プロローグ3
色々とあって毎日更新は難しい感じですので、描き上がり次第投稿する形になります。
だいたい週2部投稿になります。
あと、前提が変わっているので展開も変わっています。
あたしはヴェナン教会を出ると、冒険者ギルドまで足を向ける。ヴェナン教会の司祭様に冒険者ギルドへの向かい方は聞いていたので、迷うことはなかった。
近づいていくに連れて、屈強そうな男たちが増えているので、きっと近くなのだろう。
冒険者ギルドは普通に表通りに面していた場所に建っていた。ギルドの立派な建物を見ていると既視感を感じるので、間違いはないだろう。
あたしがギルドを見上げていると、男が声をかけてきた。
「へぇ、ネェちゃん、冒険者に興味があるのか?」
「ひぅっ!」
いきなり声をかけられて、あたしは変な声が出てしまった。
振り返ると、そこにはゴロツキのような冒険者が2人、ニヤニヤした顔つきで立っていた。途端に、あたしの奥底から恐怖の感情が湧き出てくる。
「ななな、何の用ですか……?」
「ヘッヘッヘ、いや何、物珍しそうにギルドを見上げてるネェちゃんが居たからな。親切心で声をかけたんだよ」
下心丸出しの顔で何を言っているのだろうか?
あたしの中で警戒をしろと警鐘がずっと鳴りっぱなしである。
あたしは恐怖を抑えつけて、その場から逃げることを決めると、ギルドに向かって走る。「おい、ちょっと!」と聞こえるが、聞こえないふりである。よくわからないけど怖いのだ。ならば逃げるに限る。
あたしはギルドに入ると、扉をすぐに閉める。
よく考えたら意味のない行為なんだけれどね、あのゴロツキも冒険者だろうし。まあ、良い。
あたしはギルドマスターに用があるのだ。
あたしは足早に受付に向かうと、受付のお姉さんに声をかける。
「あのー、シーナがお世話になったようなんですけど、ギルドマスターはいますか?」
「シーナさんの……! 少々お待ちください!」
受付嬢のお姉さんはそういうと慌てた様子で奥にドタドタと向かってしまった。
ギルドの雰囲気も若干ざわつく。
「あれがシーナの……?」
「ふぅん、なるほどね」
などの言葉が聞こえるけれども、シーナはそれほど有名だという事だろうか?
しばらく待つとギルドマスターが、既視感もあるけれども服装から明らかにわかる冒険者ギルドのギルドマスターがやってきた。
「エリシアさん、目が覚めたのか!」
「ひぅっ、は、はい。おかげさまでね」
男性に話しかけられるだけでこんな状態だ。あたしが男性を恐怖する理由がわからないけれども、あたしの記憶にない間に何が起きたのだろうか?
まあ、それは置いておこう。お見舞いにわざわざ来てくれた人に挨拶をするのと、ただのエリシアとして冒険者登録をする為に来たのだ。目的を忘れてはいけない。
あたしは恐怖の感情を押さえ込んで、ギルドマスターに向き直る。
「それで、ええっと、冒険者登録をしたくて、お願いしに来たわ」
あたしのお願いにギルドマスターと受付嬢は顔を見合わせる。
「ええっ! エリシアさんって昨日まで寝たきりじゃありませんでしたか?」
「……まあ、そうね。ただ、今のあたしは身分が保証されていない状態だし、その状態だと色々と手続き上面倒だからね」
「なるほど。だけれども、冒険者と言うのは簡単な職業ではないぞ? エリシアさんは2週間ほど意識がなかったわけだし、肉体もその分衰えているだろう。シーナさんの助けた人と言うこともあるし、冒険者はお勧めできないな」
「……むぅ」
あたしとしては、どっちみち魔王と戦う運命なのだ。それに、肉体は衰えた感じはない。むしろ、意識を失う前よりも筋肉の量が増えた感じもする。
だけれども、常識的に考えれば2週間もベッドで寝たきりだった人間が、リハビリも無しにありき回れるはずがない。特に、普通の村娘ならばそれなりにリハビリをする必要があるのだろう。その考えに至ると、あたしはがっかりする。
そんなあたしの様子を察して、ギルドマスターはこう提案をしてきた。
「エリシアさんは思っていたよりも元気そうだし、それならば、ギルドで働いてみないか? 受付嬢ならばそこまでの危険はないしな。それに、エリシアさんは見た目も美しいのだから、問題ないだろう」
まあ、宿代を稼ぐ必要があったし、問題ないかなとは思う。それに、受付嬢ならば必要な情報を収集するのも出来るだろう。無意識に男性を恐怖してしまう癖も、数をこなせば治るはずである。それに、ギルド職員ならば身分の保証もギルドがしてくれるので、問題は無い。
デメリットは冒険に出て、魔物と戦う機会が減ることであるが、それはなんとかなるだろう。
あたしはそこまで考えると、「わかったわ」と肯定する。
