パーティの結束
色々あって更新が途絶えてしまい申し訳ありません!
ある程度の作り直しと加筆修正を行いつつ、連続投稿できる準備を進めますのでもう少しお待ちください。
色々準備して、あたしは金糸雀亭に戻ってきた。金糸雀亭までフィナに送ってもらった形である。どちらにしてもあたしが外出する際は護衛付きなのだ。
まあ、指名手配されているその人だから、仕方のないことだけれどね。
ベネットたちのお陰で嫌な目にあったことはほとんどないけれど、一度だけ攫われそうになったことはある。まあ、そいつらは全員あたし一人で叩きのめしてしまったわけだけれど。
恐怖にあまり錯乱して、あまり覚えてはいないのだけれど、襲ってきた連中を全員不能にしてしまったらしい。ベネットが苦笑いしながら、惨状を伝えてくれたのだけれどね。あたしを探して駆けつけたら、恐怖でうずくまっているあたしの周りに下半身丸出しで泡を吹いて倒れている冒険者と切り刻まれたズボンの残骸、そして、その冒険者から切り離された息子が切り刻まれて散乱していた、と言っていた。
それ以来、あたしを狙う連中が居なくなったとジェイルが言っていたが、あたしは聞かないことにした。
その際に不名誉な称号を囁かれるようになったり男性冒険者があたしが受付をするときに股間を抑えるようになったけれど、気にしてもしょうがなかった。
金糸雀亭ではジェイルが待っていた。あたしが無事に戻ったことを確認すると話しかけてきた。
「エリシアちゃん、ちょっと良いか?」
「どうしたのかしら?」
「いや、シヴァの眷属についてなんだが……」
「手伝わなくて大丈夫よ。ギルドが責任を持って討伐することになったからね」
「そうか! ってそうじゃなくてだな……」
ジェイルが言いにくそうにしていると、シアがジェイルのお尻を蹴り飛ばす。
「あいたっ!」
「はっきり言う。私たちのパーティの方針を」
「わかってるって。えーっとな、俺たちもシヴァの眷属と戦うことにした」
「……本当に?」
あたしはびっくりしてしまう。きっと、ベネット達は避けると思っていたのだ。
「ああ、エリシアちゃんは俺たちの大事なパーティメンバーだ。理由はまあ、わからないにしても、大事なパーティメンバーが戦いに行くなら、俺たちも行くってことさ」
「ジェイルは最後まで反対してたけどね」
「俺は命が大事なの!」
それでも、そう言う決断をしてくれたことは素直に嬉しかった。思わず私は目頭が熱くなってしまう。
「みんな、ありがとう!」
あたしは涙を拭って、彼らに微笑んだ。
それから、あたし達はシヴァの眷属の情報を集めた。と言っても、主にジェイルとあたしが集めたわけであるが。
シヴァの眷属の能力は、【物質の破壊】らしい。触れただけで物質が崩壊するらしく、それで何人もの冒険者や軍が犠牲になっているとか。
名前はガネーシャと言う。象の怪物のような姿をしており、そもそもガネーシャのところまで立ち向かうのも難しいらしい。
前世の記憶から考えれば“ヒンドゥー教”の神話体系を模した魔王のようである。と言う事は、パールヴァティやスカンダ、魔王のマーラとかも出てくるのだろうか?
