村娘19→勇者披露式典
あたしが写真を持ち帰ってから、勇者達がソワソワし始めたのは言うまでもなかった。みんな街に出たいのだなと言うのがわかる。そんな訓練とマナー講習の日々が3日続き、勇者披露式典の当日になった。といっても、会場は11階以降の本城ではなく、2階にある礼拝堂で行われることになった。
この国の法律についても教育を受けたのだけれど、【金級】以上の祝福を受けると自動的に準男爵の爵位が与えられることが決まっているようである。要するに、優秀な人材を取り込むことが狙いなのだそう。貴族の子供でも【銅級】だと平民落ちになるそうで、貴族の人たちは基本的に【銀級】がほとんどとなる。
ある程度の祝福を受けるための法則と言うものも研究されており、その祝福に相応しい行いや、能力を15歳までに身に着けていると、親の系統の祝福の【銀級】以上になりやすいと言う法則が見つけられている。なので、よほど努力をしてこなかったお嬢様は15歳の祝福で【銅級】または【鉄級】の祝福を受けて平民落ちをしてしまうお嬢様もいるそうな。
また、祝福がランクアップすると言うことも判明しており、【鉄級】の《村人》から【銅級】の《剣士》にランクアップすることはよくある話らしい。ただ、ランクアップまでかかる年数は最低20年と言われているので、1つ上の祝福まで上昇することまでは確認されている。ただ、【金級】から【白金級】に上がった前例は無く、《英雄》のように第2祝福として突然発現するもの、《勇者》のように異世界から召喚したものしかなりえないものが確認されている【白金級】の祝福であるとされている。
この国の統計として圧倒的に多いのが【銅級】、次に多いのが【鉄級】、【銀級】、【金級】と続き、【白金級】の祝福の人間はあたしを含めてこの国には3人のみだそうだ。
それを聞いて、あたしはどんだけーって思ったものである。そりゃ、特別視されてしかるべきと言うか、何というか。3人しか居ないのかよ。
ちなみに、【鉄級】が上のランクの【銅級】よりも少ないのは、鍛えれば割とかんたんにランクアップできるかららしい。【鉄級】は《村人》《町人》《都会っ子》の現状3種類で、サボりお嬢様は《都会っ子》なんだとか。このとりあえず『この人才能無かったので適当につけました』感のすごいラインナップにテキトーだなと思ったものである。
また、【金級】の祝福を最初から持っている人は、5年に一人程度なのだそうだ。最初から《英雄》と言う【白金級】はあたししか居ないらしいけど。
さて、式典の話に戻そう。
あたしはいつものように早起きして髪型を整えていた。染み付いた日課は体が疲れていても定時になれば起きれるし、スムーズに準備に入れるのは日ごろの習慣にしていたおかげであるだろう。どこかで「決意は弱い、仕組みは強い、習慣はもっと強い」と言う言葉を聞いたことがある。違うかもだけれど。
そして、いつものように整え終わったタイミングでメイドさんがやってくる。
「エリシア様、本日は式典となっていますので、より貴族らしい服装で参りましょう」
「えー、あたしとしては、いつも着ている戦闘用のドレスが良いんだけど……」
「ダメです。ハレの舞台で主役をなさるので、より可憐なドレスにせよとノーウェル様からも厳命されています」
「ノーウェル様から言われたら、仕方ないわね」
今日のドレスはあたしのイメージカラーらしい青を基調としたお姫様のようなドレスだった。
「このドレスは?」
「ノーウェル様からエリシア様にだそうです。ぜひ着て欲しいと」
「……わかりました」
見れば一発で似合うことがわかるようなドレスであるし、ノーウェル様から送られたものであるのだ。着ないわけには行かないだろう。ノーウェル様と確かに普段おしゃべりしているけれど、そこまで気に入られちゃったのかー。あたしも自覚あるけれど、お互い気の強いもの同士で意気投合しちゃったのかな。
いまだに苦手なコルセットでウエストをぎゅうぎゅう締め付けられながら、あたしはそんなことを考えていた。
