冒険者の真似事1
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なるべく毎日18:00に更新するのを続けていきたいです!
別の小説は気が向いたらちまちま更新します笑
「エリシア」
「はい? ってアルフレッドじゃない」
ちょうど家事も終わり一息ついていた時間であった。
玄関から知り合いの男性の声がしたので顔を出す。
「エリシア、家事は終わったのか?」
「ええ、終わったところよ。今日は何の用かしら?」
アルフレッドは女神様から剣の祝福を受けた少年である。
2歳年上の16歳で、平凡な顔の少年だ。
栗色の髪に藍色の瞳をしている。
アルフレッドはなぜかあたしに好意があるらしく、まあこの村から出ることがなければアルフレッドと結婚するんだろうなとは思っていた。
村の結婚は基本的に男性の気持ちが優先される。
女性が嫁ぐという形が基本的な考えのため、あたしに決定権はない。
そう考えると、村娘というのは基本的には誰かに決められた人生を送るしかないのだなと感じる。
あたしにしてみれば今更ではあるが。
「ああ、エリシアと話したいと思ってな」
ここは軽くあしらってもいいかなと思う。
特にあたしから話すこともないし。
この時期なら、どう考えても女神さまの祝福についての話だろう。
「エリシアは女神の祝福を受けたらどうするんだ?」
やっぱりそうだった。
まあ、どういう祝福であれあたしは祝福に従って生きるしかないだろう。
「あたしは、女神様からの祝福の通りに生きるだけね。どのような祝福を受けても、女のあたしには生き方なんて選べるものじゃないし」
「そ、そうか……」
女同士の会話では、祝福を受けたらという話はしない。
それを気にしたところでしょうがないのだ。
だから話題にならない。
気にするのは男の子だけだ。
「アルフレッドはどうするの?」
「俺か? 俺は勇者様の仲間になれるような戦士になろうと思っているさ!」
「そうなんだ。じゃあアルフレッドはアスティン兄さんのように『冒険者』になるの?」
「ああ、せっかく女神様から《剣士》の祝福を受けたしな」
アルフレッドが受けた祝福は、正確に言うならば《剣士》の祝福である。
一般的な祝福で剣の才能が飛躍的に向上するのだ。
たしか、スキルと言うものを習得するとか聞いたことがある。
夢の世界の小説ではよくある設定だなと感じるし、夢の中の人も神様を名乗る人からそういうものをもらっていたはずだ。
あたしには夢の中の人がもらっていたスキルはわからないけれども。
「それなら、いつ村を出ていくのかしら? 村には冒険者ギルドもないから冒険者になるなら早めに村を出発したほうが良いと思うけど……」
「俺はエリシアと一緒に世界に出たいんだ」
「はい?」
アルフレッドは何を言っているのであろうか?
あたしの女神様からの祝福がどういうものになるかわからないのに。
「アルフレッド……」
「なんで俺をそんなかわいそうな目で見るんだよ。俺は本気だからな!」
「あたしの祝福がどうなるかわからないじゃない」
「祝福なんて関係ないさ。どっちみちこのまま村に残っていても、俺とエリシアは結婚するんだし、いいだろ?」
冒険者は危険な仕事だと聞く。
魔物を倒したり、依頼を聞いたりして生計を立てる仕事だ。
男の子ならば誰もがあこがれる職業なのには理由があって、一部の英雄様や勇者様みたいな特出した存在は基本的に冒険者を経由して成り上がっていくのだ。
自分もそういうものになれるかもしれないと思って、戦闘系の祝福を受けた男の子は冒険者になるのだ。
もちろん、誰もがそう言ったものになれるわけではない。
お父さんも銅級冒険者から出世できずに諦めて戻ってきた人なのだ。
そういったものに、戦闘系の祝福がない人間がなろうとすると、普通はギルドにお断りされる。
当たり前ではあるけれども。
それでも諦めきれずになろうとする人もいるとお父さんから聞いているけれど、その人たちの末路は聞いていない。
「関係あるわよ。どっちにしても、あたしはまだ祝福を受けていないんだから、どうしようもないわよ」
「いや、俺がちゃんと守るから大丈夫だよ!」
それのどこが大丈夫なのかがわからない。
「ええっと……」
あたしが返答に困っていると、アルフレッドがあたしの手を掴む。
「とりあえず、俺の稽古を見ていてくれないか?」
「……はぁ、わかったわ」
アルフレッドはあたしのことになると諦めが悪いのだ。ここまで言われたら付き合わないのも酷だろう。
あたしはアルフレッドに手を引かれるままに稽古場に向かうことになった。
アルフレッドが稽古しているのは、実際の魔物相手らしい。
両親から入らないようにと言われている森の入り口まで連れて来られる。
「アルフレッド……! 森の中って聞いていないわよ!」
「大丈夫だって、みんなもいるから」
みんなと言うのは、村にいる冒険者崩れの戦士と、顔見知りの魔法使いのことかしら。
