エルフの国入国
あたしたちが待っている間に、ギルドの調査員を名乗るエルフの冒険者がやってきた。
「どうも、皆さんが今回の問題を解決に派遣された冒険者の方々ですか」
「あ、お久しぶりです。リックさん」
リックさん……リレイアック・ネ・サランフィエラさん。
エルフのギルド職員だ。
エルフにも冒険者になりたい人がいたり、エルフの国での冒険者にしか解決できない出来事を連絡してきたりするのがこの国での冒険者ギルドの役割だ。
「エリシアちゃんじゃないか! アッチのギルド職員が派遣されるなんて……。まあ、事態はそれほど逼迫しているわけだが。それに、姫様まで連れてくるなんて……」
「私も、我が国が滅びに瀕しているのに何もしないなんて出来なかったんです!」
「……国王陛下はあまりいい顔はされないだろうが、きてしまった以上は仕方ないか。しかし、くるのが早すぎる。入れ違いになったか?」
「俺たちはお姫様に依頼されて来たんだ。だから別口でギルドには伝わっている」
ベネットさんの説明に、不承不承ながら納得するリックさん。
「わかりました。しかし、このオークとゴブリンに囲まれた中、良く無事でここまで来れましたね。ベネットさんのチームもかなり実力をつけて来たと見えます」
「いえ、俺たちはまだまだですよ。それより、状況を聞いても?」
「ええ、ご説明しましょう」
リックさんはうなづいた。
「まあ、さすがに国家機密もありますので、詳しい状況を見るのは後ほどと言うことになりますが、現在はこの国…… ドゥリエッタの周囲を囲むようにオークやゴブリンが囲っている状況ですね。ベネットさん達が突破して来たのは、一番警戒が薄い地点になります」
「ああ、それはわかる。大樹林地帯を囲うように魔物がひしめいているのは、ギルドの情報からも確かだな」
「ええ、近くの街や村のギルドに派遣してもらい、現状あの地域が一番警戒が薄い地点になった、と言った感じですね」
あれ? あたしは不意に疑問が出てきた。
「それだったら、兵糧攻めかすでに攻め滅ぼされてもおかしく無い状況じゃないの?」
あたしの疑問にリックさんは答えてくれる。
「ええ、どうやら、奴らの狙いはエルフの女達のようで……すでに何人もの女性達が行方不明になっています。そして、無残な姿になった女性達の遺体が入り口に遺棄されている……それが、この国の危機になります」
うっ……!
あたしの脳内に一瞬だが、ゴブリンに弄ばれる女性の姿が過ぎった。
「エリシア、大丈夫……?」
「え、あ、うん。大丈夫……」
ゴブリンにひどい目に遭わせられて殺された女性達の姿は一度見たことがある。
あの死体の山を築いているのか……!
「……なるほど、ゴブリン害のような状況になっているのですね」
「はい。もちろん我々も手を拱いている訳ではありません。ただ、圧倒的多数に攻め込まれており、すでに兵士の損害率も17%に届きそうな勢いでして……」
「……げぇ! 兵士が20%近くも! ほぼ全滅じゃねぇか!」
ジェイルが驚いたようにそう断言する。
「……かの魔王戦の後ですので、リフィルに頼むわけにもいかずと言った感じなのです」
今回の場合は損耗率が全滅のラインを超えたとしても、戦わざるを得ない。
それは、実質生存競争であるためということが理由だろう。
リフィル王国も現在はシヴァとの戦いで多くの犠牲者を出している上にそれの復興を行なっている最中だ。
周辺国家も魔王対策で他国に攻めている場合ではない。
と言っても、魔王と戦っている国に攻め込む国も無いこともないらしいけれど……。
「どちらにせよ、魔王が絡んでくるならば【勇者】は必要よ。フェルギンが召喚した勇者の力がね」
「分かっています。その調査も兼ねて、皆さんにお願いしたいです」
どちらにしても、魔王がいるならばあたしが倒すことになるだろう事は予想がつく。
そして、こう言う案件は基本魔王絡みなのも推測はつく。
「なるほど、それで、魔王が確認されたら勇者の要請をすると言う事ですね」
「はい。魔王は勇者でしか倒せませんからね」
実際、あたしはシヴァと対峙して肌で分かっていた。
魔王と言うのは神様から与えられた【チート】があって初めて対等に戦える土俵に上ることができる。
勇者以外……《英雄》であってもその土俵に立つ事は許されない。
「オーケー、それなら俺らも調査依頼として引き受けよう。一応、銀級一歩手前の冒険者チームだから出来る事は少ないだろうけれどね」
「助かります。ちょうど王宮から滞在許可証の発行が終わったみたいですね。取りにいきましょう」
あたしたちはリックさんに連れられて、入り口に向かい兵士から特別滞在許可証を貰った。
滞在期間は調査の完遂及び勇者の到着まで、と記載されていた。
「ダルヴレク語で書かれているんですね」
「一応、エルフ語でも作成されているけれども、君たちにはこっちの方が良いかと思って、ダルヴレク語でも発行したんだ」
リックさんの説明にあたしたちは納得した。
「それじゃあ、ギルド支部まで案内しますね」
あたしたちはリックさんに連れられて、エルフの国ドゥリエッタに入国を果たしたのであった。
エルフの国は、基本的な家のつくりとして巨木に家が設置されている感じだ。
巨木に家が増設されたイメージかな。
今は厳戒態勢なのか、武装したエルフが街中を監視しているが、道中では簡単な市場や農業をしているエルフの姿が確認できた。
森に生きる人種なだけあって、どこもかしこもナチュラルな感じだけれどね。
あたしたちを奇異な目で見てくるのは、この国の外に出たことないエルフだろうと推測される。
「なあ、ベネット。やっぱりエルフって美人ぞろいだよな」
「そうだね。まあ、エルフの美醜の基準は別にあるという話も聞くし、俺たちの価値観で測るのはよくないと思うけれどな」
「そうなのか……」
ジェイルさんはがっかりするが、そもそもエルフは長寿生物である。
人間との間に子供が作られたなんて話は神話の時代にでもさかのぼらなければ存在しないのだ。
エルフの寿命が1000年だというのも、実際推測であって確認の取れていない話である。
まあ、不老不死ではないことは確認されているんだけれどね。
「エルフの生態ってのはエルフ自身ですら研究対象ですものね。エルフが長寿である生物的理由だとかは、長年議論されているわ」
「そうなのね。まあ、確かにアンチエイジング技術もないのに1000年生きるってのはすごいけれどね」
「『アンチエイジング』ってなんだか素敵な響きですわね」
不意に口から出た言葉だったけれど、あたしの前世……アイツの記憶から出た言葉だと察する。
確かにこの世界では一般的な言葉ではないなと反省する。
あたしとアイツは違う人物なのだ。
「エリ、たまにわからない言葉を使う。でも、『アンチエイジング』の意味はわかる。エリはそういう技術を知っているの?」
「不意に思いついた言葉なだけよ。あたしは詳しくないわ」
どちらにしても、あたしもアイツも概念は知っていてもそれをどうやって実現させるかなんて知るはずもなかった。
「でも、老化防止魔法なんて思いついたら面白いかもしれませんわね。老化は女の敵……。回復魔法が得意なシアと協力して研究してみましょうか」
「いいよ、サシャ。やろう」
なぜか二人がノリノリになってしまった。
あたしもまあ、気にならないわけでもない。
ただ、【魔女術】を使えばあたし専用だけれどもそういう効果のある魔法を作ることはできそうである。
……ちょっと作ってみようかな、なんて思うあたしなのであった。