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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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冒険者の真似事2

 湖に向かう途中で何度か魔物との戦闘になった。ゴブリンや、野生動物である。

 流石に狼とかは出てきていないが、アルフレッドが自信を持つのもわかるほどにはちゃんと戦えていたと思う。

 なぜなら、あたしは怪我一つしていないからだ。

 アルフレッド等は良いところを見せているつもりなのだろうけど、あたしには戦闘を直視することは出来なかった。

 真っ二つにされたゴブリンや首を刎ねられたゴブリン、魔法で真っ黒焦げにされたゴボルトを見て、あたしは吐いてしまったからである。


「うぅ……」


 抑えきれなかったのは、そう言うものからお父さんやお母さんが遠ざけてくれていたからだろう。

 夢の中の人物も、直接こう言った光景を見たことが無かったので、当然ながらあたしにも耐性はない。


「大丈夫か? エリシア」


 ヴィレディがあたしの背中をさすってくれる。


「あんた達、よく平気ね……」

「まあ、慣れてるしな」

「冒険者になるつもりだしな」


 あたしはほとほと感心していた。

 そして、こう言うのには慣れたくないなと改めて思ったのだった。

 食べるために解体するのとは違う、ただの命の奪い合いなんて、あたしには散々だなと改めて思ったのだった。

 もし、あたしが転生者なら勇者にならなくてよかったと感謝するくらいである。

 そんなこんなであたしはアルフレッド達に守られながら、森の湖まで歩いていく。

 道中の魔物を討伐しながらであるが。

 その度にあたしは立ち止まってしまうので、思っていたよりも進行は遅れてしまっていた。


「エリシア、そろそろ慣れたか?」


 ケリィは意地悪そうな表情をしながら狼を叩き斬る。あたしに見せつけるかのように敵を屠るのは嫌がらせだろう。

 キャインと狼が断末魔の鳴き声をあげると同時にブチャっと音がして血が飛び散る。

 ケリィは確かに強いけれども、戦い方は非常に雑であった。

 おかげであたしは脳髄やら内臓が飛び散るのを何度も見る羽目になったし、そのせいで何度も吐いていた。


「慣れるわけないじゃない! 何考えてるのよ! 信じられない!」

「ははは。ま、いずれ慣れるさ」


 軽い感じで笑うケリィにあたしは殺意を覚える。

 ケリィの戦い方はアルフレッドよりも強いことをアピールするかの様な戦い方であった。

 まるであたしに見せつけるかのように戦い、あたしが視線を移すと入り込むように戦いの場所を移動するのだ。

 それをアルフレッドがやるならまだわかる。

 と言っても、アルフレッドはケリィほど楽には戦っていないが。

 しばらく見ていて思ったのは、アルフレッドとヴィレディは連携を取っているが、ケリィは全く取っていない感じがする事だった。

 そして、倒すたびにあたしの方を向いてニヤリと笑うのだ。不快にならない方がおかしい。

 そんな感じで、彼らの戦い方を見せられながらしばらく進むと、開けた場所が見えてくる。

 奥に湖っぽいのが見えるので、目的地だろう。

 あたし達は走っていくと、そこにようやくたどり着いた。

 湖は広く、水は済んでいて綺麗であった。


「うわぁー……」


 あたしは感動で声を上げる。


「すごいだろ?俺たちが見つけたんだぜ!」

「俺たちじゃなくて、俺な。アルフレッドは最近だろうに」


 ケリィがアルフレッドにそう言いながら小突く。

 まあ、でもそんなのは気にならない程には感動していたのは事実である。

 湖の淵は夢で見ていた海岸のように砂浜であり、容易に近づけそうだ。

 よく見てみると、湖のそばで鹿の様な生物……クヌーと言う草食動物が水を飲んでいるのが見える。


「この水飲めるの?」


 あたしが効くと、ケリィはうなづく。


「ああ、飲めるぞ。この湖は村の生活用水に使っている川の源流だしな」


 なるほど、それなら確かに安心して飲めそうだ。早速あたしは水を手で掬ってみる。

 すごく冷たい水で、森で消費した水分を補給したいと体が言っている様だった。

 飲んでみると、とても冷えていて美味しい水だった。

 皮袋の水筒に入っていた水とは大違いである。


「美味しい!」


 それに、先程まで感じていた吐き気もどこかにいく様な感じがした。

 清々しい感じである。

 精神的なダメージが回復した様な、そんな感じである。


「それに、何かとってもスッキリしたわ」

「その湖の水は消費した魔力を回復する効果があるらしいんだ。魔力は精神エネルギーから来ているって言われているからね。エリシアの受けた精神的ダメージを回復したのかもしれないよ」

