村娘38→ゴブリン襲撃、再び
30,000pv感謝です♪
一時期バットエンドに近いネバーエンドにしようかと思っていたけれど、ノーマルエンドな感じに路線変更しようと思いました。
翌日、あたしたちはリナーシス村へ向かっていた。
ちなみに、シーヴェルクさんは別行動である。教会の騎士を10名率いてくるためである。
あたしたちの馬車とは別の馬車に乗って移動中である。
馬車の中でしばらく雑談をしながら窓の外を眺めていると、懐かしい風景が見えてきた。遠くに見えるのは放牧地帯である。ラマの乳を取ったり、羊から毛を刈ったりする場所である。ああ、帰ってきたんだなと思う反面、あのいくつも上がっている黒い煙は一体なんだろうか?
「メリルさん!」
「どうされました? エリシア様」
「あ、あ、あ、あれ見て!」
あたしの声は震えていた。そんな馬鹿なという思いもあるし、見えている光景が信じられなかったのもある。だからこそ、第三者に確認して欲しかったのだ。
あたしの声に、メリルさん、ナシャ、ビアルが指差した側の窓を覗き込む。
「……遅かったか!」
ビアルの言葉を聴いて、あたしは血の気がサーっと引いていくのがわかった。
え、ちょっと、遅かったかってどういうことよ!
「ゴブリンの大群が村を襲っているように見えます。エリシア様」
「う、うん、倒しに行かないと……」
なんとか気を持たせつつ、あたしは馬車で近くまで行くように指示を出した。あたしの村が襲われているなんて!
近くまで行き、適当なところで下りてあたしたちは放牧地区に駆けつける。村の男達が、あたしの顔見知りの人たちが一生懸命ボロボロの武器や農具を使ってゴブリンを倒していた。その中で先導を斬っていたのはあたしのお父さんだった。
「お父さん!」
「エリシア!」
あたしはロングソードを抜き放ち、お父さんの近くのゴブリンを叩き切る。
「お父さん、大丈夫?!」
「王都にいたはずじゃあ?!」
お互いかみ合わない。お父さんも目を白黒させているし、とりあえずこのゴブリンの群れを片付ける必要がありそうだった。ようやくあたしも冷静になってきた。
「みんな、このゴブリン達を片付けるわよ!」
「かしこまりました」
あたしが指示をしなくても、それぞれ村人と協力して、ゴブリンの群れの襲撃を攻撃していた。特にシーヴェルクさんが連れてきた神官騎士の小隊は圧倒的殲滅力を見せたのは流石であった。
ひとまず、落ち着いたのであたしたちは村まで案内してもらった。
この戦いで死者2名、負傷者多数と言った感じであったのは、ひとえにお父さんの指揮のおかげだったらしい。急いでいたから顔も見れていないが、確実にあたしの知った顔であるはずだ。
「お父さん」
「エリシア、良く帰ってきてくれた。いや、見違えたぞ。そうそう、お母さんもマーティもシエラも無事だ。ゴブリン共は女子供を狙うからな。一番安全地帯に逃げてもらっていたよ」
「よかった」
あたしはほっとする。あたしが連れてこられたのは、村の入り口に張ってある天幕であった。村を覆う壁も簡易ではあるがとりあえず進入は防げそうなものが出来ている。
「ここが、拠点だ。詳しい話は中に入ってからで構いませんか?」
「ええ、モチロンです」
天幕の中は武器になりそうなものが蓄えられており、村の大人達が怪我で苦しんでいた。回復術士のお母さんはおらず、もっと後方で重度の怪我の治療をしているそうだ。
この雰囲気はウーダン村に似ていた。
「では、来ていただいた皆さんにはちゃんと事情を説明しますか」
お父さんはそういうと、こちらに向き直った。いつもの狩りを頑張っているお父さんの顔ではなく、かつての冒険者としての顔をしていた。
「俺はエリシアの父親の、ダルカス・レインベルと言う。まあ、婿に入ったんでセカンドネームは昔のものだがな。これでも元【銅級冒険者】で、祝福は《剣士》だ。よろしくな」
「よろしくお願いします。私は王都よりエリシア様を守る盾として遣わされました、《神官騎士》シーヴェルク・エンティアナです。よろしくお願いします」
シーヴェルクさんが名乗ると、天幕の大人たちが驚きの声を上げる。「シーヴェルク様だと」「あのシーヴェルク様が?!」「おお、女神様は我らを見捨てなかった!」とものすごくありがたがっていた。
「あの魔獣殺しのシーヴェルクか! そいつはありがたい。まさに百人力だ!」
「いえ、お恥ずかしい。やんちゃしていた結果です。お忘れください」
シーヴェルクさんはそこまで勇名だったらしい。
魔獣と言うのは、大型の魔物を指すことが多い。もちろん知能は低いことが多いけれど、冒険者としては魔獣を討伐できるのはある種のステータスであるとナシャから聞いている。少なくとも、冒険者のランクとしては【金級】に届くほどのレベルであることの証左である。あったことないからあたしにはピンと来ないけれどね。
「で、こちらの別嬪さんと、兄ちゃんもエリシアの仲間か?」
「うん、そうよ」
あたしがチラリと見ると、メリルさんがお辞儀をする。
「エリシア様の侍女をさせていただいています、《細剣客》メリル・フェルメリアでございます。ダルカス様、以後お見知りおきを」
「ええっ?! フェルメリア?! フェルメリアって武門で有名なフェルメリア伯爵のところのご令嬢かよ……。いや、こんな貧相な村を守ってくれるんだったらありがたい話だけどさ」
