プロローグ2
あたしは、珍しく自分のベッドの上でぼんやりしていた。
髪が逆プリンになってきたなとか、もうお昼なのにパジャマのままだなとか、あまり動いていない脳みそでぼんやりとそんなことを考えていた。
色欲魔王を倒してから最初の日曜日。
ようやく8月に入ったばっかりで、色々とやる気が出ないままぼんやりとしていた。
勉強に関しては、そこそこできている。
模試というのを受けてみたけれども、思っていたよりもむつかしくなく、偏差値60の高校を狙えると、担任の塾の先生から聞いた。
記録では、シーナは高校2年生で頑張っていたと思うので、まあそんなものなのかなぁというレベルだった。
十代は相変わらず野球部を頑張っているし、朋美は塾の自習室で勉強、蘭子は久しぶりに先輩たちにあってくるという話だし、輝明と小南は案の定ゲームをしている。
そんなわけで、あたしはクーラーの効いた部屋で惰眠をむさぼってしまっていたわけである。
「……何しよう」
むくりとあたしは起き上がった。
特に、何か思いつくこともない。
テレビも、最初は面白かったけれども、朋美たちと遊ぶ楽しさには劣る。
異界にも遭遇しなきゃ、攻略もあったものではない。
というわけで、絶賛暇を持て余してしまった。
「……そういえば、シーナってどうなったのかしら?」
不意にあたしは前世である日本人男性の事を思い出す。
コーヘー・シーナ。
晄ヶ崎に行ったとき、彼の生まれ故郷にもかかわらず、彼の中にあるはずの郷愁の念だとかが出てこなかった。
確かに、記憶としてはあるものの、元の世界の記憶と同じで"記録"としてある感じがする。
記録として覚えていたからバスの乗り方とかは覚えていただけで、そこに付随する感情は一切感じなかった。
あの時は【門】を封印することに意識が強く向いていたからというのもあるだろうけれども、故郷に帰ってきて何も感じないというのは、おかしい気がする。
それに、シーナのスキルである【魔女術】はあたしにも確かに使えるにもかかわらず、シーナとしての自覚は全くない。
「……これは、調べた方がいいのかもしれないわね」
今まではそんな気は起きずに、このままエリシアとして現代日本で生きていくつもりだったけれども、魔王があたしを消しに来たことから、勇者の宿命からは逃れられないことを悟ったあたしは珍しく、乗り気になっていた。
とは言っても、何をすればいいかなんてわからない。
だったら、晄ヶ崎に行くしかないだろう。
もしかしたら、シーナの幼馴染や弟に出会えるかもしれないしね。
それで、異界のある場所でも判明すれば、幸運である。
そう判断したあたしは、さっそくシャワーを浴びて出かける準備をするのであった。