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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
冒険者だけれど村娘に戻れるか心配です
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作戦

 あたしは銀級下位の冒険者に守られて、定位置までたどり着いた。一応守ってくれるメンバーの中に女性がいるから落ち着いていられるが、男性だけだと恐怖で動けない自信があった。

 と言うか、嫌がらせのようにあたしの護衛は最初は男性だけだったが、ベネットが口を挟んで男女比半々にしてもらったのだ。

 ヴェルさん曰く、銅級冒険者だから配慮したと言っていたけれども、なんであたしに当たりが強いのだろうか? 心当たりはない。

 あたし達は周囲のガネーシャの眷属を狩って、安全地帯を確保する。位置はここで合っているだろうか? 何気にあたしは集団魔法も集団儀式魔法も初めてである。合成魔法もサシャとやる機会が数度あっただけで、あまりやったことはない。もっぱら前に出て、敵を切り刻む前衛をやり過ぎなだけである。

 と、魔石から声が聞こえてきた。


『各人、定位置についたか?』

『多分ね。場所はあってるかしら?』

『……問題なさそうだ。他は?』


 どうやら、反応すれば正しいかわかるらしい。術式には声のする方角と距離を図る機能も埋め込まれていたので、可能なのだろう。

 あたしも反応をする。


「到着したわ、ヴェルさん」

『……エリシアか。ヴェル部長と呼べ。場所は合っている。そのまま待機だ』

「……わかったわ」


 魔石から声を聞くと確かに、位置と距離がわかった。

 それにしても、ヴェルさんは地位に固執する人だったのか。あまり話す機会が無かったからわからなかった。この世界ではメガネは高級品だし、地位の高い人かなとは思っていたけれど。

 あたしはギルドでは受付の部署に所属しているしね。奥の方の仕事も手伝うことは結構あるけれども、事務作業程度である。結局、前世の世界でいうアルバイトとか非正規雇用みたいなあたしとはあまり接点が無いのだ。


 しばらく魔石での会話が続き、他の人の微調整が完了する。


『よし、では各員、詠唱の準備を開始してくれ』


 ヴェル部長の言葉で、あたしは魔力を感じ取る。出力する魔力量は集団儀式魔法の場合は同じ量でなければならない。等間隔に円を描くように立っているお陰で、参加者の魔力の流れは感じやすくはなっているが、出力する魔力量を合わせるのは難しい。

 あたしは立ったまま地面に手をかざすと、一番出力が安定している人に合わせる。一番安定している人に合わせた方がやりやすいかなと感じたからだ。2分ぐらいで全員の魔力量が揃う。


『──今!』


 ヴェル部長の言葉で、あたし達は詠唱を始める。


【我願い奉る。循環の理により彼の者を縛る檻を顕現する。原初の力よ、光の精霊よ、我に力を貸し給え。我らに抗えぬ力に対抗する術を授けたまえ。其は彼の者を縛る楔、閉じ籠める檻。──集団儀式魔法《封印》】


 あたしの身体から初期実行分の魔力が失われる。と同時に、あたしを起点として魔力の筋が伸びる。ちょうど4本出ているので、五芒星の魔法陣が描かれるのだろう。

 一瞬《封印》の内側が光った。《封印》が発動したのだろう。あたしは維持するために魔力を流し続ける。


『よし、奴の動きが止まった! 今だ!』


 嬉しそうなヴェル部長の声が聞こえる。ちゃんとガネーシャに魔法が効いたと言うことだろう。ライノスさん達避難できたのだろうか?

 それにしても、この《封印》は集中力がいる。一定量の魔力を流し続ける必要があるのだ。少しでも気を緩めると、ズレが生じかねない。それに、暴れるガネーシャを押さえつける必要もある。いくらあたしが魔力コントロールは得意だとは言っても、これは難易度が高かった。

 冷や汗が滲む。早く《雷光》をと思っていた。

 維持する系の魔法はあたしは使ったことがなかったが、戦闘とは別のベクトルで集中する必要があった。

 全体で消費する魔力の総量は決まっているので、それを下回ってはいけない。個人の消費する最低限の魔力量は決まっている。

 そんな制約が、魔法を行使しているとはっきりとわかる。この難易度の高さを例えるならば、バスケットボールでスリーポイントシートをひたすらに決め続けるような難易度だ。

 あたしは額に汗を流しながら、《封印》の維持に努める。

 それからどれだけ時間が経っただろうか? そこまで時間は経っていないはずが、体感時間では30分ぐらい待たされた気分になってきた頃である。

 空に暗雲が立ち込め、バチバチ音を立てる。そして次の瞬間、巨大な光の柱が目の前に現れたのだ!


 ──バチバチバチッ!!


