プロローグ2
設定とプロットを書き直したので、展開が若干異なります。
食事を終えて、あたしはどうしようかと考えていると、リナリーはこんな事を言ってきた。
「エリシアさん、この後何か予定はあります?」
「うーん、そもそも、あたしはどうしたら良いのかについて悩んでいたわ」
「なら、街の散策をしてきたらどうですか? 2週間前にやってきて、ずっと意識を失ったままだったので、アクセルの街自体を知らないんじゃ無いかと思うんですよ」
リナリーの言うことには一理ある。実際、シーナからの手紙にも、自分の足で色々調べろと書かれていた。まあ、現状でもあの新聞を読めないので、どこから調べたら良いのかは皆目見当がつかないのだけれど。
「……そうね。少し、街を歩き回ってみることにするわ」
「それなら、シーナさんが親しくしていた、冒険者ギルドのギルドマスターを頼ってみると良いかもしれませんよ」
確かにシーナも手紙でそう言っていたはずである。でも、あたしみたいな小娘を相手してもらえるかなんて確証は無いけれどもね。
「そうね。シーナも手紙でそう言っていたし……。ただ、アポイント無しで会えるかしら?」
「シーナさんの助けた女性であると言えば大丈夫だと思いますよ。たまにお見舞いに来ていましたしね」
なら、アポなしでも大丈夫かなとあたしは思った。だけれども、シーナが表に出ていたならば、お見舞いの時はどうしていたのだろう?
あたしは疑問が顔に出ていたのか、リナリーが答えてくれた。
「ああ、大丈夫ですよ。エリシアさんのお見舞いはシーナさんが連れ添っていましたし、私もシーナさんと一緒に見ていましたからね。ベッドに眠るエリシアさんを」
えっと、それも【魔女術】の魔法だろうか? なんでも出来るとは言っていたけれど……。幻術の類でも使ったのだろうか?
ますますあたしのスキルについての謎が深まった気がした。固定概念を捨てろと言われても、そもそもイメージ出来ないのだからどうしようもない。ハリーポッターとか言われても、イメージがわかないのだ。
「そうなの。……まあ、お見舞いに来たのならあたしの顔を知っているわよね。それなら意識を回復した事をちゃんと伝えておかないといけないわね」
「ええ、なのでまずは冒険者ギルドに行く事をお勧めします♪」
と言うわけで、今日の方針は決まった。とりあえず、冒険者ギルドに向かって、ギルドマスターの話を聞こう。あたしは魔法と剣術が扱えるので、冒険者的なこともできるだろうしね。
それに、シーナはあたしの身体を使って冒険者をやっていた様子であった。記憶の共有は出来ないけれども、身体が覚えている経験はあたしにも使えるだろう。身分証明が無くなったこの身としては、冒険者ギルドが身分証明書を発行してくれた方が色々と動きやすいだろうしね。
あたしはサックリと下げやすいように食器を纏めるる。すると、リナリーがそれに気づいてあたしの食べた跡を片付けてくれた。
「それにしても、エリシアさんって食べ方がお上品ですよね。村育ちとは思えないです。これなら、シーナさんがエリシアさんを元貴族だと思っても仕方ないですよ」
「そうかしら? ただの付け焼き刃なんだけれどね」
「ええ、どこかのご令嬢みたいに優雅です!」
「ありがとう」
本当にただの付け焼き刃だし、今の食べ方の作法をウィータさんが見たら一笑に付した上であれこれ指摘されてしまうレベルだろう。ここまで褒められると、さすがのあたしも照れてしまう。
「そう言えば、シーナってどんな感じだったの?」
あたしの質問に、リナリーは左手の人差し指を唇に当てて、考えた素振りをし、答えてくれる。
「うーん、一言で言うなら、寡黙に依頼を一人でこなす人ですよ。わたしともこんなにしゃべったりはしませんでしたし……。まるで自分から関わろうとしないようにしてる印象でした」
あたしの印象では、いわゆるライトオタクと言ったら伝わるだろうか、前世のシーナはそう言うイメージの少年であったはずである。ノリは良い方だったはずだ。
「どんな依頼も一人で引き受け、どんな依頼もソツなくこなし、依頼人の想定以上の成果を出す寡黙な冒険者がシーナさんのイメージです」
関わるつもりはないけれど、お金の為にはしっかりと依頼をこなしていたようである。そこまで仕事をできるならば、それはシーナはギルドマスターの信頼も厚くなるわけである。
