戦闘準備
あれから、さらに2週間が経った。
あたしはギルドの仕事をしつつ、休みの日にベネット達と一緒に冒険をするという日々を過ごしていた。
もちろん、そんな日々が長く続くわけがない。【破壊魔王】シヴァの魔の手がアクセルにも伸びてきたからである。
「大変です!」
冒険者ギルドの扉を叩いたのは、冒険者ギルドアクセル支部で専属の調査員をやってくれている冒険者のファラ・ロンドであった。
「どうしたんですか?!」
同僚のアリアがファラを迎える。ファラはよく見ると、怪我をしていた。それも、左腕が無かった。
「ほかのメンバーは?」
アリアがファラにたづねると、苦虫を潰したような顔をしている。
「と、とにかく、ギルドマスターを!」
「わかったわ」
あたしはすぐにギルドマスターを呼びに行く。なんだか嫌な感じである。あたしはすぐにギルドマスターを呼び、1階に降りると、ファラは周りの冒険者に腕の止血および回復魔法をかけてもらっているところであった。
「む? ファラ! どうしたんだ!」
「ギルドマスター! っいたた……」
ファラさんは痛そうに腕があった場所を抑える。
「ギルドマスター、【破壊魔王】シヴァの眷属が、アクセルに近づいています」
ファラの報告に、ギルドが騒然としたのは言うまでも無かった。
さて、ギルドマスターがファラから報告を聞き、ファラのパーティがファラを除いて全滅した事を知ることになる。それと同時に、ギルドには緊急クエストの依頼書が張り出されることになった。
【緊急クエスト:【破壊魔王】シヴァの眷属である魔族を討伐せよ】
それと同時に、アクセルの住民に対して避難勧告をギルドが発令する。こう言う事務作業はあたしの仕事となっていた。もちろん、あたしもギルド職員だけれども緊急クエストは受けるのだけれどね。ベネット達は受けるかを迷っているみたいだったけれども、魔王討伐はあたしの仕事である。依頼主は女神様なんだけれどね。
「エリシアちゃん、本気かい?」
ギルドマスターが心配そうに声をかけてくれる。
「もちろんよ」
言っても、このギルドは銀級中位の冒険者までしかいない。それ以上のランクは首都のギルド所属になり、【破壊魔王】シヴァ討伐に向かっているのだ。ただ、この街を大好きだと公言する金級冒険者パーティのライノスさん達のみが残っているくらいである。
それに、あたしも冒険者登録しているし、銅級下位の冒険者なのであたしにも参加する権利はある。
「シヴァの眷属、……ファラさんの報告によると、相当強いそうです。金級下位でも叶うかわからないとか」
「そうね。まあ、問題ないわ」
シアに援護魔法や回復魔法を習い、ある程度上達したし、サシャにも攻撃魔法をいくつか教わっている。未だに【魔女術】での正しい魔法の使い方の感覚はわからなかったけれど、眷属程度ならばどうにかなるだろう確信はあった。
「どっちにしても、誰かが出なくちゃアクセルは滅んでしまうわ。あたしはこの街にお世話になってるし、あたしの村みたいに滅んで欲しくは無いの」
「……」
現状、この依頼を受けているパーティは2パーティしか無い。みんな様子を見ているか、逃げ出したかのどちらかである。だからこそ、あたしは戦う必要があった。
「……わかった。それならばこれ以上は止めない」
ギルドマスターは険しい表情でそう言った。
「ただし、エリシアちゃんはギルドから出す討伐隊の一員として出撃してもらうよ」
あたしとしては別に問題のない話である。と言っても、眷属がどんな能力を持っているかなんてわからないので単独でいくよりもよほど勝ち目があるだろう。
「わかったわ。と言うか、あたしは最初からそれに入れて欲しいって言ってた気がするんだけれどね」
気心の知れたベネット達と組めるのならばそうしたいが、ベネット達は眷属討伐には乗り気では無かった。そもそも、シヴァから逃げてきた彼らにそれを強要するのは酷であるだろう。だから、あたしはすぐにギルドの討伐隊に志願したのだ。結局ギルドマスターに渋られたわけだけれどもね。
そうと決まった以上は、ちゃんと準備をしておく必要がある。回復薬はもちろんの事、武器や防具も見ておく必要がある。
あたしはそう考えて、武器屋に行くことにした。
実はあたしは武器屋に入るのは初めてだったりする。シーナの時に入ったかもしれないけれども、それはノーカンだ。
「ここが武器屋……」
ギルドの職員をそれなりにちゃんとこなしていれば、こう言う情報はちゃんと入ってくるものである。あたしは同僚のフィナさんに付き添ってもらっていた。
「そうよ。エリシアちゃんはここで武器を買わなかったの?」
「あたしはシーナさんにもらった武器をそのまま使っているわ」
ちなみに、防具も変わっている。いつもの胸当てに小手のやつである。状況を考えたら、リナーシス村が滅んだ時に失ったのだろう。それなりに使っているので、今ではそれなりに傷が付いている。いくら素早く動いても、どうしても回避できない攻撃というものはあり、それが積み重なっている感じである。
これは変える必要は無さそうである。まあ、せっかくだし見る分には見るけれども。
武器屋の扉を開けると、少年が店番をしていた。
「いらっしゃい」
やる気なさげな感じである。まあ、年齢的にも外で遊びたい年頃なのだろう。
「おねーさん達何の用?」
「武器を購入しに来たのよ」
