椎名康平1
「どういうこと」
「私にもよくわからないけれど、よくわからないまま解体工事中の晄ヶ崎高校の中に入って行っちゃったのよね(; ・`д・´)」
「それで、「逃げろ」って伝えてきたのよ(; ・`д・´)」
あたしは詩織のメッセージに違和感を感じた。
あたしがここにいるにもかかわらず、詩織が一昨日に康平と遭遇したこと。
そして、「逃げろ」というメッセージ。
……正直、嫌な予感がする。
そもそも、異界が本来ないはずの現代日本に出現していることもそうだし、その異界に魔王が……あっちの世界を襲う脅威がいたことも気になる。
もはや、あたしだけで対応できる事態ではないけれども、対峙できるのが現状あたしたちだけなので、どうしようもない。
「……純一園長に相談しようかな」
あたしは独り言ちる。
ただ、もう一人のあたし、【魔物エリシア】とはまだ対峙できるタイミングではないと感じる。
少なくとも、あの魔石をあと4つ、手に入れる必要があるように感じていた。
園には、門限の40分前には到着できた。
純一園長は今日は仕事らしく、タイミングが悪く居ないので、手紙を書くことにした。
担任の先生もそろそろ帰る時間だったりするので、18時以降は夜勤の先生とあたしたちで下級生や子供たちの面倒を見ることになっていた。
あたしもすっかり、日本の料理を作ることに慣れてしまい、低学年の子を自分の弟や妹のようにかわいがっていた。
本来であれば、シエラの事を思い出すべきなのだろうけれども、ほとんど思い出すことが無い。
それぐらい、今のあたしは【エリシア・デュ・リナーシス】からも離れた存在になってしまったのだろう。
むしろ、こっちの方が今のあたしにとっては未練である。
夜勤の先生に一番小さい子の事を任せて、あたしは朋美たちと談笑をしていると、部屋がノックされる。
「エリシアさん、起きていますか?」
養子だというのに丁寧な口調の弧の声は、純一園長だった。
「はい、起きてますよ」
「手紙の件でお話があります。出てきてもらっていいですか?」
あたしが朋美と蘭子を見ると、二人ともうなづいてくれる。
「はーい」
今日起きた出来事については、既に二人には共有済みだ。
……共有しない理由が無いしね。
後で男子組にも共有するとして、あたしは先に純一園長に報告することになった。
あたしは園長室に連行されると、事情聴取が始まる。
「手紙の件ですが、内容については読ませていただきました。報告しづらい内容だと思いましたが、報告していただきありがとうございます」
「いえ、あたしにとって頼れる大人って純一園長しかいないので」
「しかし、自分の転生前の人物が、転生前の人物の幼馴染の前に現れて、警告を告げる、ですか……」
園長はものすごく渋い顔をする。
「エリシアさんの事情については、養子にした時に聞いたときは冗談かと思いましたが、改めて聞くと頭が痛い話ですね」
純一園長には、さすがに養子になった時に自分が実は異世界から来た人間であるということは話している。
信じてもらえるとは思わなかったけれども、少なくともこの世界にある国のどこかから来たわけではないことは伝えておく必要があると思ったからだ。
「で、転生前の人物である椎名康平。その人物が幼馴染である須藤詩織さんの元に現れたという話ですね」
「はい」
「それで、【逃げろ】と警告をしたと」
「はい」
「ふぅぅぅぅ~~~~~……」
純一園長は深くため息をつくと、手帳を取り出し、スケジュールを確認する。
「少し待ってくださいね。私もその子と面談をしたいと思います」
「え?!」
「エリシアさんの話を信じれば、間違いなくエリシアさんは非常に危険な厄介ごとに巻き込まれに行くことでしょう。そのことは明白です。それに、朋美さんや蘭子さん、十代くんも巻き込まれるでしょう。その前に、事態を把握して事前に対策を打つ必要があります」
「は、はぁ……」
「どちらにしても、この家にいる子はわが子なのです。そんなわが子がする、一見荒唐無稽な話を無視した結果、危険な目に合うとわかっているならば、信じて対策を取るのが大人ってものですよ」
純一園長はそう言うと、日にちを確認してきた。
「とりあえず、なるべく早く対応したいので、明日か火曜日、水曜日に時間が取れないか、須藤さんに聞いていただけないでしょうか?」
「わかりました」
あたしが時間を取れないか聞く。返信はすぐには返ってきそうになかった。
「とりあえず、聞いてみました」
「うん、返信が帰ってきたら教えてください」
「はい」
あたしはうなづく。
「それと、異界についてですが、場所については3つほど目星がつきましたので、教えておきますね」
純一園長はとんでもないことを言ってきたのだった。