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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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村娘34→はじめてのくえすと5

 ゴブリンの討伐目標値である20匹を達成したけれども、あたし達は女性の姿を見つけることはできていなかった。


「居ませんね……。あの広場の近く辺りにいると推測していたのですが」


 あたし達が主に捜索をしていた場所は、女性の遺体のある広場から半径10ヤード以内の場所であった。そこから、怪しい洞穴を見つけては探し、ゴブリンを討伐しと言うのを2回ほど行っている。


「もしかしたら、別の場所で殺されているのかもしれないわね。とりあえず、今日はここまでにして、遺体を持って帰れるだけ持って帰りましょ」


 ナシャの提案にあたしは直感ではあるけれども、なんだかいやな予感を感じた。だけれども、人道的にこのまま放置と言うのも、あたしとしてもどうかと思うので、あたしは結局ナシャに従うことにした。


「そうね。ただ、持って帰れる遺体にも限度があるから、他の遺体はこのまま残しておいて、遺品だけ持って帰りましょう。持って帰るのは腐敗が始まっている彼女のだけで良いかしら?」

「他の遺体はどういたしましょう?」

「近くの洞穴に、地面に草を敷いて《腐敗防止(プリザーバ)》をかけておくわ。後は入り口にバリケードを作っておけば、ゴブリンにこれ以上辱められることも無いと思うけれど、どうかしら?」


 あたしの提案に、ナシャ、ビアル、メリルさんが頷いた。


「……やるなら手早く済ませてしまおう。あまり長時間待機しておいて、ゴブリンの群れと遭遇したら厄介だからな」


 本当は、このまま遺体を放置した方が良い事はわかっていた。だけれど、あたしの心がそれを拒否したのだ。頭ではわかっているけれどと言うやつである。おそらくシーヴェルクさんも同じ考えなのだろう。

 結局、作業時間としては遺体の移動を含めて20分程度かかってしまった。近場のゴブリンは一掃したのか遭遇しなかったのは運が良かったかもしれない。

 損傷が激しく腐敗の始まった女性の遺体を持ってきていた麻袋に収納すると、ビアルがそれを抱える。


「よいしょっと。案外軽いんだな。抵抗が無いからってモノあるだろうけどさ」


 ビアルに任せたのは、単純に後衛であるからだ。シーヴェルクさんは前衛でタンクだしね。というわけで、あたしたちは来た道を戻り、森を抜けるために走り出した。


「ちょちょちょ! ストーップ!」


 ナシャがそういったのは、森を抜ける直前のことであった。あたしはすぐに指示を出す。


「全員隠れて!」


 あたしたちがすぐに隠れると、風の魔法があたし達がいた場所を切り裂いた。あたしはその魔法が《鎌鼬(エアカッター)》だとすぐに見抜いた。事実、魔法の当たった木はズタズタに切り裂かれ、今にも倒れそうになっていた。


「《鎌鼬(エアカッター)》……」

「《鎌鼬(エアカッター)》だと?! それはホブゴブリンが使う魔法じゃないか!」


 ゴブリンは風属性の魔法を使うとされている。通常のゴブリンが魔法を使うにしてもそよ風程度しか起こせないが、ホブゴブリンになると普通に攻撃魔法を使うのだ。

 どうやら、あの遺体は撒き餌だったようである。


「グゲゲ、斥候ノ帰リガ遅イカラ何カト思ッテイタガ、ヤハリにんげんハつよいものヲ派遣シテイタカ」


 片言ではあるが、種族共通交易語が聞こえてくる。あたしがちらりと木の影から除き見ると、やはりホブゴブリンが居た。それも、3体である。どう考えてもこれは銅級のクエストではない事態である。


「にんげんハ同族ノ遺体ヲ丁重ニ葬ル文化ガアルト()()()ハ言ッテイタガ、ヤハリ正シカッタヨウダナ」

「グゲゲ、にんげん、隠レテイテモ無駄ダ。我ラニ歯向カッタ事ヲ後悔サセテヤロウ」

「ひ、ひぃぃぃ、お助けくださいぃぃぃ!!」


 ホブゴブリンの1体がつれていたのは、ウーダン村の女性であった。女性の目には恐怖が宿っており、恐らくであるが人質なのだろう。いや、正しく言うならば、餌である。あたしたちが飛び出して助けに行くために、ホブゴブリン達の前に姿を現すための。

 ホブゴブリン3体は、それぞれ特徴がある。魔法使いに剣士、弓使いである。うかつに出れば魔法か弓の餌食になるだろう。だからこそ、メリルさんやシーヴェルクさんは様子を見ているのである。

 あたしは自分の魔力残量を確認する。意識を自分の内側に向けるだけだけれど、まだ60%程度は残っている感じであった。ならば、全員に肉体強化の魔法をかけると良いだろう。特に主力のメリルさんとシーヴェルクさんに動いてもらい、剣士のホブゴブリンをしとめてもらう必要がある。《肉体強化(ブレス)》を改造して、パーティ全体が強化されるように変える必要がある。魔法大全には載ってないけれど、あたしならば出来る。

 あたしはルーン文字を描く。ルーン文字で魔法の骨子を設定する。詠唱で属性と範囲を固定する。


【原初の力よ、全てを照らす光よ、大いなる炎の力よ、我等に敵を打ち滅ぼす力を与えたまえ。──《天使の息(ライトニングブレス)》!】


 あたしの詠唱が成功し、あたしを含むパーティメンバーの肉体強化が成功した。若干強化されすぎている感じがするけれども、炎のルーンを多めにしてしまったからであろう。


「エリシア様!」

「メリルさん、シーヴェルクさんと連携して、剣士の方をお願い」

「わかりました」

「ナシャは弓の方をお願い。あたしとビアルで人質と魔法の方をなんとかするわ」

「わかった」

「わかったわ、エル、気をつけてね」


 他にもゴブリンが取り巻きとして結構な数がいるけれども、先にホブゴブリンを討伐しないとどうしようもないだろう。人質の女性は1人、魔法使いに捕まっている。あたしはロングソードを鞘から引き抜くと、メリルさんに目配せをする。


