村娘42→全愛主義《オールイズマイラブ》
メリル視点とエリシア視点をどっちを先に掲載するか悩んだ結果、エリシア視点を先に公開することにしました。
「うぅ……」
あたしが気が付くと、森の中にいた。両腕はひもで縛られており、貼り付けをされている格好である。
「お、起きたんだ」
身体中が痛い。そりゃサンドバッグにされればそうだろう。骨が折れた事は無いので、わからないけれども、身体中に鈍痛が走っていることから、おそらく掛けていた魔法が解けてしまっても殴られたのだろう。
「こ、ここ……は……?」
「ん? ああ、森の中だよ。なんだっけ、なんとかって奴さ」
ここでようやく、目の前にいるのが広瀬だと言うことに気づいた。
どうやらあたしは何処かの森の中に連行されたらしい。想像はつく、ウエルペット大森林のどこかだろう。
「あ、ショウ、その子起きたのー?」
声の聞こえてきた方向を見ると、化粧の濃い女が出てきた。背格好や全く汚れていない女学生の制服から、鈴木であろう。
「あ、エリナ。起きたよ」
「ふーん……。ボコして無ければお人形みたい」
あたしの髪の毛を掴んで、顔を上げさせる鈴木。あたしは抵抗できなかった。
「で、タッキー達が戻って来る間に、エリナの能力使って、お人形さんにすれば良いの?」
「正確には、この子の意識を残したまま、身体はこっちが思うがままにが良いんだそうで」
「ふーん、何がしたいのかしら。エリナ興味ないんだけど」
本当に興味がなさそうである。
「何でも、操り人形にして親と殺し合わせるんだってさ」
「……タッキー好きそう。そう言うの」
「まあ、その前に、心を壊すのをケリィがやりたいんだってさ」
「ふーん、エリナ興味ない」
「エリナが興味あるのはタッキーだけだもんな」
広瀬の苦笑いに、少し照れた様子をする鈴木。
朦朧とする意識の中でこの会話を聞いてて、三宅の異常性が伺える。その異常な残虐性はどこで身につけたのだろうか? とてもではないけれど、普通のコウコウセイと言うものが、あのニホンと言う平和な国で育った少年がここまで歪むとはあたしですら到底思えなかった。
「それじゃ、エリナはスキルかけたらスマホ弄ってるね」
鈴木はそう言うと、あたしの頭に手をかざす。
すると、あたしの頭の中に声が響く。
──【全愛主義】が行使されました。エリシア・レネア・フェルギリティナの身体の主導権を掌握します……
あたしはまずいと思ったが、抵抗する力は残っていなかった。そもそも、どうやって抵抗すればいいかもわからなかった。
──掌握しました。これより、エリシア・レネア・フェルギリティナの身体の主導権を鈴木恵里奈に移行します。……完了しました。
途端に、あたしの全身から力が抜けた。頭だけははっきりしているけど、身体には何の力も入らない不思議な感じである。
「成功したわ。これでエリナの出番終わりー?」
「ああ、あとは、操作権を俺に渡してもらえればいいかな?」
「はーい」
その時また、頭の中に声が響く。おそらく、スキルに設定されたシステム音声と言うものだろうか。本当にまるで、前世の世界のゲームのようである。
──エリナ・レネア・フェルギリティナの操作主導権が鈴木恵里奈から広瀬翔太郎に移行しました。
あたしはこれからどうなるんだろうか。間違いなく貞操の危機だよな。色々な不安があたしの中を占めるが。身体中の痛みでまともに思考することは難しかった。
「ほい、サンキュー」
「じゃあ、エリナゆっくりしてるわ。タッキーが戻ったらよろしくね」
鈴木はそういうと、スマホに目を落として操作し始めた。一体何を操作しているのだろうか? あたしには理解できなかった。そうこうしている間にあたしの腕にあった縛られている感覚が無くなる。拘束が解かれたようであった。
不意に、強い気配を感じる。体が動かないため確認できなかったが、恐らく、三宅だろうか。
「よお」
「おっつー、タッキー。どうだった?」
「村つぶしは9割完了だ。後は教会だけ残してやった。どうするかは、残してきたケリィに任せてきたよ」
村つぶしだと……! しかも9割って、あたしの、リナーシス村はどうなったの?!