エレベーターまで行くと、他の勇者様方も居た。男子は白い制服に赤い肩パッドがついており、ズボンは黒のスラックスである。肩から赤い紐が胸のブローチまで繋がっており、正装という感じ。女子はそれぞれのパーソナルカラーに合わせたドレスという感じである。黒髪にドレスって存外合わないな。
「あ、エリシアちゃん」
「ごきげんよう、さつきさん、美来さん、ひよりさん」
「おいっすー」
「私ドレスとか初めて着たよー」
あたしはさつきさんたちを見つけると、すぐにそっちの方に合流する。男子と交流すると、あたしが前世の彼に近づいてしまうだろうからである。特に滝沢や樺島とは絶対につるまないようにしないといけない。あたしは彼ではないのだ。もう一度明確に線引きする必要があるかもしれない。
あたしがそんなことを考えているということ顔に出さないように、さつきさんたちと雑談をしながら2階の礼拝堂まで案内された。
まだ準備中で、本番は昼の1時からであるためか、メイドさんと騎士さんが準備をしている最中だった。あたしたちが呼ばれたのは、当然ながらリハーサルのためだろう。あたしの予測は当たり、リハーサルをすることになったわけだけれどもね。
「エリシア様」
「はい、どうされました?」
このイベントを仕切るプロデューサーの役割を担っているヴィティリアン公爵様に声をかけられた。ヴィティリアン公爵様は鼻髭が特徴的な男性で、左目に豪華な片眼鏡を掛けている。確か、現在15歳で祝福を受けたばかりのご令嬢が居たと聞いたことがある。案の定ゴーバリア様の婚約者だったりするのだろうか。期待してしまうのは、前世の彼の気持ちであろう。
ちなみに、ゴーバリア様とゲルディナ様は双子だそうだ。共に16歳。やはり“乙女ゲーム”的なものを期待してしまう。ついでに、アイリス様は17歳、ノーウェル様は18歳なんだそうで。勇者様ならワンチャンありそうである。
「エリシア様に、今回の勇者代表としてユーダイ様と共に宣言をしていただきたいのですが、よろしいかな?」
「宣言、ですか?」
「はい、カンタンに言えば、わが国と協力し魔王を全て討伐しこの世界を救うと言う宣言になります」
「雄大さんとですか」
「はい、ユーダイ様は勇者に相応しいお力を持ちます。エリシア様はわが国出身の《英雄》。ならば、両者が立ち宣言するのが相応しいかと」
「はぁ……」
確かに、理屈で言えばそうなのだろう。そして、間違いなく王様とノーウェル様の推薦なのだろうことはカンタンに推測できる。
あたしとしては断りたい。だって、顔を公開されたら村に戻って農作業なんて許されない状態になってしまうからね。だけれども、王様ならまだしもノーウェル様からの推薦だと断れないだろう。
「いかがかな?」
「……わ、わかりました。お引き受けします」
「ほっ、良かった。お断りされたらノーウェル様に顔合わせが出来ませんでしたので」
やっぱりな。
確かにノーウェル様とは仲良いけれども、そこまで期待される言われない。それにあたしは勇者様方と比較しても弱いのだ。あたしが勝っている分野としては魔法と、礼儀作法ぐらいなものである。
それに、あたしはちゃんと魔道書を読んで理解することによって初めて魔法が使えるが、勇者様方はなんと“レベルアップ”すると新しい魔法を覚えてしまうのである。実際、意味がわからない。
あたしが苦労して覚えた《火炎球》も、すでに勇者様方は全員使えたりするのだ。あたしはそれを知って「ふぁ?!」っと声をあげたのは言うまでも無い。何てチートな連中だと、あたしは実感する羽目になったのを覚えている。特に雄大くんは、チート野郎の総本山である。どんな武器も使いこなす彼は、まさに正しく勇者様と言えるだろう。エルウィンさんですら、その辺に落ちていた木の棒で相手をして勝ててしまうのが雄大くんなのだ。話を聞く限りだと、現状雄大くんが一番レベルが低いらしいのだけれど……。
まあ、そんなわけで、リハーサルも終わり式典の本番が始まるのであった。
12時になり、式典が始まる。あたしと勇者様方の立ち位置は扉から向かって右奥である。
