プロローグ1
「康平……?」
ある日、須藤 詩織は懐かしい雰囲気を感じた。
高校生集団失踪事件……通称、《クラス異世界転移事件》と呼ばれる事件で行方不明になったはずの幼馴染の気配を不意に感じた。
詩織はその懐かしい気配をたどり、追いかける。
「康平! 待って!」
詩織が椎名 康平を追ってたどり着いたのは、晄ヶ崎高校跡地だった。
「康平……?」
「……」
康平らしき人物は、詩織の方を見ない。
晄ヶ崎高校の男子制服を身にまとうその姿は、詩織にとって見まごう事なき椎名康平であった。
「どこ行ってたのよ! おじさんもおばさんも、知樹くんも! みんな心配していたのよ!」
「……」
康平は何も語らない。別に詩織の言うことを無視しているわけではないが、詩織に背を向けたまま何も語らなかった。
ただ、一瞬、詩織に横顔を見せると、何かをつぶやいた。
声が聞こえるわけではなかったが、詩織には何を言いたいかについてはっきりとわかった。
「"ごめん、早く逃げて"……?」
康平はそれだけつぶやくと、校門を乗り越えて晄ヶ崎高校跡地に侵入する。
既に取り壊し工事が始まったはずのその場所は、異様な雰囲気を発していた。
「康平、一体どういうことよ……?」
詩織には何が起きようとしているのかはわからなかったが、康平が何か危険なことをしているのではないかということを心配していた。
そして、それが間もなく現実のものになろうとしていることは、この時点では誰もわかっていなかった。
現代世界編第二章開始です。
1週間空けたので、今日から毎日頑張って投稿します!