???2→探索
特に読んでも読まなくても問題なさそうなお話。
「なっ! 何だこれは?!」
アルフレッドは驚愕していた。ヴィリディアを師匠として地獄のような修行をしている日々を送っていたが、たまたま街に降りてきた時のニュースを見て、アルフレッドは驚愕したのだった。
そして、ふざけるなとも思った。
「エリシアが……魔王の手下何てあり得ないだろうが!」
アルフレッドは信じられなかった。あの優しくも厳しいエリシアがリナーシス村を滅ぼしただの、魔王覚醒の手引きをしただの、信じられる内容ではなかった。
証拠としてあげられているエリシアが使っていたとされるロングソードもアルフレッドは見た事なかった。
「アル、どうした?」
「師匠……!」
アルフレッドの想い人がエリシアである事はすでにヴィリディアは承知していた。そもそも、このフェルギンでの3人目の《英雄》なのだ。耳に入らないはずがなかった。
ヴィリディアはアルフレッドの持つ新聞をちらりと見ると、納得したようにうなづいた。ヴィリディアは既に知ってた。
「ああ、お前の想い人か。儂は眉唾物だと思っているが、そうか」
本来であれば、ヴィリディアもエリシアの捕獲に動くべきであった。しかし、アルフレッドから聞いているエリシアの人物像と事件を起こしたエリシアの人物像が一致しなかった。なのでヴィリディアは弟子の育成を優先するとして放置していたのだった。
ちなみにではあるが、ヴィリディアの弟子は何人もいる。アルフレッドはその弟子の一人であった。
「これは何かの間違いだ……!」
愕然と新聞をくしゃくしゃに握りしめるアルフレッドに、ヴィリディアは提案をした。
「ふむ、ならばリナーシス村に行くか?」
「良いのですか? 師匠!」
「ああ、お願いします!」
本来であれば、アルフレッドは「良いのですか?」と確認すべきであったのだろうが、そんな余裕は無かった。やり場のない怒りで、他に考えられなかったからだ。
「ああ、そんな様子では修行しても身が入らないだろうからな。では、すぐに向かうぞ」
「はい、師匠!」
アルフレッドはヴィリディアの言葉にうなづく。一緒に買出しをしていた弟子の一人であるカイナスを呼び、アルフレッドはヴィリディア達と共にリナーシス村に向かう事になった。
リナーシス村はまさに不浄の地と化していた。幸いにして騎士団が調査を終えた後だったためか、騎士団も魔物もおらず、遺体も墓地が作られていたためか、特に死体が残っていたりはしなかった。ただ、惨劇を物語る血痕はそのままであったため、悲惨な蹂躙があったことの証拠であった。
「……ふむ、死臭が漂っておる。まるで強い呪いに汚染された地のようじゃ」
「そうですね。さすがは魔王が誕生した地という事でしょうか」
リナーシス村跡地は草一つ生えておらず、生命の息吹を感じることができなかった。
アルフレッドは、そんなリナーシス村の様子に愕然とする。自分の生まれ故郷がこんな状態になってしまい、軽く目眩がしてしまった。
「おい、アルフレッド。大丈夫か?」
「あ、ああ……。すまない」
カイナスに支えてもらい、アルフレッドは立ち上がる。
「一番呪いが強いのは、あの教会跡みたいだな」
「ああ、行ってみよう」
リナーシス村跡地に蔓延る魔物を討伐しながら、アルフレッドは教会跡地まで向かった。
「アンデット……!」
「ふむ、どうやら不浄な空気がアンデットを引き寄せたらしいな」
教会の周辺はゾンビが沸いていた。不浄な地に人間の死体があると発生すると言われている魔物だ。リナーシス村の墓地は教会が設置したのかゾンビが沸くレベルで不浄な地ではなかったが、魔王が誕生した教会跡地は浄化しきれなかったらしい。
アルフレッドたちはゾンビ達を斬りふせる。ヴィリディアの手を煩わせることなく、カイナスとアルフレッドの二人で、教会跡の周囲のゾンビを片付けてしまう。
「結構な数のアンデットでしたね……」
「それだけ不浄なものが溜まっているという事だ。さて、中を確認するぞ」
「はい、師匠」
教会跡地の中はゾンビの巣窟であった。中にはゴブリンゾンビがいたりもした。そして教会の内部には激しい戦闘があった跡があり、激しい剣戟が行われていたことを彷彿とさせる。
「内部も処理するぞ」
ヴィリディアの言葉とともに、カイナスとアルフレッドはゾンビどもを蹴散らす。その過程で探索を行ったが、証拠となるものは全て回収されており、見つからなかった。
アルフレッドは教会跡地の奥の部屋に踏み入った。
奥もやはり荒れており、避難所の扉も強い力によって破壊されていた。普通に考えれば、これで生存者が存在するというのはおかしな話である。
「アルフレッド、これ以上は何もなさそうだな」
「……そうですね」
これ以上捜索しても何もなさそうであった。やはり証拠となるものは騎士団が全て接収したのだろう。当たり前の話ではあったが、この教会跡の荒れ具合からここが最終決戦の場になったのは言うまでもなかった。
「待機させているほかの門下生連中も待たせている。……気になるならばリナーシス村の生き残りに話を聞くと良いだろう」
「そうですね。……わかりました。戻りましょう」
アルフレッド達は、こうしてリナーシス村を後にしたのだった。
アルフレッド達が魔物を減らしたお陰か、邪気が若干祓われ、リナーシス村跡地は徐々に土地が回復し始めるのはまた別の話である。
リナーシス村にはもう何も無い事を伝えたかっただけと言う。