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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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村娘40→戦いの中へ

今回は2部構成です。

お母さん成分を補給したエリシアと、別働隊で頑張るシーヴェルクの話です。

 シーヴェルクたちはゴブリン軍に奇襲を仕掛けるために、ウエルペット大森林に進入していた。

 ナターシアの気配察知によりシーヴェルクたちはある程度正確に魔物達の位置を把握していた。今回の奇襲作戦の肝は、敵の頭脳を断つことである。ゴブリンは元々そこまで知能は高くないため、知能の高い上位種や別種の魔物により指揮されているとシーヴェルクたちは考えていたからだ。それを倒してしまえば、ゴブリンたちの殲滅にそこまでの苦労は無くなるのだ。

 ナターシアの気配察知とアンデロッソの森の知識でシーヴェルクたちはゴブリン軍に気付かれずに森の奥へと侵入を果たしていた。


「しかし、魔物を率いているなんてまるで魔王みたいですね」


 ヴェルディの呟きに、シーヴェルクは似たようなものだなと考える。知能の低い魔物を使役するだけでは魔王であるとは言えないからである。ゴブリンのような低級魔物やオークのような上級魔物を使役したところで、脅威ではあるが魔王とは言えない。知能の高い魔物──ホブゴブリンやハイオークなどのいわゆる“魔族”と呼ばれるものを率いて初めて魔王であると言えるのだ。

 それに、文献によると魔王となるためには、それ以外にも条件が必要であるとされ、それが満たされると魔王を中心とした一定範囲に声が響くのだ。実際、【魔剣魔王】ロードナイトメアが魔王となった際にはそのような声が脳内に響いたと言う証言がある。現状、その条件はわかっていない。


「魔王ならばもっと被害が大きいぞ。今頃俺らの村なんて一瞬で飲み込まれてしまうさ」


 ダルカスがそう断言する。南の国の魔王侵攻はリナーシス村の大人達の間でも有名な話である。エリシアやティアナがそのような祝福を受けたのも、女神様が魔王達に対抗するために力を与えた結果だとダルカスは考えていたのだ。


「ただ、この魔物の群れはもしかしたら魔王の手先である魔族が操ってる可能性がある」


 シーヴェルクは自分の考えを述べる。だからこそ、エリシアのパーティの一員としてこのリナーシス村を襲っている魔物たちの群れは対処しなければならなかった。ウーダン村を襲っていたホブゴブリンの発した言葉に「魔王」の単語が含まれていたのだ。最近のゴブリンの襲撃に魔王が絡んでいると見て間違いは無いだろうとシーヴェルクは推測していた。


「だからこそ、我々教会の神官騎士はこれを討伐する義務があるのだ」


 女神様の敵を討つのが神官騎士の本懐である。ならばこそ、この本懐を果たすのだとシーヴェルクは決めていた。だからこそ、シーヴェルクは教会付きの神官騎士となったのだから。


「神官騎士の義務ねぇ。まあ、それがエリシアの役に立つならば、何も問題は無いさ」


 ダルカスは肩をすくめる。と、そこにナターシアが声を挟む。


「近くにまた敵が居るわ」

「ああ、流石にそれならわかる。あんだけでかい気配なら、誰だって気付くさ」

「向かうのかしら?」

「もちろん、そのために来たんだからな」


 ダルカスはそういうと、剣を抜く。それに習い、全員が武器を構えた。

 その強い気配の元に行くと、そこにはハイオーク2体にホブゴブリン──ウーダン村で取り逃がしたあの剣士ホブゴブリンがいた。


「グガガ、待ッテイタゾ、にんげん」

「あの時の……!」


 シーヴェルクは驚きと共にタワーシールドを構える。あのホブゴブリンは異質の強さだった。並みの冒険者では10秒と持たない実力者だ。だからこそ、シーヴェルクが相手をする敵である。


「盾カ、貴様ノオ陰デ生贄ヲ献上デキナカッタナ」


 ホブゴブリンはそう言うと、剣を構える。


「貴様トノ決着、今ココデ着ケルカ! 煩ワシイ女モ居ナイシナ!」

「臨むところだ!」


 むしろ、今ここに居る人員の中で唯一対抗できるのは、シーヴェルクのみであろう。それほどまでの相手である。


「グガガ、我ガ名ハ“イチロウ”! 貴様ヲ殺ス名ダ!」

「ネームドかよ!」


 ダルカスが驚嘆の声を上げる。それも無理もないだろう。ネームドモンスターは別格に強いのだ。ゴブリンの強さを【鉄級】とするなら、ホブゴブリンで【銀級】中位、そのネームドならば【金級】下位に相当すると推測されるからだ。ネームドは自ら名乗り出ることは無く、その強さから畏怖されて人間に付けられる場合と、他の魔族が与えるパターンがあるとされている。今回は後者のパターンだろう。


