女神様との邂逅
やっと追いつきました。
前提が変わっているので、エピローグの方も若干手直しをしています。
それからおおよそ4日間はギルドの仕事に奔走することになった。そりゃまあ、アクセルまで戻ってくる中堅冒険者が大勢やってくるわけだから、忙しくもなるだろう。
拠点移動申請やら冒険者の宿の斡旋、依頼の手配なんかで目まぐるしく時が過ぎていく。特に事務作業の仕事は次々とあたしのところまで舞い込んでくるため、処理をするだけでも大変であった。
ジェイルから依頼されていた情報は思った以上に簡単に入手できたため、満足そうであった。ジェイル達のパーティはしばらくはアクセルを拠点に活動をするということらしかった。あたしとしては、どうでも良い話ではあるけれどもね。
実際、街で情報収集するよりも多くの魔王に関して多くの情報を得られたのは事実である。まあ、金級冒険者のどのパーティが全滅しただとか、重傷を負っただとか、悪いニュースばかりなのだけれどね。
今はシヴァはセルーアと言う街を拠点にして力を溜めていると言うことらしかった。セルーアは報告によると既に廃墟と化しており、瓦礫が積み上がって城のようなものを形成しているらしい。その様相は御伽噺に出てくる魔王城みたいな形をしているらしい。【破壊魔王】なのに拠点は作るのねとあたしは思ったが、どうやら作ったのは配下の魔族のようであった。
セルーアはアクセルからはかなり遠い位置にある街で、どちらかと言うとリフィル王国の王都の方が近いらしい。
アクセルの街でもここ4日で兵士募集の張り紙が増えたし、依頼書にも魔王関連の討伐依頼が銅級から並んでいる有様であった。
そうそう、あたしのことに関してだけど、既にあたしの手配書はギルドの掲示板に貼ってある。とは言っても、あたし自身が自分で掲示板に貼ったのだけれどね。
「エリシアちゃん、その手配書……」
と、貼っている最中に声をかけてきた冒険者もいたが、あたしは髪も短いし、そもそも祝福が《魔法使い》なので、「よく似た別人よね。迷惑だわ」と言うと納得してくれた。
だけれども、突撃してくる冒険者はいる可能性が高いので、ギルドマスターから一人で帰らないようにと言う配慮で護衛をつけてもらうことになった。
その護衛を頼まれてくれたのが、ジェイル達のパーティであったのは当然の流れであったが。
「……と言うわけで、ギルドマスターからの依頼で君の護衛をすることになった、このチームのリーダーのベネットだ。よろしく」
何故か頭の中でおっさんが必死な形相で「野郎ぶっ殺してやる!!」とナイフを構えて叫んでいる様子が過るが、目の前のベネットとは関係なかった。ベネットはどちらかと言うと素敵な男性の部類に入るだろう。端正な顔立ちをしており、重戦士の鎧を纏っていても損なわれることはなかった。先日の様子から見ても、マッシブな肉体をしており、相当鍛えていることはうかがい知れる。
「エリシアちゃんはもう知ってるだろうが、このチームで斥候をやっているジェイルだ。しばらくはよろしくな」
ジェイルは知っての通り軽薄そうな感じを出しているものの、優秀な斥候であるだろう事は間違いなかった。
「わたしはサシャよ。魔法使いをやっているわ。これでも中級の詠唱魔法までなら使いこなせるわ。同じ宿だし仲良くしましょうね」
サシャは若干露出の多めな魔法使いの服装をしている。金属が魔力を阻害すると言うのは以前も説明したけれど、布地も外界との接点を断ち切る結界的な意味合いを持つと考える魔法使いもおり、冒険者の魔法使いは露出をする者もいる。実際は金属しか関係ないらしいんだけどね。堂々としているからそうは見えないが、サシャの格好は若干破廉恥な格好とギリギリ言えそうなデザインをしている。
「……わたしはシア。回復魔法使い。よろしく」
シアは見た目が前世で言うファンタジーゲームに出てくる『白魔法使い』のような格好をしている。露出は少ないのが、サシャとのスタンスの違いを明白にしている。
「よろしくおねがいします。あたしは知っていると思うけれど、エリシアと言います。ご迷惑をお掛けします」
あたしは仕事モードのまま返事をする。
それにしても、フェルギンと違ってリフィル王国では自分の祝福を自己紹介に使わないのだなと思った。
それほど、フェルギンはアフェリス教信仰が強いのだろう。あたしもアフェリス教信者だけれどもね。手配されている以上はアフェリス教徒の行動はできないだろうけど。
「これも仕事だから気にする必要はないさ。この話は僕たちにも利益がある話だしね」
ニッコリと微笑みながら言うベネット。確かに、ギルドから出た依頼をこなせば信頼も高まるし、冒険者的にも美味しい話である。
「それに、エリシアちゃんは冒険者になりたかったって話を聞いている。ギルドマスターからも冒険に連れて行く許可は得てるしね」
そう、それはあたしもギルドマスターから聞いていた。あたしも渡りに船と言うやつで、了承していた話である。それに、冒険者の仕事は遠くに遠征する場合もあるので、決まった時間に出退勤するあたしにつけない場合もある。だから、そう言う場合はあたしもついていった方が都合が良かったりするのだろう。
合間を縫ってあたしは冒険者登録もしていた。ギルドマスターからは銀級の実力はあるといわれる程度の技量はあったらしい。剣と魔法両方使える魔法使いはなかなかいないとは言われたけれどね。
「と言うわけで、エリシアちゃんは一時的にだけど仲間と言うわけだ」
「ええ、しばらくの間よろしくおねがいします」
と言うわけで、あたしは不可抗力的に仲間を得るのであった。