「……なるほどね。そりゃ、シーナも信頼されるわね」
「ええ、ギルドではシーナさんを銀級に昇格させようという話も出ていたらしいわ。シーナさん自身が辞退したんだけどね。銀級になると、エリシアさんを守れないからって」
それに、銀級になると今ならば魔王の軍勢と戦う最前線に赴くこともある。そうすると、自動的にアクセルの町から離れる必要があるのだ。だからこそ、シーナは銅級冒険者のままだったのだろう。
まあ、実際はあたしの身体を使っていたのがシーナなのであるが。
さて、色々と話も聞けたし、早速冒険者ギルドに向かうことにしよう。あたしはそう考えて、席を立つ。
「それじゃあ、あたしは冒険者ギルドに顔を出してみるわ。部屋の鍵は?」
「あ、はい。わたしが預かっておきますね」
あたしはリナリーに鍵を渡す。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
あたしは金糸雀亭を後にした。
街の様子はフェルギン王国のものとは違い、魔力灯とかは存在しないようであった。家の壁にも魔法が行使されている様子も無く、王都のような4階建ての家など1件も見当たらない。ほとんどが平屋建てであり、宿屋のような施設が石造りの2階建てであった。
金糸雀亭のあるメインどおりは多くの建物が2階建てではあるけれどもね。曲がり角や交差点を見れば、その様子は一目瞭然である。ここまで文明の発達具合が違うと、異世界に来た様にも感じてしまうのは、あたしが旅をしたことが無かったからであろう。こうもワクワクしてしまうのだから、シーナも楽しかったんだろうなと想像することができる。
メインどおりはどうやらアクセルの街を真ん中を通っており、馬車が通っている。中央は草花が植えられており、中央分離帯のような役目を果たしている。時折見かける馬車に魔物や凶暴な野生動物が檻に入れられて運搬されているのを見かけるが、周りには鎧などで装備を固めた冒険者の姿もあるので、その冒険者の成果なのだろうということがわかる。
あたしの目覚めが早かったのか、時間にしてはまだ8時ぐらいなので、店を開く準備であわただしい印象を受けた。フェルギンには無い食べ物や特産品、野菜が存在しており、新鮮で街を見て回るだけでも十分楽しかった。
シーナの名前を出せば、あたしの顔を知る人は少なくても色々と話を聞けたので、準備に忙しい人でも気軽に交流もでき、このアクセルについて色々と知ることが出来たのは良かったことであるだろう。
散策をしながら色々見て回ると、そのうち教会にたどり着いた。
「教会と言うには若干ゴテゴテな気がするけれどね」
あたしの知っている教会と言うのは、基本的に質素なのだ。
神職は女神様から与えられた祝福に従った役職を与えられ、あたしたちは女神様から与えられたとされる【7つの聖言】を胸に精一杯生きるのがあたしたちに与えられた命を全うすることがあたしたちの宗教観である。
教会と言うのは言わば、心のよりどころであり、女神様に祈りを捧げる場所であり、避難施設である。だから、絢爛豪華なものよりは、しっかりとした素朴なつくりが好まれるというのがあたしの感覚であった。だけれども、目の前に建っている教会は、とてもじゃないけれどまるで王都の本部のように、いや、それ以上に豪華であり、首を傾げてしまう。
確か、教会は寄付だけでなく教育施設としての役割もあるし、それについて教育費として教会にお金を納めていたけれど、ここまで豪華な施設になるのは疑問である。
まあ、教会であることには違いないので、あたしはせっかくだし寄ってみることにした。
庭は、お城のように整っており、庭師さんが整備をしている様子である。
建っている像は女神様の像だけでなく、おじさんの像が建っている。確か、あのおじさんは《聖者》ヴェナン様であったか。この世界で初めて女神様の声を聞いたとされるおじさんだったはずである。
ちなみに、教会で一番すごい聖人とされているのは、このおじさんではなく《英雄》と成った《聖女》アフェリス様である。直接女神様に会ったことのある最初の人だそう。あたしも女神様に会うまでは尊敬していた。確か、その聖女様は聖なる遺物を残していたはずである。
あれ、あたしが女神様と会える理由って、あたしが聖剣を持っているからでは……?
