間違った人物を勇者にしてしまった
雄大は、アイリスから自分たちが召喚された理由を聞き出していた。老エルフのディアロスから、予言の話も聞いた。あの中で一番冷静だったのは雄大だけであったからだと判断したからである。
彼らの話を要約すると、こうだった。
1つ、魔神が降臨するための生贄としてこの世界が選ばれた。
1つ、魔王40体が生贄を捧げるために出現する。
1つ、対抗するために勇者の力が必要だった。
1つ、《勇者》の祝福(そういうものがあるらしい)は異世界人とその子孫しか目覚めない。
巻き込まれてしまった雄大たちにしてみれば迷惑そのものであるが、魔神は決して復活させてはいけないこと、復活させたら雄大たちの世界も滅ぶことを告げられると、雄大も納得は出来ないが協力せざるを得ないことを納得した。
一方、雄大が説明を聞いている中で異世界転生について事前に知識のあった加藤俊哉は友人の須賀陽一、秋葉原友幸と興奮した様子だった。
「おいおい、これって異世界転移ってやつじゃないの?」
「明らかにさっきまでの教室じゃないしね!」
「デュフフ、それに、やっぱりステータス画面はあるでござるよ」
「マジか、アキバ殿!」
秋葉原の言葉に、俊哉と陽一は驚く。
「うむ、諸君ら顔を動かさずに右下を確認すると良いでござるよ。最近流行のVRのメニューを選ぶ感じでござる」
俊哉と陽一が秋葉原に言われたとおりの動作をすると、確かに右下にアイコンが存在する。カーソルを合わせるように視点を持っていくと、ポップアップヘルプで「ステータス」と表示される。そして、0.5秒ほど見つめていると、ステータスパネルが表示されたのだ。
「おお! ステータスパネルが表示された!」
「ステータス画面が出るってことは、この世界はゲームの世界なのか! なんかオラ、ワクワクすっぞ!」
「確かに! チートスキルもあるし、俺TUEEEできるんじゃね?」
わいわい盛り上がる異世界転生知ってる勢に、三宅隆幸が話しかけた。金髪で眉毛も細く剃っており、ピアスまで空けている隆幸は一般学生から見ても恐怖の対象である。
「おい、なんかおもしれえこと話してんな?」
「ヒィ!」
思わす声を上げる秋葉原。隆幸は秋葉原の首根っこをつかむと、ニヤニヤ笑いながら、
「俺らにも教えて欲しいじゃん? そのステータス画面っての」
「み、みみみ、右下を見るだけでござるよう!! 離して欲しいでござる!」
「右下ぁ?」
隆幸が言われて右下を見ると、アイコンが確かに存在していた。しばらく見ていると眼前にステータス画面が表示される。隆幸は秋葉原の首根っこをつかむ手を離してやった。
「ゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫、アキバ殿」
俊哉と陽一があわてて駆け寄り秋葉原を介抱する。
「へぇ~……。まるでRPG見たいジャン。おい、エリナもやってみろよ」
「えー、まあタッキーが言うなら」
「ショウも試してみろよ。おもしれえぞ」
「ああ、やってみた。確かにこの世界はゲームなんだな」
自分の能力を確認しながら隆幸はニヤニヤ笑った。
「じゃあ、せっかくだしこのスキルっての? 試してみたくね?」
「いいねー。誰に使う? 一応HP切れない程度にしないとやばいっしょ」
「スプラッタとかエリナ好きじゃないしー」
この3人の様子に、騎士たちが「なんか変だぞ」と思い始める。話を聞いている雄大の態度とは明らかに違うのだ。他の勇者たちが遠巻きにしていたり、勇者に暴行を加えていたりしているのだ。格好も、他の勇者に比べると3人は異様な雰囲気をかもし出していた。
「タッキーはどんな能力なん?」
「俺様か? 【絶対強者】ってやつだな。まさに俺様らしい能力だと思うぜ」
「エリナっちは?」
「エリナは【全愛主義】ねー。まあエリナは愛され上手だしエリナにぴったりな感じー」
「そう言うショウはどんな能力なんだ?」
「俺は【知識盗難】っすね。二人の能力名を聞いて、どんな感じの能力か使い方までばっちりわかったっすよ」
翔太郎は親指を立ててそういう。実際、スキルの使い方は彼ら自身のステータス画面で確認できるのだが、他者のものは名前を聞いて想像するしかないのである。翔太郎の能力は名前を聞いて全ての知識を閲覧することが出来るスキルだったのだ。
「ショウ! ったく。じゃあ次は俺様が試して見ますかね」
隆幸は自分が思っている以上に体が動くなと感じた。そして、手近に居る騎士を殴ってみる。
「オラッ」
騎士はすぐさま盾で防御しようとしたが、隆幸の拳の前にまるで紙くずのように変形してしまうと、騎士の腹部に拳が突き刺さる。
「おお、おお、力がみなぎるな。もっと俺様に力を寄越せよ」
隆幸に腹部を貫かれた騎士は、力なく崩れ落ちた。隆幸が手を払うと、騎士が身に纏っていた鎧がガランガランとまるで中身が入っていなかったようにバラバラに分解してしまった。
