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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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村娘47→椎名康平と言う人物

椎名康平が事後処理をしてくれる話です。

 俺がメリルさんを抱えて突然現れたことに、子供達も、シスターさんも幼い乳のみ子の母親も驚いていた。


「あなた、誰? メリル様を抱えて……。それに、どうやって……?」

「疑問は後で聞こう。とりあえず、近くの街まで逃げるぞ」


 36人もいるのだ、転移門で移動した方が都合がいいだろう。俺が足を鳴らすと、壁に円形の転移門が構築された。ソランゴルの街の入り口が水面に映されるように表示されている。


「これを潜り抜ければ、ソランゴルまで行けるだろう」

「あ、ありがとうございます……」

「急いだほうが良い。魔王が誕生したからな」


 俺の一言に、全員が恐怖に顔を引きつらせる。やはりあの声は全員に聞こえていたらしい。


「え、ええ、ありがとうございます」

「早く。ここは気づかれる可能性が高い」


 俺の言葉に、シスターさんたちが子供たちを順番に転移門に入れていく。そのまま向こうの景色に転移した子供たちが映る。


「シスターさん、彼女をお願いします」


 俺は、メリルを一人のシスターに託した。


「あなたは来られないのですか?」

「俺は……ええ、あとで向かいます。ご心配なく」

「……わかりました。女神様のご加護を」


 気を失っているメリルさんに肩を貸す形で、二人のシスターさんも転移門を潜り抜ける。


「おねーさま?」


 ふと、俺の服の裾を握る少女が居た。エリシアの記憶をたどるならば、彼女が溺愛していた妹だろう。エリシアの救いは彼女だろうと確信をする。

 だけれども、彼女のためにもそうだし、所詮前世の記憶から生み出された二重人格のようなものである俺は関わってはいけないだろう。俺はエリシアが心を守るために生み出した仮の人格なのだから。

 だから、俺は首を横に振ると、「さあ、行きなさい」と告げて背中を押した。

 しばらくして、全員が転移門を潜ったのを確認し、転移門を閉じる。転移門の向こうで大人たちが何か言いたそうにしていたが、俺はスルーして完全に閉じる。


「さて、次はっと……」


 俺が、エリシアの次の未練を果たすために転移しようとすると、扉が破壊される。案の定三宅隆幸だった。


「テメェ、そこにいやがったか!」


 憤怒の形相を浮かべた三宅隆幸であるが、俺は何も恐れなかった。少なくとも、前世で俺は恐れていたはずだが、特にそう言う感情は抱かなかった。

 三宅隆幸が普段から常備していたメリケンサックを装備して、俺を殴ろうとする。たかがボクサーの攻撃軌道程度、俺が読めないはずがなかった。

 自分の時間を加速する魔法をかけて、俺は三宅隆幸の土手っ腹に空気砲を打ち込む。もちろん、魔法である。

 三宅隆幸に触れられて経験をパクられるのもシャクである。

 三宅隆幸は空気砲をまともに喰らい、吹き飛ばされて壁に背中を打ち付ける。


「かはっ!」

「ハッ、糞ヤンキーと戦うつもりはないと言っただろう?」

「テメェ、椎名康平だな? ギークだったくせに生意気なんだよ!」

「だから言ってるだろう? 俺はエリシアだと」


 向かってくる三宅隆幸に対して迎撃で空気砲を叩き込む。触られたら経験を失う上に相手に対策を与えてしまうのだ。そんなマネを許すほど俺は甘く無い。

 何度かやっているうちに、俺を接近戦で倒せないと判断した三宅隆幸は、邪剣を呼び出し構える。


「何度も言っているだろう? 俺は糞ヤンキーを相手にしている暇はないと」


 俺はため息をつきながら、聖剣を構える。


「うるせぇ! テメェ気に喰わねぇんだよ、そのスカした態度がな!」

「かまってちゃんかよ。男のかまってちゃんとか萎えるわー」

「チョーシ乗りやがって!」

「チョーシ乗ってんのはお前だろう糞ヤンキー」


 その言葉がきっかけで、俺と三宅隆幸の剣が交わる。

 だが、エリシアの剣技を俺が使えないはずがない。三宅隆幸の弱小剣術など、脅威ではなかった。2、3回も剣を交えれば、どこを攻撃すれば剣を吹き飛ばせるのか容易に想像がつく。


