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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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村娘21→神官騎士

 あたしはその日は教会に向かうことになってた。

 場所はウェリンフェルギンである。歩いて行こうと思ったけれども、あたしが城を出るといつの間にか傍に侍女──メイドさんの姿をしていないのだけれど、が居て、既に馬車の手配まで終わらせていた。腰に剣を挿しているので、戦闘も出来るのだろうか。鎧を着ており、護衛としてもバッチリである。


「エリシア様、どうぞこちらに」

「いや、貴女は誰なのよ」

「本日よりエリシア様付の侍女となりました、《細剣客》メリル・フェルメリアと申します。以後お見知りおきを」

「あたし、給料とか払えないわよ?!」

「向こう1年分の給与は陛下より頂いております。ご心配なく」


 あたしの脳裏に王様が高笑いしているのが過ぎった。

 《細剣客》は【銀級祝福】である。つまり、このメリルさんは良いとこのお嬢さんである。たぶんだけど、どこぞのご令嬢であっても間違いないはずである。その男性とも見間違えるような凛々しい立ち姿とか、あたしよりも強そうな雰囲気とかを考えても、この人が侍女をやっているのは色々と突っ込みどころがある。それに、良く見ると侍女の服装をしていないと髪型が短髪なのも相俟って男性にしか見えない。


「えーっと……」

「教会に向かうのでしょう? さ、早く向かいましょう」

「あ、はい」


 準男爵って侍女を侍らせても良かったっけ? とあたしは考えていた。なので、馬車に乗りつつ聞いてみる。


「メリルさん、あたしって準男爵じゃなかったっけ? ティアナと同じく」

「何を仰います。エリシア様は男爵でございますよ。フェルギリティナ男爵とは貴女のことになります、エリシア様」

「ん? 男爵って確か、領土が与えられるんじゃなかったっけ?」

「本来はそうですね。ただ、エリシア様は特別でございます。《英雄》故に世界を救う義務があるということで、国内であればどこでも許可無く立ち入り可能と言う特権が与えられています。……式典にて発表されていましたよ?」

「……いや、緊張して記憶飛んでたんだけど」

「なるほど」


 メリルさんに指摘されて、そういえばそうだったと思い出してきた。あたしはてっきり準男爵だろうと言う思い込みも作用していたのだろう。そんな地位を貰ったところで、あたしに何が出来るわけでもないんだけれども。そもそも、この間までただの村娘であったあたしに領地経営なんて出来るはずもない。

 ちなみに、準男爵は領地も与えられることも無いそうで、侍女・執事をやるのはこの爵位の人が非常に多いらしい。下積みとして貴族家の侍女としての仕事をするのだそう。もちろん、高貴な人には相応しい人が侍女として付くことが多く、伯爵令嬢が修行のために公爵家で侍女をしているケースがあるそうで、ウィータさんも伯爵令嬢だったらしい。だったと言うのはご令嬢として生きるよりは侍女として生きるのが性に合っていたからと言っていたけど。


「では、他に聞きたいことはございませんか? ほとんど忘れているのならばそれに答えるのも侍女の役目でございます」

「えっ、そ、そうだなぁ~」


 とりあえず、あたしの状況だけで良いだろう。あたしがどういう立場に置かれていて、どういう働きを期待されているのかがわかれは、自ずとどう動いたら良いかも決まるだろうし。


「それじゃあ、あたしの今の立場と、何を期待されているのかについて確認したいわ」

「畏まりました」


 メリルさんはコホンと咳払いをすると、あたしのおかれている現状について説明をしてくれた。ざっくりと箇条書きにするならば、こんな感じである。


 ・あたし、エリシア・レアネ・フェルギリティナは現在男爵の地位である。

 ・【白金級祝福】《英雄》を第1祝福としている。

 ・領土を持たない代わりにこの国の貴族はどの地位であってもあたしの訪問を拒むことは出来ない。

 ・魔王の討伐を期待されている。

 ・《英雄》としての行動が期待されている。

 ・貴族としての活躍は期待していない。


 もともと貴族の娘ではないのだから、貴族としての行動を求められても困るわけである。だから都合がいいといえば都合がいい。

 訪問を拒めないと言うのはおそらく、勇者的な働きを期待されているのだろう。例えば悪魔なんかだと貴族の心に巣食っていたり、貴族の屋敷に匿われていたりするわけで、そういうのを見逃すなと言うのが期待されているのだろう。

 あたしの推察を話すと、「おや、思っていたより地頭が良いのですね。元平民だと思って舐めていました。申し訳ありません」と謝られてしまった。まあ、あたしは所詮村娘だから舐められても仕方ないんだけれどもね。


 そうこうしているうちに、あたしたちの乗っている馬車が止まる。外を見ると立派な教会が建っていた。


「こちらが教会の本部になります。何人かの男性の勇者様もすでにここに立ち寄り、神官をつれて旅立ったと聞きます」

「そうなのね」


 あたしはまだ回復魔法を覚えては居ない。というか、祝福で《回復術士》系統が出ないとそれこそ覚えることすら困難なのである。一般には女神様からの愛が無ければ使えないとかだけど、あのアグレッシブな女神様の愛って何か似合わない気がする。あたしとしては許可と言った方がしっくり来るのよね。今度女神様が出てきたら、回復魔法を使う許可をくださいってお願いしてみようかしら。


「ユーダイ様を希望される女性神官は多かったのですが、既にマヒロ様とユーリ様と共に最前線に出発されてしまわれましたので、残念がる神官も多かったと聞きます」


 あれかな、勇者の子種狙いなのかな?