「どうされましたか? 朝のミサの時間にはまだ早いのですが……?」
考え事をしている最中に声をかけられ、あたしはびっくりする。ビクッと身体が反応し、あたしは声のほうに振り向いた。どうやらこの教会のシスターさんである。修道服を着ているが、眉毛も目の色も赤いのがわかる。
「朝のミサ?」
聴きなれない言葉にあたしは思わず質問で返事をした。まあ、教会の決まりなんてそれぞれの村で違っていたし、村では司祭様、町では司教様が取り決めていたのでそういうのもあるのだろうなとあたしは思った。
「はい、ヴェナン教会のミサの時間は10時からと決まっていますからね。もしかして懺悔の予約をされている方でしたか?」
「……? いえ、教会があったので、女神様に祈ろうかと」
あたしの言葉を聴いて、その赤毛のシスターさんは納得したように手を叩いた。
「なるほど、【アフェリス教】の方ですね。それも、冒険者とお見受けします。宗派換えに来られましたか。ならば、こちらへどうぞ!」
「???」
あたしは訳がわからないまま、シスターさんに手を引かれて教会の中に連れて行かれる。あたしとしては【ヴェナン教会】だとか【ミサ】だとか【アフェリス教】だとかで訳がわからない状態であった。
あたしは手を引かれて着いたのは、事務室みたいな場所であった。
「こちらが、宗旨替えに来られたお嬢さんですね」
ニコニコしながらやってきたのは、司祭様だろうか? このままでは良くわからないまま宗旨替えとか言うのをさせられてしまうので、あたしは否定をする。
「いえ、単に教会があったので、女神様に祈りを捧げようと思っただけです」
「ふむ、敬虔なアフェリス教徒の考え方ですな」
司祭様はそういうと、この教会について説明してくれる。
「ここは、【ヴェナン教】の教会です。ヴェナン教についてはご存知ですかな?」
「いえ、というか、アフェルス教というのも良くわからないです」
「ふむ、フェルギン出身の旅人には多い考え方ですな。まあ、同じ女神様を崇拝しているから、それほど問題にはなりませんが、信徒同士のいざこざに巻き込まれると大変不便ですからな。せっかくの機会ですし、説明して上げましょう」
「ありがとうございます」
あたしはお礼を言う。確かに、フェルギンにいれば知る必要の無い情報である。だけれども、あたしは魔王を倒す勇者の一人として認識されているのだ。ならば、知っておいて損は無いだろう。
あたしは寄付として銀貨を2枚取り出す。教会の方に親切にしてもらったら、教会に寄付をするのはフェルギンでは常識である。
それに対して、目の前の司祭様は驚かれる。
「こちらは?」
「司祭様に親切にしていただいたので、この教会に寄付しようかと」
「なるほど、確かに貴女はアフェリス教の敬虔な信徒のようですね」
納得していただいたのか、司祭様は銀貨をシスターさんに渡す。あたしを連れてきた赤毛のシスターさんは司祭様から銀貨を受け取ると、奥に持っていった。
「では、まずはアフェリス教について説明しましょうか」
司祭様の説明は、まさにあたしの宗教観そのものであった。
女神様から与えられた【7つの聖言】を守ることがアフェリス教の宗教観の全てである。どのように守るかについては言及されていないので、各村で掟が違ったりするというのも特徴の一つらしい。
【7つの聖言】は次の7つである。
1、愛を持って生きなさい
2、尊敬を持って生きなさい
3、強く生きなさい
4、慎み深く生きなさい
5、与えられた役目を全うしなさい
6、努力を怠らないようにしなさい
7、常に祈りを捧げなさい
だからこそ、フェルギンでは祝福が重要視されるのである。《聖女》アフェリス様が女神様から直接聞いた聖言を守って生きる人たちと言うことで、アフェリス教と呼ばれているのだ。あたしもこれを守って生きているつもりではあるが、あの女神様の性格を考えると、数千年前のことなんて忘れているに違いない。
「次は、ヴェナン教についてお話しますね」
ヴェナン教は、《聖者》ヴェナン様が女神様から聴いた言葉を元に教え広めた宗教である。ヴェナン様を神の代理人とし、ヴェナン様が教え広めた考えを弟子達が本にまとめたもの──聖書と呼ばれるものが、この宗教の原点だそうだ。
見せてもらったけれども、大雑把に言うと【7つの聖言】を守るために細かくルールが定められているといった感じである。
あたしは前世の記憶から、まさにキリスト教だなと感じた。
礼拝堂にあるステンドグラスも、女神様が導くヴェナン様といったデザインだったしね。
印象としては、女神様を崇拝するのは違いないのだけれど、直接崇拝するのか、間接的に崇拝するのかの違いがあるなとあたしは感じた。直接女神様と話すことがあるあたしとしては、ヴェナン教は合わない感じがする。
「……そうなのね、アフェリス教とヴェナン教は結構違うのね」
「ええ、フェルギンとは違ってリフィルではヴェナン教の方が勢力が強いので、この国では教会があるからといってむやみに入らない方がいいでしょう」
確かに、あたしみたいないわゆるアフェリス教と呼ばれる人たちは、無闇に教会に入りがちである。
なるほど、確かに気をつけたほうがいいだろう。
「ありがとうございます。次から気をつけますね」
「ええ、そうしてください」
あたしは改めてこの世界には知らないことだらけなんだなと思い知ったのだった。
どちらかというとこっちの方が展開的には自然な感じがしてます。
遅くなってしまい申し訳無いです!