「タッキー、ぐろーい」
静かになった召喚の間に、恵里奈の声とスマホで撮影する音が響く。
「てか圏外じゃん。インスタにあげられないしー」
「タッキーマジパネェ! NPCだからといって実験台にする? マジウケるんだけど」
「だって、もしかしたら他のプレイヤーキャラを殺すのは禁止かもしれねーじゃんか」
どうやら、あの3人の中で世界が完結しているのでは無いだろうか? そう思われても仕方のない状況だった。雄大はその3人に割って入ることにした。
「おい、三宅。何をやってんだよ」
「ああん? 俺様が何しようが勝手だろうが」
「俺はお前らの代わりにルール説明を受けてたわけだが?」
雄大と隆幸は睨み合う。
「お前さ、流石に空気読んで控えてるところだろうが」
「はぁ? なんでいい子ちゃんの指図を受ける必要があるワケ?」
「せめてルールを俺から説明するまで待てと言ってる訳だが?」
一触即発の空気が二人の間に漂う。
「はっ! なんで俺様がルールを聞かないといけないワケ? 勝手に呼ばれたんだから、俺様は勝手にさせてもらうさ」
隆幸はそう言うとニヤリと口元を歪める。
「俺様のスキルは【絶対強者】。敵を殺してスキルも経験値も何もかもを奪う能力だ。お前も奪ってやろうか?」
隆幸はすばやく腹部にフックを打ち込む。隆幸は不良であるが、学校をサボっている間にボクシングジムにも通っていた、と言うのは学校では有名な噂であった。だからといって、隆幸がここまで強いのは変である。ただの高校生の拳が鉄製の鎧を変形・貫通させるというのは明らかにおかしく、何か原因があるはずだと考えた。
だからと言うわけではないが、雄大は無意識のうちではあったが、隆幸のボディフックを受けて後ろに吹き飛んでいた。吹き飛んでいなければ、消えてしまった騎士の様に自分も隆幸に吸収されると判断したのだ。
「くっ、三宅、何をした!」
「良い判断だったな。えっと……」
「タッキー、こいつ立花っすよ。元生徒会副会長の」
「ああ、サンキューな、ショウ」
そう言いつつ、隆幸はゴキゴキと指を鳴らす。
雄大が自分の殴られた箇所を見ると、その部分の学生服が消えていた。どうやら、隆幸に吸収されてしまったようだった。それを見て、自分の直感は正しかったことに確信を持つ。まさに、隆幸が持っている能力はチートスキルであった。隆幸は雄大の状況を見て自分の有利を悟る。そして、舌なめずりをする。
「さ、元副会長さんよ。続きをしようぜ。お前の能力、俺様によこせよ!」
隆幸はそういうと、雄大の方に駆けて行く。雄大を吸収し、自分のものにするために。と、間に誰かが割り込み、隆幸はたたらを踏んでしまう。
「何をやっておられるのです?」
「御姉様!」
雄大と隆幸の間に入ったのは、アイリスの面影を残しつつもそれをもっと綺麗よりにしたお姫様であった。
「勇者様、仲間内で何を争っておられるのですか?」
「ヒュー、美人じゃねぇか。アイリスってお姫様よりこっちのが俺様の好みだ」
「タッキー……」
そのお姫様を値踏みするように眺める隆幸。隆幸の反応に顔をしかめるエリナ。それに、お姫様はこう訪ねる。
「聞いていらっしゃって?」
「ああ、ま、聞いてはいるさ」
ふざけた様子の隆幸に、イライラを募らせている様子のお姫様。舌打ちをすると、その場でアイリスに対して質問をする。ただ、隆幸から目線だけは離していなかった。
「アイリス、これはどういう状況ですの?」
「御姉様、どうやら、その3人の暴走と言った感じでございます。現在騎士1名が死亡しています」
「これだから野蛮人がッ」
お姫様の声音には怒気が含まれている。
しかし、現況の3人は相変わらずヘラヘラしている様子だった。
「おーこわ。どーする、ショウ?」
「ま、タッキーの力だったら別に大丈夫だとは思うけど、外出た方が良いんじゃないの?」
「あーエリナも外見てみたーい」
「オッケー。じゃ、俺様たちはお暇するとしますか」
隆幸はそういうと、魔方陣の方に近づき、何故か秋葉原の首根っこをつかむ。
「うぇぇ?!」
「おい、アキバ。てめぇ色々知ってそうだし、案内しろよ。あ、ついでにお前、俺たちの奴隷な」
「ナイスアイディアー」
「邪魔になったら消しちゃえば良いしねー」
「ぶひいいいいいいぃぃぃぃ!!」
連行される秋葉原の声が響くが、すぐにお姫様が止めに入る。
「お待ちなさい!」
「またねぇよ。俺様たちの邪魔するなら、お前も食っちまうぞ?」
「た、たすけ!!」
結局、お姫様が間に入ろうとしたが、周りの騎士に止められてしまう。雄大たち勇者35人と、お姫様2人、騎士側近数名はただ、彼らの出奔を見逃すほか無かったのであった。
異世界転移に不良が紛れ込んでるって少ないなって思って書きました。
案の定テンプレ崩壊イベント発生です。