「受付嬢なんてやったことがないけれど、それで構わないならばここで働くわ」
「おお、よかった。ならば早速手続きに入ろう。フィナ、書類の準備を頼む」
「はい、わかりました。歓迎するわ、エリシアさん」
フィナと呼ばれた受付嬢がにこやかに微笑んで歓迎してくれる。それなりに大きいギルドだ。人手が足りないと言うのもあるのだろう。シーナが助けた人物ということで、シーナな名前からくる信用もあるのだろう。
あたしは簡単に手続きを済ませると、その日から冒険者ギルドで働くことになったのだった。
制服に袖を通して、着替えを完了させてしまう。若干胸が強調される服装ではあるが、デザインとしては可愛くてあたしとしても着ていて悪くはなかった。ドレスよりもむしろ、この制服の方がしっくりくる感じである。
「わぁ、似合いますね!」
「ありがとう、フィナさん。サイズもちょうど良いわ」
フィナさんがあたしについてくれて、色々と教えてくれることになった。
受付嬢は結構忙しい仕事で、朝は7:00から業務が始まり、夜は酒場もやっている為21:00まで仕事がある。もちろん、フルで仕事をするわけではなく、朝シフトと夜シフトで分かれるそうだ。あたしは朝シフトになるそう。
まあ、今日は9:20には顔を出していたわけだし、仕事を早速始めるにはちょうどいい時間かもしれなかった。
さて、受付嬢の仕事は別に冒険者の相手をするだけでは無い。事務職でもあるので、依頼の分別、ギルド抱えの調査隊からの報告による依頼のランク分け、依頼の受付や冒険者への依頼の発注に依頼主の完了報告など、色々ある。
あたしは過去の家事の経験から、結構そういう事は得意な方であるので、今日いきなり始めても問題なく動く事はできていた。もちろん、対冒険者受付業務以外は、であるが。
お昼休憩後から、あたしはフィナさんに隣についてもらって、受付業務をすることになった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
やはり、冒険者は男性が多い職業なので、若干恐怖しつつも、あたしはそれを押さえ込んで、始めての接客をする。
今受付にいるのは、丁度あたしと同じ年齢の冒険者であった。金髪碧眼の顔立ちの整った少年である。
「冒険者登録をしたいんだが」
「冒険者登録ですね。それでは、まずこちらの書類に記載をお願いします。文字がわからないようでしたら代筆をすることも可能です」
あたしは丁寧口調で対応する。こういうのは切り替えである。
あたしがにこやかに対応すると、目の前の少年は「なるひど」と言うと、サラサラと書類に自分の情報を記載する。達筆ぶりから育ちのいい事がわかる。
と、少年─デルメア・アーチボルトが書類の項目を指差して聞いてきた。
「おい、仲間と言うのは何だ。俺様は一人だぞ」
「仲間の項目ですね。こちらは事前にパーティを組んでいる方が書く項目になります。仲間がいらっしゃらなければ、そのままでも登録できます」
「そうなのか」
デルメアはそう言うと、その部分を空欄で書き進める。鉄級の依頼書は見せてもらったが、基本はソロでも十分な薬草取りやもの探しがほとんどのため、問題ないだろう。銅級からはパーティ推奨が増えていき、人数指定まであるので、早いうちに単独を脱却できれば良いねとあたしはそう思いながら、彼の登録手続きを行った。
「おい、お前」
「はい?」
いきなり呼びつけられて、あたしはびっくりする。デルメアはあたしをみてこう言った。
「お前、どこかで見たことがある気がする。名前は?」
思いっきり名札に「エリシア」と書かれているのをスルーして、デルメアはそんな事を聞いてきた。なので、あたしは自分の名札を指差す。
すると、ようやく気付いたのか少し驚いた素振りをする。
「ああ、エリシアと言うのか。すまない、見えてなかった」
「そうですか。では、こちらが鉄級のギルドカードになります。あちらの測定器で内容を記載しますので、あちらの方にお進みください」
あたしがニッコリ笑ってそういうと、デルメアは「え、お前が案内してくれないのか」と驚く。なので、あたしは簡潔に答える。
「他の冒険者の方もお待ちですので、誘導に従ってお進みくださいね」
ザ・お役所仕事というやつである。まあ、アクセルの冒険者ギルドは結構大きく、毎日新人冒険者が登録しに来るぐらいなので、他のギルドのように丁寧な対応というわけにはいかないとのことだそうだ。
だからこそ、あたしも即日に雇われて働けるわけであるけれども。
あたしの対応にデルメアは「そ、そうか……残念だな」と言いつつ、誘導に従って登録に向かっていった。
それからその日は、冒険者登録を13人行い、冒険者に依頼を発注した件数が12件となった。