「そんなこともあるのね。川の水を飲んだ時はそうでもないのにね」


 ヴィレディの解説に、あたしは納得する。

 源流ならば、そこから流れ出る水にも効果ありそうなのになと思う。


「だから、ここを拠点に魔物相手に稽古しているのね」


 合点がいった。

 回復手段があるなら、そこを拠点に“レベリング”をするのは夢の中でよくやっていたRPGでやる手段である。


「さすがエリシアだな。ルビーがいなかったら僕が娶るのに……」

「冗談」

「いや、アルフレッドが先に名乗り上げなかったらみんなエリシアとお付き合いをしたいと思ってるよ?」

「んなアホな」


 あたしはアルフレッド以外に言い寄られたことはない。

 アルフレッドが奇特な人なんだろうなと思っているぐらいだ。

 確かに、あたしはお母さんの血を濃く引き継いでいて金髪でお父さんに唯一似ている濃い紺色の瞳をしている。

 最近は肩こりの原因になっているおっぱいもそれなりにあるし……あれ?

 夢の中の人物からしてもあたしって……。


「あれ、結構可愛くない?」


 湖に写っている美少女はあたしだった。

 なんとまあ。

 そういえば、あたしの家には鏡がないのだ。


「ねえ、アルフレッド。この美人は誰かしら?」

「エリシアだよ。て言うか気づいてなかったのか?」

「あたしの家には鏡がないしね……。鏡があるのはヴィレディの家だけでしょ」


 村の人たちも兄さん達も、夢の中の人物基準で普通の顔をしていたので、てっきりあたしも普通の顔をしていると思っていた。

 そういえばお母さん、かなり美人だったものね。

 シエラも可愛いし。

 あ、それは当たり前だったわね。

 まあ、あたしの容姿はについてはいいのだ。

 夢の中で読んでいた小説で“乙女ゲーム”と言う女の子がやるゲームに出てくるライバル役の悪役令嬢に転生したわけでもないし、アルフレッド以外の男子はあきらめているようだし。


 さて、しばらくアルフレッド達の“良いところ”を見てたわけだけど、危惧していた事は起きず、日も傾いてきた。

 この時間ならシエラはご飯を作り始めているだろうし、あたしもそろそろ帰ったほうがいいだろう。


「ケリィ、そろそろ帰りたいんだけど」

「む、もうそんな時間か。俺たちは泊まるつもりだったんだが、アルフレッド、説明してなかったのか?」

「いやー、ハハハ」

「聞いてないわよ! もう、アルフレッド!」


 苦笑いでごまかすアルフレッドに、あたしは頭を抱えたくなる。

 いやー、ハハハじゃねぇよ。

 何が悲しくてケリィなんかと寝食をともにせねばならないのだ!


「んー、でもまあ、今から行っても森の半ばぐらいで完全に夜になるからな。湖近辺は安全だし、ヴィレディが魔物よけの魔法を使うから、ある程度は安全だ。だが、帰るとなると保証はできないぞ」


 アルフレッド達の実力はちゃんと見ていたし、この辺りに出没する野生動物に関してもちゃんと対応できているので、問題ないだろうけど……。

 両親を確実に心配させてしまうなと、頭が痛くなる。シエラも心配しそうだし。

 一応、出てくるときに「アルフレッドと出かけてくる」とだけは書き置きしているけど……。


「……仕方ないわ。あたしは何もしていなかったし、キャンプの準備ぐらいならするわ」


 と言うわけで、不本意ながらあたしはアルフレッド達と野宿をすることになった。

 村の掟で祝福前の姦淫は女性が男性を拐かしたとして、女性が処刑されてしまう。

 あたしはこんな愚かなことで死にたくはないので、ちゃんと自衛をする必要がある。

 ヴィレディにはルビーがいるけど、ケリィには居ないし、アルフレッドはあたしを狙っているのだ。

 なので、あたしがご飯を作るし、寝床はちゃんと分けるのだ。


「ルビーのより美味しい……!」


 ヴィレディは驚いていた様だが、お世辞として受け取っておく。

 ただのクヌー汁である。

 香辛料はヴィレディが持ってきていたので、クヌーの骨やアラで出汁を取って、食べられそうな野草をサッと煮立たせて、ちゃんと血抜きを行ったクヌーを捌いて焼いて鍋にぶち込んで煮ただけである。