「わかりました。では、お先に」


 シーヴェルクさんが盾を構え先に出る。その後を追うようにメリルさん、ナシャ、あたし、ビアルの順に続く。すぐにシーヴェルクさんとメリルさんが剣士のホブゴブリンとの戦闘に入る。あたしとビアル、ナシャはそれぞれ散会し、自分の相手と戦う。

 あたしとビアルは魔法使いのホブゴブリンに攻撃を試みた。あたしが前衛でビアルが後衛である。


「ビアルは隙を見て女の子を助けて上げて!」

「おうよ!」


 残念ながら1対2ではない。ゴブリンも相手にしないといけないのだ。特に弓と魔法についているゴブリンは多い。あたしはロングソードを振り回して、ゴブリンを蹴散らす。


「《鎌鼬(エアカッター)》!」

「《空気玉(シャボン)》!」


 あたしはゴブリンを倒しつつも、ルーン文字で魔法を作る。カウンターマジックと言うやつである。《鎌鼬(エアカッター)》を《空気玉(シャボン)》で閉じ込めて攻撃を受けないようにすると言う魔法だ。


「ヒュー、さすがエリシアだな」

「のんき言ってないで援護して欲しいわね!」

「あいよ、それじゃあ雑魚を片付けますかね」


 そういうと、ビアルは詠唱を始める。


【炎の聖霊よ、我に力を貸し給え。追尾する炎で我が敵を打ち滅ぼしたまえ。多くのものを巻き込み喰らう炎の玉よ、我が魔力を喰らいて顕現せよ。──《火炎球(ファイアボール)》!】


 あたしのものとは異なる10個の《火炎球(ファイアボール)》を出現させるビアルは流石の魔力量と言うべきだろう。《火炎球(ファイアボール)》はゴブリンを次々と消し炭にする。今回は討伐証明を気にしていない様子である。

 ビアルのおかげでホブゴブリンまでの道が出来たので、あたしは一気にホブゴブリンとの間合いをつめる。まずは人質の女性を確保するのだ。


「やあっ!」

「グガッ! チッ!」


 ホブゴブリンが握っていた紐を断ち切り、あたしは蹴りを入れる。ホブゴブリンが体制を崩してよろめいている隙に、女性を確保する。


「ビアル!」

「任せておけっての!」


 あたしに追いついたビアルに女性を引き渡し、あたしはロングソードを構えなおす。


「えいっ!」


 あたしの振った剣は空を切る。ホブゴブリンが上手くかわしたためである。5回ほど振ったけれども、あたしの攻撃は当たらなかった。確かにあたしは剣は得意ではないけれども、ここまであたらないと自信をなくしそうである。


「グガガ、むすめ、ソノ程度カ?」

「あたしは魔法が得意なの!」

「グガガ、不意打チト奇襲ガ得意ナダケデハ自慢ニモナラナイゾ」

「うるさい」


 数度切りかかるも、全て回避するホブゴブリン。流石は知能のあるゴブリンである。このゴブリンの剣士としての技量も高そうである。あたしがチラリと周りを見ると、剣士のホブゴブリンはまだ生き残っており、メリルさんと激しい戦いをしていた。弓は翻弄されている様子ではあるけれど、倒すにはいたっていない感じであった。

 あたしの考えでは、メリルさんとシーヴェルクさんの組が一番初めに討伐を完了させて、ナシャ、あたしとビアルの順に手助けをしてくれると想定していたけれど、あの剣士のホブゴブリンは相当のつわもののようであった。

 この目の前のホブゴブリンにも、あたしの剣術は通用しないのだ。ならば、あたしは魔法を使うしかないと判断した。《天使の息(ライトニングブレス)》の効果はまだ続いてそうだったし、あたしは試してみることにした。


「はぁっ!」


 あたしの強撃をホブゴブリンは大きく後ろに飛びのいて回避する。なので、あたしはそれに合わせて《火炎球(ファイアボール)》を放つ。


「《火炎球(ファイアボール)》!」


 3つの誘導性のある炎の塊がルーン文字から放たれる。


「グガッ! 《水流弾(ウォーターバレット)》!」


 ホブゴブリンは無詠唱で魔法を唱えた。しかし、あたしの《火炎球(ファイアボール)》を打ち消すには威力が足らず、避けきれなかった球が当たり、ホブゴブリンの腕を焼いた。


「グガガガガッ!!」


 さすがに、手が大やけどになればゴブリンでも悲鳴を上げるか。あたしはすぐにルーンで次の魔法を組み立てる。水と火の逆ルーン文字を組み合わせると、氷になる。それに、檻のイメージを組み合わせる。氷の檻みたいな魔法である《氷檻(アイスケージ)》。これをいじって、下から氷の槍が突き出すイメージに変換する。


【原初の力よ、母なる水よ、すべてを止める炎の力よ、悪しき愚か者を滅ぼす槍となれ──《千本氷槍(アイススケウァー)》!】


 あたしの魔法が発動し、ホブゴブリンの周りの温度が一気に下がる。


「?!」


 ホブゴブリンは警戒心を上げるが、地面から突き出す氷の槍に反応できず、3本の槍に串刺しにされてしまった。

 あ、やばい。魔力がほぼ残ってない……。

 あたしは魔力が底をついてその場に倒れてしまった。

この話のラスボス戦です。

次回で「はじめてのくえすと」は終了です。


※12/6 一部追記しました。

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