村娘23→冒険者登録試験
お待たせしました。
ストックがある程度できたので、また毎日投稿していきます。
カウンターの前で受付の人を待っていると、羊皮紙を渡される。ギルドに登録する際の同意事項だそうだ。
何が書いてあるかと言うと、冒険者として最低限守りますって内容と、クエストで命を失ったとしても保障はしないこと、犯罪やギルドの名誉を傷つけた場合は除名処分をする場合があることなどである。
不意にあたしはケリィを思い出した。強姦魔はどうなるのだろうか。女の敵ではあるけれども、冒険者は荒くれも多い職業である。そういうことが黙認されている可能性もある。女性の冒険者もいるし、そこらへんはどう整合性を付けているのかあたしは若干気になった。
あたしは規約を読んでサインをする。エリシア・デュ・リナーシスではなく、エリシア・レアネ・フェルギリティナと記載する。種族交易共通語で書かれていて安心したのは言うまでもない。あたしはダルヴレク語は読み書きがまだ得意ではないのだ。
「はい、確認しました。ありがとうございます。このまま本登録の手続きをしますね!」
「ええ?」
「では、試験内容が決まり次第お声をかけさせていただきますね」
あれ、あたし本登録するって言ったっけ? と疑問に思いつつ、受付の人を見送ってしまった。仕方がないので戻ってくるまで待つことになるあたしたち。
そう言えば、メリルさんは強そうだけど冒険者なのだろうか? あたしが彼女を見ると、あたしの疑問を察してくれたのか答えてくれた。
「私は騎士としての訓練は受けておりますが、冒険者としての活動はありませんよ」
「……そう言えば、冒険者ギルドに入る時嫌そうな顔をしていたもんね」
まあ、普通に考えて貴族の子女が好き好んで冒険者になるなどと言うのはないのかもしれないなとあたしは思った。
「貴族で冒険者になると言うのは、準男爵の男性がほとんどです。冒険者として材を成し、武勲を上げれば男爵になれますからね。侍女や執事も、働きの評価により最大で使えていた方と同じ爵位まで昇格というのもあります」
「そうなんだ」
「ええ、準男爵は1代爵位がほとんどですからね」
1代爵位と言うのは、その人物のみに爵位を認められると国が認定している爵位である。あたしやティアナのような祝福によって爵位が与えられた場合がほとんどだったはずである。
「あれ、メリルさんの爵位って?」
「私はフェルメリア伯爵令嬢です。普通、伯爵令嬢が公爵家や王家以外に侍女として仕えることはありません。ですので、私は陛下からエリシア様に仕えるよう命令を受けておりますのでご心配は要りません」
「そ、そうなんですね」
「ええ、それに王家に仕える侍女の中でも武に優れていたのは私、メリルでしたので。フェルメリア伯爵家は武門に名高いアーキボルト侯爵に連なる派閥に属しております。故に、私がエリシア様と共に魔王との戦いに赴くのをお父様もお母様も大変喜んでおりました」
「お、おう……」
この人あたしより偉い人だった!
と言うか、そう言う侍女制度があるのは、上位の爵位の人と関係を持ちたいとか、あわよくば結婚してほしいとかそう言う思惑があっての制度だそうだ。もちろん、男爵以降になると長男長女が侍女として仕えるのは不可とされているらしい。
あたしが驚いていると、ギルドカウンターから受付の人がやってくる。試験の準備ができたのかな。
「エリシア様、試験の準備ができました」
「わかったわ」
あたしは立ち上がる。
「では、案内しますね。武器はこちらで用意したものが試験場にありますので、そちらを使用してください」
「あ、はい」
奥に入ると、訓練設備のある場所に出た。その中の一角に開けた場所がありそこが試験場のようだ。
「今回の試験は冒険者と言うよりは戦士としてどの程度の力量があるかどうかを見る試験になります」
「今回はと言うと他にもあるんですか?」
「ええ、もちろんです。長いくて大きいものであればサバイバル実地訓練なんかがありますね」
「条件とかあるんですか?」
「基準はありますけど、秘密です」
試験場の真ん中には、中肉中背の剣を持って待っている人がいた。その傍に、魔法使いの姿をした人がいた。あたしは武器にロングソードの木剣を選ぶ。
「ギルドマスター、エリシア様を案内しました」
声をかけられて反応したのは剣士の方だった。
「ああ、ありがとう」
剣士はそう言うと、あたしの方に向き直った。
「貴女がフェルギリティナ卿ですか。ようこそ冒険者ギルドへ」
