エリシアと勇者達
《英雄》エリシア編再開です。
あたしはノーウェン様からクラスメイトたちの話を聞いてあきれていた。
三宅隆幸は確かほとんど学校をサボっている不良である。前世の彼が絡まれた記憶は無いけれど、間違いなく勇者と言うより魔王のほうが向いている人物である。三宅がクラスにいた記憶はあたしには無いけれど、授業が始まる直前に入ってきたのかもしれない。
一方、話の中心に出てきた立花雄大は、テンプレートな転移主人公然とした人物だった。ノーウェン様でも、あの中で一番マシなのが雄大だと言い切ったのだ。
それにしても、“ステータス画面”なんて、この世界に長年生きているけれども聞いたことも見たことも無かった。言われてあたしも右下を見てみたけれど、そんなものは見えなかった。もしかしたら《勇者》の祝福の特権なのかもしれない。
そして、“レベル”に関しても同様である。そんなものはこの世界に存在しない。強いて上げるならば祝福のランクを表す言葉である【銅級祝福】などはあるけれども、ゲームのような数値で表されるような“レベル”はあたしは知らない。
「どうだったかしら?」
「《勇者》って特別なんですね」
あたしはこう言うほか無かった。あたしは《英雄》持ちではあるが、そんな能力は無い。スキルや祝福を見る方法は、教会にある水晶や高位の預言者ならば可能であるけれども、それぞれの能力を具体的な数値で見る方法は魔法でも存在しないらしい。そう考えると、ステータスを見れると言うのは《勇者》祝福のパッシブスキルということだろう。
おそらく、前世の彼が読んでいた小説にあったようなVRMMOみたいな感じで、相手の体力がゲージ状に見えていたりするのだろうか? 興味はあるけれども、あたしには関係のないことである。見えないのだから。
「そうね。間違いなく特別な存在よ。それなのに……」
ノーウェル様はそう言うとため息をついた。
「ユーダイ以外は期待はずれね。まあ、エリシアも訓練の様子を見ればわかると思うわ」
「あたしもノーウェル様の期待に添えるとは思わないんですけど……」
あたしは抗議の声を上げるが、華麗にスルーされてしまった。
「あら、ちょっとおしゃべりが過ぎてしまったわね。エリシア、行くわよ」
「は、はい」
ノーウェル様は私の手を引いて、勇者達の訓練場に向かっていった。
さて、勇者達が訓練している場所は、11階になる。遺跡的には屋上であるが、その上に本城が建っているのだ。10階で高い場所のはずだけど、森のようになっていたり、庭園になっていたりする。騎士の訓練場もあり、実質11階からが城なのだろう。
あたしはその騎士の訓練場から少し離れた位置にある場所までやってきていた。ちょうど、訓練の説明を強そうな騎士さんから勇者達が受けているところであった。
「……なるほど」
それを見て、あたしは納得した。だって、誰も聞いていないのだ。まあ、学校の授業のようなものだしね。座学がいきなり体育の授業になっただけだし、そりゃつまらないだろう。
「今やっているのは剣の座学だ。剣を扱う上での必要な話をしているはずだが、この有様だ」
この様子ならばノーウェル様がため息をつくのも納得である。まあ、前世の彼もこの状況にいたら、滝沢や樺島とおしゃべりを楽しんでいただろう。
と、確かに滝沢や樺島がいた。一応プロテクターと木剣を持っているが、やる気はなさそうでおしゃべりをしている。あいつら相変わらずだなーと思いつつ、この感情は前世の彼のものだから気をつけないとと戒める。前世の彼は死んだ人間なのだ。
と、ノーウェル様に騎士様が気づいたようだ。
「ノーウェル様、お越しになっていたんですか」
その騎士さんは、エルウィンさんではなかった。まあ、体格から女性というのはわかっていたんだけどね。女騎士を担当にしているのはどうしてだろうか。
「ああ、そういえば、エリシアは初めてでしたわね。クリスティア・ヴァンヴェルン。エルウィンとは違って現在のフェルギン騎士団の副団長を務めている騎士ですわ」
「クリスティア・ヴァンヴェルンです。今は勇者様の剣術の教導を担当しております」
騎士としての礼の仕方はやはり様になっている。髪は短くなっているが、筋肉の付き方は戦士のそれであり、エロ同人のようなむっちむちした感じではない。女騎士でそれを比較対象に挙げるあたしの前世はどうなっているんだろうか。健全な男の子なんだろう。鎧は訓練用のものなのか簡素で、どちらかというとプロテクターをイメージさせる。
