勇者覚醒
あたしは思い出した。
あ た し は 思 い 出 し た !
あ た し は 思 い 出 し た !!!
教会でお母さんに剣を突き立てたあたし!!!
村の人たちの首を刎ねていったあたし!!!
マーティ兄さんに恨まれながら惨殺したあたし!!!
許せない! 許せない! 許せない! 許せない!
ケリィ! 広瀬! 三宅!
許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない! 許せない!
こんなところで死ぬわけにはいかない!
あの畜生どもをあたしの手で殺すまで、あたしは死ねない!!!
あいつらを皆殺しにするまでは、死んでやるわけにはいかない!!!
あたしに大切な人を殺させたあいつらを許すわけにはいかない!!!
バキンと音を立てて、あたしの中の何かが崩壊した。
それは、あたしの心を守るための何かだったかもしれない。
世界が止まる。
【──勇者:椎名康介が覚醒しました。エリシア・レアネ・フェルギリティナにステータスが開示されます】
目の前に文字やアイコンが浮かぶ。
エリシア・レアネ・フェルギリティナに《勇者》の祝福が付与されます。
レベルアップ:《勇者》:0→1
レベルアップ:《英雄》:5→6
レベルアップ:《魔法使い》:4→5
スキル:魔女術のレベルが上昇しました。
レベルアップ:魔女術:0→1
スキル:聖剣の鞘のレベルが上昇しました。
レベルアップ:聖剣の鞘:1→2
そんなログが流れる。
あたしは自然と、言葉を紡いだ。
【《壊れろ!》】
バリンと音を立てて、象野郎のカタナがバラバラに分解する。
【《弾けろ!》】
象野郎のカタナを持つ腕が弾ける。
そして、時は動き出した。
あたしが砕いた物体がバラバラに弾け飛んだ。
「?! な、何が!?」
突如右腕と自慢のカタナが粉微塵に吹き飛んだ愚か者は、怒りを忘れて目を白黒させていた。
「邪魔」
あたしは聖剣を振りかぶると、聖剣に魔力を込める。
目の前にスキルの詠唱が映る。
【絶対の正義を示す聖剣。勇者エリシア・レアネ・フェルギリティナの名の下に、愚かなる者に正義の鉄槌を下す!──グラム・ユースティア!!】
あたしの魔力で聖剣が輝く。
「はあああああああああああああっっ!!」
あたしが聖剣を薙ぐと、聖剣に溜まった魔力が光となって愚か者を焼き尽くす。
「がああああああああ、そんなバカな!そんなバカなあああああぁぁぁぁ……」
愚か者はその断末魔をあげると、光に飲まれて塵も残らなかった。完全にあたしの八つ当たりであるが、仕方ない事である。
眼に映るステータスが、あたしの魔力が尽きた事を示していた。あたしは最後の力を振り絞ってうまく地面に着地すると、そのまま倒れてしまう。
体力を示すゲージはあまり残っておらず赤くなっている。
「うぐっ!」
あたしは脇腹を抑える。ガネーシャに斬られたところが今更ながら痛みを訴えてきていた。魔力は尽きているため、回復魔法も使えそうにない。
「こ、こんな、ところで……!」
死ぬわけには……!
だが、あたしの身体は言うことを聞いてくれず、流れ出る血によって体温が徐々に奪われる。まだ死ぬわけにはいかない!
あたしが辛うじて意識をつないでいると、誰かが近づいてきた。
「大変!」
「おい、回復魔法をかけろ!」
「大丈夫か? しっかりしろ!」
声がくぐもって聞こえる。脇腹から熱が引いてきたので、回復魔法が聞いたのだろう。途端に強烈な眠気に襲われる。
「おい! 寝るな! しっかりしろ!」
「血を失い過ぎてるのよ!」
「輸血だ! 彼女の血液型がわかる奴は?」
周囲が騒がしいが、あたしはもう、意識を保てなかった。
あたしは暗い微睡みの中に意識を沈めてしまった。
あたしが目がさめると、あたしがいつも泊まっているアクセルの宿──金糸雀亭の一室であった。
「ここは……」
恐らく、ベネットかジェイルが運んでくれたのだろう。身体を弄ってみたが、怪我はすっかり完治していた。体力のゲージも魔力のゲージも全回復している。
これが勇者の言っていたステータスね。
あたしの能力が数値化して表示される。まるでゲームのようではあるが、あたしのステータスはとてもではないがレベルが一桁とは思えない状態であった。
まあ、あたしの知る前世のゲームを思い出すとであるが。
それにしても、確かに不思議な感じである。これが《勇者》の祝福を得た特典なのだろう。
「これは確かにゲームの世界だと思っちゃう仕様ね……」
とは言っても、レベル制なのは勇者だけであり、それ以外の祝福はレベル制ではない。それはこの世界に生きているあたしならちゃんと理解できている事である。
ちなみに、ガネーシャを倒した際に《勇者》の祝福は5までレベルが上がっていた。
「さて、ギルドに顔を出しに行こうかしら?」
元気になった姿をみんなにも見せたほうがいいだろう。ベネット達も心配しているはずだ。
あたしの中にあいつらへの怒りや憎しみは燻っている。この怒りは、ぶつけるべき相手がいる事も分かっている。あたしは一旦、この事については蓋をする事にした。
あたしが魔王を倒す事にこだわる理由は、三宅どもを殺す事に上書きをしていたのだろう。魔王を倒す事が三宅を殺す事に繋がるのだ。
あたしは決意を新たにして、服を着替えるのだった。
次回から【破壊魔王】シヴァ討伐編です。
キリが良いので今回はここまでです!