処刑の方法
※グロシーン多めです。
あたしはダルマにしたゴブリンロードを睨みつける。
「さあ、吐け! 三宅はここに居るの?!」
「……話スト思ウカ?」
あたしは首筋に剣を掠めるように突きつける。
「ソモソモ、ソノ殺気ヲ発シタママデ、俺ガ話ス訳ガナイダロウ」
至極真っ当なことを言うゴブリンだな。
まあ良い。
話す気がないならば、あたしはこのまま……生きたまま解体するだけである。
「シア、悪いけれどもベネットさんたちの様子を見てきてもらえないかしら?」
「……? わかった。気をつけて」
シアが見えなくなったのを確認して、あたしはゴブリンロードに向き直る。
「それじゃ、処刑の時間ね」
あたしはそう言うと、懐から解体用のナイフを取り出した。
動物なんかを仕留めたときに、解体するために使っているやつだ。
あたしはおもむろに腹部にナイフを突き立てると、腹部を切り開く。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
痛みでゴブリンロードは叫ぶが、あたしは無視する。
生きたまま解体するというのは、あたしが考えているあいつらの処刑方法の一つだった。
広瀬はゴブリンの雄にさんざん嬲らせた後に殺すと決めているが、ケリィか三宅のどちらかは生きたまま解体してやると決めていた。
そのための練習台にするつもりだった。
「ふ、ふふふ、あはははははははは!!」
あたしはそんな自分におかしさがこみあげてきて、つい笑ってしまう。
だけれども、ナイフは丁寧に取り扱い、細かい部位ごとに解体していく。
心臓や肺は後回しだけれど、それ以外はなるべく血が出ないように魔法で焼きふさいだりしながら、なるべく死なないように丁寧に解体する。
「アガバババッババアバアアアアア……! ゴロジ……ゴロジて!」
「ふふふ、だーめ」
筋肉の一つ一つ、内臓の一つ一つを丁寧にはぎ取る。
骨から肉を丁寧にこそぎ取る。
ゴブリンは妖精属だというけれども、しっかりと生物であった。
しばらく集中して解体していると、ゴブリンロードの苦痛の声が聞こえなくなってしまった。
「あら、気絶したの?」
あたしが血にまみれながらゴブリンロードを見ると、彼は血の泡を吹いて白目を剥いていた。
ショック死したらしい。
「あーあ、失敗ね。まだ胸から下しか解体していないのに、死んでしまったわ」
ショック死と言うのは考えになかった。
絶対に、心臓と肺以外のすべてを解体した状態にするつもりだったのに……。
これですら、あたしの怨念は返し切れる自信はないというのに、こんなので死んでしまうのならば、処刑方法は変えた方が良いかもしれなかった。
「……世界中を探せば、もっと残酷な処刑方法があるかもしれないわね。探してみますか」
あたしは、この処刑跡を燃やすことにした。
当然ながら、討伐証明部位は切り取ってからにするんだけれどね。
「──《冥府の火》」
空中にルーンを描いて、あたしは火葬のための魔法を放つ。
別に攻撃魔法に使ってもいいのだけれども、魔法体制や火炎体制の無い敵を一瞬で消し炭にする魔法だ。
……もっと早くこの【魔女術】を使いこなせていれば、あんな悲劇を起こすことはなかったのにと改めて思う。
この力は過ぎた能力だった。
あたしでも、自分自身化け物になっていることを実感している。
平然と使いこなしているけれども、こんな力はあたし個人が持つ武力としては大きすぎるのだ。
「……チートで無双なんてしたって、虚しいわね」
あたしの中の苛烈な憎悪が鳴りを潜めると、あたしに残るのはただの虚しさだけだ。
聖剣をあたしの中に仕舞い、剣を収める。
ゴブリンロードの気配は覚えた。
戦って分かったけれども、あの程度ならばベネットさんが少し苦戦する程度の強さだなと思う程度だったので、あたしが居なくても何とかなってしまう気がした。
まあ、魔王が強いのは勇者と同様のチートスキルを持っているからなんだけれどね。
それがなければ、この世界に存在する強力な魔物とあまり変わらないだろう。
「さて、この周辺に敵の気配は無くなったわね。ベネットさんたちに合流するかな」
あたしはそうひとりごちると、ベネットさんたちが向かった小屋に足を向けたのだった。