案の定お父さんは驚く。あたしも驚いたし、お父さんもそりゃ驚くだろう。
「えーっと、すごい人ばっかりだから、インパクト弱いけど、《宝物探検家》ナターシア・デュ・エルナスです。エリシア様に雇われて斥候やってます」
「あー、亜人の嬢ちゃんか。ここなら良いが、村に入らない方がいいぞ。エリシアにそういう偏見がつくのが嫌だったんでそういう教育をしてきたから問題なく接しているだろうけど、この村も亜人にはあまり良い顔をしないんでな」
「はい、それはわかってます……」
耳をシュンとさせるナシャ。亜人に偏見を持って欲しくないと言うのは、お父さんが冒険者だったから来る発想なのだろう。そもそも、リナーシス村で亜人を見たことすらないけれどもね。
「で、最後になったが俺は《大魔法使い》ビネア・エーデルフィアだ。しがない魔法使い兼冒険者をやっている。今はエリシアに雇われて魔王退治の道中って訳だ。よろしく」
「ああ、キミの魔法にはさっきも助けられたよ。エリシアをよろしく」
と、一通り簡単に挨拶をしていき、ついでに村の防衛の幹部の人たちも挨拶をする。アンデロッソさん、フィヴァーナさん、ピーディアさんの4人がメインである。全員が30歳を超えたおじ様である。
「あれ、アルフレッドにヴィレディは?」
あたしが聞くと、アンデロッソさんが答えてくれた。
「アルは既に冒険者になると言って、7日ほど前に旅立ってしまったよ。道中ですれ違ったりしなかったのかい?」
「いえ、見ていないわね……」
居ないと聞いて、少し残念になるあたし。何だかんだと言ってアルフレッドとは長い付き合いであったので、会えないのは残念であったのは事実である。1週間ほど前ならばあたしが王都に居た時である。
「まあ、確かに。アルがいればこの事態もかなり楽だったかもしれないしな。エリシアちゃんが気になるのもわかる」
「ヴィレディの方は魔法使いとしてこの戦いに参加しているぞ。他の戦っているみんなと一緒にいるから、見に行くかな?」
あたしは少し考えて、首を横に振った。
「いえ、ここに残って状況を聞くわ。一応、あたしは冒険者パーティのリーダーだしね」
「そうか、エリシアがそういうなら」
お父さんがボソッと「まさかエリシアが剣を使う冒険者になるとはな……」とすごく悲しそうな感じでつぶやいていたけれど、仕方ないだろう。悲しいのはあたしもである。あたしだって村娘として過ごしたかったけれど、女神様がそうさせないのならば仕方の無いことである。
さて、現状についてお父さんから説明があった。
ゴブリンの最初の襲撃があったのは、およそ昨日の夕方ごろであった。大量のゴブリンが突如として村を襲ったのだ。事前の知識から女性や子供が浚われることは無かったそうだが、異様に強いゴブリン集団から家畜を守ることが出来ず、現状家畜は全滅だそうである。死傷者は襲撃の度に出ており、回復術士のお母さん達一同が頑張っても、追いつかないほど襲撃の頻度が高いそうだ。
「ゴブリンは都度倒しているのですか?」
「いえ、倒せても元冒険者の我々や冒険者を目指している子供達だけでは全体を10で割ったうちの2程しか倒せていないです」
「2割程度か……この装備に対してそれほど倒せていれば十分か」
お父さんは冒険者の頃の武器があるけれども、この村では武器はほとんど存在しない。だから、ほとんどが農具を武器として使用しているのである。
「一応、ダルカスさんの案で防衛線を作って守っているから何とか防げているけども、このままじゃジリ貧だってのはわかってるんだべさ……」
「街に使いを送ろうにも、それで送った使いは行方不明。街からの増援は絶望的だったんだ」
だから、あんた達がきてくれて助かったと言うことらしい。
「ゴブリンの拠点はどちらに?」
「たぶん、近場の森……と言っても、聖女の森の方ではなく、ウエルペット大森林の方から来ているみたいだな」
聖女の森と言うのは、アルフレッドたちが冒険者ごっこをしていた森である。ウエルペット大森林と比べて、魔物は弱い魔物しかおらず、どちらかと言うと野生動物のほうが強い森である。ウエルペット大森林は逆で、木の密度が高い自然森で魔物が多く住んでいるとされる森である。自然、人間はそちらの方には寄らなくなる。街道にも近いため、ギルドから頻繁に魔物の討伐依頼が出るそうである。
「しかし、なんでゴブリンが……?」
「ゴブリンだけじゃないな。今まで来たやつらの中にはゴボルドやオークも混じっていた。弱小魔物の混成軍だな」
「弱小魔物の混成軍……」
冒険者にとっては弱小と言うだけであり、村人にとっては害獣である。それはゴブリンの群れに滅ぼされかけたウーダン村をとってもわかることである。だからこそ、冒険者ギルドにはゴブリンの討伐依頼が絶えないのである。
「だ、ダルカスさーん!!」
「どうした?!」
大慌ての村人が天幕に入ってきた。
「ま、またゴブリン共が攻めてきた!」
「何だって?!」
あまりにも短い進行周期にあたし達は大慌てで現場に向かった。
初めて明らかになるエリシアの父親の名前!
ちなみに、ダルカスさんはセカンドネームがあるので、元々街のギルドに所属していました。
クエストの途中でエリシアの母と知り合い、意気投合して結婚となりました。