村娘41→防衛戦
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誤字、脱字の指摘は本当にありがたいです。
あたしがメリルさんを引き連れて外に出ると、外は騒然としていた。大怪我をした村人が運び込まれている。
天幕がある側方向と反対側が騒がしく感じる。怪我をした村人も反対側から来ている。
教会は、神官騎士2名と村の男性の何人かで守っていたので、あたしは援護に向かうことに決めた。
「メリルさん、行こう! たぶん、あたし達じゃないと三宅たちは抑えられない!」
「もちろんです、エリシア様」
三宅と戦うならば、あたしも切り札を切らないといけない。ロングソードは腰に収めたまま、あたしは自分の中から聖剣を抜く。相変わらず見事な装飾がされており、一目見れば誰もがあれは聖剣だとわかるつくりである。だから、あんまり出したくないのだけれどね。
あたし達が到着すると、地獄絵図であった。ゴブリンの死骸と村の男性の亡骸がそこら中に横たわっている。その原因は、今神官騎士が抑えているオークと、謎の魔物であった。
「なにあれ……?」
「わかりません、あのような魔物は……!」
3ヤード程の巨体に、鋼のような皮膚を持つ魔物なんてあたしの知識にはなかった。角が生えているので、強いてあげるならばオーガだろうか? 人間だと両手で扱っても難しいだろう大剣を片手で軽々と扱い、神官騎士を吹き飛ばしていた。真っ二つになっていないのは、装備と強化魔法のおかげだろう。事実、真っ二つに叩ききられた村の男性の遺体が何人か転がっている。
「これ、もう逃げた方が良いんじゃないかなぁ」
あたしはその光景にドン引きながら、ルーン魔法を描く。諦める気は無いけど、思わず漏れてしまった。
「と言いつつも、魔法を準備している時点で戦う気はおありのようですけどね」
「それはまあ、あたしの村だしね」
今の防具ではメリルさんもあたしも戦えば吹き飛ばされて斬られておしまいである。だから、魔法で鎧を作り出す。魔法大全にも載っている魔法なので、全力で詠唱する。
【原初の力よ、光の精霊よ、我に力を貸したまえ。我らに抗えぬ力に対抗する術を授けたまえ。其は鉄壁の鎧、耐え難きを耐える守り、戦うための力なり。──《光鎧》】
《光鎧》は個人の身体に魔力で構成された鎧を纏わせる補助魔法である。視覚的には何も見えないけれど、フルプレートメイルを身に纏ったように物理攻撃をはじくのだ。上位の魔法になるので、若干詠唱が長いのは仕方ない。対象はあたしとメリルさんである。
【原初の力よ、全てを照らす光よ、大いなる炎の力よ、我等に敵を打ち滅ぼす力を与えたまえ。──《天使の息》!】
ついでに、《天使の息》で補助を重ねがけをする。それでも、あのオーガに勝てる気はしなかったが。
「ありがとうございます、エリシア様」
「とりあえず、やれるだけやるわよ!」
「畏まりました」
聖剣を使った始めての戦いである。魔力は全体から言うと、寝て回復した分とさっき使った補助魔法の分を含めて3割程度消耗しているが、これなら戦えるだろう。あたしがオーガのような何かに近づくと、そのオーガのような何かとバッチリ目が会った気がした。それは気のせいではなかった。
「エリシアアアアアアアアアアアァァァァァアァァァ!!」
あたしの名前を叫び、一直線にこちらに向かってきたのだ。
「お、ケリィ、お目当ての女を見つけたか。つまんねーから帰ろうかと思ってたが、面白そうだから付き合ってやるよ」
さっきまで詰まらなさそうな顔をしていた三宅も、あたしたちの方に向かってきた。
ケリィ!? ケリィですって?! このオーガもどきが?!
「エリシア様!」
「おら、女! てめぇの相手は俺様だ!」
「ぐっ!」
メリルさんは三宅の相手をすることになってしまった。そして、あたしは自分のトラウマと戦うことになるらしい。他の3人は戦力にならないのか、見当たらなかった。
ドゴォと音を立てて、ケリィの剣が地面を叩き割る。あたしはなんとか回避できた。確かに、その剣を見たら、ケリィが持っていたものそのものである。つまり、5人の内の1人はケリィだったということである。ならば、ルビーはどこに行ったのかしら?
