているのを確認した兵士が報告したことから始まります」
兵士の報告を簡単にまとめるとこんな感じだった。
后妃様の遺体が発見されて、兵士や大臣、王様と言った偉い人がそれを確認に向かう。
お姫様は軍の大将が守っていたが、惨殺されているのが発見され、お姫様は行方不明になっていた。
目撃者は誰もおらず、そもそも警備が厳重な城内での出来事だったため、どうやって攫ったのかと言う事態であった。
「……なるほどね」
他の女性は証言から斥候のようなゴブリンに誘拐されているが、これは目撃者もいるためお姫様の誘拐は手口が明らかに異なった。
なので、ベネットさんはこれを口にせざるを得なかった。
「王様、この国……ドゥリエッタに恨みを持つ人物に心当たりはありませんか?」
「ふむ……それはどういった理由ですかな? ベネット殿」
反応したのは大臣っぽい服を身にまとったエルフだった。
「おそらく、犯人……と言って相違ないと思いますが、心当たりはないかと思いまして」
「心当たりなどありすぎてわからないだろうに。国を運営するというのは同時に敵も作るものだ」
そういうものなのかはわからないけれど、あたしは口をはさむことにした。
「【ダークエルフ】……」
あたしの言葉に、謁見の間にいる多くのエルフがピクリと反応する。
「ふむ、どうやら推測は正しいらしいな」
「少し気になって過去の出来事を調べていたら、そこに行きあたりましてね。400年ほど前に追放されたエルフがいたと言う伝承です」
大臣のようなエルフが冷や汗を流し、他のエルフたちも動揺していた。
「禁断の研究をしていたエルフがいたらしい。研究の詳細についてはわからなかったが、そのエルフは国外追放になったほどの邪悪な研究をしていた、と俺が調べた中にあったな。過去にもこのエルフによって襲撃があったともある。明確な敵意を持つ邪悪なエルフ……【ダークエルフ】ってのが今回の主犯じゃないのかい?」
一体どこでそんな情報を得るのだろうか?
まったくの謎であるが、ジェイルの情報収集能力は尋常ではなかった。
ジェイルがそう言うと、降参だと言った感じで大臣が告げる。
「ああ、我らエルフ族の汚点だ。人間にはあまり知られたくない事実ではあるがな……」
「名前をユードラシル・ロ・ゼルブルだったか? どういうやつなんだ?」
「ア奴は魔物を作る研究をしていたのだ」
口火を切ったのは王様だった。
「魔物を……?」
「さよう。エルフや近隣の人間、この森に棲む動植物を使って魔物を生み出す研究をしていたのだ。あまり話したい話ではないので省略するが、それは魔王の所業である。ゆえに最初は処刑しようとした」
「……なぜ処刑されなかったんですか?」
「死ななかったのだ。殺しても殺してもな。ゆえに身一つで追放したのだ」
うっわ、超迷惑なマッドサイエンティストかよ。
「研究者として従事していたころは我らと同じく白い肌をしていたのだが、処刑するころにはア奴は浅黒い肌になっておった。ゆえにわれらとは異なる存在……【ダークエルフ】と呼称して追放したのだ」
「死なないって……どういう状況ですか?」
「首を断ち、心の臓を串刺しにし、ゆで上げ、さまざまに試みたが、すぐさま再生するのだ。その頃にはすでに人属ではない何かになっていたのだろう」
その時点ですでに魔王じゃないかなとあたしは思った。
「え、そんな危険なやつを放置していたんですか?」
ベネットが聞くと首を横に振る。
「女神さまから天啓をいただき、勇者の召喚を行ったのだ。その勇者がユードラシルを封印したのだ」
「なるほど。何らかの理由でその封印から解放されたユードラシルが、この国に復讐をしていると考えるのが妥当ですね」
おそらく、その封印を解放したのが三宅達と言うことなのだろう。
面白半分で何しでかすかわからない不良連中だ。
魔王の力を手に入れてから暴れまわっているのかと思ったが、そう言った化け物の封印も開放しているみたいだ。
「しかし、エルフの女性ばかりを狙っているのは一体……?」
ケリィの指示じゃないかとあたしは邪推する。
見た目のいいエルフだ。あたしから見てもスタイルが良い美女ばかりだ。
……おそらく何人かのエルフはケリィのもとに送られているんじゃないかと思った。
「……とにかく、そのユードラシルを何とかするしかありませんね」
「しかし、所在はわからぬ。奴が封印されていた場所は危険地帯で容易に近づけぬし、そこにいるとも限らぬからな」
「ねぇ」
あたしはふと、思い至ったことがあって提案をすることにした。
「お姫様の部屋を見せてもらえないかしら? もしかしたらそこから、どこに連れ去られたのかわかるかもしれないわ」
これはシーナの知識なんだけれど、転移魔法ってのはそういう”魔力の残滓”みたいなものが残っているかもしれないと思ったのだ。
魔法体系も異なるし、そもそもシーナの知識の場合は小説だとかそう言った知識からだから、この世界では違うかもしれないけれど、試してみる価値はあった。
「ふむ? どうやって連れ去られたか心当たりがあると?」
「ええ、もしかしたら転移魔法……ある一点と一点をつないで移動する魔法が使われたんじゃないかと思うわ」
「転移魔法……?」
「そんな魔法が存在するとでも……?」
あたしの言葉に、ベネットたち以外の全員が驚いた表情をする。
いやまあ、確かにこの世界には”転移魔法”なんて存在しないけれども、【魔女術】ならばそんな便利魔法を作れるんじゃないかと思ったのだ。
ならば、それは不可能ではない技術と言うことになる。
「少なくとも、旧文明と呼ばれる遺跡には転移魔法陣なんてものがありますから、存在しないわけではありませんよ」
ベネットが解説を入れる。
あたしは知らないし見たこと無いんだけれどね。
「エリちゃんが加入する前に探索したダンジョンにあったのよ。罠として転移魔法陣で変な場所に飛ばされるのがね」
「そうなんだ、それならばあたしでも再現できるかもしれないわね」
サシャが解説してくれたので納得する。
大臣たちが王様の所に集まり、小会議をした後に王様があたしたちに告げる。
「良いだろう。おぬしたちをアクレンティアの部屋に案内しよう。兵士よ、彼らを案内しなさい」
「はっ!」
兵士がやってきて、あたしたちの前に立つ。
「では、案内いたしますのでついてきてください」
あたしたちは兵士の誘導に従って、アクレンティア姫様の部屋に向かったのだった。