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半年近く放置して申し訳ありません!
モチベーションが回復したので、少しずつですが投稿していきます。
結局、あたしもその依頼について行くことになった。こっちはギルドマスターからの依頼だけどね。
「エリシアちゃん。すまないが、今回ベネット達が受ける依頼に同行してもらえないだろうか?」
と切り出されたのだ。理由を聞くと、
「エルフの森にもギルドの調査員がいてね、まだ確証は得られていないが、魔王がいるらしい」
「なるほど、本当かどうかの調査とその討伐も兼ねての依頼ね」
「ああ、もちろん魔王案件だった場合は別口で2,000エリンを追加で支払うつもりだ」
ギルドマスターにはすでにあたしが勇者であるとバレているのだ。ならば、あたしから断る理由はない。
「わかったわ。まだそこまでおおごとになってない魔王みたいだし、早めに討伐するのが良いわよね」
「そうだ。単独で魔王を倒したエリシアちゃんがいるなら安心できる!」
「いや、《勇者》は単に魔王と同じ土俵で戦えるだけであって、実際のあたしの強さは銅級冒険者の上位ぐらいよ」
祝福も、所持している《勇者》と《英雄》以外は銅級の祝福だしね。剣の腕はあたしの努力によるところだけれど。
「それでも、万が一の時に対処できるだろう? ベネット達も堅実な冒険者だしな。と言うわけで、任せたよ」
と、そんな感じであたしはベネット達と一緒にアクレンティアさんと街の外で合流していた。
「お待たせしました!」
あたし達が待っていると、エルフの貴族様がトタトタと走ってきた。何というか、前に見た老エルフとは異なりまさにエルフの女性という感じである。
フード兼ローブを纏っているため体型はちらっとしか見えないけれども、ダイナマイトボディーに長耳、金髪碧眼のその姿は誰がどう見てもエルフだろう。
エルフは妖精族になる。長寿の種族で妖精とは異なり、人間と同じサイズだ。およそ1000年は生きる種族であり、世代交代もほとんど起きない。
それが、人間を頼ってくると言うのは異常事態だと言うことだろう。
「それじゃあ行こうか。その、エルフの国にさ」
「はい、では案内させていただきますね!」
「エルフの国ね……。エリシアがついて行くって事は何かとんでもないことが起きているんじゃないでしょうね?」
「あ、あたしを基準に語らないでほしいな……」
「エリシアは、勇者。私たちは勇者パーティ?」
「いや、俺らみたいな弱小チームがそれは無いって。まあ、魔王なんて出てきたら、エリシアに全部押し付ければ良いだろう」
酷いなぁ……。
あたしとしてもあんな敵とそう何度も戦いたくない。
て言うか、あたしが勇者ってバレている……?!
「え、えっと、あたし、勇者じゃないわよ?」
「いや、魔王を倒したんだし、あの国に認められてなくっても、エリシアは“勇者”だよ。加護が無くってもね」
ああ、そう言う認識なんだね。
あたしはなんか納得した。
そんな感じで、道中に出てくる魔物を倒しながら、あたしたちはエルフの国があると言う森……正式名称はドゥリエッタ大樹林だったかな? の近くまで辿り着いたのだった。
ドゥリエッタ大樹林の近くまでたどり着くと、周辺にはオーク……豚の顔をした人型の魔物に、ゴブリンの上位種の姿がちらほらと見える。
頭に何かがチラついて、頭痛を覚える。
「……エリシア、大丈夫か?」
「大丈夫よ。それよりも、オークやゴブリンが多いわね」
「そうだな。安全にエルフの国まで辿り着けるかは微妙なところだな」
ジェイルの言う通りである。
アクレンティアさんを見ると、うなづいた。
「そうですね。他のエルフの騎士達が切り開いてくれた道があります……。私を逃すための道でしたが、私は祖国を見捨てることなどできません。行きましょう」
アクレンティアさんはそう言うと、その森の入り口まで案内してくれる。