ケリィの剣が真横からなぎ払われたので、何とかしゃがんで避ける。考え事をしている余裕なんてなさそうだった。
「《火炎球》!」
もはや無詠唱でルーン魔法のみで唱えられるようになった《火炎球》をケリィに向けて放つ。当然ながら、3ヤード程の巨体ならば避けられるはずもなかった。しかし、多少熱かっただけのようで、あまり効いていない様子だった。
尚も剣を振って攻撃してくるケリィ。流石は冒険者で《重剣士》の祝福を受けただけはあった。腕は確かであたしは避けることに集中するしかない。ルーン文字を習得していなかったら、あたしは魔法すら使えなかっただろう。
「《火炎球》!」
ルーン文字のみで使える攻撃魔法は現状《火炎球》と《氷槍》の2種類である。一番使いやすいのが誘導性能と高い火力がある《火炎球》である。魔力操作をすれば、丸焼けから消し炭までお手の物なのでよく使っているが、消し炭レベルまで操作しているのにほぼ無傷なのはどう考えてもあたしの実力ではケリィに勝てないことの証左であるだろう。
あたしが再び放った《火炎球》も、あっけなく防がれてしまう。やはり、この聖剣で直接切るしかないのだろう。
あたしは覚悟を決めると、ケリィに向かって走り出す。ケリィはさせまいと剣を振るう。おそらくジャンプすればそれだけで隙になり剣で吹き飛ばされることはわかっていた。だからこそ走るのだ。
あたしはようやく足元まであと少しのところまで来る。ケリィが巨体を使いもう一撃剣を振るうのを、あたしは聖剣を使って弾き飛ばした。
「のけぇぇぇ!!」
魔力を通した聖剣がケリィの大剣を上手くはじいて逸らす。その隙に、あたしは間合いの内側にもぐりこむ。
「ちぇいやああぁぁあぁぁぁ!!」
あたしは剣を振りかぶり、その左足を叩ききろうとした。
しかし、ガキィンと音を立てて、あたしの聖剣が止まる。そこにあったはずのケリィの巨体は無く、あたしの剣を受け止めていたのは、人間のサイズになったケリィの剣であった。
「アぶねェな、ったくよォ!」
唖然として剣を止めてしまったあたしをその大剣で切り飛ばす。魔力の装甲を展開しているおかげであたし本体にはそこまで痛みが伝わってこなかったが、《光鎧》がミシミシッと音を立てる。
「おオ、イけねェな。エリシアにはちゃンとお仕置きヲしなきャならネぇかラな」
流暢ではあるが片言ぎみのダルヴレク語を話すケリィの姿を見て、あたしの中でトラウマが暴走し始めた。
別にケリィは先ほどの巨大化していたときのように裸に近い格好をしているわけではない。むしろ、そのまま縮んだならば、何時の間にそこまで着込んだんだよと言う指摘をしないといけないレベルで冒険者の格好をしている。
あたしが恐怖を覚えたのは、ケリィの顔である。あたしが最後に見た顔そのままであった。
あたしの手が震える。両足が凍りつく。息が、詰まる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
あたしはトラウマを克服したわけではなかった。単にケリィが怪物の姿だったから、心の奥底までは信じ切れていなかっただけである。だけど、姿を見て、確信してしまったのだ。ケリィだと。会いたくないレイプ野郎だと。
「おいおイ、何怖がッてるノよ? 懐かしイ再会じゃナいカ。なぁ、エリシア?」
「い、いや……」
ケリィはニヤつきながらあたしに近寄ってくる。あたしの思考が真っ白になる。
「どうダい? なつカしの村ガ蹂躙されテいるノを見るのハよ? 嬉しくテ震エちまうダろ?」
「や、こな……!」
ケリィがあたしの腕をつかむ。そのせいで、聖剣がカランと音を立てて地面に落ちた。
「エリシアァ、お前を穢スのを楽しミにシてたゼぇ!」
楽しそうにケリィがそういうと、腹部に痛烈な痛みが走る。どうやら腹を殴られたらしい。《光鎧》に《天使の息》を重ね掛けしているにもかかわらず、ものすごい衝撃だったが、あたしの意識を刈り取るまでは行かなかった。
「あァ? 普通こコは気絶することロだろウ?」
「カハッ!」
もう一度ぶん殴られた衝撃であたしは吹き飛ばされてしまった。地面を転がる。
「ショウタロウさんよォ、どうなッてンですカねェ?」
「はいはい、呼んだ? おお、その子がエリシアちゃん? めっちゃかわいいじゃん!」
「ショウタロウさん!」
「はいはい、えーっと、どれどれ」
いつの間にか現れていた広瀬はそういうと、痛みで動けないあたしに近寄り、《光鎧》を触る。
「へぇ、何か透明の鎧を着ているみたいだな。それじゃあ、【知識盗難】っと」
広瀬は確かに【カンニング】と言った。
「へぇ、エリシアちゃんって俺らとは違ったステータスしてるんだ。何々、現在の状態は《光鎧》と《天使の息》のバフがかかった状態ね。なるほど、それで防御力が相当高いんだな」
納得したように広瀬はそう言うと、わかったことをケリィに伝える。
「だいぶダメージ受けてて今はスタンしてる状態だけど、とりあえずこのままボコれば気絶すると思うよ」
「? まア、ソれがわカったらイいか」
「ほどほどにねー、HPそこまで高くないみたいだしね」
ケリィはその後、あたしに殴る蹴るの暴行を加えた。あたしが動けないことを良いことに、あたしの右手を掴んで吊るしサンドバッグにしたのだ。それは、あたしが気絶するまで続いたのだった。
エリシア敗北!
まあ、負けイベントと言うやつですね。
ちなみに、広瀬は隠匿スキルを持っているので、ナターシアが居ないと存在を見抜けません。
恵里奈は本当にこの場には居なくて、拠点で化粧をしていました。
エリシアは男のナニについても見ただけで恐怖を感じます。