 まあ、強い男に女性が群がると言うのはわかる。祝福だって血筋がわりと大切なのだと最近知ったしね。

 あたしの場合は完全に特殊だけれども、お父さんが《剣士》でお母さんが《魔法使い》だったから、お母さん似のあたしはきっと本来は《魔法使い》の祝福を得ていたんじゃないかと推測していた。


「エリシア様、お手を」


 下りようとするとメリルさんが先回りして扉を開ける。まるでお嬢様みたいでなんだか恥ずかしいけれど、気分としては悪くは無いので、「ありがとう」と告げて下してもらう。

 この目の前の教会はでかい門があるけれども、実際に使われているのは門の真ん中にある普通サイズの扉である。この教会を使った大きな儀式が無い限りは開くことは無いそうで。


「お邪魔しまーす……」

「エリシア様、もうちょっと堂々としてください」


 あたしがメリルさんに文句を言われながら教会に入ると、ふくよかな体系をした司祭様がにこやかな笑みを浮かべて待っていた。


「おお、エリシア様。エルウィン様から連絡が着ておりましたので、お待ちしておりました」


 あたしの中の異世界冒険譚の知識が駆け巡る。こういう司祭様は腹黒の場合が多いのだ。まあ、目の前の司祭様がそうであるとは限らないけれど。


「お待たせして申し訳ありません、デファルン司教様。私は本日よりエリシア様の侍女となりましたメリルにございます」

「えーっと、エリシア・レアネ・フェルギリティナです。よろしくお願いします、司教様」


 司祭じゃなくて司教様だった! まあ口に出していないので些細なことであろう。あたしは貴族の口調に戻しつつ、淑女としての礼をする。頭のスイッチを貴族モードに切り替える感じだ。


「ええ、《英雄》フェルギリティナ男爵ですね。こちらこそよろしくお願いします。本日は我が教会の神官を一人所望と言うことで?」

「ええ、改めてわたくしから要件を言いますね。これから他の勇者様と同様に救世の旅に出ますので、回復魔法を使える方を一人、貸していただければとお伺いいたしました」

「なるほど。だが、残念ながらティアナ様は大司教としての教育が残っておりますので、別のものを遣わせますがよろしいですかな?」

「ええ、気を使っていただき感謝いたします、司教様。他の者で構いませんわ」

「ありがとうございます」


 司教様はそういうと、パンパンと手を鳴らした。すると、一人の男性の神官がやってきた。


「フェルギリティナ卿は魔法が得意だとお聞きしましてな。ただの神官よりは《神官騎士》の方が相応しいかと思ったしだいです。コヤツはシーヴェルク。シーヴェルク・エンティアナと言います。【銀級祝福】ですが、回復魔法は他の神官に比べて効果が高く、ツーハンドソードを片手で扱い、タワーシールドで敵の攻撃を防ぐことが出来るなど、【金級祝福】に成長する見込みのある者です。よろしければ遣ってやってください」

「フェルギリティナ卿、お初にお目にかかります。このシーヴェルク・エンティアナ、よろしければ貴女様をお守りできればと考えております」


 シーヴェルク・エンティアナは見た目から言えば、22歳だろうか。ゆったりゆとりのある神官服からですらわかるほどの鍛え上げた筋肉に、決して容姿がいい訳ではないが引き付けられる顔をしている。眉毛は太く髪の毛は短髪で力強い顔立ちをしている。あたしは直感だけれども、このシーヴェルクさんは信用できそうだと思った。


「……わたしは問題ありません。エルウィン様は何と申されておりましたか?」

「エルウィン様ですか。シーヴェルクの名を告げたところ問題ないと申されておりました」


 なら問題ないかな。あたしはそう決断すると、シーヴェルクさんを連れて行くことを告げたのであった。

 それにしても、王都についてから気になったことがある。王都は平民でも固有のセカンドネームを持っているのだろうか。あたしの知っている範囲だと、「デュ・村名」が一般的だと思っていたのだけれど。まあ、王都は人が非常に多いからセカンドネームがあったほうが便利そうではあるけれどね。


「フェルギリティナ卿、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いいたします」


 呼び名については後で改めるとして、後でエルウィンさんに報告しておこう。

 シーヴェルクさんには3日後にエストフェルギンの冒険者ギルドに集合することを告げて、あたし達は教会を後にした。

エリシアの口調が変わってきているのは、淑女としての教育を受けたせいです。


一部内容を手直ししました。

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