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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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町の観光2

 しばらく、街の中を馬車にゆられていると、馬車が停車した。馬車からの町並みは前世の彼的にはよくある中世ヨーロッパ的な町並みと言うのがわかりやすく適当なのだろう。実際は彼が想定しているものとは違い、町には魔力灯の街灯が並び、光を魔力で灯す仕組みが整っているため、村から見れば技術レベルが突出している。あたしから見ても、この街は異世界であった。


「なーんで、あたしの村、あんなに質素だったんだろうなー。魔力灯って村に無いし、蝋燭じゃないんだ……」

「ウェリンフェルギンは技術の試用を唯一認められている街ですからね。それに、貿易の顔となる街です。わが国はこのレベルの技術を持っているぞと言うのをアピールすることも含まれて居ますよ」

「この街だけしか普及されてないんじゃ意味が無いのでは?」

「もちろん、実用性が証明されたら近くの街から普及させていますよ」

「ふ~ん……」


 あたしはスマホで写真をパシャパシャ撮りながら、街を観察している。確か、通り過ぎてきた街にも王都の近くならば魔力灯はあったはずである。つまり、あたしの村にまだ技術が届いていないだけなのだろう。壁も良く見たらコンクリートっぽいものだし、破壊されてもすぐに修復される魔法が埋め込まれている。


「この壁、壊してもすぐに元通りになるのね」

「ほう? よくわかりましたね。その通り、これはこの町でしか使われていない素材ですが、魔力をこめると容易く修復される魔法が組み込まれていますよ」


 未来の技術だなと思う。転生前の世界でも、こういった技術は存在していなかったはずだ。まあ、彼の知っている範囲ではあるけれども。

 他にも、よく見れば色々と魔法の技術を使った日用品が色々なところで使われている。こんなにも色々な魔法が存在するんだということを認識したせいか、あたしの頭の中で色々とインスピレーションが沸いてきた。


「そうそう、魔道書ってこの店で売っているの?」

「ええ、エリシアの要望どおり、今回めぐるのは魔道書の店、観光名所、おいしい昼食が取れる場所ですからね。プランを考えるのは男性の役割ですよ」


 あれ、それってあたしとエルウィンさんのデートじゃない?

 あたしが一瞬固まったのを、金銭の心配だと受け取ったのか、エルウィンさんは余裕で答える。


「ああ、金銭の心配でしたらご心配なく。今回は私が持ちますので、遠慮せずに興味ある本を買って大丈夫ですよ」


 それは非常に悪い、悪いけれども、良く考えればあたしは無一文でリナーシア村から出てきたのだ。ならば、頼るしかない。


「ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」


 さっそく、あたしは目の前の魔導書店に入る。ダルヴレク語は固有名詞ぐらいしか読めない。というか、読めるようになったというのが正しい。なので、今は言った店が魔導書店だというのはちゃんと理解している。

 カランカランと扉に仕掛けられた鈴が鳴る。魔導書店というから、前世の彼のイメージを引きずっているあたしからすれば、暗くてジメっとしたイメージがあったが、この店はどちらかというと個人経営の古書店のイメージである。ああ、当然ながら前世の世界のという注釈がつくけれどもね。

 本の匂いとか、まさにそんな感じである。まあ、エッチな本はさすがに置いていなくて安心ではあるけれど。


「へぇ~……」


 あたしはその本の量の多さに感動する。さて、あたしも目的の本を探さないとな。

 あたしが今回探している本は、魔術大全──現在使われている詠唱魔法の呪文と効果が載っている本と、ルーン魔法に関する本である。まあ、魔術大全は簡単に見つかったけれども。やっぱり2千エリン──この国の通貨で、1エリンは1ドル程だと思ってもらったらいいけど、それぐらいする。村だと物々交換が多いけれど、たまに来る商人とは貨幣を使ってやり取りするのだ。あたしも算術計算ができるようになってから、そう言うお手伝いをたまにしてたものである。


「うーん、やっぱり無いわね」

「エリシアは何を探しているんです?」

「ルーンの魔道書よ」


 まあ、属性全てのルーンはきっちり暗記しているので、そこまで重要でも無いけれど、持っておきたいバイブルみたいなものである。


「ルーン、か。すみません、ご婦人。ルーンの魔道書は取り扱っていますか?」


 エルウィンさんがそう声を出すと、店の奥から小難しいおばさんが出てきた。


「ルーン? あるけど、ルーン魔法なんて誰が使うのかい?」

「こちらの少女ですよ」

「ふーん、でも、ルーン魔法なんて使える魔法使いはほとんど存在しないから、表には出してないよ。それに、興味本位で使えるようなものじゃ無いさ」


 そう、ルーン魔法は興味本位で使えるほど簡単では無い。それは何度も使ったことのあるあたしも理解している。特にイメージが難しいのだ。だからこそ、あたしは詠唱魔法と混ぜて使っているわけだしね。


