エリシアの新たな苗字
あたしが入ってから、“授業”が再開する。座学は自分にあった剣を使えという話であった。女子が興味がないのはわかるが、一部男子も興味はなさそうである。
あたしはというと、早速勇者様方に絡まれていた。前世の彼は女の子と絡むということは幼馴染の彼女以外になかったので、実質始めて雑談をする。大島さつきに、柳生美来、駿河ひよりの活発な3人に話しかけられていた。
「ねね、エリシアちゃん」
「どうしたんです、さつきさん」
「エリシアちゃんって貴族の子なの?」
「いや、あたしはリナーシス村出身よ」
「そうなんだー、村ってどんな感じだった?」
「そうねー、のどかなところよ。もしかしたら美来さんにとっては窮屈に感じるかもしれないわね」
「確かにー、美来ってば都会っ子だもんね」
「当たり前じゃん! 今日だって本当は化粧したかったけど……」
「学校じゃいつも盛ってたもんねー」
という、ガールズトークで盛り上がっていた。あたしの場合は使う剣は片手剣のロングソード一択だろうしね、聖剣的に。なので、クリスティアさんの説明を聞きながら、説明を聞く気のない女の子を相手していた。ガールズトークがばっちり出来ていたのはやはりあたしは女だからであろう。あたしが知らないはずの単語に関しては、適宜質問を入れつつあまり盛り上がり過ぎないように話題を調整する。
そうそう、思い出したという表現が適切かはわからないけれど、この子達は授業中でも普通におしゃべりをするのだ。そして、うるさいのだ。授業中も先生によく怒られていたのを前世の彼はよく見ていた。まあ、彼女らにとっては数学なんて古代文字を読み込むがごとく難しかったのだろう。前世の彼も苦手だったようであるけれど、あたしは数学は面白いなと思っている。
さて、今回の訓練ではそれぞれ得意な剣を見つけるために、用意された練習用の剣を持って試しに振ってみたりするのが訓練だそうだ。昨日は徒手格闘の訓練だったそうだけど。
「エリシアちゃんは何の剣を使うの?」
「あたしはいろいろあって、ロングソード主体にせざるを得ないからそれかな」
あたしは他の人とは違って杖なしで魔法を発動することが出来る。普通の魔法使いなら道具が必須なことを最近学んだのだ。その道具の代わりがルーンになるらしいのだけれど、そこのところは良くわかっていない。こういう話は旅の道中にエルウィンさんたちから聞いていたのだ。だから、武器ならばロングソードを使えるようになったほうが良いのだろう。
「ロングソードって、これかな? って重たっ!」
さつきさんがロングソードを手に取ると、重みでずっこけてしまう。それはそうである。少なくとも鉄の塊なのだ。重たくないはずが無い。あたしは家事と農業である程度身体を鍛えてきたから、少し重たくてももてるけれども、さつきさん達は一昨日までただのコウコウセイなのだ。その暮らしぶりを前世の彼を通してある程度知っているだけに、仕方の無い光景だろう。
あたしは早速ロングソードをもって、振ってみる。どう考えてもただの棒っきれを振ってるだけにしか見えない。
「うーん、やっぱり向いてないのかなぁ?」
「エリシアちゃん重たくないの?」
「あたしはそれなりに鍛えてたからね。主に家事とか農業でだけれど」
鍬を振り下ろすのは得意だけれど、剣を振り回すのは誰がどう見てもド素人だった。一番様になっている……というか、既に達人級に上手いのは、雄大くんだった。
「立花君、すごいよねー。昨日の徒手格闘のときもそうだったけど、達人みたいな動きが最初から出来ていたのよ」
どんな武器も達人レベルで使いこなせるスキルを持っているのだろうか。例えば、あたしの【魔女術】のように。まあ、あたしとさつきさん達との隔たりはこの特殊なスキルに関してだろう。このスキルは異世界転生転移者しか持っていなさそうなのだ。
実際、あたしは【魔女術】の恩恵を感じたことはない。実際どういうスキルなんだろうか? 一応、何かしらのチートスキルではあるはずなんだけどなぁ。天使様からも魔法の素養は元々持っていると太鼓判をもらっている事だし、ますますあたしのスキルに関しては謎が深まるばかりである。教会で祈れば女神様に相談できたりしないだろうか?
