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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
冒険者だけれど村娘に戻れるか心配です
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情報収集

出現したとされる【破壊魔王】シヴァの情報収集回です

 翌朝、あたしはいつものようにムクリと起き上がった。意気揚々と例の新聞を読んだはいいものの、書かれている文章をうまく理解できなかったのだ。

 何というか、今までと違って文字列は読めたのだが、まるで他人事と言うか、ふーんと言った感じに捉えてしまっていた。挙げ句の果てに、吐いてしまったので、収穫ゼロみたいなものだろう。昨日読んだはずの新聞の内容が記憶に残らないと言った方がわかりやすいかもしれない。

 とりあえず、リナーシス村、魔王誕生、証拠のロングソードと言ったぶつ切りの単語ぐらいしか残っていない感じである。


「……とりあえず、お風呂に入ろう」


 お風呂で寝汗をサッと流して、あたしは朝食を取るために食堂スペースに向かう。今日はお客さんが入っていると聞いていたので、リナリーも準備で忙しそうであった。

 あたしは定位置に座ると、メニューを開く。ほかのお客さんは、冒険者のパーティのようであった。と言っても、この時間帯であるから防具や武器を装備しているわけでは無いのだけれどね。

 前衛2人に後衛2人の基本的なパーティ構成である。流石に1週間ちゃんと働けば、どんなパーティ構成が基本かとかそう言うのは受付嬢の間でも話題になるため、覚えてしまうものである。


「あのパーティ、構成が悪いよねー」

「このパーティ、1月後に絶対解散してる!」

「いやー、あれはどう見ても2週間持たないって」


 と言う話で雑談に花を咲かせるのだ。あたしが組んだ時も受付嬢達に噂にされていたんだろうなと思うと、遣る瀬無い気持ちになる。意外とちゃんとよく見てるのだ。

 そんなわけで、あたしは朝食を取りながら冒険者の様子をチラ見していた。


「破壊魔王かー」

「国からかなりの懸賞金がかかっているとは言ってもねぇ」

「せっかくアクセルから卒業できたと思ったんだが……」


 話の内容からすると、アクセルよりも東の方から逃げてきた冒険者である。昨日の夜に到着した冒険者だったので、足の速い冒険者なのだろう。もしくは東を目指していたけれど、情報を聞いて戻ってきたかである。

 あたしは聞き耳を立てつつ、彼らの様子を伺う。もちろん、重要な情報を聞き漏らさないためだ。あたしの予感では、シヴァは恐らくあたしが倒す魔王である。細かい情報でも収集するのが重要だ。


「魔王討伐で人が集められているんだっけ? フェルギンから勇者様も派遣されるって言うし、行っても良かったんじゃ無いの?」

「あー、ダメダメ。ありゃ俺らが戦ってもムリなんだよ。他の魔王ならまだしも、あのシヴァだけはダメだ」


 身軽で軽薄そうな男が、気の強そうな女の言葉を否定する。


「なんでよ。アクセルまで戻ってきたんだし、いい加減に理由を教えなさいよ」


 身軽で軽薄そうな男がチラッとあたしを見る。そして、少し考えると「まあ、大丈夫だろ」と言って話し始める。


「わかったよ。破壊魔王シヴァってのは、どうやら色々なモノを破壊する魔王だと言うことだそうだ」

「そりゃ、破壊魔王って言うからにはそうなんでしょうね。それがどうしたのよ」

「破壊だけが取り柄で魔王になるのか、という事か?」


 リーダーっぽい男が疑問を呈する。それに、軽薄そうな男は首を縦に降る。


「ああ、そう思って調べたんだ。そしたら、まあ、信じられない情報が出てくるんだよ」


 軽薄そうな男はもう一度あたしの方を見る。目が出て行けと言っているのがわかるけれども、あたしはそれを無視する。男は舌打ちをすると、急かす女に根負けして、続きを話し始めた。


「あー、それこそ、なんでも破壊するらしい。物体だけでなく、事実も、概念も、その場に居合わせた連中の常識すら破壊するらしい」

「???」


 女も、もう一人の女も頭にはてなマークを浮かべている。彼の言っている意味がよくわからなかったらしい。


「え?? どういう事??」


 あたしはなんとなく理解できた。そう考えると、恐ろしい魔王である。むしろそれは魔神と言っても良いのではないだろうか?