と言っても、すぐに依頼がどうとかそう言う事は無い。基本的に近場の依頼をベネット達は受ける感じなので、そう言う時はあたしはギルドで仕事をするのだ。
そんなこんなで時間が過ぎていった。
そして、女神様があたしの前に現れたのは、ちょうどあたしの意識が回復してから2週間経った休日のことであった。
あたしは、流石に休日までベネット達を拘束するわけにもいかないため、金糸雀亭を出ないようにした。流石に、宿屋で暴れるとどこの街の宿屋も利用できなくなると言う事は冒険者なら常識のため、今後の活動もある冒険者は宿屋では騒ぎを起こさないためである。
ベネット達も、宿屋にいるならという事で、休みを取っていた。
しかしながら、今の現状を思うとあたしはため息しか出なかった。国からは追われて、客観的事実としてあたしは人殺しである。それも、あたしの手で知り合いを殺しているのだ。それに、理由不明の男性恐怖症もある。全く記憶にも無いし、改善方法もわからないのでどうしようもない。月のモノが来ている事も、ネガティブな思考に拍車をかけているのかもしれなかった。
「はぁ……」
あたしがため息をついて、遅めの朝食を食べようとしたところ、目の前に女神様が居た。いつもながら美しいのだけれど、若干の疲れが見えるのは気のせいではないだろう。
「朝からため息をつくと、運が逃げると言いますよ。エリシア」
「おはようございます、女神様。1ヶ月とちょっとぶりですね」
「ふふ、ごめんなさいね。ここ1月は目まぐるしく忙しくて顔を出せなかったの」
あたしの挨拶に女神様は苦笑しつつあたしの朝食のベーコンをつまんで口に放り込んだ。
女神様はよく噛んで飲み込むと、話を続ける。
「もちろん、エリシアのことはちゃんと見守っていたわ」
「それはどうも」
見守っていたなら、あたしが凶行に走るのを止めてもらいたかったものである。情報を集めれば集めるほど、あの時のあたしの人格を疑わざるを得ないのだ。一体何があったのか。
「エリシアがちゃんと生き延びていて、私は安心しているのですよ? ちゃんと運命の日を……乗り越えたとは言い難いですが、生き延びてもらえてね」
そうですか。どうやら女神様が忠告してくれた、その運命の日と言うのは終わった事のようだ。あたしの中では決着も清算も何も終わっていないのだけれどね。
さて、女神様があたしの前に現れるという事は、何か天啓を与えてくださる時である。なので、早速本題を切り出す。
「……で、今回の天啓はどんな内容です?」
「あ、いきなり本題行っちゃいます? 私としてはエリシアと話すのも楽しいのですけれどね」
「時が止まっていて、あたしは微動だにできないんですけどね。あと、あたしの朝食をつまむのはやめてください」
「あらあら」
女神様は、そう言って微笑むと、真面目な顔をする。
「それではエリシア、天啓を授けます。
冒険者エリシアよ、アクセルの街に後2ヶ月留まりなさい。そこで貴女は重要な出会いを果たすでしょう」
「……重要な出会い?」
女神様はうなづく。
「ええ、貴女にとって重要な出会いです。それが何であるかは、女神の私にも見えませんが、重要なもののようです」
女神様の言葉に、あたしは少し考える。まあ、女神様がそう言うならば、悪い話ではないだろう。それに、警告と言う感じでもないしね。
「わかったわ。女神様に従います。それと、一つ質問をしても構わないかしら?」
「ええ、1つだけなら構いませんよ」
「あの時、あたしがリナーシス村に行かなかったら、どうなっていたの?」
あたしの質問に、女神様は簡単に答えた。
「全滅していましたよ。もちろん、妹もお父様もね」
「……ありがとうございます」
女神様の言葉を聞いて、何かがストンとあたしの中で腑に落ちたように感じられた。ただ、間違っていなかったと言う確信と、安堵感があたしの脳内を満たしたのだ。
「ふふ、エリシア。安心しました。そのような顔ができるようになったのなら、もう大丈夫ですね」
女神様はそう言うと、席を立った。そしていつのまにか消えていた。
あたしは女神様の言った意味が分からず、思わず顔を触って確かめる。確かにあたしは微笑んでいた。そう言えば、あの日、目が覚めてからずっと笑った記憶はなかった。仕事上営業スマイルはしていたけれども、それ以外ではずっと憮然とした顔をしていた気がする。
「あれ、エリシアさんどうしたんですか? 涙流しながら微笑んで!」
あたしの様子にリナリーが気付いて駆け寄ってくれる。
「いや、ちょっとね……」
あたしはハンカチをポケットから取り出して涙を拭う。溢れてくる涙はなぜか暖かい気がした。
「何かいい事があったんですか? 突然涙を流し出したんでびっくりしましたけど」
「お、思い出し泣きよ! 気にしないで!」
「そうですか。いつも感情を顔に出さないエリシアさんでしたからびっくりしました」
顔に出ていない。改めて他者からのフィードバックを受けると、なんだか恥ずかしくなってくる。本当はあたしは表情豊かな方なのだ。
「と、とにかく気にしないで!」
あたしはそういってニコニコ顔のリナリーをも取らせると、朝食をサッサと済ませて部屋に戻った。
部屋でふと思い立って、シーナが残した新聞を読むと、すんなりと読めてしまったのは、あたしの深いところで整理がついたからな気がした。たぶん、一番深いところではあたしはリナーシス村に行ったことを後悔していたのだろう。それにきっと、区切りがついたのだ。あたしの選択でお父さんとシエラは生き延びた事が腑に落ちたのだ。
あたしはそう考えることにした。
●今回のエリシアちゃんの変化点
改善した点:リナーシス村での出来事の認識阻害が無くなった点、顔に感情が出るようになった点
改善してない点:リナーシス村での記憶、男性恐怖症