「だから、ルーン魔法の魔道書は基本的には売らないのさ。その魔法大全で我慢しな」


 あたしとしてはまあ、ここで引き下がっても良かったけれども、エルウィンさんは引かなかった。


「いえ、彼女、エリシアはルーン魔法を使えますよ、ご婦人」

「ほう、なんなら見せてもらいたいものだね」


 なんかあたしを置いてけぼりに勝手に話が進んでいるが、まあルーン魔法の魔道書は普通に欲しいので激流に身を任せちゃおう。


「ええ、良いわ。簡単なので良いかしら?」


 一応、確認を取る。ルーンで使える魔法は結局、あたしが詠唱魔法として使えるものに限られてしまうので、「〇〇と言う魔法を使って欲しい」と言う要望には答えられないためである。


「ふんっ、貴族の小娘が使えるとは思わないがね」


 またテンプレートな反応である。もうちょっと考えれば、あたしがルーン魔法を使えることぐらい察することが出来そうなんだけどね。まあ、遠慮なくルーン魔法を使えるし良いかな。

 あたしは指で空間にルーンを刻む。使う魔法は《点火(トーチ)》である。サイズはマッチから出る火のサイズで、火力は一番弱め、ようするに、見せ魔法である。細かい設定をイメージしながら、あたしはルーンを刻み終え、使う魔法を宣言する。


「……《点火(トーチ)》」


 シュボッっと音を立て、指先にマッチ程度の炎が出現する。軽い魔法だけれども、完全にルーンで使える魔法は生活魔法がほとんどである。

 小難しいおばさんは驚きで声が出ない様子であった。


「店員さん?」


 あたしが声をかけると、ハッとして正気に戻る。


「……ちょいと待ってな」


 おばさんはそう言うと、店の奥に行き、いくつか本を持ってきてくれた。


「ほら、アンタに相応しいルーン魔法の本だよ。魔術大全とあわせて4千エリンでいいわよ」

「では、今回は私がお支払しましょう」


 エルウィンさんはそういうと、1000エリン紙幣を4枚取り出す。ファンタジーと言えば、金貨銀貨での取引が当然であるけれど、どうやら聖フェルギン王国は紙幣通貨での取引を行っているようである。あたしが興味ありげに紙幣を見ていたので、エルウィンさんが解説してくれた。


「これはエリン紙幣と言いましてね、現在は王都でのみ流通する通貨です。何時までも金銀銅を通貨とする原始的貨幣制度からの脱却を狙っている感じですよ」

「そうなんですか」

「ああ、もちろん、フェルギン全土では流通はしていないので、王都の外に出る際は両替をする必要がありますがね」


 聖フェルギン王国は新しい取り組みを積極的に取り入れているそうである。この紙幣制度も銀行と言う仕組みを稼動させるために必要だそうで、あたしには難しすぎてよくわからなかった。そういう政治や経済に関しては、前世の彼も勉強をしては居ないしね。


「もう少し見ても大丈夫かしら?」

「あいよ。そうだねぇ、お嬢ちゃんだったらあの本も良いかもだね」


 そう言うと、おばさんは一冊の古い本を取り出してきた。タイトルは……勇者伝説?


「その本は……?」

「過去に召喚された勇者様の物語が書かれた本だよ。もしかしたら、お前さんには必要かと思ってね」

「あ、ありがとう……」


 なぜあたしに必要だと思ったのかは分からなかったが、せっかくなのであたしはこれも買うことに決めた。

 と言うよりも、過去勇者が召喚された事があったのか。まあ、勇者召喚なんてものがあるくらいだから、そう言うこともあるのだろう。


「エリシア、それでは会計は私の方で済ませますので、先に馬車に戻っておいてください」

「あ、ありがとう」


 イケメンスマイルでにこやかに微笑まれると、あたぢは素直にお礼を言うほかなくなる。

 あたしは複数の魔道書と勇者伝説の本を手に外で待つ馬車に戻るのであった。

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