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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
村娘だけど実は勇者の転生者でした
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女勇者達は街を見たい

「ねぇねぇ、街に出て見ない?」


 そう提案してきたのはさつきさんだった。確かに訓練だなんだと言って、あたし達はこの城の外に出てはいなかった。まあ、城も城で広いんだけどね、訓練と教養の勉強しかやってないし、飽きるっちゃ飽きるだろう。

 この3日間は基本的に訓練ばかりで、王城を探索することもなく、食堂と訓練施設を行き来する毎日だった。少なくとも勇者様がたは基本そんな毎日である。あたしもマナーを学ぶ時間が増えているだけで、基本的に自由はない。


「あー、確かに。あなた達は勇者として戦えるように技量を高めないといけないから、基本訓練ばっかりだしね」

「うんうん、流石に息抜きしたいしねー」


 この3日間、勇者達は自分の武器の適性を見極めるために色々装備を試していた。あたしも武器の適性をクリスティアさんに見てもらっていたが、戦士としての戦い方よりも魔法使いとしての戦い方の方が合っているらしい。ただ、才能がないと言うわけではなくて魔法使いの方が優れていると言うだけである。

 ロングソードの扱い方もそれなりに学んできたし、剣が得意な男子以外の男子ともそれなりに戦えるようにはなってきた。これが《英雄》の祝福の効果だろう。まあ、結局はチャンバラごっこの域を出ないけれどね。

 さつきさんはスキル【顔無汎王(ロビンフット)】からも弓が得意だし、美来さんは【妖精国賢者(マーリン)】から、魔法使いとしての適性が高かった。ひよりさんは【永遠聖薬エリクサー・クラフター】と言うスキルで、回復系の薬を調合するのが一瞬でできると言うスキル持ちなため、むしろ戦いには向いていなかった。まあ、それは他の勇者に比べてと言うだけで、ひよりさんですら他の騎士と戦えてしまっているのは《勇者》の祝福のお陰なのだろう。

 たったの3日間でであるけれど、あたしは騎士さんと訓練になる程度まで動けるようにはなった。具体的にいうなら、棒振りが剣の動きを覚え始めた程度で、あたしが魔法の含めて全力で頑張って、騎士さんも訓練になるかな程度だけれどもね。

 そうそう、そういえば外出する話だっけか。


「それじゃあ、あたしがクリスティアさんやノーウェル様にお願いしてこようか。と言っても、雄大くんと真人くん初めとする男子以外は期待しないでほしいけれど」


 雄大くんは言わずもがなであるけれど、双葉真人(マヒロ)くんもどうやらスキルが前衛向けのチートスキルだったらしく、両手剣で騎士さんを圧倒していたのだ。


「美来と違ってエリシアちゃんはノーウェル様に気に入られてるし、お願いー」

「お願いされてもね。美来さんはもうちょっと魔法をちゃんと覚えた方が良いわよ」

「うーん、美来はスキルボタンタップすれば使えるしねー」

「スキルボタン? タップ?」

「あー、エリシアちゃんって美来たちに感覚近いから、こっちの世界の人だってすっかり忘れちゃうのよねー」

「それってたんにエリシアちゃんが話しやすいだけじゃ無い? 美来がそこまで考えてるとは思えないしー」


 呑気な感じでそう言う美来さんに、それに問題点を指摘するひよりさん。あたしはすっかりこの頭悪い女子メンバーに入っていた。楽しいから良いんだけどね。

 そうそう、言葉を解説する気はなさそうなので、あたしは美来さんが魔法を使う時を思い出す。スキルボタンと言うのは「ステータス画面」と言うのに関係しているのだろう。それに指を触れるのを「タップ」と言うのだろうか。

 あたしはしっかりとルーンを書いてその上で詠唱するので、そう言う手順を省略できるのはなかなかチートである。


「それじゃあ、聞いてみるわ。あたしも城下町は探索したことないしね」

「さっすが話わかるー♪」

「エリシアちゃんおねがいねー」

「美来とひよは私が見ておくわ」

「はいはい」


 と言うわけで、あたしはクリスティアさんのところまでやってきた。クリスティアさんは目下馬鹿みたいに強くなってしまった雄大くんと、真人くん、数名の男子に対して指導を行っていた。