戦士の方は顔見知りとはいえあたしのことを舐め回すように見る。
「アル、エリシアを連れてきたのか」
「ああ、ケリィが言ってたように、せっかくだから俺がエリシアを守れるって事を証明したくてさ」
「なら良いところ見せれるように頑張らないとな!」
ケリィはアルフレッドより3つ年上の《重剣士》だ。
15の時に村を出てしばらく冒険者をやっていた人で、最近は村に戻って来ている男だ。
見た目はマッシブボディだけど、グレードソードを扱うならばこれくらい無いと振り回せないだろう。
15歳の頃でも結構筋肉があったのだから、これぐらいに成長していてもおかしくはないかなと思う。
「……エリシアは基本後衛のボクから離れないようにしてね」
夢の中ならインテリメガネと言う愛称が似合いそうなのは、村長の次男坊で《魔術師》の祝福を受けた、ヴィレディである。
ヴィレディはアルフレッドと同い年で、村長が自慢していた「自慢の息子」である。と言っても、村長代理をやっているのは長男のザリアスである。
「ヴィレディはルビーちゃんは連れてきてないんだ?」
「ルビーは今日は呼んでいないよ。アルに譲るさ」
まあ、村の中の人間関係ならば知らない間柄ではないので、ちょっと安心する。
ちなみに、ルビーはヴィレディの婚約者で《回復師》の祝福を受けている。
「え、ちょっと。ヒーラー居ないとまずいんじゃないの?」
あたしの忠告に、ケリィが胸を叩く。
「大丈夫さ!これまで入って魔物と戦ったりしてたけど、回復魔法は不要だったしな! 大船に乗ったつもりで安心してくれ!」
「泥でできてなきゃ良いわね……」
あたしの中で夢の中で読んだ小説の一節が流れる。“大船に乗ったつもりで居たら座礁した”である。
何の小説かはよくわからないけど、ロクなことにならないだろうなと感じて余計にゲンナリする。
立ち入り禁止の森は、魔物が出現するのだ。
入り口付近はゴブリンやスライム、コボルトと言った魔物が出現するが、奥に行けば奥に行くほど強い魔物が出現する。
お父さんがよくよくあたしたちに言って聞かせているので、入らないのが一番なんだけどな……。
まあ、行く気満々アルフレッド達に反対したところで、あたしは彼らを振り切れないことはわかっているし、しょうがないだろう。
大人しくついていくことにした。
森の中は、獣道が続いている感じで獣道近辺はそれなりに明るい。
獣道から外れれば、魔物の領域だ。
それに、魔物以外にも凶暴な動物がいたりしそうである。夢の知識だと、こう言う森では一番気をつけるべきは熊だったりする。
あたしの世界の赤毛熊と同じ種類と言うのはわかるが、「ツキノワグマ」みたいに普段は大人しいとかは聞かない。
お父さん曰く、赤毛熊は肉食の動物で、返り血のように真っ赤な赤毛をした熊である。
火の季節は動植物が活性化するので、そう言う危険動物にも気をつけた方がいいだろう。
それなりに奥の方まで歩いてきていた。
獣道も今までの広いものではなく、頼りない細い道になっていて、足場も悪い。
あたしが履いている靴ではうまく動けなさそうだ。いざという時は魔法、使わないといけないだろうなぁと考えてやっぱりゲンナリする。
祝福も無いのに魔法が使えると言うのは異常なことであるとお母さんから散々言われているのだ。
幼少の頃、6歳の頃にはすでに《点火》の魔法は使えるのだけど、お母さん以外は知らないし、お母さんは内緒にしてくれている。
と、アルフレッドの足が止まり、考え事をしていたあたしはアルフレッドの背中にぶつかる。
「あいたっ!」
「エリシア、ごめんよ」
「いや、ボンヤリしてたのはこっちだから……」
あたしはアルフレッドに謝る。
「それじゃあ、アル、ヴィレディ。今日はこの辺りで魔物を倒す訓練をしようか」
ケリィはそう言うと、獣道から外れた方向を指差す。
「ああ、いつもの湖の近くね」
「そうだ。あの辺りなら行き慣れているし、結構ひらけているから逸れる心配もないしな」
どうやらいつもの狩場に到着したようだった。
アルフレッドに引っ張られている間も、ケリィとヴィレディが魔物や野生生物を倒していたので、ここから1人で戻ることはあたしにはできないだろう。
例の「薄い本」みたいにされても、逃げられないだろう。
まあ、祝福を受けていない女性への姦淫は、あたしの村では死罪らしいからしないだろうけど。
「それじゃあ湖に向かうよ。エリシア、足元には注意してね」
ヴィレディに言われるまでもない。木の根や草であまり足元が見えない状態なのだ。
「わかってるわ」
スカートの裾は絶対汚れてしまうだろうな。
お母さんにも怒られること請け合いだ。憂鬱な気分になりながら、あたしはアルフレッド達についていくのであった。
実際、男尊女卑の村だと婚約は村長が決めちゃいそうですよね。
この村では男が好きだと宣言したら父親の反対がない限りは婚約といった感じです。
また、冒険者はこの世界においても男の子の憧れの職業No1です。