 最悪、勝利した瞬間に勝利した事実を破壊されるのである。そんなもの、誰にも勝てるわけがなかった。ただの人間では勝ちようが無い。だからこその魔王なのだろう。


「まあ、簡単に言えば、破壊魔王シヴァの破壊した後にはそれこそ何も残らないらしいんだ。残るのは、土だけで、そこには死体も、戦った痕跡も何も残らなかったらしい」

「何……も……?」

「そうそう、そんな恐ろしい相手に俺たちが叶うわけがないからな。だからトンズラこいたわけだ。幸運にも奴は進軍スピードは遅いらしいから、しばらくはアクセルで活動して、また逃げる事になると思うがな」

「えー、ジェイルの安定路線はわかるけど、逃げるのってなんか冒険者っぽく無い」

「いや、話を聞くだけでも中堅冒険者の俺たちには到底かなわない相手だとわかるさ。サシャ、我慢してほしい」

「ぶー」


 リーダーがなだめると、サシャと呼ばれた女冒険者も不満を顔に出しながらも渋々従う。ちゃんとチームの役割が決まっており、うまく行きそうな感じのチームである。

 さて、これ以上の盗み聞きはあまり良く無いだろう。聴きたい情報も得たし、あたしはこれで去ることにした。


「リナリー、食器下げるわ」

「はーい、返却口の方にお願いしますね!」

「わかったわ」


 あたしは食器を返却口に下げる。と同時に、リナリーが朝食メニューを持って冒険者パーティに並べる。

 奥をちょっと覗くと、ヴァイナさんが、昼食の仕込みをしているところだった。

 金糸雀亭はヴァイナさんとリナリーがメインで働いており、昼から夜にかけてはアディアさんとジェイクさんが入ると言った感じである。あたしはすっかり顔なじみであるが、そりゃこの宿に住んでいるのだからそうなるであろう。

 あたしは片付けるついでに鍵をリナリーに渡す。


「今日もお出かけですか?」

「そうよ、とりあえず、休みだけれど冒険者ギルドに行ってみようと思うの」

「そうなんですね。シーナさん関連で調べ物ですか?」

「そんなところよ」


 あたしはそう言って、金糸雀亭を後にした。

 さて、あたしが冒険者ギルドに行く目的は当然ながら、【破壊魔王】シヴァの情報を仕入れるためである。前世の世界の「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」と似たようなことわざに、「相手の出来ることと自分の出来ることを知る事が勝利の方程式である」と言うものがある。相手が分からなければ、あたしも対策のしようが無いのだ。

 冒険者ギルドは冒険者ギルドで、若干騒然としていた。もちろん、東の方から逃げてきた冒険者で賑わっていたからだ。逃げ足の速い冒険者達なのだろう。

 あたしは適当に席に座る。


「いらっしゃ……あれ、エリシアちゃんじゃん。今日はシフト入ってないけどどうしたの?」


 ギルド職員のセシルさんがあたしに気づいて声をかけてきた。


「んー、まあ魔王ってのが気になって、どんな噂が流れてるのか聴きにきたのよ」

「なるほど!」

「今日は忙しそうね。やっぱり魔王の影響よね」

「ぽいわねー。そんなのだから中級冒険者止まりなのにね」

「あはは……」


 と言っても、倒せる算段もないのに死地に飛び込むのは無理ではなく無茶である。そんな自殺行為はあたしとしてはやめた方がいいと考える。だからこそ、勇者や英雄が率先して戦うのだろう。

 実際、この世界で《英雄》の祝福持ちの人は何をしているんだろうか。勇者の活躍についても雄大くん達以外の音沙汰が無いに等しいので、単に新聞記事だけでは情報が足りないのが今の状況である。


「セシルさんは何かしら無いの?」

「うーん、私は特には知らないかな。エリシアちゃんは魔王の情報なんか知ってどうするの?」

「あたしは勇者様のファンだから、活躍が知りたいのよ」


 事前に考えていた言い訳を言うと、セシルさんが意外そうな顔をする。


「……何よ」

「いや、エリシアちゃんは興味ないのかと思っていたわ」

「そう? 別にそんなことも無いと思うけれどね」


 そもそも、ギルドの仕事は結構ハードで忙しいので、仕事中はそっちに意識を向ける余裕がないと言うのもある。


「まあ、わかったわ。何か情報を入手したら教えてあげるわね」

「ありがとう。すごく助かるわ。新聞にはほとんど載らないから分からないのよね」

「確かに! せめて居場所だけでもわかれば、安心できるのだけどね。フェルギンだったらわかるのかしら?」

「さあ……?」


 フェルギンにいた頃は、あたしは運命の日を乗り越えるために集中していたので、雄大くんのように大々的に入ってくる情報以外は気にしていなかった。その日が過ぎた今となっては欲しい情報である。