クリスティアさんと言い、エルウィンさんと言い、この国の騎士は第一印象がさわやかな人が多い。
「エリシア・デュ・リナーシアです。よろしく、副団長様」
あたしがウィータさん仕込みの礼をすると、クリスティアさんは「よろしく頼む」とほほ笑む。
さすがに、教えている人がこちらに来れば興味を持つのが当たり前であろう。クラスメイト達がこっちに駆け寄ってきた。
「クリス先生、それにノーウェルお姫様!」
「来てたんですね」
日本人がダルヴレク語を普通に話している違和感がすごい。むしろなんでそこまでスムーズに話せているのかがすごく気になる。というか、言い回しというか表現が田舎っぽくて、これではノーウェル様もお気に召さないわけである。あたしの住んでいる村なら普通の話し方なんだけどね。さすがに王宮で使うような言葉づかいではない。
「そこの人はどなたですか?」
あたしに気づいたのは、確か名前が水木有理だったかしら、やはり他の生徒と同じようにプロテクターを付けている、セミロングの黒髪をした女性だった。優しそうな黒い瞳をしており、いかにも現代っこって感じを受ける。
「あ、本当だ! かわいい! ねぇねぇ、いくつ?」
「何て名前かしら?」
「うわぁ! お人形さんみたい!」
有理の指摘に気づいて、女子生徒があたしを取り囲む。ああ、さすがにこの懐かしい面々を見て、前世の彼が表面に出てきそうになる。どちらかというと困惑のほうが強いのは、前世の彼では彼女らはここまであたしにべたべた触らなかったからである。女に触られてもなんとも思わないのは、あたしが女だからだけれども。
「勇者様方、エリシア様が困惑しています! お辞めください!」
クリスティアさんがもみくちゃにされていたあたしを救い出してくれた。あたしはしょせんは15歳の少女なのだ。17歳だか18歳のお姉さまに力でかなうはずもなかった。
「た、助かった……」
あたしは独りごちる。
「エリシアは勇者様方とならぶ、《英雄》ですわ。今日から勇者様方と一緒に訓練に加わっていただきます。くれぐれも、よろしくお願いしますわね」
ノーウェル様があたしのことを紹介してくれる。なんだかんだ言って面倒見がいい人なのだなとあたしは感じた。まあ、出会ってそう時間も経ってはいないけども。
で、紹介されたならばあたしも自己紹介を返したほうがいいだろう。なぜか転入生になった気分である。
「あたしはエリシア・デュ・リナーシアです。年齢は15歳で、《英雄》の祝福を女神様から頂いています。よろしくおねがいしますね、勇者様がた」
よし、完璧な自己紹介ができた! これならあたしはちゃんとこっちの世界の人物に映るだろう。
クラスの中には何人か同じクラスの連中がいるけれども、幼馴染の姿はない。少しだけ安心した。多分いたら、一時的に前世の彼に立ち戻ってしまう自信がある。
あたしの挨拶に、今度は男子どもがざわめき出す。
「めっちゃ可愛くない?」
「お前ロリコンかよー」
「でも、女の子のレベル高いよなー」
「この城の中だけしか見てないから、もしかしたら貴族の女の子のレベルが高いだけだろ」
まあ、確かに。あたしもたまに通りすがる女の子や女性の容姿のレベルを見てきたけど、比較的に整ってる人の割合が多い。リナーシア村だとシエラに、お母さんやティアナぐらいしか可愛い子はいなかったけどね。良い祝福の人間ほど容姿レベルが上がる法則でもあるのだろうか?
と、立花が前に出てきた。
「俺がクラスのみんなの取りまとめを行なっている、立花雄大だ。よろしくな、エリシアさん」
「ノーウェル様からお話を伺ってます。よろしく、雄大さん」
この世界ではファーストネームで相手のことを呼ぶ習慣がある。まあ、あたしのセカンドネームである「デュ・リナーシア」から考えれば当たり前な気もしないでもないけどね。本当は立花くんと言いたいのをグッとこらえてそう言った。
「む、名前妙に発音がいいな」
「ぐ、偶然よ。とにかくよろしく。一緒に頑張ろう」
雄大くんは勘がいいな。注意しておいたほうがいいかもしれない。あたしは誤魔化しつつ、無事自己紹介を終えたのだった。
数Ⅱクラスなので、受験に必要だから受けているけど覚えられないというレベルの生徒が多いです。
エリシアの扱いは転入生的な感じの扱いになっています。男子の反応が見れないのは、女子がガードしちゃってるからエリシアにはわからないからですね。
あと、ジャンルがハイファンタジー詐欺な感じがしてきましたが、戦闘描写は最終的には増やすので、ハイファンタジーのままにします。