基本的に他の宗教の神は悪魔に貶められたりするのが世の常である。そう言うものなのだろう。
「ん? エリシアちゃん、どうしたのか?」
「……何でもないわ」
あたしの顔色を見て、ジェイルが尋ねてきたが、誤魔化すことにした。そもそも、前世の世界の神話体系なんてラノベ知識程度しか持っていないのだ。現状何の役にも立たないし、そもそも前世の知識を持っているなんて胡散臭いたら無い。言わぬが花と言う奴である。
「……とりあえずは、どうやってガネーシャの元にたどり着けるかが鍵見たいね」
「そうね。ただ、ガネーシャの能力を聞く限りだと、ガネーシャの攻撃に一発も当たっちゃいけないみたいね」
「なるほど。ならば、前線で戦えるのは軽装備のエリシアちゃんと、ジェイルになるな。タンクである俺は、他の魔物を抑える役をすれば良いな」
「そうだな。……ってマジか」
「マジだ、諦めろ。俺では消しとばされておしまいだ」
と、戦う布陣自体は組み上がっていく。
最前線はあたしとジェイル、中堅がシアとサシャ、殿がベネットである。
これに、ギルドの戦闘員や冒険者が加わる感じだ。
機動力のあるあたしとジェイルが鍵だろう。【物理破壊】がどんなものかはわからないけど、あたしとジェイルがスピードで翻弄すれば、シアやサシャのキツイ一発をお見舞いできるはずだ。
そうして、決戦前夜の夜は更けていった。
翌日、あたし達はギルドの招集に従ってアクセルの街の西部入り口に集まっていた。まだ、ガネーシャからは距離があるため嵐の前の静けさのように何もなく静かだった。
すでにフル装備の見知った冒険者や、ギルドの職員が集まっている。
「あー、あー、では! これより説明しますのでー! こちらに! 注目してください!」
ギルドマスターが大声を上げて、冒険者達に注目を集める。
「まず、我々ギルド職員及び銀級中位までの冒険者が、ガネーシャまでの道のりを作ります! 主力の銀級中位、および金級冒険者チームのライノスさん達がガネーシャに万全の状態で挑めるようにしてください」
ライノスと言うのは、アクセルに留まっていた金級冒険者チームのリーダーである。グリフィンの巣から生還したり、マコンティアを討伐したりと実績のあるチームで、王都からも召集されていたらしいが、アクセルに残ったままであった。
ライノスのチームメンバーであるアイナ曰く、「生まれ故郷のアクセルを守るのは俺しかいないだろう」と言うライノスの判断で残っているそうである。
「勇者様は?」
冒険者の質問に、ギルドマスターが答える。
「勇者様はフェルギンから派遣されているが、あと5日はかかるそうだ」
フェルギンに残ったクラスメイトだろう。非好戦的な人しか残っていないので、あまり期待できないか。とは言え、東に向かった勇者がいたはずだが、どうなっているんだろうか?
「そう、つまりは俺たちだけで何とかしないとアクセルは壊滅ということだ!」
ライノスの言葉に、冒険者達はざわつく。
あたしとしても、女神様のお告げの件もあるためアクセルに消えてもらっては困る。それに、いっぱいお世話になった人たちがいる街だ。逃げるわけには行かない。
「エリシアちゃん、どうやら俺たちはライノスさん達の道を作る係にようだな」
「……そうね」
ベネットが声をかけてきた。
「エリシアちゃんとしては、行きたいところだと思うけれど、我慢してくれよ? じゃないと守りきれない」
「……そうね」
「何がエリシアちゃんを魔王との戦いに駆り立てているかはわからないけれど、同じチームなんだ。無謀な突撃はやめてくれよ」
なるほど、あたしの様子から、あたしがシヴァの眷属であるガネーシャに突撃しないか心配しているのだろう。
あたしだって、死にたくないし、ベネット達を危険に晒したいわけじゃない。だから、あたしはうなづいた。
「わかってるわ」
「なら良いんだ。エリシアちゃんが心配なのは、ギルドの連中だけじゃないんだ」
「……うん、ありがとう、ベネット」
改めてあたしはみんなの顔を見る。サシャもシアもジェイルも、同じ顔をしていた。あたしはうなづいて返事をする。
「それじゃ、行こう!」
「ああ、先に連中の道を作る仕事だな!」
あたし達はギルドマスターの合図とともに、ガネーシャへの道を作るために現場まで向かうことになったのだった。