周辺は、やはりエルフの騎士の死体と、オークがうろついているのがわかる。
その死体を見て、驚いた表情をするアクレンティアさん。
「なるほどね。エルフを逃すつもりは無いと言うことだね」
「胸糞悪いわね。ベネット、何か良い案はないの?」
サシャが作戦を促すと、ベネットは少し考えてこう答えた。
「なら、エルフ達が使った道に斬り込むと良いだろう。騎士が王女様を送り届けるために使った道だ。それならばどこよりも比較的安全だと思うよ」
「わかったわ」
「……うん」
「良いぜ。絶対に安全なんて無いだろうしな」
あたしも同意する。
「良いわ。陣形は探索陣形かしら?」
「ああ、王女様を中心にして、探索陣形で行こう」
探索陣形は、あたしを殿にしたダンジョンを探索するための陣形だ。
普段はジェイル、ベネット、シア、サシャ、あたしの順に一列に並んで進行する。ベネットとシアの間にアクレンティアさんが入る形だ。
「それじゃあ行くぞ!」
準備が完了したあたしたちは、大樹林に突撃したのだった。
最初に、周囲にいたオークを2匹片付ける。
これはまあ、ベネットとあたしで切り伏せる。
「案外あっけないものね」
「凄いです!」
サシャは少しつまらなさそうに、アクレンティアさんは目を輝かせながらそう言った。
「そりゃまあ、ベネットもエリシアちゃんも、割と常識離れした強さを持っているしな」
ジェイルは肩を竦めてそう言う。
「ジェイル、周囲の状況は?」
「……大丈夫だな。悲鳴をあげる暇すらなく片付けたんだ。敵影は無いぞ」
「よし、それじゃあ、向かうとしよう」
あたしは剣についた血を脱ぐいつつ、肯首する。
ドゥリエッタの中は邪悪な気配が漂っていた。
そう、魔王の周囲ってこんな感じの雰囲気だった気がする。
それは、他のみんなも敏感に感じ取っていたようだ。
「にしても、森の中の雰囲気がヤベェな」
「……うん、邪悪」
「あの魔王のいた周辺って感じね。魔物もオークやゴブリンの発展系がほとんどだし、他の魔物は既に駆逐されちゃってるのかしら?」
「……」
アクレンティアさんは暗い顔をする。
確かに、自分の故郷がこんな感じになっていたら、気が滅入るだろう。
「よいしょっと。これで俺、ゴブリン何匹倒したんだ?」
「欠かさず討伐証明部位を回収しておいて、それを言う?」
「そりゃもちろん、報酬に反映されるからな。エリシアちゃんも俺を見習ってほしいぐらいだぜ。なあ?」
「なんであたしに振るのよ」
ただ、確かに遭遇率が非常に高い。
その度にジェイルが暗殺しているが、それもいつまで続くやらと言った感じだ。
そんな感じで探索を続けて行くと、ようやくエルフの国に到着したようだ。
「ああ、あちらに見えるのがエルフの国…… ドゥリエッタです」
それは、高い木々を中心にして住処を増設したような家が並ぶ国であった。
一際高い大樹木……この国のエルフにとっては聖樹と呼んでいるそうだけれど、それの周囲を取り囲むように城が木造ながら建築されている。
城、と言うだけあって荘厳だし、木材以外にも宝石が使われてたりしているので、思っているよりも高級感があった。
「うわぁ……凄いわね……」
「なんか冒険に来た感じだな!」
「本来はエルフ…… ドゥリエッタ王国のエルフは人間を交流はするが入れないと言う関わりをしているからね。ここまで近づけただけでもそれだけ異常事態と言うことだな」
「はい……」
アクレンティアさんが俯くと、国の入り口で見張りをしていたエルフの騎士がこちらに接近してくる。
「姫様! お逃げになられたはずでは……? それに、この人間達は?!」
「彼らは勇者のパーティです。この国の危機を聞いて馳せ参じたもの達です」
「……な、なるほど……。国王陛下に伝えてきますので、少々お待ちを……!」
実際は違うんだけれども、アクレンティアさんはそう説明した。
まあ、嘘も方便と言うし、そう言うことなんだろうね。
あたし達は兵士が戻ってくるまで待たされることになったのだった。