 あたしがちらりと様子を見ると、激しいチャンバラごっこが繰り広げられていた。雄大くんと真人くんの戦いなんて、もはや剣さばきすら見えない。


「エリシア様、どうした?」


 あたしに気づいたクリスティアさんが声をかけてきた。早速、あたしは要件を口にする。


「クリスティアさん、気晴らしに街に見学に行っても良いですか?」

「ダメだ」


 即却下されてしまった。一応理由は来ておいたほうがいいだろう。


「えっと、理由は?」

「エリシア様なら大丈夫かな。理由はまだ、式典前だからだ」


 式典というのは王様が言ってた、あの話だろう。披露式典と言うやつである。あたしとしてはしないでほしいが、貴族的な体面で必要なやつである。最近城内のメイドさんや騎士さんが忙しなく動いているのもそのせいである。

 要するに、その式典までは秘密にしたいと言うわけらしい。転生前の世界の知識から考えると、諸外国へのアピールとかあるのだろうか。マナー講座で貴族が習う最低限の地政学は習っているけれど、イマイチ理解できていないのは、あたしが村娘として平穏に暮らしてきたからだろうけど。だから、あたしには式典でのお披露目が大事なことだとは思えなかったのであった。


「式典前……」

「ええ、国民へのアピールと共に、同盟諸国や敵対諸国へのアピールになりますからね」

「うーん、アピールして何か良いことがあるのかしら?」


 あたしの疑問に、クリスティアさんは「そうだな……」と言うと、例示をしてくれた。


「国民へのアピールの意図はわかるか?」

「えーっと……」

「そうだな、例えば、村長だったとして、近くに盗賊が移ってきたと情報を得たとする。村長が冒険者を雇ってこの盗賊を退治することになるんだが、村人が襲われる可能性があるわけだな」

「えー、うん。そうね」

「で、村長としては警戒して欲しいから、盗賊が居る情報を村人に知らせるし、安心させるために冒険者を雇ったことも伝えるわけだ」

「……ああ、だから国民にアピールするのね」

「理解が早くて助かる」


 では、同盟諸国や敵対諸国へのアピールの意図はなんだろうか?

 なんとなく、同盟へは国民と似ている気がする。敵対諸国にアピールする意味はまったくわからないけど。

 あたしが首を捻っていると、雄大くんと真人くんが近づいてきた。


「あれ、エリシアちゃんじゃん。見学に来たのか?」

「こんにちはエリシア。大島たちはどうしたんだ?」

「こんにちは、真人さん、雄大さん。クリスティアさんに街に見学に行きたいと申請していたところなの」


 すっかり身についてきた貴族風の挨拶をする。ウィータさんにスパルタで叩き込まれるので身につかないはずがなかった。


「そうか、街か。確かにこの11階から見下ろす街に行ってみたい気もするよな」

「立花くん、たまに城の端まで行って考え事しているもんな」

「ああ、西側の街は夜も明かりがついているし、見ていて飽きないよ」


 まあ、そりゃせっかく異世界転移してきたのに、1週間城に閉じ込めてる状態だものね。本城はかなり広いから窮屈感は無いんだけどね。それに、10階以降に下りるのは禁止されているとはいえ、散策が許可されていない箇所は少ない。本城の1階部分はほとんどが客間か、かなり広い食堂なのだ。もちろん、貴族様との接触は控えるようにといわれているけれどね。


「エリシア様にも伝えたのだけれど、外出と言うか、そういうのはあと4日待っていてくれ」

「前に言っていた式典と言うやつか」

「ああ、しばらくは自分の腕を磨いておいてくれ。わからないことがあれば、相談に乗ろう」


 と言う感じで、あっさりと流されてしまった。

 あたしがさつきさんたちのところに戻ると、あたしのところに駆け寄ってきた。


「エリシアちゃん、どうだった?」

「ごめん、ダメだった。あと4日は待って欲しいんだって」

「そっかー……」


 落胆した様子の3人に、あたしは申し訳なくなる。あたしだって街に出てみたいのだ。剣術の稽古はそれはそれでつまらないわけではないけれど、これ以上はどう考えても上達しない感じがするしね。それだったら街で魔道書を買ってきて魔法の練習をした方がいい気がしていた。あたしにはステータス画面なんて存在しないしね。