「とりあえず、剣すらマトモに振れないあたしたちは、あっちで木剣でも素振りしてましょうか」
「そうねー」
「おしゃべりしながらやってよっか」
ということで、あたしたちは端っこの方で木剣──あたしだけロングソードを使って素振りを始めた。ケンドーの素振りの仕方は覚えていたけれど、カタナでないと何の役にも立たないので、素直にクリスティアさんに素振りの仕方を教えてもらい素振りを開始した。
男子たちがちゃんばらごっこをしているのをわき目に、おしゃべりをしながら木剣を振るう女子と言った感じに綺麗に分かれてしまったのは、仕方の無いことであろう。合間合間でクリスティアさんが指導をして剣を変えると言った事が午前中の訓練になってしまった。その光景はお昼休憩に入るまで続いたのだった。
お昼終了後、あたしは王様に個別に呼び出されていた。伝令の騎士さん曰くあたしのセカンドネームが決まったらしい。ティアナも一緒に呼ばれているので、ティアナと合流して王様の執務室までメイドさんに案内された。
メイドさんがノックをすると、王様の声が聞こえる。
「おお、来たか。入るが良い」
「失礼いたします」
メイドさんに続き、あたしたちは入室する。
「お呼びに預かり光栄でございます、陛下」
「お、お呼びに預かり光栄でございます……」
ティアナはまだ慣れていない様子だ。ティアナは大司教としての学習を今日の午前中はやっていたようで、既に気が滅入っている様子だったし、仕方ないだろう。あたしはと言うと、素振りしている時に散々やらかしまくり、手のひらは既にマメができていた。今は手袋で隠しているけど、これが痛い。
「ふむ、良くぞ参った。そちらのソファーに腰をかけるがよい」
ディスクワークにいそしんでいる王様の言われて、あたしたちは近くのソファーに腰をかける。やはり王宮だけあり、すわり心地の良いソファーだった。このままでは村に戻った時に快適に過ごせなくなりそうである。
「では、セカンドネームを授けよう。まずはティアナからだな」
「は、はい……!」
ティアナは緊張した面持ちをする。
「愛の天使、大いなる光、ティアナよ。ティアナ・ラプシソトールと名乗るが良い」
ラプシソトール、先ほど出た単語から取っている。「ラプティア」は愛の天使様の名前、「ソトーリティニス」は大いなる光と言う意味の固有名詞である。そんな大それたセカンドネームをつけてもらえるなんて、さすがはティアナである。
「は、はい。承りました」
「それと、16歳からフィルランクス魔術高等学園に入学できるように取り計らおう。勉学に励むが良い」
「ありがとうございます」
そうだね、丁度年齢としてはコウコウセイの年齢だものね。村には学校は無いが教会でモノを覚えるものだ。あたしも12歳になるまでは通って村の掟だとかを学んでいたものね。
「では、エリシアにもセカンドネームを授けよう」
「はい、よろしくお願いいたします、陛下」
「うむ、任せるが良い」
自信満々で満面の笑みを浮かべる王様。うーん、あたしって王様に気に入られるようなことをしたっけなぁ? ますます疑問である。
「湖畔の天使、我輩の期待、伝説の聖剣、エリシアよ、エリシア・レアネ・フェルギリティナと名乗るが良い」
なっが! あたしの名前なっが!
と言うか、「我輩の期待」って何ですかねぇ。名乗った瞬間王族に対する無礼者として引っ立てられそうな名前である。ちなみに、「レアネティア」、湖畔の天使と言うのはあたしに聖剣を渡した天使様のことである。伝説の聖剣「アスガディアリティナ」は、確かこの国の建国神話に出てくるスマイト・フェルギン1世の使っていたとされている聖剣である。この国に存在する固有名詞に「ティ」が多く含まれるのは、この聖剣にあやかってと言うものが多いそうな。
「す、すごい名前ですね……」
あたしは思わず正直にそういってしまった。それに王様はうれしそうに「だろう?」とドヤ顔をする。
「エリシアの経歴は調べさせたからな。お前がバナン樹海に入り、一人で戻ってきたという話も知っておる。それに、聖剣の鞘と言うスキルを所持しておることも、実際に聖剣をその身に帯びていることも報告として入ってきておる。それも含めてのその名である」
この王様がドヤ顔をするたびに、あたしは顔を引きつらせている気がするが、御礼を言わないわけにもいかないだろう。ここは諦めて、あたしは王様にお礼を言う。
「あー、素敵なお名前を頂戴し光栄であります、陛下」
「よい、気にするな」
あたしは、公式な場以外ではこれからも「デュ・リナーシス」を名乗ろうと心に決めたのだった。こっちの方が愛着もあるしね。
「正式な発表は、1週間後、といって通じるかな? 7回日が昇り、太陽が天高く昇った時間に行う。勇者達の発表と同時だな。それまでは各々、学習に訓練に励むが良い。二人とも期待しておるぞ」
ご丁寧に式典まで準備してくれているらしい。あんまりお披露目はされたくないのだけれどね。あたしとしては、シエラだけを愛でて生きたい人生であった。あの時、アルフレッドがあたしを森に誘わなければ、ここまでにはなってなかっただろうにうらまざるを得ない。
王様の執務室を後にすると、ティアナと少しお話しする時間が出来た。と言うのも、ティアナもあたしと同様にウィータさんからマナーについて最低限学ぶ必要があるということであった。
「ティアナ、なんかとんでもないことになっちゃったわね」
「そうだね。今でも私、お父さんの戦々恐々とした顔を思い出すよ……」
あの人過保護だったからなぁ。送り迎えまでバッチリであったし、近寄る男連中を物理的に排除していたのだ。だからこそ、村では高嶺の花のように誰も求婚したりはしなかった。
それにしても、ティアナは神官の服に近いドレスを着ていた。どちらかと言うと服に着せられているような印象を受け、ティアナには似合っていないのは一目瞭然である。教会関係者に着させられているんだろうけど、ティアナも大変である。
「エリシアは今日勇者様と会ってきたんだよね。どんな感じだった?」
「うんー? まあ、あたしとしては想像通りと言うか何というか。勇者と言う印象は受けなかったわね」
「そ、そうなんだ。教会じゃ、勇者様のすばらしさや、今まで勇者様に仕えてきた歴代の神官様の名前まで教えられてきたんだよ」
勇者に神官はつき物なのだろう。それに戦士と魔法使いで役満である。歴代のと言うことは、ちょくちょく異世界から勇者様を召喚しているのだろうか。あたしは歴史については知らないので、想像するしかないわけであるが。
あたしはティアナの教会での愚痴を聞きつつ、あたしと勇者様がたの話をしつつ、少しの時間ティアナとおしゃべりを楽しむのであった。
設定がふんわりしていますが、仕様です。
ちなみに、魔王は名乗りを上げてないだけで既にこの世界で暴れ始めていますが、エリシアの知るところではありません。