トロール戦2
あたしの考えはこうだ。まず、あたしとジェイルの動く速度を上げる魔法をシアがかける。サシャは魔法で牽制しつつ、あたしとジェイルがベネットを盾にしつつ接近、あたしは指輪を、ジェイルはイアリングとネックレスをトロールから奪取して離れる。その後、再度サシャの魔法で頭部をぶっ飛ばす。と言うものだ。
指輪は一番動く場所だし、あたしが一番適任だろう。それ以外の部位をジェイルに任せる感じだ。
「なるほどな、エリシアちゃんの実力なら確かに指輪は取れそうだが……」
「問答している暇はないわ。シアさん、お願い」
「……わかった」
シアはそう言うと、あたしとジェイルに《速度強化》をかけてくれる。この魔法は名前の通り身体速度のみを強化する魔法で、《肉体強化》よりも速度強化をしてくれる魔法だ。
重ねがけもできる。
「うん、ありがとうね」
「っしゃあ! それじゃあ行きますかね」
あたしとジェイルはかなりの速度を出してトロールまで接近する。ベネットを横をあたしは抜けて武器を持っていない左手を狙う。
中指と小指に対魔法の指輪が装備されているのを確認する。素早く、小指ごとロングソードで指輪を切り放つ。
「ぎゃあああああ!」
突然左小指を切り飛ばされて悲鳴を上げるトロール。
「もらったぜ」
ジェイルはそう言うと、右耳のイアリングを耳たぶごと切り飛ばした。
「あがぁ! 猪口才な!」
すぐにトロールはあたしとジェイルを攻撃しようとするが、ベネットがそうはさせなかった。攻撃されそうなジェイルの前に素早く出て盾を構えてトロールの剣を弾き飛ばす。
「ふっ! そうはさせないよ!」
あたしはそのまま飛び上がると、武器を持っている手の小指を切り刻む。そして、素早く3回切り刻み、右手の小指を切断する。
空中で方向を変えるために剣を蹴ると、小指を切られたことにより握力が下がったせいか、トロールは剣を落としてしまう。
ジェイルはトロールのネックレスを破壊すると、あたしは左の中指を切断する。
「サシャ! 今だ!」
ベネットが合図をすると、サシャは再び魔法を放つ。
「──今度こそくらいなさい! 《火炎砲弾》!」
「うおおおおぉぉおぉぉ! クソがあああぁぁああぁぁあぁ!!」
炎の砲弾は放たれると、再びトロールの頭を吹き飛ばした。今度こそ、息の根を止めたようであった。
「ふぅ、やったわ!」
サシャが喜びの声を上げる。トロールは膝をついてそのまま倒れてしまった。頭部は、存在しなかった。
あたしとしては、もしかしたら1人でも余裕だったかもしれないなーなんて思っていたりしたけれども、パーティで戦うのも負担が分散できてやっぱり良いなと思った。
あたしはロングソードに着いたトロールの血を拭うと、鞘に納める。
「他にトロールの気配は無いが、急いで離れたほうが良いだろう。他の魔物の気配がするからな」
ジェイルがそう警告する。
「遺品は?」
「一部だけ回収しよう。ジェイル、トロールの討伐部位の確保を。エリシアちゃんは俺と、遺品の回収だ」
「わかったわ」
あたし達は素早く行動して、トロールと犠牲者の遺品を軽く回収すると、その場を後にした。
あたし達は冒険者ギルドに戻ると、早速完了報告を行う。それもまあ、ベネットがやってしまうのだけれどね。あたし達女性班は宿を取りに向かっていた。
「しかし、エリシアちゃんって強いわねー。剣も使える魔法使いなんて聞いたことがないわ」
「それなりの努力はしてきたのだけれどね」
「祝福を貰う前から努力してた系?」
シアに聞かれてあたしは頷く。魔法に関しては、祝福を授かる前から努力してたしね。剣は本当に最近だけれど、これは黙っていたほうが良いだろう。
「なるほどー。それじゃあ剣も魔法も幼い頃からやってれば伸びるわよね。それに家事も完璧とか、嫉妬しちゃうわ」
「……そうね。才能があって羨ましい」
「努力の成果だと思うのだけれどね」
実際は《英雄》なんて言う大幅な成長補正がある事は言えない。トロールとの戦いだって、あたしは全力を出したわけでは無いのだ。おそらく、シーナの戦闘経験を身体が覚えていると言うのもあるだろうけれどね。
「その努力を続ける才能が無いのよー。全部をやって上達させるなんて、普通はできないわ」
「それは単にサシャが怠け者なだけ。エッチと魔法にしか努力を向けてない」
「良いじゃ無いのよ! 私の勝手よ!」
「でも、サシャさんと言い、シアと言い、魔法は凄かったわ。あたしに比べて威力も違うし、広く浅くやってきたあたしに比べたらすごいと思うの」
実際、サシャの《火炎砲弾》はあたしが仮に使ったとしても、トロールの頭部は吹き飛ばせないだろうし、シアの《速度強化》や《肉体強化》なら、あたしが同じ魔法を唱えた場合威力は劣るだろう。
そのかわり、多くの魔法が使えるし、魔法の解析もできてしまうのがあたしの特徴か。
「いや、まあ確かに専門の私たちと比べて威力が劣るのは仕方ないけれど、エリシアちゃんはなんでも魔法が使えるじゃない。謙遜しなさんな」
「うーん、謙遜してるつもりは無いのだけれどね」
しかし、確かに《英雄》と言うだけある。最初から成長に補正がついているようなものだ。15歳の時点でトロールに対しても脅威を感じなかったあたしは、順調に化け物化が進んでいるのだろう。そうじゃなければ、魔王や邪神なんて倒せはしないのだろうけどね。あたしとしては、この責務が終わったら村娘として静かに暮らしたいものである。
あたし達はこの日も碧い宝石亭に泊まることになった。
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エリシアの実力は実質【銀級冒険者】の中位の上と言ったところです。
次回は小話を挟んだ後、【破壊魔王】シヴァとの戦いになる予定です。