村娘26→新たな仲間の加入
エレベーターでエルウィンさんと合流して、あたしたちはそのままエストにある冒険者ギルドに向かった。
「エルウィンさんが募集した人ってどんな人かしら?」
「そうですね、非常に元気な魔法使いですよ。エリシアのような万能型ではなくて、魔法特化型と言ったほうが適当ですね」
「魔力量が多い人なんですか?」
「ああ、魔力量だけならエリシアの2倍強はあるんじゃないでしょうか」
あたしの2倍強の魔力量というのはなかなかの魔法使いである。あたしも普通の人に比べて若干魔力量が多い程度なんだけど、本格的に《魔法使い》の祝福を受けている人は魔力量が多い。ただ、一般的には普通の人の1.5倍程度が一般的である。つまり、あたしは魔法使いとしては魔力量が足りないのである。それを技量とルーン魔術で補っているイメージだ。
「それは魔法使いとして期待できそうですね」
メリルさんがうなづく。確かにあたしは魔法使いとしては中途半端なのだ。技量は高いが使える量が少ない。あたしが魔法の解析が簡単にできてしまうのは【魔女術】のおかげだと思うけれども、それを差し引いてもマイナスなのが魔力量の心許なさだろう。あたしも外側にある魔力を使えるように訓練しようかな? まあ、一般に魔法を使えば使うほど魔力量と言うのは上がっていくので、繰り返し魔法を使っていればそのうち上がるだろう。
あたしが自分自身の魔法使いとしての技量を上げる事について考えているうちに、あたしたちはどうやら冒険者ギルドに到着したようだった。入り口のところにはシーヴェルクさんが先日の神官の出で立ちとは異なり、プレートメールにタワーシールドを背負い、ツーハンドソードを腰に携えた騎士然とした出で立ちで待機していた。あたしを見つけると、ガシャンガシャンと音を立てながら歩み寄ってくる。
「エリシア様、お待ちしておりました」
「こんにちは、シーヴェルクさん。待たせたみたいで申し訳ないわ」
「いえ、自分も先ほど訓練と昼食が終わり、来たばかりでしたので問題ありません」
そんなシーヴェルクさんに、エルウィンさんがフフッと笑いながら馬車から降りてきた。
「相変わらず硬い男だね、ヴェル」
「エルか、久しいな、友よ」
「そういうところが硬いんだって」
エルウィンさんが今まで見たこと無いくらいに親しげに話していると言うことは、やはりエルウィンさんの知り合いだったらしい。
「エルよ、お前も魔王討伐の旅に出るのか?」
「陛下から命じられればそれもやぶさかではないけれどね。生憎、それが出来る身ではないんだよ。僕としてはエリシアと旅をするのはとても魅力的な話ではあるんだけれどね」
「フッ、確かに、エリシア様はお前の初恋の人に似ているものな」
「やめてくれよ、ヴェル。確かに若干見た目は似ているけどね」
どうやらあたしの見た目はエルウィンさんの好みのタイプだったらしい。そりゃ好みのタイプの女の子にはやさしくなるよなと、あたしは納得していた。それにしても、エルウィンさんは来ないのか。それはそれですごく残念である。そういえば、エルウィンさんって何歳だっけ?