「エリシアです。よろしくお願いしますね」
あたしはわざとそう言った。みんなエリシア様エリシア様と言うのが煩わしいのだ。正直むず痒い。あたしはただの村娘だと言いたい。色々と知ってしまった今では完全に難しい望みではあるだろうけれど。
「ええ、私が剣術を見る、ギルドマスターのファンゴルド、こっちが……」
「エイリアムだ。君の魔法がどれくらい使えるのかを判定させてもらうよ」
おお、敬語を使わない人だ! あたしが嬉しくなったのは言うまでも無い。
「……まあ良い。では、先に剣術の試験について解説させていただきますか。と言っても、そこまでは難しく無いんですがね」
ファンゴルドさんはそう言うと木剣を構える。
「私が良いと言うまで私と剣の打ち合いをしてもらいます。剣で語ると言うことですね。多少打ち身や痣が出来るかもしれませんが、ご容赦を」
あたしに語るほどの剣術の心得があるわけでも無い。クリスティアさんからは、1週間で1月ほど成長をしていると褒められてはいるけれども、それは箱詰めで練習したからであり、クリスティアさんの指導が良かっただけの話である。
あたしに必要なのは強敵を倒すための剣でも、成り上がるための剣でもなく、自分を守るための剣である。化け物のように戦うことが上手くなった雄大くんや真人くんとあたしは違うのだ。
だけれども、今、女神様から警告された通り、自分の身に脅威が迫っている。ならば、三宅からあたしの身を守るために戦う必要があるのだ。
「……よろしくおねがいします!」
あたしは覚悟を決めて、剣を構える。
「それでは僕たちは下がっていましょうか、エリシアの侍女さん?」
「はい、そうですね」
メリルさんとエイリアムさんが一定範囲まで下がったのが合図でファンゴルドさんが動き出す。実質、立っていた場所から消えて、あたしは動けなかった。ピタッとあたしの顔面の横に木剣が止まる。なにこの人、強すぎない?!
「ふむ、《剣豪》レベルはまだ見極められない感じか」
「へっ?!」
《剣豪》レベルって言いましたよ。あの、一瞬で目の前から消えたんですけれど、【銀級祝福】でそのレベルなんですか?!
「では、《剣士》の上位レベルはどうかな?」
ファンゴルドさんはそう言うと、元の位置に戻って構えなおす。
「え、ちょ、まっ!」
「魔物は待ってくれないぞ!」
今度は一応反応できるレベルで攻撃してきた。あたしはとっさに木剣で防御した。そのまま、ファンゴルドさんが木剣で打ち込んでくるので、あたしはなんとか木剣で受け止めることができた。
「ほらほら、防御してるだけでは魔物は退治できないぞ」
「うっ! くっ!」
なんとかついていけているだけなのに、剣術で反撃が出来るわけがない。ちょうど騎士さんが打ち込みの相手として訓練になるというレベルだろう。このレベルではあたしが出来るのは防御しながらルーンを書いて魔法を発動させるぐらいしかできない。今は剣術の試験中なので、使わないでおく。
「これならどうだ?」
「うっ!」
不意に来た挙動にも何とか対応できた。ちょうど、あたしが騎士さんに打ち込まれて何度も痛い目にあった箇所であった。
「これを防ぐか、ふむふむ、なるほど」
「くっ!」
と、ファンンゴルドさんは剣劇を止めて、距離を開けた。
「これなら、並大抵のレベルの魔物には対抗できるだろう。まだまだ成長の余地はあるし、まだ剣術を始めて1週間程度でこのレベルはさすがだなという感じだ。剣の防御に関しては間違いなく《剣客》初級はあるだろう」
「はぁっ、はぁっ」
一瞬のことであったけれど、あたしは完全に息が上がってしまっていた。
「けどまあ、まだ体力がしっかり作られていないみたいだから、そこを訓練したらいいだろう。打ち込みに関しては見ていないから何とも言い難いが、エリシア様は基本魔法で戦うんだろう? そこの侍女様は《剣豪》級みたいだし、問題ないだろう」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう、はぁ、ございます、はぁ……」
確かに、体力つくりに関してはさつきさんたちと一緒にサボりながらやっていたため、あまりついていないのは悲しい話である。騎士さんとの訓練である程度はついているつもりだったのだけれど。
「んー、じゃあ僕が魔法を見るのは少し体力が回復した後のほうが良いかな?」
「い、いえ、大丈夫です、ちょっと息を整えたら、詠唱ぐらい、できるわ、はぁ……」
