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村娘だけど実は勇者の転生者でした  作者: 空豆だいす(ちびだいず)
異世界に飛ばされたけれど私は元気です
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異界化新宿駅 F10(最終決戦1)

 十代から見ても、ゴブリンキングは異質に見えた。

 いや、そもそもダンジョンのモンスター自体が異質な存在ではあるわけであるが、その中でも一際異質だった。

 その異質さは、晄ヶ崎(あけがさき)高校の時に出現した見るだけで正気を喪失してしまいそうな怪物や、文字列で構成されたミノタウロス以上の何かだった。どちらかというと、あの門を叩いていた何かに近い、根源的な恐怖を感じさせる。それが、近くまで来た今はっきりと感じるのだ。


「来たか……」そう言わんばかりに十代を見下すゴブリンキング。だが、敵を見る目ではなかった。まるで、虫けら、それもゴキブリを見る目に近い。


「ちっ!」


 十代は気合を入れなおす。ピリつく空気に飲まれかけていた自分を戒め、戦闘態勢を取る。


「オォォォォ! 行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇ!」


 十代は金属バットを振りかぶると、ゴブリンキングの胴体を狙って突撃する。

 およそ3mもある巨体ゴブリンである。およそ160cmの十代では頭を狙うには巨体過ぎた。

 ジャンプ力も、ダンジョン内であるとはいっても、勢いをつけてせいぜい自分の胸の高さぐらいまでしか飛べないのだ。

 だが、その一撃もゴブリンキングのメイスにより防がれてしまう。

 かなり強い衝突だったのか、激しい金属音が鳴り響く。


「う、がぁ……!」


 逆に弾かれた十代の方がダメージを負ってしまう。


「手が痺れる……!」


 だが、休憩している暇を与えてくれるわけがなかった。十代は素早く体制を立て直すと、その場から飛びのく。そこに、メイスの一振りが直撃して、地面がえぐれる。


「ぐわぁ!」


 そこから発生する衝撃波に十代はまた吹き飛ばされる。


「さすがはボスってことか! 一発でももらえばアウトじゃねぇか!」


 実際はエリシアの防御魔法があるため、一発の直撃ならばなんとか耐えられるけれども、そんな話は十代の記憶から抜け落ちていた。

 ただ、どちらにしても一度でも受ければ確実に意識を持っていかれて、そのままとどめを刺されかねないので、十代の懸念は間違いではない。


「十代くん!」


 と、到着した吉岡が十代ものもとに駆けつける。


「部長! やっぱりこいつ、やばそうですよ!」

「わかっている! あたしと十代くんで何とかするから、日比野さんは周辺の魔物が寄り付かないようにしておいてくれ!」

「わかりました! 無事を祈ります!」


 ゴブリンキングは見定めるように吉岡を見ると、下卑た笑みを()()()()と浮かべ、意味の分からない言葉で何かを言う。


「あん? 何を言っているんだ?」

「わかっても意味がないぜ。俺たちの理屈なんて通用しないんだしな!」

「確かにね!」


 吉岡がそう言うと、同時に二人は動き出す。

 吉岡は右に、十代は左に回り込む。そして、突撃も同時だった。吉岡はタックルの構えで、十代はバットを構えて突撃する。しかし、ゴブリンキングが意識を向けたのは吉岡の方だった。ゴブリンキングはメイスを振りかぶると、吉岡にたたきつける。

 吉岡はやばいと思ったのか、タックルを中断しメイスを受け止める。ドゴォっとまるで固い鉄をたたきつけたような音がするが、吉岡はなんとかメイスを受け止めていた。


「やっべぇな!」


 十代はそうつぶやくと、ゴブリンキングの尻にバットを叩きこむ。


「ケツバットだっ!」


 ゴインっと音を立てる。しかし、十代の一撃は尻に赤い跡を残しただけであった。

 ダンジョン内であれば、ゴブリンの頭をホームランできるほどの威力を誇る十代の一撃であるが、このゴブリンキングにはスパンキングした程度の痛みしか無いように見えた。


「んなっ?!」


 十代は驚くが、不意に左から暴力が襲い掛かる。ゴブリンキングの左手で軽く払われたのだ。それでも、十代は大きく吹き飛んでしまう。


「ぐっ、がはっ!」


 受け身の体制が取れずに、十代は地面をバウンドしてしまう。


「十代くん!」


 日比野の声が聞こえる。

 危うく、意識まで刈り取られかけたが、十代はまだ意識があった。


「ぐっ」


 何匹か巻き込まれたゴブリンがクッションになったようで、遠くまで飛ばされずに済んだのだった。そんな、満身創痍の十代を見て襲い掛かるゴブリン。だがまあ、格が違う。十代は立ち上がると周囲のゴブリンをシバキ倒す。


「……なめんじゃねぇよ」


 そう言うと、十代は両手で頬をぴしゃりと叩く。


「っしゃあ、気合入った! まさに、2アウト2ストライクの緊張感だぜ! 逆転のし甲斐がある!!」


 血を流しながらも、十代は先ほど以上に気合が入っていた。


「小南!」

「呼んだかな? 十代」


 十代が名前を呼ぶと、近くにいたのか顔を見せる輝明と小南。


「って十代、大変んなことになってるけど大丈夫かよ?!」


 満身創痍の十代に驚く輝明。


「へっ! 大丈夫さ! それより、鉄球。持ってきてんだろ?」

「まあ、急に呼ばれたけれども、ダンジョンの持ち込み道具にはあったんだよね。3発ならいけるよ」

「じゃあ、あのでかゴブリンにぶち込むから、よろしくな」


 十代はそう言うと、バットをぶんぶん振る。風を切る音がブオンブオンとなるほどに、十代は強打の素振りを見せる。


「おお、満身創痍とはいえ気合十分だね。任せてよ」


 小南はそう言うと、バックから鉄球を取り出して、十代が打ちやすい高さに投げる。鉄の塊なので十分重たいが、前回同様に投げられない重さではなかった。

 カキーン! ドゥッッ!

 十代がその鉄球を打った瞬間、衝撃波が出る。

 十代の打った鉄球は、一直線に飛ぶ。そもそも、4番バッターを張っている十代にとって、投手からの球とは違い打ちやすい球を狙いを定めて打つことは、簡単なことだった。現実世界でも、ノックならば注文通りに打ち分けれたし、だからこそ十代は4番バッター(きりふだ)なのだ。

 その基礎は寝る間も惜しむ努力にあるのだけれども、それ故の4番バッター。

 十代に打たれた鉄球は高速でゴブリンキングの脇腹に直撃する。

 直進している道中に巻き込まれた不幸なゴブリンが何匹か消し飛ぶほどの威力だった。

 吉岡との力比べに夢中だったゴブリンキングにとってはまさに不意打ちの衝撃だった。


「っしゃあ!」


 だが、ゴブリンキングは崩れない。

 そもそも、大したダメージを与えているようには見えなかった。

十代くんは黄金バット(ワンパンマン)かな?

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