あたしの疑問はさておき、今日の冒険者ギルドは騒然となっていた。よく考えれば当然である。エルウィンさんをはじめ貴族として名の通っている人物が入ってきたのだ。場違いも甚だしい。
「やあ、エルウィン」
「エイリアム、元気にしていたかい?」
「もちろんさ、エリシアも元気そうでなにより」
「いえ、おとといはどうも」
待っていたのはエイリアムさんだった。隣にはローブを着た男性に、軽装備の女性が1人と受付の人がいた。彼らが今回パーティに入ってくれる人になるのかな。それにしても、エルウィンさんは顔が広い。エイリアムさんとも知り合いだとは。
「エルウィンさんはエイリアムさんとも知り合いだったのね」
「ああ、彼は僕が冒険者時代のパーティメンバーだったんですよ」
「と言っても、僕たちが16歳の頃の1年だけだったけどねー。いや懐かしい」
「あの後は父さんの言いつけで魔法学園に入学する必要があったからね」
いろいろと突っ込みどころの多いエルウィンさんの経歴であるが、とりあえず話を進めたい。受付の人がそわそわしているし、魔法使いのお兄さんが手持ち無沙汰だしね。
「そういえば、エルウィンさん。あたしたちの仲間になってくれる魔法使いと言うのはそちらの方ですか?」
「ん、ああ。エイリアムは魔法の研究で忙しいと言うことなので、彼に優れた魔法使いを見繕ってもらいました」
「魔王討伐の旅ということなんで、人選には苦労したがね。魔法使いは基本、未知への探求と研究に熱心だからさ」
「それはエイリアムも人のことをいえないだろう?」
「ははは」
エイリアムさんは笑ってごまかす。
「彼はビネア、ビネア・エーデルフィアだ。僕の知る中では一番の詠唱魔法の使い手だ。ビネア、彼女はエリシア、エリシア・フェルギリティナ。知ってると思うけど、《英雄》の祝福を持つルーン魔法の使い手だ」
「よろしく、エリシア様。エリシアと呼んで良いかい? 俺はあんまり敬語苦手なんでね」
「ええ、構わないわ。そもそも、あたしリナーシス村出身の村娘だから、様付けは苦手なのよね」
ビネアくんが気安い人でよかったと思うあたし。ニッコリと微笑むと、「え、映像で見てたより美人で困る」とぼそりとつぶやいた。
「で、そっちの方はあたしの募集に応じてくれた斥候ができる方かしら?」
あたしが聞くと、受付の人が待ってましたとばかりに話し始めた。
「ええ、ええ! そうよ、《宝物探検家》の祝福の我がギルドが保障する美少女冒険者のナターシアちゃんよ。単独でダンジョンの探索からお宝の収集までできるし、たまに我がギルドでの会計のお手伝いまでやってくれる子よ。当然ながら身分はギルドが保証しているし、犯罪歴は一切無し! それに……」
「えっと、自己紹介して言いかしら、アメリ?」
「え、あ、はい、大丈夫ですよ!」
暴走する受付の人──アメリと言うらしいが、を抑えて、ナターシアは自己紹介を始める。
「私はナターシア、ナターシア・デュ・エルナスよ。冒険者兼トレジャーハンターをやっているわ。よろしくね、エリシア様」
「村出身なら呼び捨てで構わないわ、ナターシア」
「それなら、私のことはナシャで、エリシアのことはエルでいいかしら?」
「ええ、構わないわ。よろしくね、ナシャ」
ちなみに、《宝物探検家》は《盗賊》から派生する【銅級祝福】である。そのため、犯罪歴については細かく調査されるのだ。《盗賊》はいわゆる基本祝福と呼ばれるものであるため、単に《盗賊》だからといって犯罪者とは限らないのである。ただ、《盗賊》の祝福所持者は基本的に犯罪者が圧倒的に多いのは事実であるが。
ナシャは褐色の肌を多く露出させたトレジャーハンターらしい服装をしている。耳は狼の耳をしており、尻尾も狼であることから亜人であることがわかる。名前からエルナス村出身だということがわかるが、年齢は当然ながらあたしより年上のお姉さんのようである。見た目から、22歳だろうか? 人懐っこい笑みである。
そして、あたしは珍しいとも思った。亜人で《盗賊》の祝福ならば、奴隷として売られてもおかしくないのだ。父親がよほど娘のことを好きだとしても、亜人で《盗賊》ならば、村八分にされるか、凄惨ないじめにあうか、こっそりと奴隷として売られるかに決まっているのだ。エルナス村はよほど亜人に優しい村なのだろうなとあたしは思った。もちろん、あたしとしてはそんなものは胸糞悪い行為だとわかってはいるのだけれどね。ただ、この世界の常識なだけである。
せっかく亜人の設定あるし、使わないともったいないよね。
それに、けもみみ褐色美少女とかいいじゃない!