異界化新宿駅 F10(決着)
青く神聖に輝く剣を手にした十代は、この剣に託された想いを感じていた。
エリシア、蘭子、小南、輝明、吉岡さんをはじめとした人々、そして、朋美の想いだ。
この剣は冗談抜きで闇を切り裂く光そのものだと感じた。
だから、十代は勝利を確信する。
みんなを助けたいという想い、絶対勝ってほしいという願い、絶望に屈しない希望、そういうものが込められていると、十代は直感で理解した。
ならば、負けるはずがない!
「4回裏、ツーアウト満塁! ならば、狙うは逆転ホームランだぜ!」
十代は不敵に笑う。
勝利を確信し、期待に応えるために打席に立つ!
代打、4番バッター 加賀美 十代!
十代の覚悟に応えるように、聖剣は輝きを増す。
ゴブリンキングにとって、その十代の姿は恐るべきものだった。
特に、その手にある聖剣がである。
なんだあれは。この世界に存在していいものじゃない。
理由はわからないが種族特性を無視して攻撃を与えてくるあのオスガキを、恐るべき剣を手にしたあのガキを、ゴブリンキングは無視することができるはずもなかった。
それに、十代は攻撃力こそ高いものの、自分よりもはるかにレベルの低い存在だ。武器も、剣の持ち方ではなく金属バットでぶん殴るときの構えと変わっていない。
さっさとあのガキをぶっ殺して、勇者の欠片を殺して、女どもを心の底から屈服させて好きにするんだ!
ゴブリンキングはそう意気込んで、十代を睨みかえす。
「ようやく、俺を敵として認識したな!」
それが、その言葉が戦いのゴングだった。
十代は剣を片手に突進する。ゴブリンキングはメイスを振り下ろす。
ガキィィイイィィン!
激しい音が鳴り、メイスの方が押し負ける。叩き潰すつもりで振るったメイスをはじき返され、ゴブリンキングは驚きの表情を浮かべる。
「チッ! ファウルかよ!」
ゴブリンキングは身長差を利用して、上から何度もたたきつける。
十代はそれを真正面からすべて打ち返す。どう考えても、普通の剣なら刀身が粉砕しているであるだろうが、聖剣は折れなかった。
折れるはずがない。十代には預かり知らぬ事だが、そもそも、エリシアの魔力で構成されている剣なのだ。
『イイ加減ニ!』
「だりゃぁあ!」
カキーン!
『潰レロ!』
「そぉぉれ!」
カキーン!
ゴブリンキングが何度メイスで叩いても、そもメイスを野球ボールのようにはじき返す十代。
そんな十代にしびれを切らしたのか、ゴブリンキングは渾身の一撃を振り下ろす。十代はそれを待っていたかのように、聖剣をバットのように構える。
「必っっ殺ぁぁぁぁぁぁつ! 特大ッ! ホォォォォームラァァァァァンッッ!!!」
力と力のぶつかり合い。
巨大な剛速球を十代は絶対に壊れないバット一本で立ち向かう。
十代の構えは、尊敬している松井 秀喜元選手がホームランを打つ時の構えだった。
自分を押しつぶそうと迫ってくる巨大ボール!
十代の目に炎がともる!
強振の構えで振りかぶるバット!
バットはボールの真芯を捉える!
カキィィィィィィィィィィーン!!
なぜか、バットでボールを打ち返した音が響き渡り、メイスはゴブリンキングの右腕ごと吹き飛ばされた。
メイスは物理法則を超えて、ホームランの綺麗な弧を描き、壁に激突した。
「っっしゃあ!」
ゴブリンキングは、一体何が起きたのかわからず、間抜けな顔をしていた。
叩き潰すための渾身の一撃が、鉄の塊であるはずのメイスが、自分の身長の半分にもいかないガキに、打ち返された挙句にはるか遠くまで吹き飛ばされたのだから。
ゴブリンキングは思わず、十代と自分の右腕のあった場所を二度見してしまった。
『オスガキガアアアアァァアアァア!!』
我に返ったゴブリンキングは残った左拳で十代を殴りつける。
が、時すでに遅く、それよりも先に十代の一撃が入る。
「吹っ飛べ! 弾丸ライナァァァァァァーッッ!!」
『グギャアアアアアァァアァァァァアァァァァァァァァァアアァァァァアアァァア!!』
ゴブリンキングは、直撃した聖剣の放つ聖なる輝きに焼かれ、十代のパワーに吹き飛ばされ、十代達でもわかる断末魔の叫び声をあげて消滅したのだった。
ようやく決着です。
剣をバットのようにものを打ち返したりするのに使うキャラは、後にも先にも十代しかおるまい。