異界化新宿駅 F10("勇気と希望の剣")
十代は、突如バットで殴る感覚が、堅い何かを殴る感覚から生物を殴る感覚に変わり、驚いてしまう。
「何が!? って蘭子!」
蘭子を助けるべくがむしゃらにゴブリンキングの脛をぶん殴っていた十代は、ゴブリンキングの手から落下する蘭子を受け止める。
「ガハッ!」
「大丈夫か? 回復薬、飲むか?」
蘭子は首を縦に振る。
十代はポーションを取り出すと、蘭子の口に含める。
すると、回復できたのか返事を返す。
「ありがと、もう一人で歩けそう」
「おう、良かった」
十代は蘭子を下すと、まだ痛がっているゴブリンキングを見る。
「しっかし、なんだ。急にまばゆい光がしたと思ったら、俺のバットが急に効き始めたんだが」
「わからないわよ。あーしだって、あのゴブリンの手の中で何とかぎりぎり意識を保ってたんだし」
話していると、ヘロヘロな状態のエリシアが、右手に見慣れない剣を杖に十代達のところにやってきたのだった。
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「あ、良かった! 無事だったんだね!」
「ええ、何とかね」
「エリ、その武器はなんだ? 片手剣に見えるが」
「ああ、そうそう。十代に渡そうと思ってたの!」
そう言って、あたしは、十代に聖剣を渡す。
あたしの運命は確かに勇者ではあるみたいだけれども、もう一つの本質は【聖剣の鞘】である。
だから、あたしは託すのだ。聖剣を。
「いや、え、どこから?」
「いいからいいから! それであのゴブリンキングをさっくりやっちゃってよ!」
「……? まあ、かまわねぇが」
そう言うと、十代が聖剣を受け取る。
「へぇ……。なんていうか、綺麗な剣だな。じゃあ、悪いが借りるぜ」
十代は腰にボコボコにへこんだ金属バットを腰に下げ、剣をバットのように構える。
そもそも、十代に西洋剣術とかを期待なんてしていない。むしろ、剣の腹でぶん殴ってもらっても構わない。
ただ、あたしは十代にすべてを託しただけだ。
「頑張って、ね」
「エリ?!」
役目を果たしたあたしは、糸が切れた人形のように崩れ落ち、蘭子に支えられた。
あたしは、あの一閃で、体内の魔力も気力もすべて使い果たしていた。
「大丈夫?」
「うん、力が抜けただけ」
「この状況で……」
ただ、聖剣を手にした十代は今まで以上に頼もしい背中をしていた。
それこそ、勝ち確定。負ける要素なんて無い。
淫魔の種族特性である【異性からの攻撃しか受け付けない】ルールを破壊したのだ。
そんなルールを破壊すれば、後は丸裸のゴブリンキングしか残らない。
以前の聖剣ではそんなことはできなかったけれども、あの青い聖なる輝きを放つ聖剣なら出来た。
今の聖剣を名付けるならば、きっと……
「"勇気と希望の剣"」
「え?」
「十代! 勝って!」
あたしが蘭子に支えられながら十代にそう言うと、聖剣をバットに見立てて、ホームランポーズを取ってくれる。
「任せろ」
こうして、ゴブリンキングと十代の最終決戦が始まったのだった。
今回は短めですが、キリが良かったので……




