村娘48→エピローグ
その後、聖フェルギン王国ではこのような御触れが出た。
“エリシア・レアネ・フェルギリティナは逆賊である。生け捕りにした者に200万エリンの報酬を与える”
罪状は、魔王誕生に加担した罪と、多くの無辜の民を虐殺した罪である。
そして、同時に教会からも御触れが出る。
“エリシア・レアネ・フェルギリティナは異端者である。生死を問わず、捕まえた者に100万エリンの報酬を与える”
こちらも同様ではあるが、若干内容が異なる。エリシアは魔王崇拝者である。エリシアは協会に所属するものを殺害した。
そして、それを裏付ける根拠として、リナーシス村跡地の教会で発見されたロングソードであった。
人の血が多く付着したロングソードは、エリシアのものであった。そして司祭の首を跳ね飛ばしたのも、彼女の剣である事が、リナーシス村跡地の教会で発見された生き残りの証言で証明されたのだ。
エリシアは爵位の剥奪および残った支援金の剥奪の沙汰となった。
純潔を失った令嬢メリル・フェルメリアと、神官騎士シーヴェルク・エンティアナはエリシアの無罪を訴えたが、聞き入れてはもらえなかった。
そんな情報を得て、あたしは顔が引きつっていた。
あたしはあの教会での出来事をあまり覚えていないのだが、その後いつの間にか聖フェルギン王国を出奔し、隣国であるリフィル王国の街の宿に泊まっていた。
どうしてこうなったのかについては、誰かが手紙として残してくれていたため、現状を理解できていないわけではないけれど、何が起こったのか、どうやってこの街まで逃げ切れたのかはあたしには一切わからなかった。
あたしは、冒険者として稼いだお金で朝食を食べながら、新聞を読んでいた。
あの事件からもう1月は経とうとしていた。あたしはリフィル王国の西の町アクセルでギルドの受付嬢兼冒険者エリシアとして活動をしていた。
もちろん、苗字何て名乗るわけがない。エリシア何てありふれた名前だしね。
長かった髪も短く切ってしまい、ぱっと見ではあたしをあたしとして認識するのは難しいだろう。それに、祝福も偽装魔法をかけて誤魔化していた。
「はぁ……」
あたしはため息をつく。色々と厄介な事が身の回りで起きていて、整理しきれなかったのだ。
あたしが朝食を食べようとすると、目の前に見知った女性が座っていた。
「朝からため息をつくと、運が逃げると言いますよ。エリシア」
「おはようございます、女神様。1ヶ月とちょっとぶりですね」
そう、目の前には女神様が座っていた。
「ふふ、ごめんなさいね。ここ1月は目まぐるしく忙しくて顔を出せなかったの」
まあ、おそらく死んだ魂の管理とかそんなのだろうとあたしは思った。
「もちろん、エリシアのことはちゃんと見守っていたわ」
「それはどうも」
見守っていたのに、あたしはこのザマである。こればかりは自業自得とは思えなかった。
「エリシアがちゃんと生き延びていて、私は安心しているのですよ? ちゃんと運命の日を……乗り越えたとは言い難いですが、生き延びてもらえてね」
そうですか。あたしは何が起きたのかぼやけて思い出せないけれどもね。客観的事実としてあたしがお母さんを殺した事、マーティ兄さんを殺した事、シエラとお父さんを避難させた事は知っているけれど、実感はない。
さて、女神様があたしの前に現れるという事は、何か天啓を与えてくださる時である。なので、早速本題を切り出す。
「……で、今回の天啓はどんな内容です?」
「あ、いきなり本題行っちゃいます? 私としてはエリシアと話すのも楽しいのですけれどね」
「時が止まっていて、あたしは微動だにできないんですけどね」
「あらあら」
女神様は、そう言って微笑むと、真面目な顔をする。
「それではエリシア、天啓を授けます。
冒険者エリシアよ、アクセルの街に後2ヶ月留まりなさい。そこで貴女は重要な出会いを果たすでしょう」
「……重要な出会い?」
女神様はうなづく。
「ええ、貴女にとって重要な出会いです。それが何であるかは、女神の私にも見えませんが、重要なもののようです」
女神様の言葉に、あたしは少し考える。まあ、女神様がそう言うならば、悪い話ではないだろう。それに、警告と言う感じでもないしね。
「わかったわ。女神様に従います。それと、一つ質問をしても構わないかしら?」
「ええ、1つだけなら構いませんよ」
「あの時、あたしがリナーシス村に行かなかったら、どうなっていたの?」
あたしの質問に、女神様は簡単に答えた。
「全滅していましたよ。もちろん、妹もお父様もね」
「……ありがとうございます」
つまり、あたしの選択は間違ってはいなかったようだった。色々と失ってしまったけれども、失われるはずのものをあたしが助ける事ができたのだ。ならば、それは誇るべき事だろう。
ただ、もう二度とこんな事にならないように、あたしの大切なものを失わないように、最善を尽くしていく必要があるだけだ。
「ふふ、エリシア。安心しました。そのような顔ができるようになったのなら、もう大丈夫ですね」
女神様はそう言うと、席を立った。そしていつのまにか消えていた。
あたしは女神様の言った意味が分からず、思わず顔を触って確かめる。確かにあたしは微笑んでいた。あの日から、ただの1日も笑う事すら無かったのに、あたしは微笑んでいたのだ。
それは、あたしがようやく、あの日と向き合えたと言う事であった。
とりあえず、これにて1章は完結です!
シーヴェルクさんの死闘や、エッチシーンなどまだまだ書き切れてない所もありますが、そこは幕間の物語として書いていこうと思います!
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