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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
冒険者だけれど村娘に戻れるか心配です
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冒険者の戦い

 あたし達は、ガネーシャのところに向かうために道を切り開いていた。作戦としては、まずは前線基地を森の中に作ると言うことらしい。後方ではライノスさん達と支援物資が冒険者達に守られながら運搬されている。

 場所はガネーシャがいる場所と想定される地点の近くの森である。


「はあああああ!」


 象型の魔物をあたしは斬り伏せる。どちゃっと音を立てて斬り飛ばした首が地面に落ちる。


「す、すごい……!」


 あたしはギルドの制服の上に鎧を着ている。それは、あたしがギルド職員であると言うわかりやすい指標であるからだ。


「大丈夫かい?」

「あ、ああ、すまねぇ、助かったぜ、ベネット」

「どういたしまして。それじゃあ体制を立て直すためにも少し下がっていてもらおうか」

「すまねぇ」


 ベネットは理想的なタンクである。魔物のヘイト管理もうまく、タワーシールドの扱いも上手い。上手く隙を作って確実に仕留めていた。

 ベネットのタンクのおかげで、あたしやジェイルは気兼ねなく前線で戦えているのだ。


「エリシア!」

「ふっ!」


 ジェイルに言われてあたしは下がると、あたしのいた場所から土煙が上がる。大型の斧を持った象の亜人型の魔物がいた。


「PAOOOOOOOOOON!!」


 理性はないようである。目は真っ赤に血走っており、瞳は敵を写すだけのカメラのようなものになっているだろう。


「行くぜ!」

「任せて」


 あたしとジェイルは連携して攻撃を仕掛ける。あんな大振りな斧であるが、隙は少ない。ジェイルが撹乱しつつナイフで斬りつけるが、ダメージを負ったようには見えなかった。

 なので、あたしがダメージソースとなる。


【風の力よ、かの者らに速さを与え給え──《速度強化(ファストアップ)》】


 シアが《速度強化(ファストアップ)》の魔法を唱え、あたしとジェイルの速度が強化される。


「サンキュー、シア!」

「ん」


 あたしとジェイルは象の魔物に攻撃を仕掛ける。象の斧を回避して、あたしは武器を持った手首を切断する。

 ジェイルは腕から矢を発射する。あれは毒を塗った矢だ。ジェイルの基本武器はナイフであるが、まるで暗殺者のように腕にボウガンを装備していたり、道具を使ったりする。

 毒矢が当たった影響でよろめく象。あたしは、その命を絶つために首を狩る。あたしはこの一瞬だけ刀身に沿うように聖剣を召喚する。あたしの魔力で作られた剣なのだ。操作すればできるようになる。

 あたしの魔力を纏ったロングソードでズバッとあたしは首を刎ねた。切断された勢いで首は上に吹き飛び、切断面から血が噴射する。

 ジェイルの毒が混じっている可能性が高いからあたしはすぐに離脱するんだけどね。


「ヒューッ。相変わらず、ロングソードと思えない切れ味だねぇ!」

「エンチャントソード、だっけ。相変わらず無茶をする」


 エンチャントソード、とは刀身に魔力を込めてする攻撃である。聖剣なのを誤魔化すためにそう言っているのだけれど、どうやらベネット達にはあたしが光属性のエンチャントを無詠唱で行なって攻撃をしているように映るらしい。

 あたしは単に聖剣がイメージしやすいので、剣に沿わせるように展開しているだけなのだが、誤魔化すのも面倒なのでそのままにしている。

 ちなみに、普通の鉄の剣だと本来はエンチャント自体ができないらしい。そのため、無茶に見えるのだそうだ。


「まあ、あたしの攻撃の中で一番大きい一発だもの。ここぞと言う時には使うわよ」


 あたしは剣を振って着いた血を払う。緑色をしているが、血だろう。魔族の血は緑色をしているので、先ほど討伐した魔物は魔族のと言うことになる。


「さ、先を急ごう」


 ベネットの言葉に従い、あたし達は先を急ぐ。あの魔族との戦いで先頭からは遅れを取ってしまっているので、あたし達は追いかける。

 魔物を蹴散らしながら進んでいくと、ギルドマスターが待っていた。


「ギルドマスター!」

「おお、ベネット達にエリシアちゃんか。早かったな」

「状況は?」


 ベネットが聞くと、ギルドマスターが指を指す。


「あと少し行ったらボスが待っていると言ったところだ。ライノスさん達の到着を待っている感じだよ」

「なるほどな。それじゃあ、俺たちは何をしていたら良い?」

「今キャンプを作っているから、それまでは周囲の魔物を討伐しておいてくれ」


 見ると、ギルド職員がキャンプを作成していた。簡易の拠点にするようである。回復薬や予備の武器が積荷から降ろされている。


「あたしは?」

「……エリシアちゃんはベネット達と一緒に周囲の魔物の討伐をしてくれ。怪我した冒険者もいるから、治療する場所も立てる必要があるしな」

「わかったわ」


 ギルドの戦闘員も魔物たちと戦っている様子だったし、あたしそっちの分類なのだろう。あたしはベネット達と次の魔物がいる場所に応援に向かうことにした。


「それじゃ、いつものフォーメーションで敵を蹴散らそう。今はキャンプの確保が優先だ。陣形の穴を潰す形で魔物を討伐するんだ」


 ベネットの指示であたし達は早速戦闘に入る。あたしは早速近くの冒険者全員に支援魔法をかける。


【──《天使の息(ライトニングブレス)》】


 あたしの魔法がかかり、全員の能力が一時的に向上する。

 冒険者全員が光を纏い、効果があったことがわかる。

 あたしは早速剣を抜き、近くの魔物を切り捨てる。どうやらガネーシャの魔物は頭部が全て象になっており、他の魔物と区別がつきやすい。また、ゴブリンのような首から上が象の魔物も、通常のゴブリンよりも強くなっており、雑魚とはいえ油断できない状態である。

