村娘24→エリシアとトラウマ
あたしはファンゴルドさんに魔力回復用ポーションをもらい、飲んだ。味が伝わりやすいように前世の世界の飲み物で例えるならば、炭酸の無いラムネである。飲み口は非常にすっきりしていておいしいのだけれど、何か物足りない感がある。ただ、精神的な疲労はかなり回復したし普通に活動するならばこの一本で十分だろう。ただ、1本40エリンもするポーションをもらえるのはやはり気が引けてしまう。
「ありがとう、助かるわ」
「いえいえ、こう言う時のための魔力回復ポーションですからね」
実際、あたしに与えられた100万エリン──金貨1000枚があるので、経費として出費しても良いのだけれど、ここは温情を受け取っておくことにした。
「エリシア様には後ほど、【鉄級】のギルドカードを発行しましょう。明日には準備できると思いますから、取りに来てください」
「わかったわ」
しかし、本当に様付けはむず痒い。15歳の女の子にいい大人がへこへこしているのを見るのも嫌なものである。これではお嬢様が増長してしまうのも納得である。流石に武家出身のメリルさんには奢りとかは無さそうだけれども、平民と貴族の区分けはキッチリとしているように感じる。
「さて、晴れて冒険者ギルドの一員となったわけですけど、エリシア様はどんな仲間を求めているんですか?」
「斥候ができる人ね。エルウィンさんがどう言う人を手配しているかはわからないけど、冒険には必要な技能だからね」
根拠は、前世でやっていたRPGと言うゲームである。あたしの世界とはまた違うファンタジー世界を冒険するゲームでは、勇者、魔法使い、僧侶、戦士、盗賊が基本メンバーだった。ジョブチェンジできるけれど。戦士、魔法使い、僧侶兼戦士が仲間なのだから、仲間にするべきは盗賊である。
もちろん、《盗賊》は犯罪者がなりやすい祝福だから、斥候の技能を持っている人が必要なわけである。
「斥候ですね。まあ、すぐに見つかると思いますよ」
「そうだったらいいわね」
実際、冒険者としては最低限必要なスキルな訳だし、すぐ見つかってくれないと困る。
「手配書はすぐに作成させましょう。この時間から募集をかければ、明日の夕暮れ時には3人ほど集まると思うので、その時になったらお越しください」
ちなみに、エイリアムさんは別の要件があると言うことで、ファンゴルドさんと一緒に別れることになった。
ギルドに戻ると、受付の人が待っていた。
「お待ちしておりました。その様子だと、試験は合格したみたいですね。いやー炎の塊が2発も打ち上がった時はびっくりしましたよ!」
受付の人が言うように、確かにギルド内は騒然となっていた。まあ、あれはあたしが最大限に使える魔法であって、あれをするとほとんど魔力は尽きてしまうからやらないけどね。
「では、仲間募集の依頼ですね。マスターは自分がやっておくように言ってましたけど、やはり自分自身で依頼をした方が、いい人がきやすいのは事実なので、早速作っちゃいましょう♪」
受付まで行くと、受付の人は窓口でそう断言した。それにしてもよく回る口である。ものすごく早口言葉が得意そうだ。
早速書き込むための羊皮紙を取り出している。
「ではでは、ご希望を言ってくださいな。代筆しますよ♪」
「え、あ、はい。それじゃあ、斥候の技能がある方で」
あたしの注文に、受付の人は難しい顔をする。
「斥候、ですか?」
「ええ、冒険者と言うのは死と隣り合わせの危険な仕事でしょ。偵察ができたり、罠を見破って解除できたりと言うのは冒険者として必須の技能だと思うのよね」
「なるほど! そう言われればそうですね!」
「まあいきなり魔王討伐だとか、ダンジョン攻略とかはしないから、基本的なことが出来る斥候がいると安心よね」
「ほうほう」
あたしの要望に対して、ダルヴレク語で仲間募集の記述をする受付の人。結構達筆だなと思って見ていると、一瞬余計な加筆をされた気がする。
「メリル」
「はい、美少女限定と書き込まれましたね」
「いやいやいや、何書いてるんです?」
あたしが慌てて止めると、満面の笑みを浮かべて、こう断言した。
「もちろん、エリシア様もメリル様も美少女じゃないですか! なら、無粋な男を加入させるなんてもってのほかです♪」
すでに手遅れである。シーヴェルクは美形では無いし、極めて真面目そうな人物であるから、問題は起こらないと確信を持てるが、このままではシーヴェルクのハーレムパーティが完成してしまう。まあ、リーダーはあたしなわけであるが。
「で、チョチョイのチョイっと! できました!」
にこやかに完成した募集の書かれた羊皮紙を見せてくる受付の人に、あたしはそれを取り上げようとする。
「さすがに美少女パーティとかダメよ!」
「いや、それがいいんじゃ無いですか! 早速掲示してきますね♪」
「ちょ、待って! 待ちなさいよ!」
結局、あたしの抵抗むなしく掲示されてしまう。何だこの受付の人は! 押しが強くてびっくりだよ!
あたしはため息をついて、掲示板を眺めるのであった。
眺めている最中にふと、気づいたことがある。クエストボードの中に賞金首と書かれた区画があったのだ。
明らかに悪い人相の賞金首の中に、一人見たことのある人物がいた。
ケリィ・デュ・リナーシスである。
生死を問わず、懸賞金は10万エリンとあった。罪状は、勇者の姦淫未遂および婦女暴行、奴隷の不法所持である。
一応解説すると、この国では奴隷の所持は認められていない。王城で仕えている奴隷も、侍女として働いている建前である。奴隷と言うのは暗黙の了解で表立って所持できるものでは無いのだ。
これも王様が貴族を処罰した前例があり、亜人を暴行奴隷にしていた貴族は広場で市民に石を投げつけられる刑になったらしいと言う。
奴隷ハーレムはこの国では絶望的だなとあたしは感じた。あたしはふと思ったのだった。あたしには関係がないのだけれどね!
でも、実際にあたしの姉は奴隷として売られていっているわけだから、どこに行ってしまったのだろう。もしかして他所の国だろうか?
「エリシア様、手配書を見てどうかされましたか?」
「え、いや……」
まさか、ケリィの顔を見て奴隷に売られた姉の心配をしていたなんて言えない。
「ああ、これがエリシア様を襲った強姦魔ですね」
「……う、うん」
あたしとしては確かに怖かった恐怖は残っているものの、その後に起こった出来事が圧倒的に印象的であったため、若干印象が薄い。とは言っても、ケリィを思い出すと立派な息子を思い出し、恐怖が蘇るわけだけれども。
「エリシア様、震えてますよ?」
「え……?」
メリルさんに指摘されて、あたしはあの日の出来事がトラウマになっている事を理解したのだった。メリルさんに肩を抱かれて、賞金首の掲示板から引き離される。
「大丈夫です、エリシア様。彼は全国に指名手配されています。彼は盗賊に落ちるかしか道はありません。エリシア様の前に再び現れることはありませんよ」
「あ、ありがとう……」
精一杯慰めてくれるメリルさんの優しさに触れつつも、そのセリフはフラグだなと感じるあたしは、前世に汚染されてもうダメかもしれない。ただ、ケリィの手配書を見て確信したことがある。それは、おそらくケリィと必ず決着をつける必要があると言うことであった。
本人が思っていた以上にトラウマになっているパターンです。
PTSDと言うやつですね。
今のエリシアは男の勃起したナニを見るだけで震え上がる状態です。
エリシアの明日は百合なのか?!