あたしは深呼吸をして息を整える。膝に両手を置き、しっかりと息を吐いて吸う、数度繰り返すと息が整ってきた。これなら問題なく魔法を使えるとあたしは確信した。
「はい、これで大丈夫なはずよ」
「へぇ、結構早く整ったね」
「どういたしまして」
エイリアムさんはあたしを観察すると、何か納得したようにこう言った。
「魔力操作に関してはかなり、というか一流だね。後で第二祝福の確認をしたらいい。魔力操作は身体の機能の調整に通じるからね。僕でもここまでできるかはわからないけどね」
魔力操作、これはお母さんに言われてできるようになったものである。例えば、農業で疲れたときなんかは身体の魔力の流れを整えると若干であるけれども疲れが取れるのである。
「それじゃあ、魔法を使ってみようか。えーっと、杖は使わないのかい?」
「あ、あたしはルーンが使えるので」
「それはそれでかなり天才的というか、ルーン文字でも普通はステッキぐらいは持っているものだよ?」
「そ、そうなんだ。あたしは普通に指でなぞるだけで書けるから、杖なんかいらないかと……」
「うーん、魔法に関しては天才的な才能をもっているんだねぇ。僕、自信失くしちゃうよ」
エイリアムさんは苦笑しつつ、杖を手に持った。
「じゃあ、僕が唱える魔法を使ってみてよ」
【炎の聖霊よ、我に力を貸し給え。万物万象を破壊する力を我が前に顕現させよ。天空に我が魔力による太陽を顕現させ給え。──《爆炎暴風》!】
詠唱に伴い、杖に魔力が移動する。詠唱を解析すると、「炎の魔法を使います、自分の魔力だけではなく世界の魔力も使います、術名は《爆炎暴風》、位置は私の上空、最大距離を起点とします」と言ったところだろうか。魔法大全読んでおいて良かった。
詠唱が終わると、だいたい500ヤードの位置に爆炎の太陽が出来上がる。結構離れているが、地上でも爆風と熱風を感じる。
「さすがは我がギルド一の魔法使いですな」
「あー、まあ、エリシアならこれぐらい朝飯前だろ? 問題はエリシア自身の魔力量がどの程度かという事だけどさ」
「あたしには《爆炎暴風》は無理ね。さすがに魔力量はそこまで無いし」
それに、あたしは自分自身の内側にある魔力は使えるけれど、世界にある魔力を使うことはできない。そういう練習はしてこなかったからである。だけれども、あたしは術式は異なるし、似たような現象を起こす魔法は書けると思うので、試してみようかな。
あたしは風のルーンと火のルーンを構成を考えながら描き上げて行く。……威力は劣るだろうけど、あたしの魔力量の範囲内なら最大火力の魔法になるかな?
「ちょっと魔法を思いついたので試してみます」
【原初の力よ、全てを焼き尽くす炎よ、太陽のごとき光で闇を照らせ!──《太陽大嵐》!】
あたしは天空に魔力を放った。《爆炎暴風》とは異なる魔法が同じ位置に発生する。《爆炎暴風》が内側から巻き起こる大爆発ならば、《太陽大嵐》は炎の嵐を球状にしたものである。見た目は似ているけれど、威力は断然劣るし攻撃範囲も劣る。まあ、どちらも災害級であることは言わずもがなだけれど。ちなみに、あたしの魔力切れギリギリでようやく撃てる魔法なので、連射はできない。
「おお、おお! 即興で編み出したのかい? 僕の知らない魔法だ!」
「ええ、と言っても《爆炎暴風》を真似したうえであたしの魔力をギリギリ残す程魔力を食う魔法なので、微妙な出来栄えですけどね」
あたしは魔力がつきかけてその場にへたり込んでしまった。
「なるほど、エリシア様が《英雄》に選ばれたというのは、女神様のいたずらでは無かったのですね」
感心したようにそう言いながらメリルさんがあたしを支えてくれる。
「いや、すごいよ! 本当に!」
子供のようにはしゃぐエイリアムさん。
「まあ、ここまで力を見せられればな。エリシア様の冒険者ギルドへの本登録を認めよう」
やったー。よかったー。とメリルさんの腕の中で喜びつつ、あたしはふと疑問に思った。「あれ、仲間募集するだけなのになんであたしは本登録する必要があったんだろう」と。
イメージがつきにくいので、メタ的な説明をします。
《爆炎暴風》はMP50消費する炎系統の魔法です。
エリシアのMPは大体23なので、発動できません。
《太陽大嵐》はMP20の魔法です。炎と風を混合した魔法です。
威力は似たようなものになりますが、《爆炎暴風》は全体攻撃、《太陽大嵐》は範囲攻撃などの違いがあります。ちなみに、《火炎球》はMP3消費するイメージだと考えてもらえれば良いかと思います。
あと、MP23はエリシアの年齢だと若干多めになります。