村娘20→女神様の警告
式典も終わり、あたしたちは解放された。ストレスでおなかが痛くなるなんてことが無くてよかったけれども、前に出て王様の前で何を言ったかなんてマチマチしか覚えていなかった。
これで、聖フェルギン王国が魔王討伐のために勇者を召喚したことが世の中に広まったわけである。勇者の面々はこれからこの世界へ壮大な冒険の旅が始まるのだろう。それぞれの勇者に支度金として100万エリンが渡されることになっている。パーティーメンバーも各個人の采配に任せるということで、男子の勇者のほとんどは冒険者として旅に出ることになっていた。
雄大くんと真人くんは、水木さんと共に最前線に向かって魔王を倒しに行くようではあるけれども、まあチート2人に回復魔法の使い手がいれば、問題なく対応できるだろう。
女子は他の勇者と冒険に出る者、街に残って必要な時に動くものと分かれている。
あたしはさつきさんたちと一緒に冒険しようかなと考えていた。一緒に行こうと誘われていたしね。あたしがそんなことを考えて部屋に戻ると、居てはいけない人が待っていた。
「こんにちは、エリシア」
「……なんであたしの部屋にいるんですか? 女神様」
神々しいお姿をされているし、一応信仰の対象なんだけれど直接会うと信仰心が揺らぐ女神様が、あたしにあてがわれた部屋で読書をされていたのだ。
「もちろん、エリシアに天啓を授けるためですよ。直接出向かないと、多分聞いてくれないでしょうからね」
「どういうことですか? あたしはさつきさんたち……勇者様たちと旅立とうと思っているのですけど」
「ええ、それを防ぐために、あえて降りて来たのですよ」
さつきさんたちとの旅を防ぐため? どういうことだろうか。
「では、天啓を。エリシアよ、大島さつき、柳生美来、駿河ひよりと旅をしてはなりません。彼女たち4人で旅をすると、大島さつき、柳生美来、駿河ひよりは堕ちた勇者によって殺害されます。女性のみで旅をしてはなりません。必ず男性を含めて旅をしなさい」
「え、それはどういう……?」
「そのままの意味ですよ。私としても勇者に死なれると困りますしね」
女神様は美しい顔でニコリと笑うと、あたしの肩をポンと叩く。いつの間にか周りの時間は止まっていたようで、あたしの身体は動かなかった。
「もちろん、エリシアに死なれても困りますが、こればかりは私にはどうしようもない運命です。誰と一緒に旅をするかは慎重に決めなさい。そのまま、エリシアの命に関わってきますからね」
「それってどういう?!」
「この先困難が待ち受けているので、信頼できる仲間を作りなさい。逃れえぬ運命の日はそう遠くないので剣術と魔術、両方を鍛えなさい。私が伝えることはそれだけですよ。それではまた会いましょう、エリシア」
女神様はそういうと、あたしの後方に歩いていった。そして、時は動き出した。
また、変な天啓である。要するに、あたしは勇者と組んではいけないと言うことなのだろう。それに、あたしはこの先仲間がいないと乗り越えられない困難が待ち受けていると言うことか。というか、直接出向いてくるのはどうかしているとしか言いようが無い。
あたしにそこまで肩入れされても困るのだ。剣術に関してはまだまだそれだけでは一般騎士さんに軽くあしらわれる程度である。魔法に関しては詠唱魔法をいくつか覚えたのだけれども、魔力量は一般的なのだ。まあ、いくつか新しい魔法を考え付いて、何個か実用的な生活魔法は作ったけれども。
「エリシア様? どうかされましたか?」
「ひゃい?!」
あたしが部屋の入り口で突っ立っていると、メイドさんに声をかけられた。まあ、自分の寝室前でぼうっと立っていたら不審に思うのは当たり前である。
「あ、ああ。ごめんなさい。ぼーってしてたわ」
「そうですか。では、何かありましたらお申し付けくださいね」
「ええ、ありがとう」
あたしはため息をつく。あそこまで具体的に“殺される”ことを女神様が予言したのだ。それに、“逃れえぬ運命”と言うのも気になる。誰を仲間にするのかはあたしの裁量だけど、あそこまで具体的に予言されると、さすがにあたしも天啓に逆らうわけにはいかない。あのレベルは警告レベルだしね。
どちらにしても、あたしはこの世界の住人なのだ。他所の世界の住人にあまり深く関わるなと言うことでもあるのだろう。あたしはそう考えることにした。
それにしても、女神様フットワーク軽いなーっとあたしは思ったのだった。
翌日、あたしは乗り気ではないけれども、さつきさんにお断りの話をしに行った。
「さつきさん、ごめんね。誘ってくれたのは嬉しいけれど、訳あって一緒に行けないんだ」
「えー、まあ確かに私たちのパーティーは前衛いないけど……」
「いや、本当は一緒に行きたいんだけどね。やむにやまれぬ事情があって……」
「エリシアちゃん理由教えてくれないの?」