 実際、魔王が討伐されれば新聞に載るはずなので、未だに一体も魔王が討伐されていないことはわかっているのだけれどね。

 女神様が言っていた40体の魔王。出現したのは23体に過ぎないのだ。1人1殺を想定していたのだろうけれど、魔王側に着いた勇者がすでに4人の現状、勇者側は不利な状況になっている。40体全員が揃う前に、数を減らさなければ負けてしまうのだろうと言うことは容易に想像がつく。


「それじゃ、私は仕事に戻るわ。エリシアちゃんは男性恐怖症っぽいんだから、あまり長居しないほうがいいわよ。ゴードルとヴァモンみたいなゴロツキ冒険者も居るんだしね」

「忠告ありがとう。流石にその二人は見た目でわかっているから気をつけるわよ」

「そうね。じゃあ何かあったらベルを鳴らすといいわ。それじゃあね」


 セシルさんはあたしに手を振って足早に仕事に戻っていく。流石に、あたしが男性恐怖症っぽいのは見抜かれていたか。理由はわからないけど、流石にあたしは自身が男性恐怖症であるのは理解しているけどね。

 さて、情報収集をするなら、話を聞く必要があるだろう。あたしはそう考えて、女性冒険者に話を聞くことにしたのだった。


 あたしは飲みが始まる時間前には宿に戻っていた。基本的にあたしは女性冒険者に聞いて回ったけれども、朝に教えてもらった情報以上の情報を得ることはできなかった。


「むー……」


 あたしが夕食を食べながら唸っていると、今朝の軽薄そうな男、名前はジェイルだったか、が近づいてきた。


「よぉ」


 あたしは、このジェイルがあたしに情報の対価を寄越せと顔に書いてあるように思った。なので、率直に聞く。


「情報料が必要なのかしら?」


 それに、ジェイルは首を縦に振った。


「ああ、せっかく情報を無料であげたんだ。その情報を元に得た情報を教えてもらえないかと思ってな」


 なるほど、と思った。情報には情報を、というのは筋が通る。だけれども、あたしの能力で集められる情報はそれほど無かった。なので、それを正直に伝えることにした。


「そんなに情報は集まってないわよ」

「まあ、今日一日で集まる情報に期待はして無いさ。冒険者ギルド受付嬢のエリシアさん?」


 どうやら、冒険者ギルドで得た情報を欲しいという事らしい。ニコニコ笑うジェイルの顔に、あたしはそう察すると返答をする。


「そうね、ギルドで探せばそれなりに情報は得られると思うわ。もちろん、機密情報はあたしも教えてもらえないだろうけどね」

「良いさ。わかる範囲で構わない」

「あらそう、それなら良かったわ」

「いやでも話のわかる嬢ちゃんで助かるわ」


 ジェイルはあたしとは適度な距離を取っている。あたしが恐怖しないであろう距離を離れているのだ。つまり、ジェイルはあたしが男性恐怖症である事も知っているのだろう。

 軽そうに見えるが、斥候の腕は確かなようであった。


「だが、なんでエリシアの嬢ちゃんは魔王の情報が気になるんだ?」


 不意にそう聞かれた。まあ、ただのギルド受付嬢がそういうことを気にしていたら気にはなるか。


「あたしは勇者様のファンだからよ」

「そいつは嘘だな」

「……なんでそう思うのかしら?」

「カンだよ、カン。一応根拠はあるが教えない」


 やはり、鋭いし侮れない人であった。ただ、こればかりはあたしの正体に通じるので、言えるわけがなかった。なので、誤魔化すことにした。


「ふーん、貴方がどう思っても、貴方には関係ないと思うのだけれど」

「……そうだな。余計な詮索だった」


 ジェイルは素直に謝罪すると、こう言い残して去っていった。


「ああ、俺たちが知りたいのは、魔王がどのぐらいの速度でどこに向かっているかだ。よろしく頼むぜ」

「ん、期待しないで頂戴な」


 ギルドで調べる内容が増えてしまったなとあたしは思ったけれど、どっちみちあたしも知るべき情報なので、さっくりと調べることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男性恐怖症ではあるものの、その原因を忘却できているからだいぶ楽ですね。このまま回復するまで思い出さずに済みますよう。
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