エリシアの休日
今日はこんな時間に投稿です!
あたしがギルドで受付嬢として働きだしてから、早くも1週間経った。この1週間は仕事に慣れるためにほとんどを使ったと言ってもいいぐらい大変であった。
もちろん、新聞の読み進めは毎日行ってはいるものの、なかなか先に進めないままであった。
夜中に、読んでは吐いてを繰り返している現状である。何かきっかけがない限りは、新聞からの情報収集は控えた方が良いかもしれないとあたしは考えていた。
今日は、休みをもらっているのであたしはせっかくだからアクセルの街を見て回ろうと考えていた。情報収集も兼ねるわけだけれど、今の魔王の状況とかも知りたいしね。ギルドも十分に情報は入ってくるけれども色々と入り乱れており、どこかで腰を落ち着けて整理する必要があるだろうしね。それに、他国なだけあり入ってくる情報もそこまで多いわけではなかった。
そんなわけで、あたしは情報収集と気晴らしも兼ねて、街に繰り出すのだった。
金糸雀亭を出て、あたしは商店街の方に足を向けていた。まだ朝なので、そこまで賑わっているわけでは無い。が、この街は初心者冒険者の街である。冒険者の姿をあちこちで見かける。1週間も働けば、顔を覚えるには十分である。
「おい、キサマ」
と、あたしがアクセサリー店の前でアクセサリーを見ていると、声をかけられた。誰かと思って見てみると、あの偉そうな新人冒険者デルメアであった。
あたしはすぐに無視することにした。貴族系冒険者が面倒臭いのは、ここ1週間で体感したのだ。
「おい、無視するな! 受付嬢!」
どうやら、あたしに用事があるらしかった。
なので、あたしは仕方なしに対応する事にした。
「えっと、どうしたのかしら? 冒険者さん」
「キサマ、冒険者になりたいんだってな」
「……いや、まあ、そうかもしれないわね」
別に名前を覚えてもらう気はないので、敢えてスルーをする。
「なら、俺の冒険を手伝え。キサマ、暇なのであろう?」
「いや、今日は休日であって暇じゃ無いんだけど……」
「休日ならば暇だろう! いいから手伝うんだ」
「ちょっ!」
デルメアはそう言うと、あたしの手を掴む。不意に抑えていた恐怖が心の底から訪れる。
「や、やめて! いや!」
あたしは渾身の力を込めて、掴まれた手を払おうとする。あたしの必死の抵抗にデルメアが「どうしたんだ?」と思わず手を離す。
手が離れた事で、あたしはようやく恐怖を抑えることが出来るレベルまで戻すことができた。
あたしは素早く距離を取る。
あたしの様子に、デルメアは唖然とした様子だった。
「き、キサマ! 失礼な!」
「失礼なのはそっちよ! いきなり手を引っ張るなんて!」
怖かった。非常に怖かった。以前のあたしだったら怖くもなんともなかったはずが怖かったのだ。あたし自身も若干戸惑う。本当に、アクセルに逃げるまでに何があったというのか?
とにかく、あたしは逃げる事にした。周りからも注目されているしね。これ以上大事になったらアイツも冒険者をやりにくいだろうし。
「……あたし、もう帰るわ」
「おい、待て!」
あたしは踵を返して金糸雀亭に駆け出す。デルメアが追いかけてくるけれども、追いつかれないように走って逃げた。無意識に魔法も使っていたらしく、戻る頃にはデルメアを振り切っていた。
まだ、今日が始まってそんなに経っていないというのに、街の散策は中断になってしまった。
全く、なんでデルメアが誘ってきたのかわからなかったが、あたしとしてはもう会いたく無い。仕事では仕方ないけれどもね。
結局、あたしは金糸雀亭で昼食を取る事になったのだった。
午後は冒険者は基本的に冒険に出ていることが多いので、散策をしても街人がほとんどであった。なので、安心して街を散策できる。
リナリーに午前中デルメアに会った事を話したら、「初心者冒険者がギルドの受付嬢をナンパするのはよくある事、ナンパされたく無いなら、お昼に散策したら良い」というアドバイスをもらったので、それに従う事にしたのだ。
街を散策していると、あたしは新聞記者が新聞を配っているのを見かける。
「号外だよー! 世間を騒がせてる魔王の最新情報だ!」
「ふむ」
あたしはその号外の新聞をもらいに向かう。
人が群れている中に入り、あたしは号外の新聞を受け取り、すぐにその場を離れる。そして、近場の喫茶店に入ると、紅茶を注文してその新聞を読む事にした。
【新たな魔王誕生! これで魔王の数は26体に!】
確か、女神様の話では魔王の数は40。6割5分が出現した事になる。新聞を読む感じだと、未だに魔王は1体も討伐されておらず勇者たちも苦戦していると言うのが現状らしい。