 あたしとジェイルは連携しながら魔物を次々に切り捨てていく。こういう雑魚敵には聖剣の力を借りなくても首を跳ね飛ばせるので、割と楽である。剣にも血がほとんど付着せずに切り捨てられるし、ブラッドクリーン加工のおかげか剣もそれほど痛んでいない。


「エリシアちゃん! 右2体!」

「任せて!」


 ベネットの受け持っていた魔物をあたしが攻撃する。ベネットは盾役な分ヘイト管理や戦闘中の指示が上手い。あたしも周囲をある程度は意識しているが、ベネットほどではない。なんでこのチームは銀級に上がらないのだろうか?

 正直、今までベネット達と色々な依頼を受けたけれど、かなり連隊の取れたパーティだと思う。あたしが入ったことによって、前線にでる軽戦士が増えたことによってバランスが取れたからだろうか?

 あたし達がしばらく戦っていると、ライノスさん達が到着したようで、キャンプ辺りがにぎわてきた。


「ベネット、ライノス達が来たみたいよ!」

「そうか、サシャ。よし、ここは他の冒険者に任せて一旦引くぞ!」

「おう」

「わかったわ」

「……了解」


 あたし達はベネットの指示に従って、キャンプに戻ることになった。かなりの魔物が減らせたのではないだろうか? ベネットが目配せをすると、冒険者達がうなづき返した。


「ジェイルとエリシアちゃんは怪我人も連れてきてくれ。歩ける奴は他の怪我人も頼む」

「わかった、任せとけ」

「わかったわ」


 あたしとジェイルは比較的軽傷の冒険者に重症の冒険者の運搬を任せながら移動する。もちろん、手持ちの回復薬を軽く飲ませたりはしているけれどね。

 そう言えば、回復薬は即効性があるので、ある程度ならば立ち所に傷がふさがる。深い傷だと完全に回復しないこともあるけれど、前世の知識を持っているあたしからすればこの即効性は驚愕である。


 怪我人の運搬自体はあたしにできるのは肩を貸すぐらいだけれど、ほぼ全員がキャンプまで戻る事ができた。


 キャンプに戻ると、ライノスさん達のパーティがギルドマスターと話をしている最中であった。あたしが参加できる雰囲気ではないので、聞き耳を立てておこう。


「……なるほどな。ギルド職員の一人を同行させてほしいと」

「ああ、そいつは俺のお墨付きの強さだ。それに、本人たっての希望でな」

「はっ、ダメに決まっているだろう。素人は後方支援に徹してもらえればそれで良いのさ」

「……だよな。わかった。伝えておこう」


 どうやらあたしのことだろう。ライノスさんの言うことは尤もである。冒険者のパーティと言うのはバランスが存在する。これをうまく運用できるからこそ、ライノスさん達のパーティは金級だと言える。

 それぞれ個人での実力も高いことに越したことはないが、生き残るのはソロパーティではなく、上手いチームを組んだ人なのだ。チームは一人の力を100倍にも1000倍にもする事を体現しているのが金級の冒険者たちである。

 あたしも、ベネット達との連携が上達することによって、単独だと難しい敵も苦労せずに倒す事ができていたりするしね。


「それに、あいにくと軽戦士の枠は無い。他の銀級にでも頼むのだな」

「……はぁ。頑張って説得するさ。じゃあ決戦会議を始めよう」


 どうやら、あたしはガネーシャとの戦いには参加できなさそうであった。


「……まあ、普通に考えてそうなるわよね」


 サシャに先ほどの会話を伝えると、そう断言された。


「私たちは銅級よ。最近は銀級下位の案件もそれなりにこなせるようにはなってるけど、銅級だもの。戦力としては当てにはされないのが普通よね」

「……むぅ」


 ただ、あたしの直感ではガネーシャはあたししか……正確に言うならばあたしの持つ聖剣でしか倒せない気がしていた。根拠を示せと言われても難しいけれど……。


「だけど、やれる事はいっぱいあるだろう。何も眷属と直接戦うことだけが戦いじゃないさ」


 ベネットはあたしを宥めるようにそう言った。


「そーそー、露払いだって立派な仕事だぜ? それでライノス達が魔王の眷属を討伐してくれたら万々歳じゃねーか」

「……ジェイルはただサボりたいだけ」

「違うっての! 俺はできる仕事を着実にやっていくタイプなの!」


 シアの指摘にジェイルは訂正をする。あたしもジェイルの性格上は本来だったらこの場にも居ないだろうけれど、義理堅い人物でもあるとあたしは評価している。情報収集だってどこから入手したのかわからないレベルの詳しい内容を知っていたりするしね。


「とりあえず、俺らはやれる事をやろう。エリシアちゃんもそれで良いかな?」

「大丈夫よ。……ありがとう」


 あたしのワガママでベネット達をガネーシャと戦わせるのは悪いと思っている。それに、あたしにとっては信頼の置ける仲間なのだ。

 万が一の場合に、あたしが単独でガネーシャと戦えれば良いだろう。その場合は、ちゃんとあたしが【エリシア・レアネ・フェルギリティナ】であることも、ちゃんと明かそう。あたしは改めて、そう決めたのだった。

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