幕間:異世界にて
その日、リフィル王国では大事件が起きた。
宝物殿に飾られていた聖剣が消失したのだ。
魔王との戦いが混迷を極める中、本来の持ち主を失っていた聖剣はリフィル王国の宝物殿に安置されていた。
リフィル王国を滅びから救った勇者の遺品である。
戦いに用いられるよりも飾られる方が士気の向上につながると判断され、納められていたのだ。
その聖剣が突如として神々しい聖なる輝きを放ったと思ったら消失したのだ。
騒ぎにならないわけがなかった。
ただ、レプリカ自体は作成されており、展示されていたのはそのレプリカであったためそこまで騒ぎが大きくはならなかったが、リフィル王国にとっては国宝の消失である。
王族は聖剣の消失に関する調査を行った。
しかし、突如として消失したとしか言いようがなく、見張り番の兵士の証言通りでしかなかった。
「エリシアちゃんの聖剣が消えた?!」
エリシアの関係者として、ベネット達に捜索依頼がかけられた。
驚きの声を上げたのはジェイルである。
「ジェイル、声が大きいわよ!」
「……うるさい」
サシャとシアがジェイルに注意をする。
一応、冒険者ギルドの個室の一室ではあるものの、機密事項であるためギルドマスターのアルマも困惑する。
「ジェイル、声が大きい。で、ベネットさん、良かったら聖剣の捜索を引き受けていただけませんか?」
アルマはベネットにそう聞くが、ベネットはむつかしい顔をする。
「そもそも、エリシアの行方もいまだに不明なんだろう? 僕たちも探してはいるけれども、彼女ほどの強さの人間を誘拐して半年も隠すなんて相当の手練れの仕業だとしか思えないんだよね。そこに、聖剣が消えた、ねぇ」
「てか、聖剣ってのはエリシアちゃんのものなんだろ? どっかで元気にやってて、戦いで必要だったから召喚されたって考えた方が自然じゃないか? 知らんけど」
ジェイルの指摘に、サシャが驚いた表情をする。
「ジェイルがなんか的を射たことを言ってる……!」
「おいおい、俺ってばこれでも斥候なんだぞ? まあ、魔法関連に関しては確かに詳しくはないが」
「……魔法的にも的を得ているから、ビックリ」
ジェイルの考えをサシャとシアが肯定的に考えていることを見て、ベネットは首をすくめる。
「まあ、どっちにしても、エリシアはどこかにいて、聖剣が必要な事態に陥ったという話は納得がいく話だね」
「……なるほど、聖剣の行方を追えば、エリシアの場所もわかるということか」
「もしかしたらですけどね。それに、エリシアを騙る新しい魔王の出現も気になります」
「ああ、既に国を一つ滅ぼしたと聞いているよ」
エリシアを騙る魔王、それは新たな脅威となっていた。
勇者たちも討伐に向かっているものの、既に3名の勇者が敗北したと聞こえている。
それぐらい、恐ろしく強い魔王なのだ。
現時点で最強の勇者である立花 雄大を向かわせる案もあるものの、フェルギンの南側は相変わらずの激戦区らしく、動かせそうにないと聞いている。
「……頭の痛い問題だ。どちらにしても、早急にエリシアおよび聖剣を見つけ出す必要がある」
「そうですね。そういえば、宮廷魔法使いは何か言ってましたか?」
「いや、現在は物理的な盗難だと考えられている。魔法的な面ではこれから調査が入ると思われる」
「……なら、僕たちがすることは、現状なさそうだ。エリシアおよび聖剣の場所がわかったら教えてください。彼女は僕たちの仲間だ。必ず助けに行きます」
「ああ、そうするほかなさそうだ。宮廷の方には魔法の痕跡調査を優先するようにこちらから伝えておくよ」
「お願いします」
こうして、魔王たちによって滅ぼされつつある世界もエリシアを巡って本格的に動き出した。
これは、異世界にいるエリシアにはあずかり知らぬ物語であった。
エリシアは元の世界では自分は勇者だと線引きをしてしまっていたので、本当に自分を心配してくれている人を認識できていなかったという話ですね。