幼馴染2
あたしが気が付くと、ベッドの上だった。
「あ、気が付いたんだ」
頭には冷えピタが貼ってあるのか、ひんやりしている。
「急に倒れた上に、熱が出てたからびっくりしたんだよ!」
「ごめんなさい。色々と考え事をしていたのよ」
「なるほど、……たぶん知恵熱ね」
「知恵熱……」
まだ、頭の中はくらくらするけれども、寝たおかげか少し整理された気がする。
どちらにしても、今のあたしは【石橋エリシア】であり、それ以外の何物でもない。それだけは確かだった。
ただ、思っていたよりも【勇者エリシア】にアイデンティティがあった自分に、結構驚いた。
「ただ、寝かせてもらったおかげでだいぶすっきりしたわ」
あたしがそう言うと、詩織は冷えピタを取り、あたしの額に手を当て、自分の額にも手を当てた。
「ん~。確かに、熱は下がってるかな。ただ、お話はどうしようか? 体調が悪いなら日を改めても大丈夫だよ?」
「うんん」
あたしは首を横に振った。
「なるべくならば、お話を聞かせてほしいわ」
「うーん、でも、さすがに急に倒れちゃったから心配なのよね」
詩織はそう言うと、スマホを操作する。
「エリちゃんは、LINEとかやっている?」
「……子どもスマホだから、入ってないかも」
「じゃあ、SMSは使える?」
「それなら使えるわ」
「じゃあ、電話番号を交換しておきましょうよ! それなら、いつでも連絡取れるからね」
「あ、うん」
「それに、康平が戻ってきたらすぐに連絡取れるし」
あたしは、詩織の勢いに押されて電話番号を交換すると、すぐにメッセージに連絡が入る。
「よろしくね(>_<)」
あたしが詩織を見ると、にっこりと笑う。
「じゃあ、今日は家に帰って、また今度お話しましょ!」
あたしはこうして、詩織に見送られて、家族の方に来るまで晄ヶ崎駅まで送ってもらうことになった。
というわけで、詩織……椎名康平の幼馴染と連絡先交換をしたこと以外は特に収穫も無いまま、帰路に就いた。
「電車、ちゃんと乗れた?(*'▽')」
と、メッセージが入ったので、あたしは文字を打って返す。
「大丈夫です」
すでに中央線に乗っていたあたしはそう返す。
「そっか!良かった(#^.^#)」
結構レスポンス早く返ってくるな。
「私は夏休み期間中だったら、連絡してもらえればいつでも会えるよ(*^▽^*)」
「体調良くなったら、色々と話を聞かせてね(^^♪」
「わかった」
あたしは、実際こういう入力には慣れていなかった。
フリックで文字を入力するのも、キーボードで日本語入力をするのも苦手なのだ。
だから、文字の数も少なくなってしまい、返事も遅くなってしまう。
とはいっても、慣れる必要はあるので一生懸命挑戦はしていた。
その中で、あたしは康平について聞いてみる。
「シイナコウヘイってどういう人だったの?」
「椎名康平、ね(^^♪」
「康平は私の幼馴染で、1コ上の先輩だったよ(#^.^#)」
「性格はお人好しで、困ってる人を放っておけない性格だったかなぁ(*^^*)」
「私も昔、小学生のころに助けてもらったんだ(#^.^#)」
ここは、康平の記憶にある。とはいっても、誰を助けたとか明確に覚えているわけではなく、何となく助けた程度のあいまいな感じだけどね。
詩織を小学校のころにいじめから助けたのも、康平にとっては当たり前のことだったはずだ。
それで、自分がいじめられたら、なんだかんだ言ってもいじめっ子を改心させたうえで友達になっていたりするのだから、あたしと違ってコミュニケーションはうまかったようである。
そう考えると、十代とは違った意味で勇者にふさわしい性格だったのだろう。
「そうなんだ」
「うん(#^.^#)」
ただ、思い出す作業も結局は記憶のサルベージに過ぎず、あたしにとっては自分事には感じない。
やはり【椎名康平】の映画のワンシーンを思い出すような感覚だ。
あたしは間違いなく椎名康平の生まれ変わりであるにもかかわらず、あたしの中にはもう椎名康平はいなかった。
それがいいのか悪いのかは判断がつかないけれども、椎名康平は完全に死んでしまったということなのだろう。
あたしはそう結論付けると、スマホから目を離す。
そとは夕暮れで、丁度吉祥寺駅を出発するところだった。
なんだか寂しいような、そして、椎名康平としての責務から解放されたような、そんな気がしていると、詩織から気になるメッセージが送られてきた。
「そういえば、おとといぐらいに康平と会ったんだよ!(@_@)」
「もしかして、何か心当たりとかあったりしないかな?(; ・`д・´)」