「どういたしまして」


 出汁をとると言う考え方は、カテイカと言う調理実習の記憶から学んだものである。

 冒険者以外で男性が料理をすると言う事はないが、夢の中の世界では男性も料理ができるのが当たり前の世界だったので、そう言う知識があるのだ。

 まあ、コンブなんて海藻は内陸の村では取れないし、カツオブシと言う木屑みたいなものもない。

 あたしが取れる出汁は動物性の骨やアラから取れるものだけである。

 塩はたまにくる行商人の人たちから購入できるが、胡椒は高いので村長の家でしか取り扱っていない。


「気立ても良くて料理もうまいんじゃ、アルだけに任せるのが惜しくなるな」

「さすがエリシア!」


 普通にやってるだけなのに好感度が上がるのは、顔がいいからと言うのが原因だろう。

 まあ、今まで意識してなかったけど、男好きのする顔立ちだなとは思う。

 改めて親に守られてたんだなと感じつつ、祝福が良いものであればと切に願うものである。


 飯盒も終わり、することもないのでアルフレッド達の話を聞いていた。

 内容は、王都の冒険者のお話だったり、勇者様がどうのこうのと言う話である。

 ただ、あたしとしては気になったのが勇者様の名前である。

 夢の中で出てきたクラスメイトの名前が1人も出てきていないどころか、50年前の人魔大戦の時に召喚された勇者様の名前しか出てこないのだ。

 そういえば、異世界召喚後の夢は見ない。

 まあ、あたしの世界にも異世界なんていっぱいあるだろうし、あたしの世界に召喚されたわけじゃないか。

 そのうち夜も更けて来て、だいぶ眠くなる。


「エリシア、明日は早めに帰るからそろそろ寝たほうが良いよ」


 ヴィレディに言われて、もうそんな時間かと思う。

 空をみると月の位置からだいたい夜の9時ぐらいだと推測する。


「ん、そうするわ」

「最初は俺が見張ればいいかな」

「ああ、アル。よろしくな」


 夜の見張りはアルフレッド、ケリィ、ヴィレディの順に行うらしい。

 実際、冒険者の訓練として見張りの練習も兼ねてるそうだが、湖の周りは割と弱めの魔物か、草食動物ぐらいしか寄らないとはケリィの談である。

 まあ、メンバーの中では一番冒険者然としているので、そんなものかとあたしは考えていた。


 さて、この中で素直に寝てしまうのは阿呆のする事だ。

 アルフレッドが夜這いして来たら、ちょっとは考えるけれども、ケリィは絶対レイプしに来るだろう。

 夢の中では長らく男をやっていたのだ。

 ああいうヤンキー系が女に対して考えることなんて、ち◯こで考えてることだけだろう。

 というわけで、ある程度は自衛できるように対策をしておかねばならない。


【其は輝ける光、通り過ぎたものに警告を与えるものなり──《光雷(スタンピート)》】


 光と音のルーン文字を地面に描き、詠唱を行う。あたしの魔力を通して、ルーン文字が淡く光り、《光雷(スタンピート)》が地面に設置される。

 《光雷(スタンピート)》はあたしが考えた、暴漢が近づいて来たとき用の魔法である。

 この魔法を考えついたきっかけは、防犯ベルと言うアイテムである。

 この魔法を仕掛けた位置をまたぐと、物凄い光と音が鳴って不審者が近づいたことを知らせてくれると言う仕組みだ。

 我ながら良い魔法を思いついたものだと思ったものである。

 あとは、《灯火(トーチ)》と《回復(ヒール)》、《稲光(フラッシュバン)》なんかの生活で使える魔法、攻撃系は《火炎球(ファイアボール)》ぐらいなものである。

 これでもルーン文字は全種類暗記しているので、他の魔法もできそうではあるが、バレてはいけないため他は試していない。

 なんで覚えているのかと言われたら、12歳の頃の夢が原因で全く興味のなかった魔法に興味が湧き、コッソリ本を読んだりして覚えたと言うのが答えである。

 それまでは《灯火(トーチ)》しか使えなかったはずだ。

 お母さんの真似をして使えるようになった魔法だけれど、お母さんに怒られて以来と言う感じである。ルーン文字を全部覚えきったのはつい最近なのだけども。

 とりあえずは《光雷(スタンピート)》だけで大丈夫だろう。

 眠りは浅めにしたいけど、あたしが眠りが浅く寝たことはないので、若干不安である。


「……自意識過剰ね」


 不安はあるけど、信用しないのもそれはそれで問題なので、まあ寝るとしよう。

 襲われた時は……覚悟はしておくとしましょ。

 “人事を尽くして天命を待つ”……だったかしら?

 あたしの知らないことわざだけど、心境としてはこのことわざが一番しっくり来るので、そう言う気持ちで警戒をしつつ、あたしは横になったのだった。

エリシアは一般的に美人な部類の容姿設定です。

つまり、次回はそういう描写があるため閲覧注意です。

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[一言] 女が男にレ!されたら女が殺されるとか殺伐としてますね。怖すぎる……! アルくん、はやく娶ってあげてくれ……主人公が死ぬ目に遭う前に……。
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