「ふーん、それじゃあおとーさん呼んでくるからまってて」
武器屋の少年はそう言うと、体を起こして奥に入っていく。そして、まさに鍛冶屋といった風貌の筋肉質な男性が出てきた。
「いらっしゃい。うちの武器屋へようこそ。ギルドのお嬢さん方が何の用だい?」
「今、魔王の眷属がこの街に向かってるって話は聞いていますね?」
「ああ、そりゃ勿論だ。俺の武器屋にもそれなりに武器や防具の発注があったしな。まだ足りないのかい?」
「い、いえ、あたしの武器を見繕って貰えないかなと思いまして……」
武器屋の店主は「ふーん」と言うとあたしを観察する。
「それじゃ、その腰に下げてる剣を見せてくれ」
「あ、はい」
あたしは腰から鞘を外すと、机の上に置く。
「ん? これはシーナに売った剣だな。そうか、お前さんがエリシアか」
「シーナさんを知っているの?」
「ああ、凄腕の冒険者だよ。2週間しかこの街には滞在しなかったのに、強烈な印象を残していった奴だよ」
どれだけ評価が高かったのか気になる。実際、シーナが残していたお金はかなりの額であったことからも、相当稼いでいたことは察することができた。
「……ふむ、確かにこの剣はもうお前さんの実力にはそぐわなさそうだ。大切に使っていたみたいだし、下取りして新しい剣を売ろう」
そう言うと、武器屋の店主は棚に飾っていた剣を取り外し、机の上に置く。その剣はあたしが使っていたロングソードに比べてかなり良い剣であった。
「それってかなり良い剣じゃないですか!」
フィナさんが驚く。
「ああ、自信作の一つだからな。魔鋼を使った剣で、切れ味や耐久性は折り紙つきだ」
あたしは手に取ると、軽く振ってみせる。確かにロングソードよりもこの魔鋼の剣は振り心地がちょうど良かった。しっくりくると言う感じだ。重さはロングソードの方が軽いのだけれどね。
「……確かに。あたしにぴったりね」
「だろ? ブラッドクリーン加工もしてあるから、長持ちすると思うぜ」
「ブラッドクリーン加工?」
「ああ、簡単に言うなら、血を弾く加工を施してある。鉄を打つ段階で施す必要があるから、加工してないものに比べたら若干値が張るがな」
つまりは、あたしが毎度やっていた血を拭う作業をあまりしなくても良いという事らしかった。
「便利な技術ね」
あたしは素直に驚く。フェルギンにもある技術かもしれないけれど、そもそも武器屋に行くことがなかったあたしとしてはそう言うことは知り得なかったのだけれどね。
「それと、鎧も見ていくか? お嬢ちゃんのためにも、少しは強い防具があった方が良いだろう」
用意してくれたのは、胸当てにガントレット、グリーブであった。
「こいつも魔鋼で作ったものだ。これは男用だが、サイズを計らせて貰えれば相応のものを用意するぜ」
「オーダーメイドっていう事?」
「場合によるが、多分サイズはあるだろ。なるべく防具はピッタリの物が良いからな。命を守るものだから、ちゃんと測らせてもらうぜ」
「……フィナさんにお願いしても?」
「問題ないぜ。むしろ測って欲しいと言われてもこっちが困る。その場合は嫁さんがいるときに出直してもらうけれどな」
と言うわけで、あたしはフィナさんにお願いしてサイズを測ってもらった。胸のサイズがDカップには変わらなかったけれど若干大きくなっていたのは気になる。多分、大胸筋が発達したせいかもしれないけれどね。全体的にあたしの体は一見すると細いけれどもマッシブになっている。前世で言うところの外国のモデルみたいな感じだ。
結局、あたしのサイズはあったらしく、試着してみるとちょうど良い感じであった。
「すごいわ! ピッタリ!」
「少し調整したからな。問題ないようなら何よりだ」
「で、おいくらかしら?」
「剣が1,750エリン、鎧が一式と調整料込みで5,900エリンだな」
かなりお高い。とは言っても、この武器の性能を考えると安い方だろう。それに、冒険者として稼いだお金でも払えてしまうのであった。週末冒険者でもそれなりに稼げてしまうほど、この世界は危機であるとも言えるけれどね。
あたしは財布から銀貨を取り出すと、7,650エリンを支払う。まだまだ蓄えがあるとはいえ、かなりの出費だ。
「あいよ、まいど!」
あたしは剣と防具を下取りしてもらい、新しい剣と防具を入手した。動きやすさは変わらないし、武器も振り心地がちょうどいい。
「しかし、様になっているわねー。やっぱりベネットさんたちとの冒険が板についてきたのかしら?」
「そうかもね。あたしとしてはベネットさん達と一緒に依頼を受けたかったのだけれどね」
あたしとしてはその方がやりやすいと言うのもある。実際、依頼を受けると頻繁に魔物に襲われるので、戦闘の回数はかなり多かった。そのため、連携して戦うので、ベネットたちのパーティとはかなり息が合うようになっていた。
それに、あたしはシアに指摘されて気づいたのだけれども、飛び上がっている最中に空中を蹴って方向を変えることがかなりあるそうだ。意識するとできないので、おそらく【魔女術】の行使を無意識で行なっているのかなと思った。完全に無意識なので、感覚がわからないのが難点であるが。
ただ、確かにそう言う空中機動をしてるときに魔力を使っているのは確かであった。
こう言う指摘をしてくれるので、あたしはベネットたちと組んで魔王の眷属と戦いたかったのだ。
流石にC→Eは成長しすぎなのでDカップに変更します(汗