運命の出会い??
あたしがジョブチェンジをしてから2週間後、ギルドで仕事をしている最中の出来事であった。
この2週間はベネット達と冒険をしたり、ギルドのお仕事をしていたのだ。魔王が討伐されたおかげで、新人冒険者になりたい人も増え、駆け出しの街アクセルとしての忙しさを実感していた。
そう言えば、ちょうど女神様の予言を聞いてから、2ヶ月経ったぐらいである。
あたしの運命の出会いというのは、人物でも動物でもなく、一枚の紙切れ……ギルドの依頼書との出会いであった。
流石に2週間も経てば、お祭り騒ぎも落ち着くしアクセルも日常に戻っていた。あれから【魔王を討伐した】と言うニュースは入ってきていないが、女神様曰くあたしに遅れる事10日に、北部の方で魔王が1体勇者によって討たれたらしい。
勇者の名前は澤野美菜。椎名の記憶によると、コウコウのブカツと言うもので、水泳ブのエースだった女性らしい。
まあ、あたしですらソロで討伐できたのだ。他の勇者が出来ないはずがない。
美菜は元気で快活な子だ。城であたしと親しくしてくれていた3人……大島さつき、柳生美来、駿河ひよりとは別のグループに所属しているので、あまり話す機会はなかったのだけれど、元の世界に帰りたがっている一人らしい。
そんな情報を集めつつ、あたしはギルドで精力的に働いている最中であった。
「あの……」
「はい、冒険者ギルド・アクセル支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
その人物はフードを被っており、表情は伺えなかったが、見た目は金髪で体型から女性であることが窺いしれる。
「依頼をしたいんです! ベネット・レーファレノさんのパーティを指名で!」
ベネット・レーファレノはベネットのフルネームだ。ベネットのパーティは銅級冒険者パーティであるが、実績自体はかなり積んでおり、現在では銀級目前と言われている。あたしが含まれると銀級扱いになっちゃうっぽいんだけどね。
そして、依頼主は冒険者を指名することができる。もちろん、指名料がかかるしクラスによって指名料は変動する。
「わかりました。お手続きをいたしますので、こちらの用紙に必要事項の記載をお願いします。文字が書けない等ありましたらこの場で私、エリシアが代筆いたしますが、いかがなさいますか?」
「あ、お願いします。ダルヴレク語は話はできるんですけど、文字はかけなくて……」
「わかりました」
あたしはダルヴレク語はかなり習得できた方だと自信がある。それもこれも散々書類と格闘してきたからと言うのもあるけれどね。読むだけならば地方ごとの違いもある程度わかるようにまでなったのは、仕事で必要だったからであるだろう。
それに、冒険者ギルドに依頼する人は誰しもがダルヴレク語を読み書き出来るわけがないのだ。あたしの体感であるが、依頼書を自分で書ける人の割合は60%と行った感じである。
あたしは依頼書作成の用紙を取り出し、羽ペンにインクをつける。
「では、お名前をどうぞ」
「アクレンティア・ラ・ドゥリエッタ……」
名前の法則から言えば、この人はエルフなのだろう。それも、エルフの貴族である【ラ】が入っていると言うことは、目の前のエルフの女性は貴族のお嬢様と言うことだ。
「では、年齢をどうぞ」
「112歳です」
「性別……肉体的性別をどうぞ」
「女です」
「では依頼内容をどうぞ」
「その……どうか私達の里を救っていただきたいのです!」
「里を救ってほしい……? これは金級の依頼ではないですか?」
「すみません、あまり金銭がないので、銅級でもベテランのベネットさんにお願いしたのです」
なるほど、どうやら直接ベネットにお願いをしたようである。
「わかりました。では、討伐対象をどうぞ」
「その……あれは魔物なのかよくわからないのですが、おそらく“人肉喰らい”のオーガのような気がします。それがゴブリンやオークを指揮して私達の里を攻めているのです」
それを聞いて、あたしの口元がヒクつく。
「え、いや、その案件はやっぱり金級案件では……?」
「もちろん、軍を動かしてます。冒険者のベネットさんに依頼したいのは、捕まったエルフの女性達の救出なんです!」
それもそれで、銀級案件だろう。しかし、あたし達ベネットさんをリーダーとした冒険者パーティは銀級目前とされている。なので、指名がある以上受けざるを得ないだろう。
「……わかりました。では、報酬金額の試算をいたしますので、こちらの札を持ってベンチに座ってお待ちになってください」
「わかりました」
あたしはエルフのお嬢様を座らせると、書類を持って奥に持って行く。依頼料の見積もりをする部署があるので、そこに申請書を持って行くのだ。
「お願いしまーす」
あたしは依頼書を決められた箱に入れるとそう言って受付スペースに戻る。最長で30分ほど見積もりにはかかるので、それまでは待ってもらう必要がある。今回は指名なので、若干多めに査定されるだろう。
それにしても、あたしにとってこの依頼は非常に不愉快な依頼である。あの時を思い起こさせるし、ケリィの顔がチラつく。それだけでもイライラするし、顔にでる。あたしは深呼吸をして別の事を考える。
実際10分ほどで見積もりは終わったらしい。
「エリシアさん、見積もり終わりましたよ」
「ありがとうございます」
あたしはアリアから書類を受け取る。見積もりとしては危険手当込みで1,540エリン、であった。まあ、この規模の依頼ならば安いほうだろう。
「アクレンティアさん、見積もりが終わりました」
あたしが声をかけると、アクレンティアさんはこちらにやってくる。
「依頼料は危険手当込みで1,540エリンになります」
「よ、良かった。予算内で収まりそうです」
アクレンティアさんはそう言うとエリン通貨の入った袋を取り出した。
「これで2000エリンです!」
「はい、では確認しますね」
2,000エリンは銀貨20枚である。あたしは数えると銀貨5枚と60枚の銅貨を渡す。
「お釣りの560エリンです。では、依頼書を発行します。ベネットさんに伝わりましたら、依頼開始となります。旅の諸経費は、ギルド負担となります。また、依頼の未達成時は危険手当分を再度お支払いいただくことにより、募集をかけれるようになります。その場合は自由契約となりますのでご了承ください」
まあ、初めて利用するみたいだし、これくらいは言っておかないとね。
「わかりました! ご丁寧にありがとうございます!」
そう、この依頼こそが、まさにあたしの運命だったと言ってもいい。前は運命にされるがままだったが、今度こそあたしは運命を追い越すのだ。
あたしがこの依頼を受け、エルフの里に行くまでは、そんな考えはなかったのだけれどね。
若干文字数少なめ
プロローグみたいなものだし良いかな?
他の勇者の活躍はエリシアに情報が入り次第サラッとかかれます