「ふんっ」


 ガキンと音がなり、聖剣が邪剣を弾く。そのまま、床に突き刺さる邪剣。


「なっ!」

「あばよ! もう二度と会うことはないだろうよ」


 俺は三宅隆幸をノックダウンするために顎を狙い空気砲を打ち込む。顎に衝撃を受けると、脳震盪を起こして気絶すると言うのは、ボクシング漫画の受け売りである。

 一瞬のうちに3度、殴るような衝撃を三宅隆幸に与えると、見事に漫画の通り、倒れてくれた。


「ふん、簡単には殺されてはくれそうにないか」


 それは、外套が首をしっかり保護していたからである。気絶した瞬間、人間のウィークポイントを外套が覆ったのだ。

 試しに聖剣で小突いてみたが、見事に弾かれてしまう。


「ラスボス特権ってやつか? まあいい、うるさいのが片付いたし、するべき事を果たそう」


 俺は三宅隆幸を放置してダルカスを探しにウエルペット大森林に向かった。

 消える直前、ケリィと言う男と、広瀬翔太郎が部屋に駆け込むのが見えたが、慌てっぷりからいい気味だと俺は鼻で笑ったのだった。




 それは、偶然と言うやつだろう。俺がウエルペック大森林の近くまで転移してくると、森のすぐそばから人の気配がした。

 どうやら、森から命からがら逃げてきた様子である。

 確認するために森の中に足を踏み込んで、気配の方に進んでいく。途中、もちろん命知らずの愚かな魔物が襲いかかってくるが、魔法で原子レベルまで粉微塵に吹き飛ばしておいた。まあ雑魚散らし魔法で格下相手にしか使えないのが残念であるけれども。

 気配の元までたどり着くと、案の定ダルカス達が魔物達と戦闘をしながら逃げている最中であった。

 ダルカスとシーヴェルクは斧を背負った男に抱えられており、シーヴェルクの方は意識がない。ナターシアは疲労困憊の顔をしているが、一生懸命魔物を牽制していた。ヴィレディは魔力が残っていないのか、魔法ではなく石を投げて牽制していた。


「ちょうどよかったな」


 俺は指を鳴らして魔法を発動する。先ほどの雑魚散らしである。ナターシアは魔物が突然目の前で煙のように消えてしまい、目を白黒させた。


「だ……誰……だ……?」


 ダルカスが絞り出すように声を上げる。さすがは元冒険者である。警戒がちゃんとできていて感心する。俺の場合、エリシアはそう言うのに優れていないため、魔法でカバーしているのだ。

 俺はダルカス達の前に姿をあらわす。


「エリ……シア……?」


 ダルカスが不意にそう漏らすが、俺は首を横に振った。


「ダルカスさん、エリシアは男じゃないよ? 似ても似つかないじゃないか」


 ヴィレディの指摘に、「あ、ああ、……すま……ない」と謝罪してくれる。

 ヴィレディが警戒したように俺に尋ねてくる。


「あんた、何者だ?」

「俺か?」


 ふむ、何て答えようか?

 服装は魔法で男性の冒険者のようにしているので、一見すると冒険者に見えなくはないかもしれない。まあ、二度と会わないだろうから、気にする必要もないだろう。


「誰でもいいだろう。俺は、ある人から依頼されてあんた達を探していただけだ」


 その言葉に、一同顔を見合わせる。まあ、敵か味方か判別がつかないのだろう。


「村が襲撃されて、消滅した。生存者はソランゴルまで向かっている。今頃保護されているはずだ。今は村に近づかないほうがいいだろう。ゴブリンの集団に襲われたくなければな」

「あ、あんた……!」

「忠告はした。あと依頼されているのは、そこの重症の二人を治癒することだけだ」


 俺は有無を言わさず、シーヴェルクとダルカスに触れる。何があったのかは知らないが、おそらく壮絶な戦いだったのだろう。

 俺が指を鳴らして魔法をかけると、立ち所に怪我が回復する。まあ、失った血は戻らないのだがな。


「貴方は一体……?」


 それに俺は後ろを向いて手を振り、去る。

 これで、エリシアの未練は果たした。つまり、俺のすべき事は果たした。

 だが、彼女にはまだまだ試練が待ち受けているだろう。今回の事件の責任は、自ずとエリシアが取ることになる。それが爵位を与えられた貴族だからだ。

 どのような沙汰が待っているのかはわからないが、恐らく不快なものになるであろう事は想像に難しくない。

 だから、彼女が目覚めても、安全な場所に身を隠す必要があるだろう。安全で、情報をちゃんと得られる場所……。まあ、そこを探すまでは俺は付き合ってやろうと考えたのだった。

次回でこの章は最終回です!

年内に一章を完結できてよかった(o^^o)

二章以降は現在プロット考え中です。

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