「最後の一匹!」
「グギャ!」
エルフの女性のとらわれている穴倉で、ベネットたちはゴブリンたちを討伐していた。
サシャが覗くと、その牢獄ではゴブリンやオークがたちがエルフの女性を犯している悍ましい光景が映ったのだ。
犯され、凌辱されてすでに正気を喪失しつつあったエルフの女性たちを救うため、サシャはベネットたちとゴブリンどもの掃討に当たったのだった。
「ふぅ……。おい、ベネット。こっちは終わったぜ」
「ああ、俺もオークを今倒したところだ」
女性を盾にしようとするゴブリンもいたが、サシャが燃やしてしまった。
「とにかく、生きている人をを優先に助けよう。サシャ、ジェイル、手分けして確認を」
「わかったわ」
「おうよ。しかし、ここまで酷いと萎えちまうな……」
ジェイルはげんなりした表情で、生きている女性を確認する。
脚を鋭利な刃物で切断されている者、手の指が一部欠損している者、さまざまであるが、確認した中で生きているのは14人であった。5人は既に息絶えていた。
サシャは傷ついたエルフの女性を回復薬で回復する。
「大丈夫?」
「……」
サシャが声をかけても反応が薄い。
さんざん凌辱されて心が折られたのだろう。
四肢が無事の女性は反応がまだよかったので、ベネットはそのエルフにもってきていた布をかぶせつつ尋ねる。
「きみ、他に生存者がいないかな?」
「あ、ああ……。私たちは、振り分けられただけ。お、お願い、助けて……!」
「ああ、君たちは助かったんだ。安心すると言い」
【振り分けられた】と言うキーワードに反応したのはジェイルだった。
「おい、ベネット。【振り分けられた】ってのは気にならないか?」
「もちろん気になる。おそらくあのゴブリンロードのように統括する者がいるのだろう。おそらくそいつが魔王だな。だが、まずは彼女たちを安全な場所まで案内するのが先決だろう。シアが手当をしやすいようにする必要もあるしな」
「まあな、さすがにエリシアちゃんやシアにこの光景は見せられないしな」
ジェイルはドン引きしながら部屋を見渡す。
「それじゃあ、無事な女性から運び出そう。サシャは手当の方を頼む」
「わかったわ」
ベネットとジェイルは協力して、穴倉の奥の牢屋から女性たちを順に連れ出していった。
そして、待機していたエルフの騎士たちを呼び出して、彼女たちを保護してもらう。
四肢が無事な女性はまだここに連れてこられて日が浅いようであった。
彼女たちはパニックを起こしておりまともに話せる状態ではなかった。
また、四肢や部位欠損をしている女性は反応が鈍く、生きているだけと言った状況であった。
「ここは一番むごい状態ですね」
とは、エルフの騎士の一人が漏らした言葉であった。
14人の生存者を運搬しつつ、ゴブリンやオークを撃退して、あたしたちが城に戻るころには日が完全に落ちた後であった。
あたしたちはギルド支部に案内されて、そこで宿をとることになったのだった。
「……ふぅ、参ったわね」
サシャがそう漏らす。
「サシャ」
「ああ、大丈夫よ。ただ、あの光景が目に焼き付いちゃってね」
「……ゴブリン害は大概悲惨なものになるからね」
前世でいうならば、イナゴの群生発生による被害のようなものだろう。
ゴブリン害でも最悪の場合は何も残らないからだ。
それに、実際いくつかあたしはその光景を見ている。
「ベネットたちの見解も、今回の裏ではゴブリンやオークを操る存在……魔王がいると考えているわ」
「そうでしょうね。あのゴブリンロードは十中八九アイツの……三宅の眷属よ」
「エリ、ミヤケってもしかして、魔王になった勇者……【堕ちた勇者】のタカユキ・ミヤケのこと?」
あたしはうなづいた。
「そうよ。あたしの故郷を滅ぼした奴よ」
あたしに今も思い出すことができないほど酷いことをさせた上にあたしの故郷を滅ぼした奴だ。
あの野郎3人……三宅、広瀬、ケリィは残酷な殺し方をすると心に決めている。
問題は実現方法だけれど……魔法でどうにかできるだろうと考えていた。
「でも、【堕ちた勇者】の活動域はもっと東の国だと聞くわ。まあ、その【堕ちた勇者】が通った後は草一本すら残ってなかったと言われているけれどね」
もっと東……?