「美来さん、ごめんね。流石に話して信じてもらえる気がしない」
「いや、気になるから教えてよ。エリシアちゃんが嘘つくような子じゃないことはわかっているから」
「わ、わかった」
結局、あたしは上手く断れずに昨日起こったことを話すのだった。半信半疑みたいな様子だけれども、そもそも元の世界にも神様みたいな人がいると言うのはさつきさんたちも知っていたので、納得はしてもらった。
「堕ちた勇者、ねぇ。それってたぶん、三宅ね」
「確かに、それ以外考えられないよ!」
「でも、あいつの吸収する能力を考えたら、私たちじゃ適わないことは事実ね」
「……」
あたしも、そんな危険なやつに狙われる理由は無い。それどころか、面識すらないはずなのだけど。
実際にどのレベルで危険人物かと言うと、城内での犠牲者が26人出ており、全員甲冑を残して消えたようになっていたらしいと言う話を聞いた時点で、三宅くんがいかに危険人物かがわかる。
いや、本当に狙われる理由がわかんないんだけれど。
「それだったら、その女神様? の警告に従ったほうがよさそうね」
「ごめんね、エリシアちゃん。さすがに私たちじゃ、三宅には適わないしー」
「いいよー。あたしからお断りしたわけだしね」
「でも、ごめん。その代わり、何かあったらいつでも連絡してね!」
「ありがとうー!」
こうして、あたしはさつきさんとはしばらく別行動をすることになった。仕方ないとはいえ、心苦しいものである。流石にあたしとしても、仲良くなったさつきさんたちに死んで欲しくはない。
さて、次はあたしを守ってくれる人を雇う必要がある。エルウィンさんは、国王直属の騎士だから難しいだろうし、こうなったら冒険者ギルドに行って依頼を出した方がいいかもしれないわ。まあ、一応伝えておいて損はないだろうから、エルウィンさんを探してみるけれどもね。
エルウィンさんは意外に簡単に見つかった。メイドさんに聞けば一発であった。そうそう、メイドさんメイドさんとあたしは言っているけど、侍女が正しいようであった。まあ、どう見てもメイドさんなので、メイドさんと呼び続けるけれども。
「エルウィンさん」
「ん? エリシア、どうしたんですか?」
エルウィンさんは図書室にいた。ちょうど椅子に座って何かの本を読んでいる最中であった。何の本を読んでいるのだろうか。あたしは近づいてその本を覗き込んだ。その本は領主の統治に関する内容の本で、エルウィンさんが読んでいるページは税金の話であった。
「難しい本を読んでるのね」
「……ああ、エリシアですか。ええ、これでも領主の息子ですからね」
「税金の利率の内容ね。何にどの程度かけるのかとか、そういうものかしら?」
「ああ、よくわかりましたね。所得税や住民税といったものですよ」
なんで、あたしがそれを理解できるのかというと、あたしの家の金銭管理はあたしがやっていたからである。税金の計算、売り上げの計算、家計簿の記帳はあたしの仕事だった。だから、何が言いたいのかと言うのはなんとなくではあるけれどもわかる。
それはそうと、エルウィンさんに相談があったのだ。
「そうそう、エルウィンさんに相談があるんだけれども、大丈夫かしら?」
「ええ、何でしょうか?」
「あたし、護衛を雇いたいんですけど、誰か当ては無いかしら?」
エルウィンさんはそう言われて、少し考える。
「当て、ですか……」
最初はエルウィンさんにお願いしたら良いかなとは思ったけれども、直属騎士を借りると言うのは恐れ多かった。なので、あたしは相談することにしたのだ。
「それじゃあ、私の方から知り合いの冒険者のパーティに聞いてみることにしましょう。エリシアはどちらにしても、世界中を巡って旅をするつもりでしょう?」
「ええ、一度リナーシス村に帰ってからにするつもりだけどね」
女神様がスローライフをさせるつもりがないと言うのだから、最終的にはそうなるのだろう。だから、自宅でちゃんと準備をしたかった。シエラにも会いたいしね。
「わかりました。ならば、その様に手配しておきましょう。それと、教会に立ち寄ると良いですよ。協力してくれる神官様もいらっしゃるでしょうしね」
「わかったわ。ありがとう、エルウィンさん」
「いやいや、お安いご用ですよ。ただ、準備に時間がかかるだろうし、3日は滞在しておいて欲しいですね」
「わかったわ」
「じゃあ、準備ができたら連絡をしましょう」
エルウィンさんはそう言うとにっこり笑った。一人で突っ走らないで、ちゃんと相談してよかったなとあたしは思ったのだった。
それじゃあ、次は神官──回復術師のスカウトである。あたしは教会に足を向けるのであった。
女神様は一貫して味方です。
そろそろ登場人物がわちゃわちゃしてきたので、エリシアが王都から旅立つタイミングで登場人物一覧を挟みます。
忠告→警告に変更