「ハイオーク共、雑魚ヲ片付ケテオケ」

「ブヒッ!」


 ハイオークは斧を構えると、ダルカスとアンデロッソをそれぞれ狙って行動を開始した。


「ヴィレディは俺の援護を、ビアルさんはアンデロッソ、ナターシアは状況を見てシーヴェルクさんを援護してくれ!」


 ダルカスの指示に、こちらのパーティも動き出す。

 シーヴェルクたちの戦いの火蓋が切って卸されたのだった。




 あたしは泣きつかれてしばらく眠っていたようだった。

 お母さんと色々話す時間を貰ったお陰で、あたしの精神はだいぶ回復したように思う。それに、寝ていたお陰か魔力も回復していた。

 あたしに布がかけてあり、お母さんは近くには居なくなっていた。それは仕方ないだろう。お母さんは村でも有数の回復術士なのだ。あたしが寝てしまった以上、持ち場に戻って仕事をするのは当然である。

 机の上にはお母さんの手紙が残されていた。読むと、この教会にシエラが、他の子供達と一緒に避難しているから、子供達を守って欲しいとの事であった。


「せっかく村に戻ってきたのだし、シエラとも会わないとね!」


 あたしの可愛いシエラに会うことも、リナーシス村に戻ってきた理由の一つである。あとは家に残っているカガクノートの回収だ。

 こんなことになってしまって、ひどく狼狽してしまったけれど、あたしの家族は無事だったのだ。ならばあたしは、あたしのするべきことをするのが一番だろう。

 しばらく歩いていると、シスターをやっているマリアさんを見かけた。


「エリシアちゃん、起きたんだ」

「ええ、どうやら泣きつかれて寝ちゃったみたいね」


 あたしが照れたように言うと、マリアさんはあたしの顔色をみて満足そうに頷いた。


「うんうん、やぱっりエリシアちゃんには元気な姿が似合うわ。教会に入った時は思いつめていたような表情をしていたから、心配したわよ」

「ありがとう。って元気な姿が似合わない人なんて居ないと思うんだけどね」

「ふふ、そこまで軽口が叩けるぐらいなら、もう大丈夫ね」


 マリアさんはこんな時だと言うのに花の様に笑ってくれる。ならば、外ではシーヴェルクさんや他の神官騎士さんたちが頑張ってくれているのだろう。あたしも、もうしばらくしたら彼らの手助けに行こう。だって、この村はあたしの故郷なんだからね。


「そういえば、シエラは?」

「ちょうどこの部屋よ。今はみんな眠っているわ。12歳から14歳の子は別の部屋で遊んでいるけれどね」


 ちょうど生意気盛りの子達か、それなら素直に寝てはくれないだろう。魔物が来たら、男の子は率先して剣を握るであろう年齢である。


「そう、寝ているなら仕方ないわね。他に護衛は居るのかしら?」

「一応、扉は全て目張りして入ってこれないようにしているし、入り口は村の人が見張っているわ。だから私と、ローゼラ、アイリスの3人で子守をしているわね」


 ということは、余っている人員は居ないと言うことである。リナーシス村の教会は司祭様とシスターさん3人でやっているのだ。

 教会の掃除や懺悔を聞いたり、色々忙しそうにしているのを見たことがある。そもそも、あたしはこの教会である程度の教養を学んだのだから、知らないほうがまずいのだけれどね。

 まあ、位置的に村の中心にある教会で女子供やけが人を匿うのは正しいだろう。ここを崩されると言うのは文字通り村が崩壊したことを意味するのだから。

 あたしがマリアさんと話していると、聞きなれた声が聞こえてきた。


「エリシア様」

「メリルさん、どうしたの?」


 いつも余裕の鉄面皮を崩したメリルさんを見るのは珍しかった。つまりは、何か良くないことが起こったのだろう。


「ゴブリンの大群が攻めてきました。その中に見慣れない魔物も居ます。あと、タカユキと思わしき人物の姿も確認できました」

「はぁ?」


 このタイミングで来るのか、あたしの運命の日!


「すぐに向かうわ。多分三宅はみんなで協力しないと抑えられないわ!」

「それが、シーヴェルク様、ナターシア様、ビアル様はウエルペット大森林に向かっておりまして……」

「……うそん」


 あたしは唖然とした。だって、勇者2人でも殺されるような野郎相手に、あたしとメリルさんだけで立ち向かわないといけないのだから。

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