なぜそんな大移動をしたのだろうか?
三宅について情報を探る必要があるなとあたしは思ったのだった。
「そうなの……。まあ、遠くにいるんじゃどうしようもないわね」
まあ、今はこのエルフの国の問題を解決するのが先だろう。
そもそも、なぜ一気に滅ぼさずに兵量攻めをするかのように、じわじわと滅ぼそうとしているのだろうか?
あたしはそれが気になった。
「それにしても、この国を襲う魔王はこの国に何か恨みでもあるのかしら?」
「エリ、どうしてそう思うの?」
「だって、魔王ならばこの国を一息に滅ぼすのは容易なはずよ。真綿を絞めるようにじわじわと攻めるなんて、怨恨を考えた方がしっくりくるわ」
あたしがそう言うと、サシャが答えてくれる。
「それはわからないわね。ただ、情報収集をしているジェイルが言うには、悪に落ちたエルフ……【ダークエルフ】ってのがいるそうよ」
つまりは、サシャはその【ダークエルフ】と言う種族がエルフを恨んでいるのではないかと睨んでいるのだろう。
「……なるほどね。そのあたりの伝承だとかを詳しく調べてみたら、今回の事態の犯人はわかりそうね」
あたしの直感がサシャと同様に、その【ダークエルフ】の誰かが魔王となって、この国に復讐をしているのだと告げていた。
三宅からゴブリンやオークを借りているのも、ゴブリンやオークがそういうのが得意な魔物だからと考えると腑に落ちる。
あたし自身が復讐者なせいか、自然とそんな感じで考えが結びつく。
「シアやエリちゃんには見せなかったけれど、あの牢獄はまるでエルフたちを嬲っているような酷い光景だったわ」
話しか聞いていないので具体的にはわかりかねるけれども、想像はつく。
「ま、どちらにしても魔王の力を持っているならば、エリちゃんに任せるしかないんだけれどね」
「……あんまり魔王と戦いたくは無いんだけれどね」
魔王と戦うのは正直言ってしんどい。
シヴァとの戦いもつらいのもだったのは事実だ。
ただ、勇者スキルを持たなければそもそも土俵に上がることすらできないとなると、あたしが対処する以外なかった。
と、外が騒がしくなる。
喧噪の種類が変わった、と言った方が正しかった。
と同時に、ベネットが部屋に入ってきた。
「ベネット、どうしたの?」
「行方不明だった后妃様が無残な姿で正門に打ち捨てられていた。それで騒ぎになっているんだ」
「后妃様が行方不明だったの?」
「アクレンティア姫様がアクセルまで来ていたのも、そもそも彼女を逃がすためだったようだ」
それで、王城付近のエルフの騎士たちがピリピリしていたのかと納得する。
王女様は自分が助けを呼ぶために外に出されたと勘違いしていたみたいだけれども、この惨状を考えるに逃がされたと考えるのが正しいだろう。
「それと、悪いニュースだ」
ベネットは続ける。
「アクレンティア姫様が誘拐されたらしい」
事態は思っていたよりも悪い方向に動いているように感じた。
遅くなりました。
今日は22:00ぐらいにもう一本登校します。
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