だけども、意識に反して身体はまったく動かなかった。
「いやー、やっぱ、魔族ってやつに任せきりじゃなくって、俺様がちゃんと現地で指揮しないと意味が無いな」
ガハハと笑う三宅。
「まあ、これが終わったら、ケリィから力を回収して、また別の村を潰しますかね」
そこに、やせ細ったガリガリの少年が、三宅に飲み物を渡す。
「お、お茶です、フヒィ……」
「おお、気が利くじゃねぇか。良かったな、寿命がまた伸びたぜ」
「あ、ありがとうございます、フヒィ……」
おそらく、彼が秋葉原だろう。見る影もないし、その服装が体系にあっておらず、ブカブカである。そもそも、ここにいるあたし以外の全員がコウコウセイの制服を着ている。
「お、そこの人形は?」
「ああ、主導権は俺が持ってるよ」
「そうか、なら大丈夫だな」
「まあ、アイツが絶望するのも、それはそれで楽しそうだ。調子乗ってやがったしな。これが終わったら潰し時だ」
「お、悪いこと考えてる顔だね、タッキー」
「ああ、めっちゃおもしれぇことだ。それまでは好きにさせるさ」
「何考えてるか、エリナにも教えてよー」
あたしは3人の会話を聞きながら、コイツら本当に人間なのだろうかと甚だ疑問を抱かざるを得なかった。感覚があたしの感覚から逸脱しすぎており、理解ができなかった。
「ケリィの目的と、その人形……エリシアだっけ、を俺様達が自在に出来る現状を考えれば、わかるだろ」
「なるほど、それは面白い表情が見れそうだ」
「うっわ、さすがタッキー。面白い頃考えるー」
「だろー? もっと褒めても良いぜ。なあ、おいアキバァ?」
「は、はい!! 流石は三宅様ですフヒィ!!」
涙目になりながら、三宅を称える秋葉原くん。その姿には涙を禁じえなかった。まあ、涙すら出ないのだけれど。
「それじゃま、そこの人形をつれて戻りますかね。村の現状を知ったら、そいつも絶望するだろうしな」
クツクツと笑う三宅の顔は、もはや悪人の顔そのものである。非常に楽しそうに笑っているが、その感性をあたしが理解することは出来ない。
「それじゃあ、エリナ、アキバの見張り頼むな」
「もう行くの? エリナ、コイツの見張りとかめんどいんだけどー」
「一応、俺でも倒せなかったヤベェやつもいるしな。2割力を吸ったから、ケリィには勝てないとは思うが、エリナは普通に敵わない相手だからよ」
「むー」
「俺様はエリナが大切なんだ。わかってくれよ。それに、配下の魔族もここを集合地点にしているしな」
「……わかった。それじゃ、街に戻ったらいっぱい愛して? そしたらエリナ、我慢する」
「もちろんだ」
そして、キスをする二人。ここだけ見れば、青春なお話なのだろうけど、絵面が不良である。しかも、物語としてみたら、悪役のラブロマンスである。あたしとしては「何だこれ」と言う感想しかない。
「じゃあ、行くか、ショウ」
「ああ、了解。それじゃ“エリシア、俺達の後を着いて来い”」
広瀬に命じられると、身体が勝手に動き出した。そして、あたしは、絶望と戦うことになるのだった。
隆幸くんがこういう考えに至った理由は、後に判明するようにはしますが、この章では語らないことにします。
また、【全愛主義】の能力は名前の通り魅了系のチートスキルだと思ってもらえればいいかと。
ちなみに、広瀬君のスキルで3人ともお互いの能力がどういうものでどう使えばいいものかもちゃんとわかっているので、スキルを正確に使いこなしています。