村娘41→防衛戦(メリル視点)
ちょっと時間を戻して、メリルさんの視点でのお話です。
「おら、女! てめぇの相手は俺様だ!」
「ぐっ!」
メリルはタカユキと思わしき男にエリシアと引き離されてしまう。いくら成長が早いといっても、今のエリシアにあのオーガのような魔物の相手は早すぎる。かといって、タカユキの相手もエリシアには荷が重い。
メリルはすぐに頭を切り替えた。
すばやく目の前の男を制圧し、エリシアの元に駆けつけるのだ。
「邪魔です、どきなさい!」
「うぉ、あぶねぇ!」
メリルの渾身懇親の突きを、タカユキは軽々と避ける。メリルの剣術は並大抵の相手には避けることも難しいだろう、その突きを避けられ、メリルはタカユキに対する警戒度を上昇させた。
「流石は勇者ですね。ですが、まかり通る!」
「ははぁ! やってみな、出来るものならな!」
タカユキは装備を何も持っていなかった。強いてあげるとするならば、金属製のナックルダスターを装備しているぐらいである。
拳闘士相手ならば、リーチのある分剣のほうが有理であるが、逆に侮れないのも拳闘士である。拳により衝撃波を作って飛ばしてくる達人も居れば、すさまじいスキルを発揮するものもいるのが《拳闘士》と言う祝福だからである。【銀級】にランク付けされているものの、その強さは【金級】に届きうるほどの可能性を秘めた祝福なのだ。
だからこそ、メリルは油断なら無いと確信していた。エリシアの言うとおり、舐めてかかってはならない相手だと理解した。
「おらおら、いくぜぇ!」
タカユキは一瞬で間を詰めて攻撃してくる。
「くっ!」
エリシアから、タカユキの攻撃は一度も当たってはならないと聞いていた。だから、メリルは全力で回避を行う。右、左、右、フェイント、メリルはタカユキのすばやい攻撃を紙一重で避ける。素人とは思えない動きであるが、おそらく《勇者》の祝福以外にも《拳闘士》の祝福にも目覚めていると想定しているため、メリルは冷静に避けることが出来ていた。
ただ、タカユキの攻撃には隙が無かった。剣の間合いを空けようとすると詰められる、右に大きく避けると攻撃する隙も無く追随されると言った感じである。
「おらおら、避けてばっかりじゃあエリシアのところまで行けねぇぜ!」
言われるまでも無かったが、タカユキのラッシュにメリルは防戦一方にならざるを得なかった。
エリシアの危惧していたとおり、この化け物は並みの《勇者》では到底倒せないだろう。ユウダイぐらいの強さで互角と言った感じか。
「しっ!」
なんとかメリルが攻撃を繰り出すも、剣の間合いでないため威力は若干弱まる。が、異世界の服に剣が阻まれてしまう。
「残念、流石に強化済みだ」
心底楽しそうにタカユキは笑い、そしてメリルは横面を殴られてしまう。
バキンという音が聞こえ、メリルを覆っていた《光鎧》が解除されてしまう。そもそも、《光鎧》が割れて解除されてしまうと言うのは前例が無いことである。一定以上時間が経過するか、術者が意識を無くすかのどちらかしか解除方法がないのである。
「なっ!」
メリルは驚愕に思わず体勢を崩してしまっていた。
「おらっ!」
「ぐっ!」
顔面に来た左の拳を、メリルは咄嗟に両腕で庇う。ナックルダスターが直撃し、前にしていた右腕に鈍痛が走ると同時に、自分の中から何かを奪われた感覚がした。
『なんだ、この感覚は! まるで私の中から今まで積み上げた経験が抜き取られるような……!』
思考は一瞬だった。メリルは殴り飛ばされた勢いのままに間合いを開ける。
一瞬、ほんの一瞬触れただけだというのに、この一週間で積み上げたものがメリルの中で消え去っていた。それでメリルの能力が大幅に下がるわけではないが、その事実に唖然とする。
「へぇ、《細剣客》ねぇ。まあ、剣を使わないから要らない能力だが、ジョブをスキルポイントに変換してジョブを強化できるからな。せっかくだから全部寄越しやがれ!」
タカユキの言っていることはメリルには理解できなかった。ただ、理解できたのはタカユキが他人の祝福を奪うことが出来ると言う事実、防御魔法を破壊できると言う事実である。
確かにエリシアの言うとおり、一人で相手するには荷が重過ぎる。そして、タカユキの技量の高さはさすがといわざるを得ない。エリシアがどうなっているのかに対して気を向けることも許されないのだ。
だが、間が空いたということは剣の間合いのまま戦えると言うことである。メリルは気を取り直すと、剣を構えなおす。
「せいっ!」
タカユキの動きを読み、細剣で突く。だがしかし、全ての突きがナックルダスターにあたり、全ていなされてしまう。
「チッ!」
すぐになぎ払うが、それすらも軽くいなされてしまった。まるでメリルの動きを読んでいるかのようであった。
『まさか、私の戦闘経験を吸収して……? ならばこれ以上吸収されるわけには行かない!』
これは、メリルの直感であったが確信に近い直感であった。メリルに触れる前と後の動きが明らかに違ったのだ。だが、吸収されたと言うことはその分相手の技量が上がってしまったと言うことである。防戦一方になってしまったメリルは次第に追い詰められていった。
「くっ、このままでは……!」
エリシアの様子がわからない以上、撤退はできない。
そして、タカユキの打撃が徐々にメリルに掠めるようになり、そのたびに経験を失っていく。
もはや、メリルの敗北は目に見えてしまっていた。
「タッキー」
と、不意に声がかかる。それに、タカユキが攻撃を止めて間合いを空けた。
「どうした、ショウ」
「エリシアちゃん確保したよ。俺達の目的は達成したって連絡をしに来ただけ」
メリルは驚愕した。
しかし、それがわかった以上、メリルの判断は早かった。
『撤退するしかない』
エリシアが捕まったということは、何かしら目的があるだろうと踏んだのだ。だからこそ、このまま負けてしまうよりも、シーヴェルクたちと合流してエリシアを取り戻す方が勝算が高いと判断したのだ。
メリルはすばやくその場から撤退する。心の中では「申し訳ありません、エリシア様。すぐに救助に向かいます」とエリシアの無事を祈っていた。
メリルさんはおよそ4年分弱体化しました。
レベルドレインみたいなものだと思ってもらえればいいかと思います。
もちろん、パッシブではなく任意に発動できます。