 一応影響範囲外にいるあたしにも感じられるほどの熱量。あたしは驚きつつも、《封印》の維持に努める。


『よし、直撃だ!』


 ヴェル部長の喜びの声が聞こえる。《雷光》の光は10秒ほど続いただろうか? 効果範囲内はそれこそクレーターが出来ていた。地面はえぐれ、土は熱でマグマになるほどである。

 そして、ここまでの威力になってしまうと、流石に目の前の視界が開ける。

 ぷすぷすと音を立てて流ように見える、黒焦げになった巨体が健在であった。防御の姿勢からその巨体を起き上がらせる。


『なっ!!!』


 魔石から驚きの声が聞こえる。アレほどの威力の魔法を耐えきったのだ。どうやって倒せば良いのだろうか?


「ワシに……」


 ギロリとガネーシャがあたしを見た気がした。


「ワシに、魔法ごときを当てた愚か者は貴様か……」


 まだ《封印》が発動中にもかかわらず、ガネーシャはあたしの方に顔を向ける。明確な憤怒の表情を浮かべていた。


「赦さぬ……赦さぬぞぉぉ!!」


 吠えるガネーシャにあたしの嫌な予感が爆発する。とっさに聖剣で左側を防いだのは、ただの反射であった。

 ガネーシャはなぜかあたしの方に一気に距離を詰めると、あたしと一緒にいた冒険者たちも纏めてその場をカタナで薙ぎ払ったのだ。

 あたしは空中に投げ出される。あたしの目には、さっきまで護衛をしてくれていた冒険者たちが真っ二つになって消し飛ぶ姿が映る。

 あたしは何度か地面を跳ねる。


「かはっ!」


 あたしは転がりながら地を吐き出す。あの一撃は強烈な一撃であった。聖剣で防いでなければあたしも粉微塵になっていただろう。

 あたしは聖剣を構えながら立ち上がる。

 ガネーシャと目が合う。


「おのれ……おのれおのれおのれおのれぇ!!!」


 完全にあたしにターゲットを絞っているガネーシャがカタナであたしを粉微塵にしようとする。一瞬で8方向からほぼ同時に放たれる剣撃に、あたしは死を覚悟する。

 ギャンギャンギャンと剣が立てる音ではない音がする。あたしは聖剣で3方向の剣を受け流し方向をそらし、空いている空間に身体を滑り込ませる。

 あたしの居た空間は歪んで潰れた。


「勇者は生かしては置けぬ! この屈辱! 死ですら生ぬるい!」


 ガネーシャの攻撃はまだ続く。直感と死の匂いを頼りに、あたしは聖剣で何度か受け流してやり過ごす。


【《光鎧(ブライトアーマー)》!】


 あたしはとっさに《光鎧(ブライトアーマー)》の()()()()()()魔法名を言う。するとあたしを《光鎧(ブライトアーマー)》が覆う。だが、あの攻撃は掠めるだけでも不味いのはわかっている。

 目の前に集中しないと死ぬ!

 あたしは意識をさらに深く集中させる。

 ガネーシャは一本しかない剣でほぼ同時に多数の方角から攻撃してくる。聖剣のお陰で命を繋いでいるだけにすぎず、腰に下がったロングソードでは受ける事すら出来ないのは明白で合った。

 ガキンと音がして痛みが走る。どうやらガネーシャの剣に当たってしまったらしい。《光鎧(ブライトアーマー)》のおかげで真っ二つになるのは防げたが、あたしは吹き飛ばされる。

 空中に飛ばされてもガネーシャの追撃は止まらなかった。あたしは痛みを意識の外に追いやる。13方向から同時に攻撃が来る。


「右!」


 あたしは聖剣で5本の剣筋を流して、死の領域から身体を逸らす。


「左!」


 次々に来る攻撃を、ギリギリで回避して死を避ける。

 そろそろヤバい事にあたしは気づく。剣筋が攻撃のたびに1本ずつ増えていっているのだ。

 恐らく直感で弾いている剣筋の隙も、ガネーシャがワザと作り出したに過ぎないだろう。

 あたしの顔を見て、ガネーシャは嫌な笑みを浮かべる。


「気づいたか、勇者。では、絶望しながら死ね!」


 あたしの周囲、全てに剣筋が見える。そのどれもが隙が無く、死の匂いが充満していた。

 このままではあたしは塵一つ残らないだろう。

 それほどの圧倒的な【死】があたしに迫っていた。

 それでも、これは一瞬に過ぎない。死を前に思考が加速しているのだろう。


 そして、走馬灯があたしの脳裏を過る。


 それは、優しかった村のみんなの顔、マーティ兄さん、お父さん、シエルの顔、エルウィンさん、ノーウェル様、ビアルにナシャ、シーヴェルクさんにメリルさん、ギルドのみんな、ベネット、サシャ、シア、ジェイルの顔が過ぎる。


 そして、お母さんの笑顔が蘇り、そして……。



























「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなやつでもケリィよりずっと爽やかなんですよね。
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