異界化新宿駅 F10(男子メンバーとの合流)
今回言及されている新規モンスターについては、R18版の方で描写する予定です。
「なんだか、気配が多いわね」
ボス部屋には、複数の気配があった。それも、尋常じゃないくらい。
「もしかして、モンスターハウスかしら?」
「モンスターハウス?」
よくわからない用語で言われても、よくわからなかった。
「そうそう、モンスターハウス。不思議のダンジョンシリーズではよくあるトラップなんだけれどね。一部屋に罠、モンスター、そしてアイテムがぎっしりと詰まった部屋のことを刺すのよ」
「……なんだか、ろくでもない罠ね」
「ただ、風来人としてこのモンスターハウスはどうやって攻略するかが99階へ降りていくための鍵になるわね。必ず遭遇する罠だし、ここをいかに攻略するのかというのが腕の見せ所なのよ」
ゲームに明るいお姉さんはどや顔で解説してくれる。
つまりは、この想定が正しいならば、罠をうまくよけつつこれまで出てきた魔物……ゴブリン、その上位種であるホブゴブリン、ピンクオーク、テンタクル、直近の階で出てきたワーウルフや全裸のおじさん、スライムや蛸といった、変なものまで出てくるのだろう。
「……正直、そんな魔物の大軍を3人で相手するのは無理よね」
「まあ、そうよね。特に弱いのに出てくる全裸のおじさんとか、さすがにあたいも相手したくないし」
「部長、叫びながらぶん殴ってましたしね」
「あんなの、誰だって叫ぶわよ!」
蘭子も顔真っ赤にしていたっけ。あたしはまあ、耐性があるので全部真っ二つにしてやったが。
実際、行動原理はわかりやすいので遠距離攻撃で仕留めれば問題なかった。
「十代くんが居てくれたらなぁ」
朋美がそうぼやくとともに、蘭子の携帯の着信音が鳴り響く。
「え、電話?!」
全員がそう色めき立つ。蘭子は「噂をすれば影ね」といって、ディスプレイを見て朋美に渡す。
「え、十代くん?」
「出てやんな」
「うん、わかった」
朋美はそう言うと、スピーカーモードにして電話に出る。
『お、蘭子か? ようやくつながったぜ……!』
「十代くん?」
『朋美か。よ、良かった。無事蘭子と合流したんだな!』
「うん、他にも何人か、とらわれていた人と合流して、今ボス部屋の前だよ」
『なるほど。こっちは最後に蘭子から電話があって1時間経ったところだ』
外の世界ではまだ1時間しか経過していないらしい。
「つまり、1階と地下9階は地上に近いから時間の流れが近いということね」
『……なるほど、そっちじゃかなり時間がたっているんだな』
「うん、そっちの様子はどう?」
『女子トイレは蘭子とエリが突入した時点で新たに女性が迷い込むことはなかったようだ』
「攻略が始まったからかしら?」
『わからん。だが、どうやら俺もそっちに行けるみたいだ』
「え、どういうこと? 十代くん?」
『俺しか見えないが、男子トイレの入り口がダンジョンになっているのが見える。てか、お前らが見えてる。だから電話をかけたんだ』
あたしたちからは特に何も見えなかった。さっき降りてきた階段も消滅している。
「なんにしても、来てくれるなら助かるわ。人手が必要そうなの」
『任せとけって。じゃあ入るぞ』
十代はそう言って電話を切ると、ダンジョンに突然姿を現した。
なぜか、まるでさっきまでゲームをしていたかのような姿勢をした輝明と小南を連れて。
「おう、ようやく入れたぜ」
「え、あれ、なんでダンジョン?」
「……僕たちも呼ばれたみたいだね。てか、エリシアさんたちまたトラブルに巻き込まれていたんだね」
「うわぁ!? なんでお前ら居るんだ?!」
コントのように現状を把握する3人の姿に、あたしも蘭子も、朋美もかなり安心したのかつい笑ってしまう。
「朋美、蘭子、エリ。遅れてすまねぇ」
「ううん、いいの! 来てくれただけでも元気出ちゃった!」
あたしたちがわいわいしていると、吉岡さんが話しかけてくる。
「少年たち、君たちが助っ人ってことで良いのかな?」
「そうみたいです、って『吉岡 弘子』さんじゃん!」
驚きの声を出したのは輝明だった。
「え、すごい! 今大学の女子レスリングで一番注目されている人じゃん!」
「え、輝明って女子レスリングとか見てるん?」
「いや、この間テレビのニュースでやってたやん!」
「朝のニュース番組、まともに見てるのって輝明ぐらいなもんでしょ」
「そう? ただまあ、今年の全国でも優勝候補だし、スカウトも来ているってニュースでやってたよ」
そう聞くと、吉岡さんは有名人に聞こえてくる。まあ、確かに魔物との戦いで繰り出す技はどれも洗練されているけれどね。
「ははは、そういわれるとちょっと照れるな……。まあ、頼りにしているよ」
「いや、頼りにするのは十代だけにしてほしいっす。なんで俺らまで連鎖的に呼ばれたかわかんないですし……」
輝明は謙遜するけれども、なんだかんだ言って小南と組んでいろいろと役に立っているのだけれども、自身はないみたいだった。
「ま、輝明と小南はいつも通り……とはいかないかな。女性陣の皆さんが襲われないように注意しつつ、適宜援護してもらえればいいかな」
「いや、まあ、僕らの役目は前衛が動きやすいようにすることだとは認識しているけどね。……なるほど、十代だけじゃ手に負えないと判断されたのかな?」
こうして、頼もしい男子メンバーと合流して、ボスと戦えることになったのだった。
男子メンバーが合流できたことについて、誰かの意図を感じないことも無いけれども、今回はそれを無視することにしたのだった。