現状確認
実はまだ1日目です。
「あー、疲れたー」
あたしは宿に帰って早々、食堂の椅子にへたり込んでしまった。
ギルドの仕事は思っていたよりも重労働で、体力を結構使ったのだ。あたしが椅子でグダグダしているのを横からリナリーがご飯を運んできてくれる。エリシアはお礼を言うと、食事前の挨拶をすると、食事を始める。
「お疲れ様でした。今日は何をしてらっしゃったんですか?」
「うーん、何故か冒険者ギルドで働くことになったのよ」
「え、冒険者になったんですか?」
リナリーは驚いた様子でそういうが、あたしは首を横に振った。
「そのつもりだったけど、ギルドマスター……アルマさんに断られてね、ギルドの受付嬢をすることになったわ」
「なるほど、それなら良かったです」
ほっとした様子のリナリーに、エリシアはご飯を口に運びながら疑問に思った。
「ですけど、何で冒険者になろうと思ったんです?」
あたしの疑問はリナリーに質問に押し流されてしまう。まあ、どうでも良いことではあるけどね。
「そうね、単にあたしはこの街だと身分が保証されていないからね。もう解決しちゃったけれど、働き口を探すにも保証のあるなしじゃ苦労が違うものね」
ちなみに、ギルド職員になるだけでも冒険者ギルドからの身分保障は受けられる。実践の機会は少なくなってしまうけれど、安定した収入を得られるのは強みである。冒険者は依頼をこなさないと収入がないのだしね。冒険者登録を断られた時はどうしようかと思ったけれど、渡りに船である。あ、ちなみにこの諺は前世の世界と意味は同じである。
「確かに。地方では身分保証のためだけに冒険者になろうとする人がいるくらいですからね」
だからこその、登録試験である。例えばデルメアは試験を受けて合格している事を確認したからギルドカードを発行したのだ。あたしも、実際登録の際に試験を受けたわけだしね。
まあ、受付嬢に関してはギルドマスターからの推薦という事で殆どの試験はスルーされたわけだけれども、読み書き算数の試験は受けることになったわけで。
「まあ、それで受付で弾いた人も結構いたわね。試験に受かっているかどうかは調べればすぐにわかっちゃうのだけれどね」
実際、読み書きができない冒険者というのもいる。あたしの村では教会の勉強会にちゃんと通えばできるようになるけれど、家によっては勉強会よりも農業に従事させる家庭もあったので、読み書きが出来ない男子もいたのだ。
試験に受かってない冒険者は試験会場に促し、受かってる冒険者には未記載の鉄級カードを渡すと言うのが冒険者登録のあたしの仕事である。
そう言えば、以前登録した時のカードはどうなったのだろうか? 気になるのであたしは後で探すことにした。
「そうなんですね。結構エリシアさんってできる人何ですか?」
「……さあね」
あたしは村では普通だったようには思う。確かに読み書き算数は12歳を過ぎてから得意になったけれども、祝福を受けるまでは身体能力に関しては普通だったはずである。まあ、魔法は【魔女術】のおかげで色々と優秀だったのは確かであるが。今では《英雄》の効果か、スキルが身につくのも早くなっている気がするけれどもね。
ちなみに、あたしは現在祝福を誤魔化している。これはシーナがかけた魔法の効果が続いているのだろうけれども、あたしの祝福は《魔法使い》という事になっている。ギルドに入る際に能力鑑定をする際に発覚した事であった。シーナは《剣士》の上位の【銅級祝福】である《戦士》に隠匿していた様子であったけれどもね。
どうやら、「エリシア・レアネ・フェルギリティナ」とあたしが結びついてしまうのは、都合が悪いらしいと言うことは察することができる。ならば、つまり、ソランゴルの宿屋で眠ってから、アクセルに来るまでの間に、エリシア・レアネ・フェルギリティナの名前または姿がわかる状態で、何か犯罪を犯したと言うことは想像に難く無い。顔も名前も割れているけど、あたしと「エリシア・レアネ・フェルギリティナ」が結びつかないのは祝福が異なっているからだろう。
ならば、あたしの記憶にない間に何が起きたのか、その結果、どう言う状態になっているのかの仮説は容易に思いつく。
「さて、リナリー。あたしは部屋に戻るわ」
「あ、はい。それではごゆっくりどうぞ」
リナリーはそう言うと、あたしの部屋の鍵を渡してくれる。あと2週間はあの部屋はあたしの部屋なのだ。そう言う契約だしね。
あたしは部屋に戻りつつ、思考を再開する。
何が起きたかについては、おそらく犯罪者と言える状況……聖職者の殺害なんかがあたしを罪に問える状況になるんじゃないだろうか? 何かしらの状況が発生して、あたしは司祭様を殺害したのだろう。そこがわからないけれどもね。つまりは、そう言った状況が発生したと言うことであろう。
どう言う状態かについては、指名手配されていると考えるのが妥当か。それならば、名前や祝福を隠す意味もあるだろう。
隠匿の魔法なんて聞いたことも無いけれど、概念さえ理解してしまえばルーンで再現できそうである。
そうそう、そう言えば、シーナの手紙にも魔法の概念を覆せ的なことが書かれていたわね。おそらく、あたしの固定概念はルーンのことを指すだろう。ルーンも詠唱も行わずに魔法を行使するなんて、どうやったら出来るなんて想像もつかないけれどね。
あたしは部屋に入ると、鍵をかける。
そして、荷物から新聞を取り出した。この新聞はフェルギンで発行されたもののようで、アクセルに一番近いフェルギンの街と言ったら、エルクナだろう。そこで買った新聞であった。
「エルクナ新聞……。あの時は気が動転していたけれど、今なら読めるんじゃ無いかしら?」
まず、読むのは一番最新の日付の新聞である。紙面の一面には、あたしの人相書きが踊っており、見出しにはこう書かれていた。
【エリシア・レアネ・フェルギリティナ、教会が異教徒認定】
「そう、そうなのね」
あたしの推測は当たっていたのだろうか? 少なくとも、あたしが司祭様を殺害した事は確定であった。内容にも、その事が記載されている。
そして、あたしは目を疑った。
それは、あたしの罪状である。
【エリシア・レアネ・フェルギリティナは魔族と通じて、魔族にリナーシス村を滅ぼさせた罪と、魔王を覚醒させる幇助をした罪で指名手配されている】
【生存のみで懸賞金がかけられており、王国からは200万エリンが掛けられているが、教会からは生存を問わず、100万エリンの懸賞金を出すと発表した】
【隣国に逃亡した恐れもあるので、近々隣国にも指名手配を拡大させる予定である】
それを見た瞬間に、あたしの脳裏にアイツの……三宅の顔が浮かぶ。そして、三宅とは別の男のおぞましい顔がよぎる。
あたしは思わず吐きそうになり、ダッシュで個室のトイレに駆け込む。お風呂は共用だけれど、トイレは別の作りになっていたから助かった。
口からさっき食べたものを吐き出すと、あたしは今日はこれ以上は読めないなと感じる。
「はぁ、仕方がないわね。とりあえず、あたしが置かれている現状は理解できたわ。新聞には続きが書かれているみたいだけれど、これ以上は明日以降に確認するようにしましょうか」
あたしはそう呟くと、新聞を荷物に突っ込む。そして、早速だけれどもお風呂に入る事にしたのだった。