城の礼拝堂だけあり、様々な式典で使用されているようである。あたしの知る強化とは全く作りが異なっており、謁見の間のように王座があったりする。常設というわけではなく、さきほど設置したようではあるけれども。
貴族も結構な人数で参列しており、先日の急な謁見の時よりも人数が多い。噂によると、準男爵からそろっているそうである。まあ、あたしとティアナの2人の準男爵様が誕生するのだ。それに、勇者も召喚されたことが披露されるならば、集められるのも仕方のないことだろう。この式典が終わったら、立食パーティーが待っている。
ティアナは、神官の側に立っており、おろおろしている。もちろん、勇者側に立つあたし達も落ち着いた感じがしない。見せかけだけとは言えちゃんと立っているのは、勇者側の最前列にいるあたしと、雄大くん、真人くんぐらいなものである。もちろん、見せかけだけなのであたしは内心緊張しまくっていた。
緊張して待機していると、来てほしくない時間はあっという間に来てしまうもので、気づいたら勇者宣誓になっていた。
「ユーダイ様、エリシア様、どうぞこちらに」
「はい!」
「え、あ、はい」
元気に返事をした雄大くんはさすが“生徒会副会長”である。あたしは雄大くんの反応を聞いてようやく気づいた程である。ちなみに何がさすがなのかはあんまりわかっていないけれど。
「あれが勇者様ね」
「カッコいいわねー。お近づきになりたいわ」
と言う貴族のお嬢様の黄色いヒソヒソ声や、
「これで、我が領民も安心できる」
「戦況は思わしく無かったですからね。これで前線を押し上げられれば良いのですが」
と言うような、軍人さんの声が聞こえてくる気がした。完全に神経過敏である。
「では、勇者様、陛下へ宣誓をお願いします」
あたしは割と意識が飛んでたように思う。いや、原稿は丸暗記したんだけどね。宣誓も、気づいたら終わっていて、王様もノーウェル様も微笑んでいたから上手くいったのだろうけど、緊張のあまり覚えていなかった。
「よろしい。では、魔王討伐の暁には、勇者様には何らかの褒美を与えるとしよう。また、フェルギンの名において、勇者達の冒険が成功するように、様々な支援をすることを約束しよう」
「ありがたき幸せ」
え、旅に出るの。とあたしは思った。それなら、リナーシス村に戻っても文句は言われないし、何分勇者が35人もいるのだ。放っておけばあたしが居なくても魔王討伐はなされそうである。
だけれども、そういうのは女神様が絶対邪魔するであろう事は容易に想像つくし、あたしが《英雄》なのはすでに知られているのだ。《英雄》様への期待はあたしも知っているし、幼女向けの絵本にも王子様との結婚のお話だけでなく、《英雄》様との結婚のお話もあるくらいなのだ。ちなみに、当然ながら架空の英雄様だけれども。
「では、勇者様方はこちらへ」
貴族様の誘導に従い、降壇する。そのあと、あたしとティアナが準男爵に任命されたりといろいろあったのだけれど、式典のことを色々書いていってもつまらないので割愛する。あたしの出番さえ終われば、あとはつまらない儀式だからね。
だけれども、あたしはこの時この式典が城下町全体で見れるということと、エストフェルギンでも見れるということを知らなかった。この王都のみに存在する、記録水晶を応用した技術として映像を撮影した記録水晶の映像を別の記録水晶に投影するという技術があるらしい。このことはあたしが前世の記憶と混じっていたせいでそこまで気にしていなかったという落ち度もあるけれど、実はそういうものがあったらしいのだ。
そして、その映像をあたしを知らない人が見ているわけだけれども、見ている人が誰しもいい感情を持っているわけではなかった。まあ、成り上がりなんてそんなものだけれど、その人物のソレはただの逆恨みである事は、誰にでも理解できる事であった。
村人が《村人》の祝福を受けると男でも奴隷行きです。
【鉄級祝福】の奴隷は当然ながら価値は低いです。
他の【白金級祝福】は《剣神》《魔神》《御使》の3種が最大です。人類で到達できた人物は、いませんが、ここで定義しておきます。
次回は別の視点で書きます。