 クリスティアさんに要求しても、魔法は却下されてしまっている。曰く「聖剣の鞘ならば、相応しい剣術を身につけるのが先」だそうで。


「なんで出ちゃいけないんだろうねー」


 美来さんの疑問に、さつきさんが答える。


「やっぱり、私たちの見た目の問題じゃないかしら? エリシアちゃんはどちらかと言うとヨーロッパ系の見た目でしょ。そんな中にニホン人が入ったら、目立つじゃない?」


 さつきさんの指摘はなるほどと思った。ヨーロッパと言うのは前世の彼の記憶から、特定の人種が住まう地域だというのは知っていたので置いておくとして、彼らの黒髪黒眼の少年少女が街で歩いていたら目立ってしまうのは当たり前の話である。


「じゃあ、エリシアちゃんに私のスマホを持たせて、外の光景を取ってきてもらえば良くないかな?」


 ひよりさんの提案に、さつきさんと美来さんは同時に「それだ」と言った。


「そういえばエリシアちゃんは新しい魔道書が欲しいって言ってたわよね?」

「はい、あたしはどちらかと言うと剣術よりは魔法の方が得意なので」

「だから、買ってくるついでにこれで街の様子を撮ってきてくれない?」


 あたしはひよりさんから「スマホ」を手渡される。


「使い方はわかる?」


 前世の彼は頻繁に使っていたので、当然ながらわかる。だけれども、異世界人のあたしがスマホの使い方がわかったら明らかに変であるので、あたしは知らないフリをすることにした。


「これは何ですか? いやまあ、ひよりさんたちがいつもこれを見ているのは知っていますけど……」

「これはスマートフォンって言うの。カンタンに言うなら、勇者達の連絡手段だと思っていいよ。何故かLINEが使えるし電話も出来るし電池も減らなくなっているけど、これで街の様子の写真を、私たちの代わりに撮ってきて欲しいのよ」

「ごめん、ちょっと何言っているかわからないわ」


 前世の世界の言葉を羅列をされても、あたしとしては反応に困る。

 せっかくだし、スマホを起動させてみる。待ち受け画面が出るが、確か「シモンニンショウ」というのでパスワードを入力しないといけないはずである。あたしの記憶が正しければではあるけれど。前世の彼はほとんど意識して機能を使っていなかったので、あたしとしては結構こういうのはあやふやである。


「えっと、そのまま画面をタッチして、左にスライドさせたらいいよ」

「こ、こう?」


 スライドさせると、一瞬黒くなった後に向こう側の風景が表示された。


「わっ! すごいわね!」


 驚いた。知識としては知っていたとしても実際に動くのを見ると驚くほかない。


「そこの白丸ボタンをタッチすると、写真が撮れるよー」


 なんとなく、ひよりさんにが見えるようにしてボタンを押すと、カシャッと音がして見えていた風景が切り取られた。これが“写真を撮る”ということなのか。


「なんというか、すごいわね……」


 あたしは驚くほかなかった。肖像画というのは概念としてもあるし、理解もできるけど、それを一瞬でやってしまうカメラはすごいなとしか感想が出ない。前世の彼の知識で知っていたとしても、実物を見ると改めて驚くしかないのだ。

 ひよりさんが近づいてスマホを確認する。


「おおー、よくとれてるじゃん。エリシアちゃん、この調子でお願いね」

「そ、そう? じゃあ、とりあえず、クリスティアさんにもう一回お願いしてくるわね」


 というわけで、あたしはもう一度お願いをしてきた。やはりあたしだけではダメということではあったが、護衛を付けることと、外に出るのはあたしだけであるという条件でなんとかオッケーをもらえた。ちなみに、場所も指定され、一番治安のよい西側の街ならばということになった。観光は明日、午前中からということになった。

知識として知っていることと、実際に使うことのギャップってありそうですよね。

ちなみに、スマホは勇者同士の連絡が取れる状態になっています。

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