特に、フェルギン南部の魔王は群を率いる魔王かつ、4体もいるため、勇者のお陰で戦況が拮抗している状態のようである。
今回出現した魔王は、【破壊魔王】シヴァである。あたしは一瞬それって魔王じゃなくって神じゃ無いかなと思ったけれど、そこは置いておく。たぶん、前世の記憶からそう思ったのだろう。
出現した場所は、この国の東の方のようで、西の方にあるアクセルには直ちに影響はないとのことであった。
しかし、魔王が出て人類を侵略していると言うのに、アクセルの街は至って平和である。おそらく、1月もしないうちに影響は出てくるだろうけどね。
勇者が召喚されておよそ1月は経つと思うけれども、未だに魔王が討伐された報告を聞かないと言うのは、勇者達も苦労しているという事なのだろう。
あたしは犯罪者扱いを受けている様子ではあるけれども、直接女神様から期待されてしまっているのだ。魔王討伐からも逃げられないだろう。だからこそ、【魔女術】を使いこなせるようになる必要がある。
「あたしの情報は……あった」
読み進めていくと、当然ながら指名手配になっているあたしの情報が記載されていた。
一部貴族や神官からの嘆願があったという事が記載されているが、それでも指名手配の取り下げはなかったという事と、周辺の国々へ捜索範囲を広げることが発表された旨が小さく書かれていた。
「メリルさん、シーヴェルクさん……!」
あたしは別れてしまった仲間の顔を思い出した。少なくとも彼女らは生きているという事がこの事からわかって安心する。
しかし、捜索範囲を広げるという事は、アクセルにも人相書きが出回るという事である。人相は変わらないけれども、髪も短くなっているし祝福も誤魔化されている状態なので、バレたりはしないと思うけれど、若干の不安がある。シーナが払った分の宿代が尽きたら、アクセルの街を離れる必要があるだろうとあたしは考えた。
「捕まるわけにはいかないものね」
せっかく運命の日を無事かどうかはともかく生き延びたらしいのだ。捕まってしまえばどちらにしても、あたしは犯罪者として処刑される以外に無いだろう。わけのわからない状態で捕まって処刑されるわけにはいかないのだ。
こんなところであたしは死にたくない。生き延びるためにも、あたしはエリシア・レアネ・フェルギリティナとして魔王を討伐する必要があった。
あたしは出された紅茶を飲み干すと、新聞を畳んでカバンに仕舞う。
お代とチップを払い、あたしはもう少しだけ情報収集を行う事にしたのだった。
夕方、情報収集と言う名のアクセルの街観光が終わり、金糸雀亭に戻ってくると、リナリーが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、エリシア。街はどうだったかしら?」
「ええ、平和で綺麗な街だったわ」
「まあ、魔王の脅威から遠い街ですからね。だけども、いよいよリフィルにも魔王が出現しちゃったみたい」
不安そうなリナリーに、あたしはうなづいた。
「ええ、号外は貰ったわ。東の方だから、ここからだとまだまだ遠いけれど、一月後にはアクセルにも影響があるでしょうね」
「そうですね……。勇者様方は何やってるんですかね。召喚の日から1ヶ月は経とうとしているのに……」
でも、実際彼らはただの一般人である。勇者として呼ばれただけの子供に過ぎないのだ。この世界では異常な能力を持っていたとしても、思春期真っ只中の子供である。本来頑張るべきなのは、この世界の人間である事は忘れてはいけないと、あたしは思った。
だけれども、リナリーの言葉を否定しても始まらないので、あたしは言葉を飲み込む。
「そうね、頑張っていると思うのだけれどね」
実際はわからないけれども、そう思いたいものである。ただ、あの時勇者様方の表情を見ていると、全員が全員《ゲーム感覚》と言うやつな感じがしないでもなかった。その点が不安な要素である。ノーウェル様もその点が気に食わなかった様子だったしね。
「あ、それでは夕飯の支度があるので戻りますね。こちらは部屋の鍵になります」
「ありがとう、リナリーさん」
あたしはリナリーから部屋の鍵を受け取り、部屋に戻った。情報があたしの中でだいぶ蓄積された今なら、あの新聞に挑戦しても問題なさそうな気がしていた。
エリシア的NGは、男性に触られる事です。
原因に関しては脳が記憶を封印しているため、よくわからないけど男性と話すだけでもかなりストレスがかかっています。
ただ、エリシアは仕事と割り切ってストレスを流しています。
だけれども、無理矢理触られると恐怖が勝ち、パニックに陥ります。
人混みに入った際に男性に触れてしまうのはエリシアが割り切っているためセーフです。